77 破壊の腕
傷が無い。あまりに単純な理由を聞いてラッセルは反論した。エドが直したとは考えられないのかと。
その反論はアルが鎧のみの存在であると知らなければ出てこなかった。
「あの時点でエドはもう私のところにいた。その後アルとは会っていない」
「アルフォンスが自分で直した可能性は?」
「いや、エドにしか直せない」
「そうですか」
ラッセルは深く息をついた。ともかくもアルは無事、かもしれない。
「クセルクセスか」
「ご存知でしたか」
どこで見つけたかはまだ言ってなかったはずだ。
「術師としては一番考える場所だ」
「見つけたのは偶然です」
「運命、か」
「大佐、話は明日にできませんか」
ホークアイが口を挟んだ
無事の可能性を聞いて気が緩んだのだろう。ラッセルはブロッシュに寄りかかっている。疲れているのは間違いない。
「悪いが明日はまた戦場だ」
視察という名の激戦地への派遣である。一日で戦況をひっくり返す、今や焔の魔人の名はスカーを倒した勇士として以上に軍内に知れ渡っていた。
「次ぎに戻れるのはいつかわからない。今のうちに話せることは全部伝えておく」
そう前置きしたがどこから話すべきかに悩んだ。そもそもラッセルはどこまでわかっているのだろう。
「エドが人体練成に失敗して、アルが魂を鎧に定着させているのは知っています。結構有名な話ですから」
「そうか、それがわかってなおここにいてくれたなら、話もしやすい」
そこからは時折ホークアイが補足しながら一通りのことを話していった。ゼノタイムの件については当事者のラッセルのほうが詳しかった。その後ホムンクルスの話になる。さらにロイは続けた。あるいは大総統も化け物ではないかと疑っていること。
「まぁ、大総統が普通の人間だと言われるよりは納得できますね。でも、ホモンクルスというのはどうでしょうか。あれはもう少し性質が悪い気がしますが」
「君は本物のホムンクルスとやりあったことは無いはずだが」
「ゼランドールで10歳ぐらいまでの子供ばかりが殺される事件がありました。死体は全身の血液を抜かれていた。その子らは俺の生徒でした。情報を追いかけたら手足の伸びる黒髪黒目のちびにぶっかって危うく死にかけました」
「それはエンヴィーだ。エドが戦った相手だ」
「よく助かりましたね」
「君もな」
「逃げるのは得意ですから」
とてもついさっき殴った男と殴られた男の会話には聞こえないわね。ホークアイは冷えたお茶を入れ替えようとした。
「ロス少尉はシンに逃がした。彼女からの報告だ。アルが砂漠で襲われて流砂に飲まれた」
こと
小さな音がした。
さっきから一言も声を出さずに支えの柱に徹していたブロッシュが初めて反応した。
「そういうことだ」
実のところロイは目の前にいながらブロッシュの存在を忘れていた。見えているのに気配が感じられない。あのヒューズの得意技だった。
(影に徹するか。女好きで人のいいのだけが取り柄の坊やに見えていたが、この数ヶ月で一番変ったのはブロッッシュ少尉かもしれないな。今のブロッシュには教えてもかまわない。それにしてもまったく驚いていないようだが?)
