新型コロナウイルスと経済対策(2)―富裕税、現金給付―
和洋女子大学・山下景秋
1.富裕層の社会的貢献
4月6日に私のブログ「逍遥日記 山下景秋」に「新型コロナウイルスと経済対策―消費税引き下げ、現金給付、商品券―」という題の文章を掲載した。この文章で、消費税引き下げ、現金給付、商品券の3つの方法を述べ、この3つを比較した。
このうちのどの方法をとるにしろ、問題は財政的制約があるということである。金額を大きくすれば効果が大きくなることは言うまでもないことであるが、巨額の財政赤字があるもとでは、その財源は国債を発行して余剰資金を吸収するしかないという制約がある。
一方、このような財政的対策に加えて、日本などは更に金融を緩和しようとしている。しかし、金融機関はこのように経済が悪化している時期に喜んで企業などに資金を貸そうとはしない。貸したお金が不良債権になる可能性が高いからである。
問題の根本は、企業などの事業体の製品やサービスが売れない状況にあることにある。製品やサービスの消費が増えなければ、企業は資金を借りる必要がないし、資金を借りることもできない。
消費を増やすためには、広範な人々において資金の余裕が必要である。しかし、経営・経済が悪化している現在、それは期待できない。財政的支援にも限界がある。
ならば、どうすれば良いのか?
1つの方法として、富裕層の眠っている資金を活用させていただくということが考えられる。
世界が大変困難な状況に陥っている現在、共に沈没しないためにはお互いが助けあわなくてはならない。資金に余裕がある人は資金に余裕がない人を助けてほしい。それは人道的な気持ちからであるが、資金を提供する人のためでもある。彼らが資金を豊富に保有できたのは、自らの努力もあるだろうが、(お客として、労働者として)一般の人々の助けもあったからだし、一般の人々が中心を形成する社会全体の経済状況が悪化すれば、富裕層がこれから将来に向かって利益を獲得することが難しくなるからでもある。さらに言えば、今回の新型コロナの蔓延ではまず主として貧困層(特にアメリカでは国民皆保険制度を利用できない人達)がり患し、それにより富裕層を含む貧困層以外の人達もり患するので、まず貧困層を経済的に救済することは富裕層などの人達の命を守ることにもなる。
2.富裕税
富裕税とは
富裕税とは、富裕層が保有する資産に課す税金のことである。富裕税は純資産税とも呼ばれ、主に個人が保有する不動産をはじめとする有形資産、預金や有価証券の金融資産などを対象とし、こうした総資産額から負債額を差し引いた純資産に対して課税される。
日本では1950年から53年まで実施したことがある。欧州では1980年代に10か国以上で導入された。80年代後半から多くの国で廃止されたが、フランス、ノルウエー、スイスでは現在でも実施されている。08年のリーマンショック後、アイスランドやスペインで富裕税が復活した。また、アメリカの民主党の大統領候補だったサンダース氏も、アメリカで導入する案を表明している。
内容
富裕層のもつ資産の多くが、「預金やその他の金融商品に充当されており、さらにその資金は設備投資にまわる」とされている。
いくら富裕層の資金が金融機関に供給されているとしても、消費が少なければ企業は金融機関から資金を調達しようとしない。富裕層のお金は富裕層のふところで眠っているというよりも、金融機関で眠っていることになる。
経済を刺激する(そして富裕層の資金が有効に利用され彼らの利益がそれによって大きくなる)ためには、金融機関内の資金やその資金による設備投資だけでなく、同時に消費が増えなくてはならない。社会全体にとって重要なことは、設備投資と消費のバランスなのである。
しかし、社会全体では、富裕層1人当たりの消費といってもその金額には限界があるし、また彼らが多額の資金を使って消費する商品は多くの場合はぜいたく品に限られている。
もっと広範な商品をもっと広範な人々が買うようになってこそ、社会全体の消費が増加し、これによって企業が金融機関からより多くの資金を調達しようとし、そしてその資金を投入している富裕層の利益も増すのである。そのためには、富裕層のお金を解放し、富裕層でない人たちにそのお金が流れるようにするのが好ましい。
人々が国難に直面する現在、人々が経済の落ち込みを回避するためには、それが可能な者たちは自らある程度の犠牲を払わなくてはならない。そのためには、富裕層だけでなく、貧困に苦しんでいない中流上層階級も痛みを分かち合う必要があるのではないか。その1つの基準は、年収1,000万円以上の世帯かもしれない。
方法
富裕税の実施方法の要点として次の3つが必要である。
純資産が大きくなればなるほど税率を上げる。恒久的に実施すると富裕層の反対が大きいと思われる場合は、富裕税の徴収は経済が困難な状態にある期間に限る(つまり時限的に行う)。富裕税の金額を超える金額の寄付をした富裕者には、富裕税は課さない。
問題点
①徴税コスト
過去において富裕税が廃止された理由の1つに、資産の把握が難しいということがある。資産の把握が正確にできることが必要である。
②株価の下落
富裕税を課すと、富裕者が換金のために株などを売る可能性があるとされる。経済が困難な状況にある時に多数の株が売却されると株価が下落して、企業の資金調達が困難になる懸念がある。
このような事態を避けるために、政府は富裕者から富裕税として現金を徴収するのではなく、政府が株や金融商品そのものを受け取る方法があるのではないか。政府は徐々にそれを売却し現金化する方法もあるが、政府は株(など)を売却して現金化するのではなく、受け取る株に見合った資金を財政支出し、政府が保有するこの株は将来危機から脱出する時に売れば良い。
③資産の海外流出
