プロポーズ小作戦66
2020年11月
2020年11月ジノ・ヴァインベルグは20歳になり完全に家督を継いだ。
といっても特に今までと変わりは無い。今までも彼は当主であったのだから。
ところが大きな違いが出てきた。
公式の見合いが写真で寝台が作れるほどに山積みされた。
私的な見合い話は今までもあった。しかし、公式となると話は別だ。公式の見合いは皇帝の許可が要る。つまり、大量の花嫁候補はすべてヴァインベルグ家の当主夫人にふさわしいというお墨付きなのだ。
これからは簡単に断れない。
もちろん、ナナリーが自分でジノの花嫁候補を選んでいるわけではない。家の格により一定の基準があり、それに照らして機械的に判断されているに過ぎない。それでも公式は公式だ。
落ち込んでも仕方ないなと思いながらジノはベビーベッドを注文した。もちろん自分が使うためではない。アーニャへの贈り物だ。いろいろあったが、とうとうそういう事になって結果が出たらしい。
相変わらすそっけないアーニャのブログの文に、読者から見れば爆弾発言があった。
赤ん坊が生まれるから、しばらく休みます。
直接背中を押したのは天子だが、それをさせたのはジノだ。
自分達ももう子供ではないのだと、次の世代を考える年なのだとしみじみ思う。
そんなふうにしみじみしているジノを緊急回線でナナリーが呼び出した。
皇帝自ら緊急回線で呼ぶなど何事だと、ジノは文字通り音速で吹っ飛んだ。
「ジノ、来てしまいました。
まさかとは思いましたが、ジノ、あなたがそういう事をしていたとは」
ナナリーの言葉はさっぱりわからない。顔色が悪いし、何か大きなショックでも受けたのだろうか。
公式の会見の間で姓ではなく名を呼ぶとは、ナナリーの失調振りがわかろうというものだ。
「陛下、ナナリー様、何があったのです」
「天子様が、ジノとまさかそんないえありえないわけではないけどでも年からしてもだけどでも似合うと思うのですけどでもあれが」
「はぁ、天子様なら少し不調だとニュースを見ましたが」
「ご病気ではありません」
きっぱりとナナリーは言い切る。
失調を通り越してようやく少し頭が冷めてきたようだ。
「そうですか」
何がなんだかわからないが、天子が元気なのはいいことだとジノは思う。
あの少女は先天性のアルビノだ。そういう個体はおうおうにして身体が弱い。過去の朱王朝の天子が短命なのは毒殺や暗殺も多いが、先天的な弱さも大いに影響している。幸い今の天子の身体は正常だ。たぶん子供も生めるだろう。幸せになってくれるといいなとジノは思う。自分達はさんざん殺した。だからといって独身主義というわけでもないが、少なくともあの幼かった天子は直接には手を下してはいない。おそらく天子として仕事をするようになった今もそういう事はしていないだろう。あの男がいるから。
ようやく少し頭が冷めたらしいナナリーはジノに椅子を進め、お茶を持ってくるように命じた。
「ジノさん、落ちついてください。私は責めません。きっと幸せになれると思います。あれがどう言うかが問題ですが、私は味方と信じてください」
「あの、陛下、あれはあれのことですか」
「そうです。あれです」
お茶を運んできたメイドには絶対通じない会話である。
「それであれが何かしたのですか」
天子が絡んでいる話なら当然あれも絡むだろうとジノは話題をあれに転じた。
今のナナリーから天子に関する正確な話を聞くのは無理らしい。それなら先にあれの話をしてみよう。
「あれが、あぁ、なんてひどい事を天子様というかたがおりながら、お気持ちもわきまえずに」
駄目だなとジノは思った。あれの話も無理らしい。
ナナリーがこんな調子という事は国際的な危機ではない。皇帝としてのナナリーは《完全なる皇帝》であるから。この失調振りはどっちかというと女の子のお話だ。
あれが何かして、天子がナナリーに電話してきたという事だろう。
それで何故自分が絡むのか。どうもそこがわからない。
確かに天子はかわいいし、お姉さん役も楽しかったが。
お茶が冷めないうちにどうぞとナナリーに勧め、自分も飲みながら、天子の入れるお茶は練習の成果もあってうまかったなあぁと現実の危機をまだ知らないジノはのほほんと思い出した。
2020年11月
