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第2章~小惑星シュテインスの画像分析結果

2010-02-04 02:05:03 | 最新ニュース
【地表の成分】


複数のフィルタを使った観測で、シュテインスのスペクトル分布が得られました(上図)。
○はNACのデータ、▲はWACのデータです。
実線は、地上からの観測で得られたデータであり、今回の観測結果はそれとよく一致することが確かめられました。
上で述べたように、スペクトルは物質の組成を表しています。
小惑星はスペクトルの特徴によっていくつかのグループに分類されますが、シュテインスはE型小惑星という、比較的少ないグループに属することが再確認されました。
490nm付近の強い吸収帯が特徴的ですが、この起源は詳しく分かっておらず、硫化物だろうと推定されています。

E型小惑星は、そのスペクトルの特徴が、地球上で発見されるオーブライトと呼ばれる隕石成分に似ていることが知られています。
そのため、オーブライトはE型小惑星由来と考えられています。
オーブライトは火成岩ですが、衝撃溶解では生成せず、1000℃を超える高温環境下で形成されます。
このような成分は、本来大型の天体の内部でしか形成されません。
そのため、大型の小惑星や原始惑星が天体衝突で破壊され、そのコアの破片がE型小惑星になったと考えられています。

尚、今回のOSIRISによる観測では、地上観測では得られていなかった400nm以下の波長域で光度が下がることが初めて確認され、鉄成分が少ないことが分かりました。
また、E型小惑星の中でも、E[Ⅱ]という亜型に属することが初めて分かりました。

NACで撮影された6画像から、場所による表面の色の違いは1%以下で、シュテインスの地表の組成は非常に均一であることが

もう一つ、地表の反射率もまた表面を覆う物質の性質を表します。
観測点と太陽光の方向とのなす角を位相角と呼びますが、位相角0.36°、つまり太陽光が当たる面をほぼ正面から撮影した画像から、表面の反射率が計算されました。
そのように直接計算された反射率は0.40±0.01、つまり40%前後の光を反射することになり、非常に明るいことが分かります。
これは他のE型小惑星とも一致します。

当たり前ではありますが、正面から見るときが最も明るく、斜めから見るとやや暗く見えます。
角度による明るさの違いは、表面の滑らかさと関係があります。
例えば、磨かれた氷の表面と、積もった雪の表面を比べてみれば明らかです。
氷の表面は正面から見れば非常に明るいですが、少し角度がずれると非常に暗くなります。
一方、雪面は光を乱反射するので、斜めから見ても白く明るく見えます。

位相角5°~30°から撮影された画像を使った結果、0.024mag/deg、つまり1度ずれる毎に0.024等級暗くなることが分かりました。
さらに、Hapkeモデル(天体の表面が小さな粒で覆われていると仮定したモデル)で分析を行ったところ、表面粗度(表面の粗さ)は比較的高いことが分かりました。
この特徴も他のE型小惑星と一致しています。
このHapkeモデルに基づいて計算した反射率は0.41±0.016で、上の直接計算の結果とほぼ同じになります。


【シュテインスの立体モデル】


今回の接近観測によって、一部は太陽光が当たっていなかったため撮影されていませんが、シュテインスの約60%の地表が観測されました。
NACで撮影された1画像と、WACで撮影された61画像における、シュテインスの輪郭の形から、シュテインスの立体的モデルが作成されました。
同時に行われた地上から観測で得られた光度曲線のデータを使って、OSIRISによって撮影されなかった部分の大まかな形も明らかになりました。

このようにして作成されたシュテインスの立体モデルが上の図です。
3軸の直径は6.67km×5.81km×4.47kmで、相当半径2.65kmです。
全体的には、南北方向が潰れていて、赤道方向に盛り上がっており、ダイヤモンドのような形をしています。
これを、南北方向に潰れた扁球で近似すると、赤道半径は3.1km、極半径は2.2kmとなります。

自転軸の方向は赤経91.6°赤緯-68.2°であり、これは黄道面(多くの惑星や小惑星の軌道が通る基準面)にほぼ垂直です。
シュテインスの赤道傾斜角は169.5°ということになります。
傾きが90°を超えていますが、これはシュテインスの自転の方向が、公転の方向と逆向きであることを示しています。
自転周期は6.04679±0.00002時間と計算されました。


【シュテインスの特徴的な地形】


シュテインスには、いくつか特徴的な地形があります。
まず目に付くのは、南極付近にある大きなクレーターです(上図の赤矢印)。
直径は2.1kmもあり、シュテインス自体の直径が5.3kmなので、大きさの比は40%です。
他の小惑星でも、アイダには44%、マティルドには62%、ヴェスタには87%の比を持つ巨大クレーターがあります。
何れにせよ、クレーターを形成した隕石衝突の巨大な衝撃によって、それ以前に地表に存在した地形は全て消滅したと考えられます。
したがって、この他の地形は全て、この巨大クレーターよりも後の時代に形成されたということになります。

この巨大クレーターから北に向かって、7つの窪みが一直線に連なっています(緑矢印)。
一見するとクレーターのようにも見えます。
しかし、隕石衝突によってこのように大きさがほぼ同じクレーターが7つ直線的に並んでできる確率は極めて低く、他のメカニズムを考えざるを得ません。
位置関係から言っても、巨大クレーターの形成と何らかの関係があると考えるべきです。

さらに、他の画像では溝のような地形も発見されました(青点線)。
何らかの大きな力が加わってできた地形と考えられます。
先ほどの巨大クレーターや7つの窪みとの位置関係を、前述のシュテインスの立体モデルと重ね合わせて見てみます(立体モデルの図を参照)。
すると、この溝は、巨大クレーターや7つの窪みのちょうど正反対の場所にあることが分かります。
この溝も、巨大クレーターの形成と関連した地形と推定できます。


【クレーターの数から年代を推定】

シュテインスの地表にあるクレーターは、主に小惑星帯からやってくる隕石の衝突によってできます。
小惑星帯における小惑星の大きさの分布から、どの程度の大きさの隕石がどのくらいの頻度で衝突するかを推定することができます。
また、木星探査機ガリレオによって撮影された小惑星ガスプラの画像をもとに、クレーターが風化して消滅するまでの時間が推定されました。
これらを、実際に地表にあるクレーターの数と比較することにより、地表の年代を推定することが可能です。
隕石の大きさとクレーターの大きさの関係は、シミュレーション結果と実験結果に基づいており、後者に基づく推定年代の方が10倍近く古い結果となっています。

その結果、不思議なことに直径0.5km以上のクレーターから推定される年代と、直径0.5km未満のクレーターから推定される年代が異なることが分かりました。
直径0.5km以上のクレーターからは、シミュレーションに基づくと1.54±0.35億年、実験結果に基づくと(引張強度がそれぞれ10^5または10^6 dyne/cmのとき)4±2億年または16±5億年と推定されました。
一方、直径0.5km未満のクレーターからは、3200±400万年、7200±1000万年または2億4000±3000万年と推定されました。
この違いは何を示すのでしょうか。

前述のように南極付近の巨大クレーターを形成した隕石衝突で、シュテインスの地表は一新されたと考えられるため、その他のクレーターの分布から推定される年代は、すなわち巨大クレーターの年齢に他なりません。
一方、小型クレーターの分布から推定された年代はそれよりも新しく、巨大クレーター形成よりも後の時代に、小型クレーターだけが消滅するような出来事があったと考えざるを得ません。

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