空の高さは
アメストリス、セントラルの中央近くに空見の丘と呼ばれる場所がある。そこは夜にはロマンを求める恋人達が集う場所。数日前この丘の前を北に向かう兵士の一団が通り過ぎていった。どれほどの兵がこの丘を見上げたことか。恋人との語らいを思い出したことか。どれほどの兵が再びこの丘で風を感じることができるのか。
いまだ神を持たぬこの世界で答え得るものはいない。
今日風見の丘には二人の青年が、いや一人はとても小柄で少年にも見える。残る一人も身長こそ高いがやせすぎなほど細い。
一人は金髪金目で鋼の二つ名を持つ。
一人は銀髪銀目で緑陰の二つ名を持つ。
ともに17歳になったばかりの国家錬金術師である。
「帰るのか」金の髪が問う。
「お前も落ち着いたしな」銀の髪が答える。
「空見の丘か、こんな近くなのに初めて来たな」
「ここから見上げる空はセントラルで一番遠くまで見えるそうだ」
二人は申し合わせたように空を見上げる。
「ゼノタイム程ではないけどここの空は本当に高い・・・なぁ、空の高さってどのくらいなんだろうな」
「そうだな、目視する空は雲の高さが基準になるから」
「・・・夢の無いやつだな」銀目が笑う。本気ではない。銀目の笑みは保護者が子供を見ているときの笑み。大切な宝玉を見ている目。
「何だよ、お前が言い出したんじゃないか」
金の少年が少し膨れる。これも本気というより、9割以上甘えである。
「それなら、空の始まりはどこなんだ?」
金の瞳がいたずらを思いついた幼児のように輝いた。
「空の始まり?」銀目にはその発想は無かった。
「そうさ、こうして見上げているけどどこが始まりなんだ」
「空の始まり・・・空の底か、そうか、わかった」
銀目は両手の平を上に向け何かを持ち上げるしぐさをした。
「これが空の底だよ。・・・エドお前のほうが広い空を持っているな」お前の魂には自由が似合う。銀の鎖もお前を縛ることはできない・・・俺とは違う・・・
「広い空ねぇー。ふーん。ん、こらー!誰が豆粒ドチビかー!」
「あ、わかったか。いやぁエド君は背の低い分空が広くていいななんてな(笑)」
「このやろー、お前も縮めてやる!」
エドがゼノタイムの続きとばかりにラッセルにつかみかかっていく。
「病み上がりだろう、少しはおとなしく」
「うるせーこのバカ」
エドがぶっかった勢いで二人は岡を転がり落ちた。中腹まで落ちたところでようやく止まる。ラッセルが上にのったエドを持ち上げてそっと下ろす。
「もう、胸も痛まないようだな」
「ん、あれ、そうだな」
「何だ忘れてたのか、いいことだよ。本人が忘れるのがいちばんいいのさ」
風が変わった。暖かな南風が冷たい北風に変わる。
ごく自然にラッセルの足は緑陰荘に向かう。二人の影が横に並ぶ。そうしてみると一年前ほどの身長差は感じられない。この1年ラッセルの身長は完全に伸びが止まっていた。逆にエドは気がつくと3センチほど伸びていた。腕のオートメールが無くなったのが大きかったようである。またホルモンバランスを崩していた中毒もストレスも解決しエドの身長には明るい兆しが見えていた。
(お前とこうして歩きたかった。俺が手を汚す前に)
銀の瞳がほんの一瞬光を失った。しかし、次にエドを見たとき彼にはいつもの穏やかな微笑があった。
「明日の朝、帰る」どこにとは言わなかった。
「(そんなに早く)行くのか。そうか、長く足止めしたな」
この一年ですっかり長くなったエドの髪が風に揺れた。トレードマークだった三つ編みをしなくなって一年たった。毎日エドの髪をとくのがラッセルの習慣だった。
ドアを開く。今緑陰荘は二人しかいない。ずっと住み込みだったメイドもナースも休みとボーナスを持って家に帰っている。
「エド、髪 三つ編みにしていいか」
髪を梳かしながら何気なく聞く。
「いいよ」エドは本を読みながら返事だけする。
ずっとさらりと流されていた髪が昔のような輝く三つ編みになる。
(お前に言ったら怒るだろうけど、エドお前本当にきれいになった。この1年で大事に准将に守られてその間にどんどんきれいになった)
