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絵本の楽屋   by 夏野いばら

「きりのなかのはりねずみ」                  ユーリー ノルシュテイン ,セルゲイ コズロフ :作 フランチェスカ ヤルブーソヴァ:絵 こじま ひろこ:訳 福音館書店

一寸先の霧

何とも不思議な絵本、だ。
一寸先は「闇」ではなく「霧」、そして「五里霧中」。
その中を、はりねずみが行く。

はりねずみを追っていくうち、
夢の中にいる気分になる。
それは現実みたいな、親しい夢。

バニヤン作「天路歴程」も思い出す。
クリスチャンが出会いを繰り返しながら、天の御国を目指す物語。

作者はロシア・アニメの巨匠で、本作は短編アニメーション「霧の中のハリネズミ*」(1975年)を絵本化したもの。しかし「アニメ絵本」にありがちな、拙速な荒々しさはない。独立した作品として、流れも展開も見事だ。

雑学ですが。
ロシアではこの「はりねずみ」は、切手になったり、
ソチ・オリンピック(2014)の開会式で紹介されるほど、国民的キャラなのだそうです。
日本の国民的キャラとは、ずいぶんタイプが違う…。

誰もが管理されたタイム・スケジュールの中で、確実な位置情報を持ち歩く時代。
それでも、ふっと、こんな白い霧の中に立ちつくしてしまうことが、
私には、あります。

だからきっと、この絵本をめくりながら、ほっとしているのです。
一寸先が、霧だとしても。

*アニメ表題は「霧の中のハリネズミ」ですが、本作は「きりのなかのはりねずみ」と、ひらがな表記です。ひらがなの方が、しっくりきます。
 



















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