第5部 フォーマルハウト系
フォーマルハウトは南半球の1等星で、恒星の中でも比較的ご近所です。
このフォーマルハウトには塵が集まってできた円盤があり、その構造の特徴を詳しく観測した結果、惑星が存在するはずだと考えられるようになりました。
そして実際に、NASAのハッブル宇宙望遠鏡による観測で惑星が発見されました。
第5部では、フォーマルハウトの惑星が発見されるまでの経緯と、未解決の謎についてまとめます。
【実は連星系】
フォーマルハウトは、みなみのうお座α星としても知られ、25.1光年の距離にあります。A3V型の青白い星で、太陽の約2.3倍の質量をもち、1.7~1.82倍の直径で、14~17.6倍の明るさと推定されています。
フォーマルハウトは孤立した恒星のように見えますが、実は連星系です。K4-5型のオレンジ色の星であるみなみのうお座TW星が、フォーマルハウトから0.9光年の距離にあり、伴星であることが分かっています。上の画像はフォーマルハウト(左端の明るい星)とみなみのうお座TW星(右端のやや明るい星)です。また最近になって、LTT 9273というK5型星も伴星であることが分かりました。これら2つの伴星は非常に遠く離れているので、フォーマルハウトの周りを回っているというよりも、互いに重力の影響を及ぼしあっていると言った方が分かりやすいかもしれません。これらの伴星が、フォーマルハウト系の外縁部の構造に大きな影響を与えている可能性は十分に考えられます。ただし、恒星やその惑星などのもととなる分子雲コアのサイズは観測や理論から8000AU程度と考えられており、伴星は独立して誕生したと考えられます。
【塵円盤の発見】
1983年、IRAS衛星による赤外線観測により、フォーマルハウトが予想より強い赤外線を放出していることが発見されました。同じような特徴をもつがか座β星で、周囲の塵円盤の熱放射がその正体であることが発見され、フォーマルハウトにも塵円盤が存在すると考えられるようになりました。
1998年、フォーマルハウト周囲の塵円盤が初めて撮影されました。ミリメートルサイズの塵から放射されるサブミリ波による観測では、最も強い領域が星から遠く離れたところにあり、中央が抜けたドーナツ状であることが分かりました。円盤面を地球から見ると24度傾いています。
こうしたドーナツ状の構造は、太陽系のカイパー・ベルトに似ています。恐らく、フォーマルハウト系にも氷の小天体群が帯状に存在すると考えられます。塵はそうした天体の材料となると同時に、天体同士の衝突によって新たに供給されていると思われます。
【楕円形のリング状塵円盤】
その後、解像度50AUの短サブミリ波画像では中心から約100AUの範囲には塵が少ないことが確認されました。さらに、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡による観測で、南側部分がより高温であることが発見されました。このことはドーナツ状の円盤が正確な円ではなく、南側部分がより星に近い楕円形である可能性を示しました。また、中央の高温な塵は、星から10AU以内に存在すると推定されました。上は、短サブミリ波画像(左)とスピッツァーによる赤外線画像です。
2005年、NASAのハッブル宇宙望遠鏡による可視光線画像で、細いリング状の塵円盤が詳細に撮影されました。予想通りリングは楕円形で、リングの中央はフォーマルハウトの位置から15AUも離れており、離心率は0.11でした。リングの内縁は平均133AU、外縁は平均158AUですが、外縁よりも内縁の方がシャープであるという特徴も発見されました。上の画像は2006年にハッブルが撮影した画像を独自に処理したものです。
【惑星系の予言】
短サブミリ波画像で発見された円盤の中央が空いた構造から、内側に存在する惑星の影響を受けて塵が集められていると考えられるようになりました。多くのシミュレーションで、ドーナツ状の円盤のすぐ内側に土星サイズの惑星が存在することが予言されました。これ程大きく散乱しているのは、60~100AUの領域に複数の惑星が存在するためだという考え方もありました。一方、ドーナツ状の円盤は完全に円形ではなくいくつかのアークからなり、その間に存在する巨大惑星の影響を受けているというシミュレーション結果もありました。