「なんだよ。人の顔見て楽しいのか」
偶然ではあったがそれは一年と少し前ラッセルがペルシオにいったのと同じ言葉。
「あぁ、楽しい」
答えるラッセルの言葉もあのときのペルシオと同じ言葉。
「俺はおもちゃじゃないぞー」
「エド、そういう時は見てていい。そういうのさ」
それはラッセルが以前に言ったこと。
「なんだよ、お前に言われたくない。どうせ(俺を置いて)行っちまうんだろ」
「エド・・・?そうか、それですねてたのか」
「誰がすねてるってんだ。勝手に決めるな」
ラッセルがエドの三つ編みの先にほんの一瞬口づけた。
エドさえも気づかない、ほんの一瞬だけ。
「戻ってくるさ。泣かずに待ってろよ」
「バッキャロー誰が泣くかよ!お前がいなくたって俺は・・・・・
いつ戻るんだよ」
「多少は掛かる。何もかもほったらかしてセントラルに来てしまったからな」
「そうだな。あそこをリザンブールみたいにするのがお前たちの夢だしな」
「気の長い話さ」(汚染の原因こそ特定できたが相手が軍では、どうにもならない。あきらめる気はないけど・・・)
「おい、ゼノタイムに夢中になって、・・・忘れるなよ」
「忘れられないな。特に裸にひん剥いて毛布にくるんだ猫みたいな姿とか、そうだ押さえ込んで直腸温測ったのも忘れられないなー(笑)」
「忘れろ!俺もお前のことなんかすぐ忘れてやる!」
「忘れろよ、この一年エドにはつらいことばかりだったから、なるべく早く忘れろよ」
「忘れてやる!(でもこいつと1年いたのはそんなにイヤじゃなかった) だから!
帰ってきたらまた本気で打ち合おうぜ」
「楽しみにしてるよ。エドワード」
翌朝夜明け前ラッセルトリンガムは緑陰荘を出た。
嘘つき1へ
題名目次へ
中表紙へ
言い訳しますが、書き間違えではありません。
うちのラッセルは銀髪銀目です。昔は金髪銀目でした。色変わりの原因については 緑陰荘物語の暴走する練成陣をご参考に。
アメストリス、セントラルの中央近くに空見の丘と呼ばれる場所がある。そこは夜にはロマンを求める恋人達が集う場所。数日前この丘の前を北に向かう兵士の一団が通り過ぎていった。どれほどの兵がこの丘を見上げたことか。恋人との語らいを思い出したことか。どれほどの兵が再びこの丘で風を感じることができるのか。
いまだ神を持たぬこの世界で答え得るものはいない。
今日風見の丘には二人の青年が、いや一人はとても小柄で少年にも見える。残る一人も身長こそ高いがやせすぎなほど細い。
一人は金髪金目で鋼の二つ名を持つ。
一人は銀髪銀目で緑陰の二つ名を持つ。
ともに17歳になったばかりの国家錬金術師である。
「帰るのか」金の髪が問う。
「お前も落ち着いたしな」銀の髪が答える。
「空見の丘か、こんな近くなのに初めて来たな」
「ここから見上げる空はセントラルで一番遠くまで見えるそうだ」
二人は申し合わせたように空を見上げる。
「ゼノタイム程ではないけどここの空は本当に高い・・・なぁ、空の高さってどのくらいなんだろうな」
「そうだな、目視する空は雲の高さが基準になるから」
「・・・夢の無いやつだな」銀目が笑う。本気ではない。銀目の笑みは保護者が子供を見ているときの笑み。大切な宝玉を見ている目。
「何だよ、お前が言い出したんじゃないか」
金の少年が少し膨れる。これも本気というより、9割以上甘えである。
「それなら、空の始まりはどこなんだ?」
金の瞳がいたずらを思いついた幼児のように輝いた。
「空の始まり?」銀目にはその発想は無かった。
「そうさ、こうして見上げているけどどこが始まりなんだ」
「空の始まり・・・空の底か、そうか、わかった」
銀目は両手の平を上に向け何かを持ち上げるしぐさをした。
「これが空の底だよ。・・・エドお前のほうが広い空を持っているな」お前の魂には自由が似合う。銀の鎖もお前を縛ることはできない・・・俺とは違う・・・
「広い空ねぇー。ふーん。ん、こらー!誰が豆粒ドチビかー!」
「あ、わかったか。いやぁエド君は背の低い分空が広くていいななんてな(笑)」