(やはり、そういうことですか)
(そういうことだ)
視線だけで語る。たった数ヶ月でここまで変るとは彼を手元においていたアームストロングの先見の妙に感心する。
「報告では襲ったのは弱小民族らしい。しかし、どう考えても裏があるはずだ。この腕はそれを調べるための罠のひとつだった」
ラッセルは笑った。自嘲の笑い。
「なるほど、俺はピエロを演じて、邪魔までしたわけだ」
「そうとばかりは言えまい。襲ったやつらにしても君の動きは予測外だろう」
「確かにわざわざ味方の邪魔をする馬鹿がいるとはおもわないでしょうね」
「ラッセル君」
ラッセルの声の微妙な変化にブロッシュが最初に気づいた。
「疲れた」
声がかすれる。
自分はいったい何をしにあんな西の果てまで行ったのだろう。研究室にこもって石を作るほうがよほど役立ったのに。いや、それも間に合えばの話だ。
「エドはよくもって3ヶ月です」
最初に宣告されていたとおりならエドはもう死んでいるはずだった。もう長くは持たないことはロイには十分わかっていた。だが、理性が納得しても感情が否定した。
「元気そうに見えるが、やはり無理か」
「…約束しましたから。最後まで自由を与えてやると」
それがどういう意味なのかハボックだけわからなかった。
「お兄さんはいいのかい」
エドの病室に入ってきたフレッチャーに老医師は話しかけた。
「はい。明日にでも検査に行かせます」 「無理やりにでも」
数秒たってから付け加える。あの兄がおとなしく病院に行くとは思えない。
「こっちに帰ってから一度しか診ていないのだが、…お兄さんから聞いているかな」
「兄はいつもあの調子ですから」
説明になっていないようだが、老医師には通じた。
「仕方ないな。そのうち自分で話すと言っていたのだが。 君も医学系に強いそうだね。お兄さんのためにも医者になる気はないか。今すぐの返事でなくてもいいが、お兄さんには医者が必要だ。それも言うことを聞かせられる医者が。 彼は先天性の心疾患がある。聞いているかい?」
「いいえ」
まただ、と思う。兄はいつも自分に肝心なことは話さない。
ゼノタイムのときも。兄は一人で抱え込んでいた。あの時、エルリック兄弟が来ていなかったら兄はどうすることもできず自滅しただろう。
「まだ外に行ける体ではない。まして軍になど。坊ちゃまがいれば庇って下さっただろうが今はどこかの基地にいるらしい」
軍人が特に従軍錬金術師は行き先を絶対に口外できない。
「銀時計を返上もできない。彼は知りすぎている。返上などしたら抹殺される」
老医師は教師のようだった。最初からそうだった。トリンガム兄弟の治癒は理屈よりも本能に沿っていた。老医師は人体生理をひとつずつ説明し、彼らの治癒に理論を与えてくれた。もっとも兄は幾分わずらわしく思っているようだが。
「士官学生には特例があると聞きました。大学受験制限の特例が」
「…そういえば聞いたことがあるね。使ったのは一人ぐらいだが」
「貴族子弟枠なら入寮せずに士官学校の単位が取れるとも聞きました」
「教えたのはマスタング准将かな」
「キャスリンさんです」
「お嬢様が?」
「僕は早く医者になりたいんです。兄には錬金治療はできないから」
老医師は微笑した。こんないい弟を持って幸せな兄だと思う。肝心な兄はそれを少しもわかっていないようだが。
「慌てることは無い。お兄さんにはまだ私がついている。エドワード君のこともできるだけ手を貸そう」
「ありがとうございます。でも僕はできるなら誰にも兄さんにふれさせたくない」
老医師の微笑が凍りついた。それでも年の功ですぐ柔和な表情に戻した。
「僕は今年の一般枠で銀時計を手に入れます」
おやつでも買いに行くような軽い口調だ。
「もし、兄のように大総統の目にとまる様な事があったら士官学校の特別枠を求めるつもりです」
「待ちなさい、そんな大事なことを。お兄さんに相談は?」
「兄は知りません。話しても無駄でしょうから。兄には僕が子供に見えるんです。ずっとね」
フレッチャーは老医師を懲戒神父にしていた。だが、老医師は神父ではなかった。彼の親でもなかった。
ただ、より多くの時間を経験してきた者として不安を感じた。あまりにも強い思いは本人にもあいてにも不幸しかもたらさないのではないかと。
「大総統令8528を発動せよ」
大総統室の隣、アメストリスの権力者たちが集まる部屋がある。そこに並ぶのは原則として中将以上。大総統の息のかかった人形ばかりである。その人形達に命令が下った。大総統令8528、通称を『希望の腕』計画である。
人形たちを通じてあらゆる方向に命令が飛んだ。アームストロングは西から呼び戻された。同種の命令で北の基地に住む地の錬金術師もセントラルに呼ばれた。地の錬金術師。通称をガイア。大地の女神の名をを冠する彼女はイシュヴァール戦でロイと並び英雄勲章を受け、その後北の大国ドラクマの息のかかったゲリラを国境線で押し留めている歴戦の勇者である。