ハッブルによる撮影で詳しいリング状の構造が明らかになると、50~70AU付近に惑星が少なくとも1つあるだろうと推定されました。一方、ハッブルの画像には褐色矮星は写っていませんでした。さらに2007年には、海王星サイズの惑星がリングのすぐ内側に存在し、その離心率はリングとほぼ同じ0.11程度だろうと推定されました。
【惑星フォーマルハウトbの発見】
2008年11月、フォーマルハウトの惑星を撮影することに成功したとの発表がありました。これは、2004年と2006年にハッブル宇宙望遠鏡で撮影された画像に写っていたもので、天体の位置が2年間でわずかに動いており、フォーマルハウトの周囲を公転する天体と考えられました。上は発表さらた画像に、やぎが独自に作成したフォーマルハウト系の想像図を重ねたアニメーションです。明るさや塵円盤の特徴などから推定したところフォーマルハウトbの質量は大きく見積もっても木星の3倍程度であり、褐色矮星の下限と言われる13倍を大きく下回ります。この質量は「どのくらいの質量があれば観測されたようなリング構造ができるか」を元に推定されています。そのため、他にもリングの形成に寄与する未知の惑星が存在する場合には、今回発見された惑星の質量はもっと小さくなければなりません。また、観測された光は惑星そのものというより、惑星の周囲を包む塵に反射された光と考えられ、惑星本来の明るさより明るい可能性があります。そこで、木星質量の3倍未満とされました。現在の位置はフォーマルハウトから119AU離れていますが、リングの内側に沿った楕円軌道(離心率0.11)を回っており、平均距離(軌道長半径)は115AUと推定されます。公転周期は約872年です。
また、2004年と2006年の画像を比較すると天体の明るさが変化していることも明らかになりました(上の画像、左が2004年右が2006年、(C) NASA/ESA/P. Kalas)。これは惑星の外層大気の対流によるとする考えや、リングの内側に存在する高温ガスの影響とする考えがあります。もしかすると、太陽系外惑星の大気現象を直接捉えた初めての例かも知れません。
ところで、このような巨大惑星がどうして楕円軌道を回るようになったのでしょうか。そもそも惑星は系外からやってきたものでない限り、原始惑星系円盤から形成されます。そのため誕生したばかりの惑星は、原始惑星系円盤の角運動量を引き継いで円軌道を描くはずです。したがって、誕生後に起こった出来事、例えば他の惑星との衝突やその他の相互作用によって、現在の楕円軌道になったと考えられます。
【他に惑星は存在するか?】
惑星が発見されたばかりのフォーマルハウト系ですが、既に他の惑星の存在を予想する研究結果もいくつか発表されています。
まず、今回発見された惑星の位置の変化から推定される軌道を詳細に調べると、その楕円軌道の長軸がリングと一致しておらず、この惑星の存在だけではリングの構造を説明できないという意見です。その場合、他にも巨大惑星が存在すると推定されます。ただし、今回発見された惑星の軌道を確定するにはさらに精度の高い観測や、長期にわたる観測が必要です。
また、3年間にわたるヒッパルコス衛星による観測では、フォーマルハウトの固有運動が6.6ミリアーク秒毎年毎年で加速しており、木星質量の30倍程度の天体が存在する可能性が指摘されています。この場合、惑星にしては質量が大きすぎるため褐色矮星と考えられます。
また、第2の惑星を直接撮影しようという試みが既に始まっています。2008年には、MMT天文台でフォーマルハウトの周囲を詳細に観測した結果が発表されました。上はMMT天文台で得られたMバンド画像です((C) M. Kenworthy)。撮影された範囲に惑星などは写っていませんでした。このことからフォーマルハウトから8~40AUの領域には木星質量の13倍以上の天体(褐色矮星)は存在せず、特に13~40AUの領域には木星質量の2倍以上の惑星は存在しないことが分かりました。逆に言えば、(1)8AU以内または40AU以遠には惑星や褐色矮星が存在しうる、(2)8~13AUの領域には惑星が存在しうる、(3)13~40AUの領域には木星質量の2倍未満の惑星が存在しうる、ということになります。ちなみに、フォーマルハウトbの位置は黄色の点で示されており、MMTで調べられた領域の外にあります。
また、当サイト独自の分析でも第2の惑星は発見できませんでした。
【参照】オリジナル画像No.341 フォーマルハウトに第2の惑星はあるか?
