今、立ち止まって
この絵本は2022年5月初版。
しかし、一読して、すでに「なつかしい」感覚に襲われた。
「そうだった。私たちの国は、こういう国だった」と。
振り返れば、2022年は大きく「時代の空気」が変わってしまった年だった。
2月末にロシアによるウクライナ侵攻。
その衝撃の中、「日本も核武装を」という声が砂嵐のように巻き起こった。
それは、一年前には予想もつかない、とんでもない変化だった。
政府の反応も早かった。12月、国家安全保障戦略など新たな安保関連3文書に「反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有」を明記、宣言し、防衛費の倍増を決めた。そこにはもう「平和憲法の空洞化ではないか」という議論の影さえ、ない。
ついこの間までの、憲法改正の是非を論じていた日々が、夢のようだ。
今や、私たちの国は自ら、核武装が抑止力にならないことを証明しようとしている。
「自国で核を持たずとも、先に敵国の、核兵器がある基地を攻撃すればいい!」
―恐ろしい事に、それが、今、日本が目指している道だ。
だから、今、この絵本を。
2017年にノーベル平和賞を受賞したICANの活動家であり、ヒロシマの被爆者であるサーロー節子さんの受賞スピーチを元にした絵本。
私たちは、今、立ち止まって、思い出す必要があると思う。
78年前に経験した悲惨を。数知れぬ多くの市民の死を。
そこが出発点だったことを。
そして戦後77年、亡き人々の声なき声を拾い、「光の方へ」と叫び続けてきた人がいたことを。
少なからず、彼らの叫び声が、この国の「時代の空気」を、光の方へと向けてくれていたことを。
光がどっちにあるのか?
どっちが光なのか?
それを問うことすらしなくなった「時代の空気」に、呑み込まれたくはないのです。