翌日の朝食時、エドのご機嫌は最高潮であった。
このところ部屋に閉じ込められていたのに食堂に行く許可が出た。しかも車椅子ではなくていつ戻ってきたのかロイが抱いていってくれた。出歩いてばかりのラッセルも帰ってきていた。さらにオードブルのイチゴムースをホークアイが持ってきた。そして。
「おはよーっス」
開かれたドアからの懐かしい声。
「ハボック少尉!」
まだ半年と過ぎていないのに何年も会ってない気がした。
相変わらずくわえタバコで(火はついていないが)、くしゃくしゃの髪をしている。
「よー、大将。思ったより元気そうだな」
「こら、朝寝坊だ」
「へいへいすんません」
和やかな会話。何の心配事も無いかのような。だが、全員が知っていた。このひと時は偽りだと。それでもいやそれだから彼らはわずかな時間を時間の粒子の一粒ずつを味わいつくすように楽しんだ。
「だいぶ伸びたな」
「そう見える?!!やった!!」
「髪が」
「いじめだー!」
相変わらずエドの背は伸び悩んでいる。旅の間三つ網だった髪はこのごろはさらさらと流されている。傷んだ枝毛部分を切ったので少し短くなっているはずだが、跳ね回る三つ網の印象が強かったハボックには逆に長くなったように見える。
がちゃ
聞き覚えのありすぎる銃の安全装置の外れる音。
「ハボック少尉、子供をおもちゃにしないように」
「い、イエス、マム」
ヒキッツタ声。
「すごいね。やっぱりどこでもおばちゃんが一番偉いんですね」
何気なく発される子供の声。
「「うゎ、フレッチャー」」
二人の16歳の声が重なる。
きょとんとした14歳。
自分が最大の罪を犯したことに気づきもしない。
78 大総統令8528 破壊の右手
傷が無い。あまりに単純な理由を聞いてラッセルは反論した。エドが直したとは考えられないのかと。
その反論はアルが鎧のみの存在であると知らなければ出てこなかった。
「あの時点でエドはもう私のところにいた。その後アルとは会っていない」
「アルフォンスが自分で直した可能性は?」
「いや、エドにしか直せない」
「そうですか」
ラッセルは深く息をついた。ともかくもアルは無事、かもしれない。
「クセルクセスか」
「ご存知でしたか」
どこで見つけたかはまだ言ってなかったはずだ。
「術師としては一番考える場所だ」
「見つけたのは偶然です」
「運命、か」
「大佐、話は明日にできませんか」
ホークアイが口を挟んだ
無事の可能性を聞いて気が緩んだのだろう。ラッセルはブロッシュに寄りかかっている。疲れているのは間違いない。
「悪いが明日はまた戦場だ」
視察という名の激戦地への派遣である。一日で戦況をひっくり返す、今や焔の魔人の名はスカーを倒した勇士として以上に軍内に知れ渡っていた。
「次ぎに戻れるのはいつかわからない。今のうちに話せることは全部伝えておく」
そう前置きしたがどこから話すべきかに悩んだ。そもそもラッセルはどこまでわかっているのだろう。
「エドが人体練成に失敗して、アルが魂を鎧に定着させているのは知っています。結構有名な話ですから」
「そうか、それがわかってなおここにいてくれたなら、話もしやすい」
そこからは時折ホークアイが補足しながら一通りのことを話していった。ゼノタイムの件については当事者のラッセルのほうが詳しかった。その後ホムンクルスの話になる。さらにロイは続けた。あるいは大総統も化け物ではないかと疑っていること。
「まぁ、大総統が普通の人間だと言われるよりは納得できますね。でも、ホモンクルスというのはどうでしょうか。あれはもう少し性質が悪い気がしますが」
「君は本物のホムンクルスとやりあったことは無いはずだが」
「ゼランドールで10歳ぐらいまでの子供ばかりが殺される事件がありました。死体は全身の血液を抜かれていた。その子らは俺の生徒でした。情報を追いかけたら手足の伸びる黒髪黒目のちびにぶっかって危うく死にかけました」
「それはエンヴィーだ。エドが戦った相手だ」
「よく助かりましたね」
「君もな」
「逃げるのは得意ですから」
とてもついさっき殴った男と殴られた男の会話には聞こえないわね。ホークアイは冷えたお茶を入れ替えようとした。
「ロス少尉はシンに逃がした。彼女からの報告だ。アルが砂漠で襲われて流砂に飲まれた」
こと
小さな音がした。
さっきから一言も声を出さずに支えの柱に徹していたブロッシュが初めて反応した。
「そういうことだ」
実のところロイは目の前にいながらブロッシュの存在を忘れていた。見えているのに気配が感じられない。あのヒューズの得意技だった。
(影に徹するか。女好きで人のいいのだけが取り柄の坊やに見えていたが、この数ヶ月で一番変ったのはブロッッシュ少尉かもしれないな。今のブロッシュには教えてもかまわない。それにしてもまったく驚いていないようだが?)