太陽系外惑星の特集はまだまだ続きます。
次回の第6部は来年になりますが、2008年に直接観測で惑星が発見されたHR 8799系についてです。
フォーマルハウトは南半球の1等星で、恒星の中でも比較的ご近所です。
このフォーマルハウトには塵が集まってできた円盤があり、その構造の特徴を詳しく観測した結果、惑星が存在するはずだと考えられるようになりました。
そして実際に、NASAのハッブル宇宙望遠鏡による観測で惑星が発見されました。
第5部では、フォーマルハウトの惑星が発見されるまでの経緯と、未解決の謎についてまとめます。
【実は連星系】
フォーマルハウトは、みなみのうお座α星としても知られ、25.1光年の距離にあります。A3V型の青白い星で、太陽の約2.3倍の質量をもち、1.7~1.82倍の直径で、14~17.6倍の明るさと推定されています。
フォーマルハウトは孤立した恒星のように見えますが、実は連星系です。K4-5型のオレンジ色の星であるみなみのうお座TW星が、フォーマルハウトから0.9光年の距離にあり、伴星であることが分かっています。上の画像はフォーマルハウト(左端の明るい星)とみなみのうお座TW星(右端のやや明るい星)です。また最近になって、LTT 9273というK5型星も伴星であることが分かりました。これら2つの伴星は非常に遠く離れているので、フォーマルハウトの周りを回っているというよりも、互いに重力の影響を及ぼしあっていると言った方が分かりやすいかもしれません。これらの伴星が、フォーマルハウト系の外縁部の構造に大きな影響を与えている可能性は十分に考えられます。ただし、恒星やその惑星などのもととなる分子雲コアのサイズは観測や理論から8000AU程度と考えられており、伴星は独立して誕生したと考えられます。
【塵円盤の発見】
1983年、IRAS衛星による赤外線観測により、フォーマルハウトが予想より強い赤外線を放出していることが発見されました。同じような特徴をもつがか座β星で、周囲の塵円盤の熱放射がその正体であることが発見され、フォーマルハウトにも塵円盤が存在すると考えられるようになりました。
1998年、フォーマルハウト周囲の塵円盤が初めて撮影されました。ミリメートルサイズの塵から放射されるサブミリ波による観測では、最も強い領域が星から遠く離れたところにあり、中央が抜けたドーナツ状であることが分かりました。円盤面を地球から見ると24度傾いています。
こうしたドーナツ状の構造は、太陽系のカイパー・ベルトに似ています。恐らく、フォーマルハウト系にも氷の小天体群が帯状に存在すると考えられます。塵はそうした天体の材料となると同時に、天体同士の衝突によって新たに供給されていると思われます。
【楕円形のリング状塵円盤】
その後、解像度50AUの短サブミリ波画像では中心から約100AUの範囲には塵が少ないことが確認されました。さらに、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡による観測で、南側部分がより高温であることが発見されました。このことはドーナツ状の円盤が正確な円ではなく、南側部分がより星に近い楕円形である可能性を示しました。また、中央の高温な塵は、星から10AU以内に存在すると推定されました。上は、短サブミリ波画像(左)とスピッツァーによる赤外線画像です。
2005年、NASAのハッブル宇宙望遠鏡による可視光線画像で、細いリング状の塵円盤が詳細に撮影されました。予想通りリングは楕円形で、リングの中央はフォーマルハウトの位置から15AUも離れており、離心率は0.11でした。リングの内縁は平均133AU、外縁は平均158AUですが、外縁よりも内縁の方がシャープであるという特徴も発見されました。上の画像は2006年にハッブルが撮影した画像を独自に処理したものです。
【惑星系の予言】
短サブミリ波画像で発見された円盤の中央が空いた構造から、内側に存在する惑星の影響を受けて塵が集められていると考えられるようになりました。多くのシミュレーションで、ドーナツ状の円盤のすぐ内側に土星サイズの惑星が存在することが予言されました。これ程大きく散乱しているのは、60~100AUの領域に複数の惑星が存在するためだという考え方もありました。一方、ドーナツ状の円盤は完全に円形ではなくいくつかのアークからなり、その間に存在する巨大惑星の影響を受けているというシミュレーション結果もありました。
ハッブルによる撮影で詳しいリング状の構造が明らかになると、50~70AU付近に惑星が少なくとも1つあるだろうと推定されました。一方、ハッブルの画像には褐色矮星は写っていませんでした。さらに2007年には、海王星サイズの惑星がリングのすぐ内側に存在し、その離心率はリングとほぼ同じ0.11程度だろうと推定されました。
【惑星フォーマルハウトbの発見】