「このやろー、お前も縮めてやる!」
エドがゼノタイムの続きとばかりにラッセルにつかみかかっていく。
「病み上がりだろう、少しはおとなしく」
「うるせーこのバカ」
エドがぶっかった勢いで二人は岡を転がり落ちた。中腹まで落ちたところでようやく止まる。ラッセルが上にのったエドを持ち上げてそっと下ろす。
「もう、胸も痛まないようだな」
「ん、あれ、そうだな」
「何だ忘れてたのか、いいことだよ。本人が忘れるのがいちばんいいのさ」
風が変わった。暖かな南風が冷たい北風に変わる。
ごく自然にラッセルの足は緑陰荘に向かう。二人の影が横に並ぶ。そうしてみると一年前ほどの身長差は感じられない。この1年ラッセルの身長は完全に伸びが止まっていた。逆にエドは気がつくと3センチほど伸びていた。腕のオートメールが無くなったのが大きかったようである。またホルモンバランスを崩していた中毒もストレスも解決しエドの身長には明るい兆しが見えていた。
(お前とこうして歩きたかった。俺が手を汚す前に)
銀の瞳がほんの一瞬光を失った。しかし、次にエドを見たとき彼にはいつもの穏やかな微笑があった。
「明日の朝、帰る」どこにとは言わなかった。
「(そんなに早く)行くのか。そうか、長く足止めしたな」
この一年ですっかり長くなったエドの髪が風に揺れた。トレードマークだった三つ編みをしなくなって一年たった。毎日エドの髪をとくのがラッセルの習慣だった。
ドアを開く。今緑陰荘は二人しかいない。ずっと住み込みだったメイドもナースも休みとボーナスを持って家に帰っている。
「エド、髪 三つ編みにしていいか」
髪を梳かしながら何気なく聞く。
「いいよ」エドは本を読みながら返事だけする。
ずっとさらりと流されていた髪が昔のような輝く三つ編みになる。
(お前に言ったら怒るだろうけど、エドお前本当にきれいになった。この1年で大事に准将に守られてその間にどんどんきれいになった)
「なんだよ。人の顔見て楽しいのか」
偶然ではあったがそれは一年と少し前ラッセルがペルシオにいったのと同じ言葉。
「あぁ、楽しい」
答えるラッセルの言葉もあのときのペルシオと同じ言葉。
「俺はおもちゃじゃないぞー」
「エド、そういう時は見てていい。そういうのさ」
それはラッセルが以前に言ったこと。
「なんだよ、お前に言われたくない。どうせ(俺を置いて)行っちまうんだろ」
「エド・・・?そうか、それですねてたのか」
「誰がすねてるってんだ。勝手に決めるな」
ラッセルがエドの三つ編みの先にほんの一瞬口づけた。
エドさえも気づかない、ほんの一瞬だけ。
「戻ってくるさ。泣かずに待ってろよ」
「バッキャロー誰が泣くかよ!お前がいなくたって俺は・・・・・
いつ戻るんだよ」
「多少は掛かる。何もかもほったらかしてセントラルに来てしまったからな」
「そうだな。あそこをリザンブールみたいにするのがお前たちの夢だしな」
「気の長い話さ」(汚染の原因こそ特定できたが相手が軍では、どうにもならない。あきらめる気はないけど・・・)
「おい、ゼノタイムに夢中になって、・・・忘れるなよ」
「忘れられないな。特に裸にひん剥いて毛布にくるんだ猫みたいな姿とか、そうだ押さえ込んで直腸温測ったのも忘れられないなー(笑)」
「忘れろ!俺もお前のことなんかすぐ忘れてやる!」
「忘れろよ、この一年エドにはつらいことばかりだったから、なるべく早く忘れろよ」
「忘れてやる!(でもこいつと1年いたのはそんなにイヤじゃなかった) だから!
帰ってきたらまた本気で打ち合おうぜ」
「楽しみにしてるよ。エドワード」
翌朝夜明け前ラッセルトリンガムは緑陰荘を出た。
嘘つき1へ
題名目次へ
中表紙へ
言い訳しますが、書き間違えではありません。
うちのラッセルは銀髪銀目です。昔は金髪銀目でした。色変わりの原因については 緑陰荘物語の暴走する練成陣をご参考に。
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