2020年11月ジノ・ヴァインベルグは20歳になり完全に家督を継いだ。
といっても特に今までと変わりは無い。今までも彼は当主であったのだから。
ところが大きな違いが出てきた。
公式の見合いが写真で寝台が作れるほどに山積みされた。
私的な見合い話は今までもあった。しかし、公式となると話は別だ。公式の見合いは皇帝の許可が要る。つまり、大量の花嫁候補はすべてヴァインベルグ家の当主夫人にふさわしいというお墨付きなのだ。
これからは簡単に断れない。
もちろん、ナナリーが自分でジノの花嫁候補を選んでいるわけではない。家の格により一定の基準があり、それに照らして機械的に判断されているに過ぎない。それでも公式は公式だ。
落ち込んでも仕方ないなと思いながらジノはベビーベッドを注文した。もちろん自分が使うためではない。アーニャへの贈り物だ。いろいろあったが、とうとうそういう事になって結果が出たらしい。
相変わらすそっけないアーニャのブログの文に、読者から見れば爆弾発言があった。
赤ん坊が生まれるから、しばらく休みます。
直接背中を押したのは天子だが、それをさせたのはジノだ。
自分達ももう子供ではないのだと、次の世代を考える年なのだとしみじみ思う。
そんなふうにしみじみしているジノを緊急回線でナナリーが呼び出した。
皇帝自ら緊急回線で呼ぶなど何事だと、ジノは文字通り音速で吹っ飛んだ。
「ジノ、来てしまいました。
まさかとは思いましたが、ジノ、あなたがそういう事をしていたとは」
ナナリーの言葉はさっぱりわからない。顔色が悪いし、何か大きなショックでも受けたのだろうか。
公式の会見の間で姓ではなく名を呼ぶとは、ナナリーの失調振りがわかろうというものだ。
「陛下、ナナリー様、何があったのです」
「天子様が、ジノとまさかそんないえありえないわけではないけどでも年からしてもだけどでも似合うと思うのですけどでもあれが」
「はぁ、天子様なら少し不調だとニュースを見ましたが」
「ご病気ではありません」
きっぱりとナナリーは言い切る。
失調を通り越してようやく少し頭が冷めてきたようだ。
「そうですか」
何がなんだかわからないが、天子が元気なのはいいことだとジノは思う。
あの少女は先天性のアルビノだ。そういう個体はおうおうにして身体が弱い。過去の朱王朝の天子が短命なのは毒殺や暗殺も多いが、先天的な弱さも大いに影響している。幸い今の天子の身体は正常だ。たぶん子供も生めるだろう。幸せになってくれるといいなとジノは思う。自分達はさんざん殺した。だからといって独身主義というわけでもないが、少なくともあの幼かった天子は直接には手を下してはいない。おそらく天子として仕事をするようになった今もそういう事はしていないだろう。あの男がいるから。
ようやく少し頭が冷めたらしいナナリーはジノに椅子を進め、お茶を持ってくるように命じた。
「ジノさん、落ちついてください。私は責めません。きっと幸せになれると思います。あれがどう言うかが問題ですが、私は味方と信じてください」
「あの、陛下、あれはあれのことですか」
「そうです。あれです」
お茶を運んできたメイドには絶対通じない会話である。
「それであれが何かしたのですか」
天子が絡んでいる話なら当然あれも絡むだろうとジノは話題をあれに転じた。
今のナナリーから天子に関する正確な話を聞くのは無理らしい。それなら先にあれの話をしてみよう。
「あれが、あぁ、なんてひどい事を天子様というかたがおりながら、お気持ちもわきまえずに」
駄目だなとジノは思った。あれの話も無理らしい。
ナナリーがこんな調子という事は国際的な危機ではない。皇帝としてのナナリーは《完全なる皇帝》であるから。この失調振りはどっちかというと女の子のお話だ。
あれが何かして、天子がナナリーに電話してきたという事だろう。
それで何故自分が絡むのか。どうもそこがわからない。
確かに天子はかわいいし、お姉さん役も楽しかったが。
お茶が冷めないうちにどうぞとナナリーに勧め、自分も飲みながら、天子の入れるお茶は練習の成果もあってうまかったなあぁと現実の危機をまだ知らないジノはのほほんと思い出した。
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