2008年11月、フォーマルハウトの惑星を撮影することに成功したとの発表がありました。これは、2004年と2006年にハッブル宇宙望遠鏡で撮影された画像に写っていたもので、天体の位置が2年間でわずかに動いており、フォーマルハウトの周囲を公転する天体と考えられました。上は発表さらた画像に、やぎが独自に作成したフォーマルハウト系の想像図を重ねたアニメーションです。明るさや塵円盤の特徴などから推定したところフォーマルハウトbの質量は大きく見積もっても木星の3倍程度であり、褐色矮星の下限と言われる13倍を大きく下回ります。この質量は「どのくらいの質量があれば観測されたようなリング構造ができるか」を元に推定されています。そのため、他にもリングの形成に寄与する未知の惑星が存在する場合には、今回発見された惑星の質量はもっと小さくなければなりません。また、観測された光は惑星そのものというより、惑星の周囲を包む塵に反射された光と考えられ、惑星本来の明るさより明るい可能性があります。そこで、木星質量の3倍未満とされました。現在の位置はフォーマルハウトから119AU離れていますが、リングの内側に沿った楕円軌道(離心率0.11)を回っており、平均距離(軌道長半径)は115AUと推定されます。公転周期は約872年です。
また、2004年と2006年の画像を比較すると天体の明るさが変化していることも明らかになりました(上の画像、左が2004年右が2006年、(C) NASA/ESA/P. Kalas)。これは惑星の外層大気の対流によるとする考えや、リングの内側に存在する高温ガスの影響とする考えがあります。もしかすると、太陽系外惑星の大気現象を直接捉えた初めての例かも知れません。
ところで、このような巨大惑星がどうして楕円軌道を回るようになったのでしょうか。そもそも惑星は系外からやってきたものでない限り、原始惑星系円盤から形成されます。そのため誕生したばかりの惑星は、原始惑星系円盤の角運動量を引き継いで円軌道を描くはずです。したがって、誕生後に起こった出来事、例えば他の惑星との衝突やその他の相互作用によって、現在の楕円軌道になったと考えられます。
【他に惑星は存在するか?】
惑星が発見されたばかりのフォーマルハウト系ですが、既に他の惑星の存在を予想する研究結果もいくつか発表されています。
まず、今回発見された惑星の位置の変化から推定される軌道を詳細に調べると、その楕円軌道の長軸がリングと一致しておらず、この惑星の存在だけではリングの構造を説明できないという意見です。その場合、他にも巨大惑星が存在すると推定されます。ただし、今回発見された惑星の軌道を確定するにはさらに精度の高い観測や、長期にわたる観測が必要です。
また、3年間にわたるヒッパルコス衛星による観測では、フォーマルハウトの固有運動が6.6ミリアーク秒毎年毎年で加速しており、木星質量の30倍程度の天体が存在する可能性が指摘されています。この場合、惑星にしては質量が大きすぎるため褐色矮星と考えられます。
また、第2の惑星を直接撮影しようという試みが既に始まっています。2008年には、MMT天文台でフォーマルハウトの周囲を詳細に観測した結果が発表されました。上はMMT天文台で得られたMバンド画像です((C) M. Kenworthy)。撮影された範囲に惑星などは写っていませんでした。このことからフォーマルハウトから8~40AUの領域には木星質量の13倍以上の天体(褐色矮星)は存在せず、特に13~40AUの領域には木星質量の2倍以上の惑星は存在しないことが分かりました。逆に言えば、(1)8AU以内または40AU以遠には惑星や褐色矮星が存在しうる、(2)8~13AUの領域には惑星が存在しうる、(3)13~40AUの領域には木星質量の2倍未満の惑星が存在しうる、ということになります。ちなみに、フォーマルハウトbの位置は黄色の点で示されており、MMTで調べられた領域の外にあります。
また、当サイト独自の分析でも第2の惑星は発見できませんでした。
【参照】オリジナル画像No.341 フォーマルハウトに第2の惑星はあるか?
太陽系外惑星の特集はまだまだ続きます。
次回の第6部は来年になりますが、2008年に直接観測で惑星が発見されたHR 8799系についてです。
中心星から115AUにガス巨大惑星が周回しているとは巨大惑星系ですね。離心率0.11ということは、ジャンピング・ジュピターの飛ばされた方にしちゃ公転軌道が丸過ぎるので、もう少しお手やわらに飛ばされた後で、円盤との角運動量交換で丸められた気がします。
その前提に立つと、内側にbを飛ばしたcが残ってそうです。
わが太陽系と違って外縁部の集積合体が終わってないので、円盤の外側には観測できるような惑星は無さそうです。
申し訳ありません。
この特集、続編も準備中です。
ほんとに系外惑星はバラエティに富んでいて、楽しいですね。
ところで、太陽系を他の星から観測したらどんな風に見えるんですかね。
エッジワース・カイパー・ベルト起源塵の存在が推測されていますが、太陽系の内側の塵に邪魔されて(黄道光)地球からは観測できないようです。
パイオニアやボイジャーは小惑星帯(メイン帯)を過ぎても惑星間塵の量が一定なのを発見してますし、ユリシーズが発見した太陽系外から流入する星間塵がEKB天体にも大量に衝突しているはずです。
意外と、外側の構造は、系外からの方が観測しやすいんですね。
ニューホライズンズに期待したいです。