(やはり、そういうことですか)
(そういうことだ)
視線だけで語る。たった数ヶ月でここまで変るとは彼を手元においていたアームストロングの先見の妙に感心する。
「報告では襲ったのは弱小民族らしい。しかし、どう考えても裏があるはずだ。この腕はそれを調べるための罠のひとつだった」
ラッセルは笑った。自嘲の笑い。
「なるほど、俺はピエロを演じて、邪魔までしたわけだ」
「そうとばかりは言えまい。襲ったやつらにしても君の動きは予測外だろう」
「確かにわざわざ味方の邪魔をする馬鹿がいるとはおもわないでしょうね」
「ラッセル君」
ラッセルの声の微妙な変化にブロッシュが最初に気づいた。
「疲れた」
声がかすれる。
自分はいったい何をしにあんな西の果てまで行ったのだろう。研究室にこもって石を作るほうがよほど役立ったのに。いや、それも間に合えばの話だ。
「エドはよくもって3ヶ月です」
最初に宣告されていたとおりならエドはもう死んでいるはずだった。もう長くは持たないことはロイには十分わかっていた。だが、理性が納得しても感情が否定した。
「元気そうに見えるが、やはり無理か」
「…約束しましたから。最後まで自由を与えてやると」
それがどういう意味なのかハボックだけわからなかった。
「お兄さんはいいのかい」
エドの病室に入ってきたフレッチャーに老医師は話しかけた。
「はい。明日にでも検査に行かせます」 「無理やりにでも」
数秒たってから付け加える。あの兄がおとなしく病院に行くとは思えない。
「こっちに帰ってから一度しか診ていないのだが、…お兄さんから聞いているかな」
「兄はいつもあの調子ですから」
説明になっていないようだが、老医師には通じた。
「仕方ないな。そのうち自分で話すと言っていたのだが。 君も医学系に強いそうだね。お兄さんのためにも医者になる気はないか。今すぐの返事でなくてもいいが、お兄さんには医者が必要だ。それも言うことを聞かせられる医者が。 彼は先天性の心疾患がある。聞いているかい?」
「いいえ」
まただ、と思う。兄はいつも自分に肝心なことは話さない。
ゼノタイムのときも。兄は一人で抱え込んでいた。あの時、エルリック兄弟が来ていなかったら兄はどうすることもできず自滅しただろう。
「まだ外に行ける体ではない。まして軍になど。坊ちゃまがいれば庇って下さっただろうが今はどこかの基地にいるらしい」
軍人が特に従軍錬金術師は行き先を絶対に口外できない。
「銀時計を返上もできない。彼は知りすぎている。返上などしたら抹殺される」
老医師は教師のようだった。最初からそうだった。トリンガム兄弟の治癒は理屈よりも本能に沿っていた。老医師は人体生理をひとつずつ説明し、彼らの治癒に理論を与えてくれた。もっとも兄は幾分わずらわしく思っているようだが。
「士官学生には特例があると聞きました。大学受験制限の特例が」
「…そういえば聞いたことがあるね。使ったのは一人ぐらいだが」
「貴族子弟枠なら入寮せずに士官学校の単位が取れるとも聞きました」
「教えたのはマスタング准将かな」
「キャスリンさんです」
「お嬢様が?」
「僕は早く医者になりたいんです。兄には錬金治療はできないから」
老医師は微笑した。こんないい弟を持って幸せな兄だと思う。肝心な兄はそれを少しもわかっていないようだが。
「慌てることは無い。お兄さんにはまだ私がついている。エドワード君のこともできるだけ手を貸そう」
