ロシア日記

~ペルミより愛を込めて~
日本語教師と雪のダローガと足跡

~サンクトペテルブルグ~
雪の上の足跡

ワンワンのこと

2019年06月11日 | 日記
 ドイツ人のポールは、その仔犬に似ている容貌と所作からワンワンというあだ名をつけられました。本人もこのあだ名をいたく気に入り、自分のことをワンちゃんとネーミングし、セント・ポール大聖堂の前を通るたびに『セント・ワンワン大聖堂』の文字と写真を送ってきます。

フランクフルト郊外の三人兄弟の末っ子に生まれた彼は、ロンドンで政治学博士課程で日本についての研究を専門にしています。私も時々日本語を教えるのですが、その中級レベルの日本語に反して外国人が戸惑う『ね、よ、よね』などのニュアンスと言い回しを正確に理解し使いこなすので感心します。日本語がお上手ですね、と褒められたときの彼の常套句は、その仔犬のような無垢っぽい顔を、いえいえ、まだまだです、と計算ずくのしたり顔で返すことです。

 去年の夏に、日本から友達が来るとワンワンに言ったら3人でパブへ行こうと提案してきました。だから私は、さやさんとれいこさんは、ガールズナイトだから、ワンワンとは一時間半パブで飲んで、そのあとさやさんとれいこさんはとってもエキスペンシブレストランへ行くから、と場所と時を違えて3度ほど布石を打つつもりでけん制しました。ワンワンは、わかった、と言ったものの、当日一切そのことを口にせずにどこまでも一緒に仔犬みたいについてきました。ワンワンおススメのパブを三軒梯子し寮に帰り、ワンワンが大好きな『新宿の女』をバックミュージックに飲み続けました。

 一度、彼の難しい記事を翻訳した時にあまりにも骨が折れるので、恩着せがましく、本当に大変だった、と言ったら、そんなに一生懸命する必要なかったのに、と恩知らずなことを返してきたので、一か月半ほど口をきかずに大喧嘩したことがあります。その後、ワンワンに、仲直りをしよう!とテキストしたら、はい、仲直りは嬉しい、と返ってきました。

 年が明けたら香港に雨傘運動のリサーチに行くとワンワンが言うので、ワンワンがいなくなったら寂しい、と伝えたら、大変寂しい。早く他のイケメン見つけてよ、と言われました。あまりにも面白かったので、ワンワン最高じゃん!と言ったら、サイコじゃん!とワンワンも言いました。だから私も再度、サイコじゃん!と繰り返し、ワンワンも、サイコじゃん!と繰り返しました。しばらく、サイコじゃん!の応酬が続き、『サイコウ』の『ウ』を聞きとらないドイツ人のワンワンに、可愛いのでしばらくそのままでいようとひとりほくそ笑み、サイコじゃん!と言いました。

Phonetics

2019年06月11日 | 日記
 私のPhoneticsの先生はJonnyで、授業で1ミリの興味も沸かなかったPhoneticsがJonnyの教授にかかるとその熱に浮かされ、私まで楽しいもののような気がしてきます。おそらく大きな確率で試験に出題されるPhonetics部門の発音記号の特徴を記す問題は、The International Phonetic Alphabet(IPA)によって定められた世界の言語の子音と母音の名前と特徴をすべて覚える必要があります。例えば、{m n ŋ}なら、m voiced Bilabial Nasal, n Voiced Alveolar Nasal, ŋ Voiced Velar Nasalで、特徴は’Nasal sounds are produced through the nasal cavity’です。

 わけのわからないPhoneticsのTopicもJonnyの教えとともに徐々に親しみのわかるものになっていき、初めはすべての発音記号を覚えるなんて不可能と思ったことも、これが言語学入門の中では最も解答に易しく得点に結びつけやすいと考えました。なぜなら覚えるだけだからです。そこには理論もなくそれを使った応用もありません。ただ覚えてそれを記入すればいいだけです。

 IPAによるとconsonantsはPlace of articulationとManner of articulationで表され、英語の発音記号は、前者のBilabial, Labiodental, Dental, Alveolar, Postalveolar, Palatal, Velar, Glottal、後者のPlosive, Nasal, Fricative, Lateral approximantで表記されます。これを1文字ずつフラッシュカードに書き込み、後ろにfeaturesを書きました。毎朝、めくって暗記の特訓です。

Linguistics

2019年06月11日 | 日記
 中国語よりも手こずったのが、Introduction Study of Linguisticsの試験です。言語学入門の授業なのですが、大学で言語学を専攻していない身にとっては素人泣かせの、またすべてのSpecial Termの絡んだ理論を英語で勉強していかなければならない身にとっては、苦痛な作業の連続でした。

 試験範囲は、Language, culture, communication、Phonetics, Phonology, Morphology, Syntax, Semantics, Pragmaticsで、ここからどの分野のどの部門が出るかわからずに、すべてをカバーする必要がありました。これが膨大な時間と労力を要する作業でノート3冊分に及びました。

 試験はA、B2部門のそれぞれ出題される4,5問のうち2択を自分で選んで解答するというものです。
試験当日、まず配られた試験をにざっと見通し、A部門の4問のうち、どれを解答するか検討をつけました。過去5年分の過去問でほぼ毎年出題されていたPhoneticsと、頭に叩き込んだMorphologyにチェックをつけました。

 次にB部門ですが、5問出題のうち、3問が何の問題なのかすら検討がつきませんでした。自然、残りの2問に解答する形になったのですが、一つはSemanticsで、もう一つはSyntaxからでした。この2つは私が最も苦手なtopicで、Semanticsは専門書の説明を何度も読み、Wikipedia及びネットで動画の講義も含め情報を検索し、Professorに直接質問し解答を得、自分の解答と照合しても結局最後まで理解できなかったものです。その中でもEntailmentsとPresuppositionsの見極め問題は、ほぼ毎年出題されていて非常に出題確率が高いものでした。きっと今年も出題されるに違いない思いながらも、理解に困難を極め、もうこれ以上これに労力と時間をつぎ込んでもらちが明かないと思い切って棄てたものです。そしてもう1つは、Syntaxの文章構造についてでしたが、こちらも匙を投げたものです。それ以外の3問は、知らない記号の羅列でもはや何を問われているのかもわかりません。試験2日前に、全Topicのうち投げ出したこの2つを思うとき、もしこれが試験に出て他も不得意なものばかり出たらどうしようと不安に押しつぶされそうになり、そして実際そうなりました。

 幸い、Semanticsの問題がPresuppositions については言及されずに、Entailmentsの見極めのみだったことで難易度が下がり解答に辿り着けました。もう一つのSyntaxは一言も解答できずにお手上げ状態でした。あれだけの時間と労力を投じて勉強したにも関わらず、質問の意味すらわからないなんて大学院の試験、システム、Linguisticsのすごさを思い知らされ、もうこれで全部の試験が終わりおそらく試験はパスしたというのに、帰り道の澄んだ初夏の空に反比例し心は不機嫌でした。


試験

2019年06月11日 | 日記
 去年の試験日程を今でもはっきりと覚えているのですが、5月18日にPedagogyの試験が終わり、その翌日続けざまに中国語の試験でした。午前中に3時間行われたPedagogyの試験疲れでUniversity of LondonのSenate House Libraryの一室にある王様席みたいな中央にある一人席で何十枚もの中国語のプリントに顔を埋めて寝入っていました。ふと目を覚まし、再び、機械的にプリントを繰り中国語の字面を頭に詰め込む作業に没頭しました。初夏の午後の日差しがオレンジ色に染まって、しんと静まる図書館内部を照らしていました。