逍遥日記

経済・政治・哲学などに関する思索の跡や旅・グルメなどの随筆を書きます。

新型コロナウイルスと経済対策(3)―公的部門の役割―

2020-04-14 17:38:59 | 経済
新型コロナウイルスと経済対策(3)―公的部門の役割―
和洋女子大学・山下景秋

1.複合危機における公的部門の拡大
新型コロナウイルスが世界的に蔓延し感染症と経済の複合危機に世界が苦しんでいる現在、世界の多くの国々で人々の外出が自粛・規制・禁止され、人々は仕事ができない状況になっている。そこで、経営の悪化した企業や商店などの事業体に対し、また収入が減少した個人に対し、政府が支援金を援助することが求められている。これに関しては、私自身このブログでいくつか原稿を投稿した。
さらに、その他の対策として、次の対策も検討してみる価値があるのではないか。
政府が経済的に困窮した企業などの事業体や個人に資金のみを援助するのではなく、この複合危機の間に限って、政府が困窮した事業体や個人に対して資金と仕事を同時に与える、という方法である。  
政府が資金と仕事を共に与えること、それはすなわち、経営の悪化した民間の事業体や収入の減少した個人を政府の管理下に入れること(民間企業でもある程度可能だが)、すなわち民間の生産・労働の公的部門化あるいは政府管理化を意味する。簡単にいえば、この複合危機の期間のみ、民間企業なら国の管理下に入り、労働者なら公務員になることである。

2.危機時の生産
生産の変化の必要
 現在のような危機の時には、現行の生産や雇用の状況が大きく変化する。
観光業、小売業、飲食業、ホテル・旅館業などの業界・業種を中心に売り上げが減少し、自動車などの製品の販売が減少する一方で、タブレットなどの情報機器や、人工呼吸器やECMO、防護服、マスク、消毒剤など医療関係の製品の生産が求められている。世界中がこれらの製品の生産を求めているので需要は膨大にある。需要の減った製品から需要の増えた製品へ生産を切り替えていかなくてはならない。
しかし、多数売れるはずなのに、企業がこれらの生産を急速に増やさないのは、この生産に踏み切ることにリスクを感じているからかもしれない。
生産の障害
多くの企業が経営を悪化させている緊急時であればあるほど、民間企業自身は、資金面の余裕がなく、リスクの高い投資を避ける。また民間企業は民間金融機関を通じて積極的に融資や投資を受けることも少なくなるので、民間企業が積極的に生産を変えるのは難しい。
そのリスクとは、将来、(たとえば)マスクの生産が過剰になる状況で、感染症の終息によって生産されたマスクが売れ残るかもしれないというリスクである。
そのため、政府は生産された製品の(売れ残りを含め)全数を政府が備蓄用に買い取ることを生産企業に保証しなくてはならない。
また、政府がマスクを生産するための設備投資用の資金を援助することも必要となる。(さらに、製品生産のノウハウをもっている技術者を指導者として呼ばなくてはならない)
以上のことは、マスク以外の緊急時に必要な他の製品も同様である。
企業の政府管理
この危機下でも製品の一定数の生産を維持する企業ならば、その製品の生産をたとえばマスクの生産に切り替えることは難しいかもしれない。
 一方、経営が悪化し設備をスクラップする予定の企業ならば、政府による設備投資用の資金の支援があればマスク生産用の設備を導入しやすい。
政府が経営の悪化した企業に対して資金援助をし、それにより必要な生産が実現するならば、政府の資金が有効に使われたことになる。
政府の介入
現在のような緊急時には、上で述べた医療用製品の生産以外にも、最低限、農産物の生産、医療サービス、介護・育児サービス、配送サービスなどが必要である。しかし、これらの分野・領域は利益にそぐわない部分も大きい。
現在のような緊急時には、利益の追求よりも社会的必要が満たされることが優先されなくてはならないが、利益の追求が第1の目的の民間に任せておくとその必要を満たすことができない。そのためこれらの分野と医療用製品の生産に関しては、政府の介入が必要になってくる。
危機の期間は、政府が経営の悪化した企業を政府の管理下において、社会的必要度の高い製品を生産してもらう代わりに、資金を投じて経営を支えるのである。 
以上の対策により、経営の悪化した企業を救済することができる。