「ありがとうございます。でも僕はできるなら誰にも兄さんにふれさせたくない」
老医師の微笑が凍りついた。それでも年の功ですぐ柔和な表情に戻した。
「僕は今年の一般枠で銀時計を手に入れます」
おやつでも買いに行くような軽い口調だ。
「もし、兄のように大総統の目にとまる様な事があったら士官学校の特別枠を求めるつもりです」
「待ちなさい、そんな大事なことを。お兄さんに相談は?」
「兄は知りません。話しても無駄でしょうから。兄には僕が子供に見えるんです。ずっとね」
フレッチャーは老医師を懲戒神父にしていた。だが、老医師は神父ではなかった。彼の親でもなかった。
ただ、より多くの時間を経験してきた者として不安を感じた。あまりにも強い思いは本人にもあいてにも不幸しかもたらさないのではないかと。
「大総統令8528を発動せよ」
大総統室の隣、アメストリスの権力者たちが集まる部屋がある。そこに並ぶのは原則として中将以上。大総統の息のかかった人形ばかりである。その人形達に命令が下った。大総統令8528、通称を『希望の腕』計画である。
人形たちを通じてあらゆる方向に命令が飛んだ。アームストロングは西から呼び戻された。同種の命令で北の基地に住む地の錬金術師もセントラルに呼ばれた。地の錬金術師。通称をガイア。大地の女神の名をを冠する彼女はイシュヴァール戦でロイと並び英雄勲章を受け、その後北の大国ドラクマの息のかかったゲリラを国境線で押し留めている歴戦の勇者である。
翌日の朝食時、エドのご機嫌は最高潮であった。
このところ部屋に閉じ込められていたのに食堂に行く許可が出た。しかも車椅子ではなくていつ戻ってきたのかロイが抱いていってくれた。出歩いてばかりのラッセルも帰ってきていた。さらにオードブルのイチゴムースをホークアイが持ってきた。そして。
「おはよーっス」
開かれたドアからの懐かしい声。
「ハボック少尉!」
まだ半年と過ぎていないのに何年も会ってない気がした。
相変わらずくわえタバコで(火はついていないが)、くしゃくしゃの髪をしている。
「よー、大将。思ったより元気そうだな」
「こら、朝寝坊だ」
「へいへいすんません」
和やかな会話。何の心配事も無いかのような。だが、全員が知っていた。このひと時は偽りだと。それでもいやそれだから彼らはわずかな時間を時間の粒子の一粒ずつを味わいつくすように楽しんだ。
「だいぶ伸びたな」
「そう見える?!!やった!!」
「髪が」
「いじめだー!」
相変わらずエドの背は伸び悩んでいる。旅の間三つ網だった髪はこのごろはさらさらと流されている。傷んだ枝毛部分を切ったので少し短くなっているはずだが、跳ね回る三つ網の印象が強かったハボックには逆に長くなったように見える。
がちゃ
聞き覚えのありすぎる銃の安全装置の外れる音。
「ハボック少尉、子供をおもちゃにしないように」
「い、イエス、マム」
ヒキッツタ声。
「すごいね。やっぱりどこでもおばちゃんが一番偉いんですね」
何気なく発される子供の声。
「「うゎ、フレッチャー」」
二人の16歳の声が重なる。
きょとんとした14歳。
自分が最大の罪を犯したことに気づきもしない。
78 大総統令8528 破壊の右手
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