一寸先の霧
何とも不思議な絵本、だ。
一寸先は「闇」ではなく「霧」、そして「五里霧中」。
その中を、はりねずみが行く。
はりねずみを追っていくうち、
夢の中にいる気分になる。
それは現実みたいな、親しい夢。
バニヤン作「天路歴程」も思い出す。
クリスチャンが出会いを繰り返しながら、天の御国を目指す物語。
作者はロシア・アニメの巨匠で、本作は短編アニメーション「霧の中のハリネズミ*」(1975年)を絵本化したもの。しかし「アニメ絵本」にありがちな、拙速な荒々しさはない。独立した作品として、流れも展開も見事だ。
雑学ですが。
ロシアではこの「はりねずみ」は、切手になったり、
ソチ・オリンピック(2014)の開会式で紹介されるほど、国民的キャラなのだそうです。
日本の国民的キャラとは、ずいぶんタイプが違う…。
誰もが管理されたタイム・スケジュールの中で、確実な位置情報を持ち歩く時代。
それでも、ふっと、こんな白い霧の中に立ちつくしてしまうことが、
私には、あります。
だからきっと、この絵本をめくりながら、ほっとしているのです。
一寸先が、霧だとしても。
*アニメ表題は「霧の中のハリネズミ」ですが、本作は「きりのなかのはりねずみ」と、ひらがな表記です。ひらがなの方が、しっくりきます。