3.失業者の公務員採用
失業者の公務員採用
神奈川県の黒岩知事が100人、大阪府の吉村知事が50人、新型コロナウイルスの拡がりにより採用の内定を取り消された学生や失業した人を約1年間ほどの臨時職員として採用すると発表した。
感染症と経済の複合危機が進行している現在であるが、失業者の公務員採用は慎重かつうまくやれば、効果の高い政策になるかもしれない。
失業者の公務員化
 労働者を必要度が高いモノやサービスの生産の方向に誘導しなくてはならない。しかし、その必要度が高い仕事を民間企業がしようとしないのなら、政府が管理する企業で、人々、特に仕事を失った人達に労働してもらわなくてはならない。それは、彼らが公務員化することを意味する。
失業者の公務員採用という政策は、失業者に対して現金給付などにより所得を補填するだけの政策に比べると、政府が彼らにお金と仕事の双方を与えるので、好ましい政策であるといえる。
農産物の生産
 緊急時においても食が確保されなくてはならないのは勿論である。農産物は人間の生存にとって最も必要なモノである。しかし、その生産の担い手は不足しており、欧米でも日本でも外国人が多い。
 フランスでは失業者らに農業従事を呼び掛けたところ、20万人の応募があったそうである。日本やアメリカでも、失業者に対して農業従事を呼びかけたらどうか。そして政府は農業に従事する者達に対して賃金を支払うのである。これによって、(食料供給の要求を満たしながら)多くの失業者が救済される。
 これは基本的に危機の間の対策であるが、期間後も農村に居住することを希望する人たちがでてくれば、そこで仕事を続けてもらう。そうなれば危機後の地方振興や過疎対策にもなるだろう。
居住
 地方における農業従事者は、農場近くのホテル・旅館(農家の空家もあるかもしれない)を宿舎にし宿泊してもらう。また、都会ならば、工場や配送地域の近くのホテルを宿舎にし宿泊してもらう。
 ただし、都会から地方に人が移動する場合は、ウイルスが地方に拡散することを防ぐために、複数検査で陰性の人達に限る方がよい(陽性の人達には、政府が別途経済的支援をする)。宿泊場所となるホテル・旅館は、もともと低料金のところに限られるだろう。
 政府によるこのような人員配置により、失業者が仕事に加え住まいを得るばかりか、旅館・ホテルの部屋が埋まり旅館・ホテルの仕事も生み出される。また、都会の労働者が職場の近くに居住するように配置されると、電車通勤の人達が減少することにもなり感染拡大の防止に役立つ。

4.問題点
財政赤字の拡大
 注意しなくてはならないのは、次の事実である。
 政府が失業者を公務員として採用した事例で有名なのはギリシャである。ギリシャは失業者を公務員として多数採用した(同国GDPに占める公務員の人件費は90年代に上昇した)が、これが巨額の財政赤字の一因になり、この財政赤字が2009年のギリシャ財政危機、そしてこれによる欧州経済危機の原因になった。
 だから、政府が失業者を公務員として採用するというのは好ましい面がある一方で、財政赤字が拡大する(ただし仕事を与えている―失業救済)という注意しなくてはならない面もあるのである。しかし、経済が深刻な時期に、ある一定数の失業者を公務員として採用(予算面で採用数には限界がある)し、経済が回復した時にはできるだけ民間の職を探して転職してもらうという条件ならば、許容できる政策であるかもしれない。
 なお、財政支出によって失業者を公務員として採用するのではなく、政府が民間企業に補助金を出して失業者を雇用してもらうという方法もある。
非効率な企業
 もう1つ注意しなくてはならないのは、一般に政府管理の公企業は利益追求がないので、効率的ではないということである。緊急時は、利益原理よりも社会必要原理が優先されるから公企業が増えることは許容されるが、平時に戻ると困る部分も出てくる。
出口
 それゆえ、危機の期間が過ぎれば、政府管理下のこれらの企業は徐々に政府の管理から離れて民間企業に戻さなくてはならない。危機後も、マスクや防護服、消毒剤などの生産は、中国などに依存することなく、一定数を自給する必要があるので、これらの復帰民間企業はこれらの生産を続けても良いし、経済が回復すると元の仕事も入って来やすくなるはずである。

5.意味―仕事を伴う財政支出
 利益原理ではなく緊急時の社会必要原理に基づいて、生産や雇用を誘導していくことが必要である。そのためには、政府が経営の悪化した民間企業や経済的に困窮化した人たちに対して、ただ救済資金を与えるのではなく、仕事を伴う資金供与を行えば必要な生産の増加を伴うから、ただの財政負担ではなくなるのである。しかも、倒産や失業を減らすことができる。

(以上、このブログで、初期から中期の感染症・経済の複合危機に対する経済対策を「新型コロナウイルスと経済対策」の(1)から(3)として掲載しました。次に、最悪期の複合危機に対する経済対策としての「貨幣使用の禁止」に関する文章[中間発表は既に掲載]を近くこのブログに掲載する予定です)









 


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