富裕者が富裕税の徴収を嫌って、資産を外国に逃避させる可能性がある。タックスヘイブンに逃避させないように国際的に監視しなくてはならない。また各国間の税率が異なっていると、税率が軽い国へ資産が逃避する可能性があるので、国家間で税率を統一するように各国が協力しなくてはならない。
3.現金給付
政府の予算から、そして富裕税などから、この危機に際し経済的に困窮している人達に経済的支援をすることが求められる。個人に対するその方法としては、消費税率の引き下げや現金給付、商品券の配布などがある。
日本政府はこのうち、個人に対する30万円の現金を給付する方法を実施しようとしている。
①日本政府の原案
政府の原案によると、次の(A)、(B)の方法により実施する。
(A)給付対象は、世帯主の2月以降の月間収入が1月以前と比べて減少し、年収換算で個人住民税非課税の水準まで落ち込む場合。
(東京23区内に住む会社員で単身世帯は年収100万円以下、専業主婦と子供2人の4人世帯では年収約255万円以下だと住民税が非課税となる。)
一方、(B)住民税を課される収入があっても、急激な客足の減少などで月収が半減した人は給付される。収入(年収換算)が住民税非課税水準の2倍以下であることが条件とされる。
給付を求める場合は、希望者がその旨を自己申告する。
②.問題点
資産の保有者
自己申告者のうち過去の年収が多い人の場合、資産を形成している可能性が高い。収入が落ち込んだとはいえ、彼らはその資産を取り崩してある一定期間生活できるはずである。
特に、年収がたとえば2,000万円や3,000万円などと非常に多く、高級な外国車や豪華な家に住み、宝飾品や美術品を多くもつなど、ぜいたくな生活を享受していた人たちに経済的支援することに対しての批判が多い。
(A)の条件で、今年1月以前の個人の年収がたとえば1,000万円を超える人達には、1,000万円を超える金額が大きければ大きいほどその支援額を減らすことが必要である。
ただ、何らかの納得できる事情・理由がある場合は考慮しなくてはならない。病気治療や介護などで多額の出費が必要であった場合などである。このような訴えがある場合は、役所の中で、複数の職員により構成される査定委員会で適否を判断することが求められる。
所得と納税状況の正確な把握
現金給付は自己申告で行われるが、問題は本当に申告通りの所得であるか(あったか)、税金を正確に納めていたか、支援の必要性がないぐらいの資産を保有していないかどうかなどの厳格な調査が必要である。できるだけ自己申告者の家庭の財産状況を調べることが求められる。
特定の人達に対する現金給付を国民が納得するためには、以上のような条件が満たされなくてはならない。
自己申告の受付
役所の窓口で、適正な自己申告のみを受け付け、不当・不法な自己申告を排除するためには、複数の職員(できれば警察出身者を最低1人含む)で対応することが必要である。なかには、暴力や脅しで不正な申告をしようとする者がいる可能性があるからである。
和洋女子大学・山下景秋
1.富裕層の社会的貢献
4月6日に私のブログ「逍遥日記 山下景秋」に「新型コロナウイルスと経済対策―消費税引き下げ、現金給付、商品券―」という題の文章を掲載した。この文章で、消費税引き下げ、現金給付、商品券の3つの方法を述べ、この3つを比較した。
このうちのどの方法をとるにしろ、問題は財政的制約があるということである。金額を大きくすれば効果が大きくなることは言うまでもないことであるが、巨額の財政赤字があるもとでは、その財源は国債を発行して余剰資金を吸収するしかないという制約がある。
一方、このような財政的対策に加えて、日本などは更に金融を緩和しようとしている。しかし、金融機関はこのように経済が悪化している時期に喜んで企業などに資金を貸そうとはしない。貸したお金が不良債権になる可能性が高いからである。
問題の根本は、企業などの事業体の製品やサービスが売れない状況にあることにある。製品やサービスの消費が増えなければ、企業は資金を借りる必要がないし、資金を借りることもできない。
消費を増やすためには、広範な人々において資金の余裕が必要である。しかし、経営・経済が悪化している現在、それは期待できない。財政的支援にも限界がある。
ならば、どうすれば良いのか?
1つの方法として、富裕層の眠っている資金を活用させていただくということが考えられる。
世界が大変困難な状況に陥っている現在、共に沈没しないためにはお互いが助けあわなくてはならない。資金に余裕がある人は資金に余裕がない人を助けてほしい。それは人道的な気持ちからであるが、資金を提供する人のためでもある。彼らが資金を豊富に保有できたのは、自らの努力もあるだろうが、(お客として、労働者として)一般の人々の助けもあったからだし、一般の人々が中心を形成する社会全体の経済状況が悪化すれば、富裕層がこれから将来に向かって利益を獲得することが難しくなるからでもある。さらに言えば、今回の新型コロナの蔓延ではまず主として貧困層(特にアメリカでは国民皆保険制度を利用できない人達)がり患し、それにより富裕層を含む貧困層以外の人達もり患するので、まず貧困層を経済的に救済することは富裕層などの人達の命を守ることにもなる。
2.富裕税
富裕税とは
富裕税とは、富裕層が保有する資産に課す税金のことである。富裕税は純資産税とも呼ばれ、主に個人が保有する不動産をはじめとする有形資産、預金や有価証券の金融資産などを対象とし、こうした総資産額から負債額を差し引いた純資産に対して課税される。
日本では1950年から53年まで実施したことがある。欧州では1980年代に10か国以上で導入された。80年代後半から多くの国で廃止されたが、フランス、ノルウエー、スイスでは現在でも実施されている。08年のリーマンショック後、アイスランドやスペインで富裕税が復活した。また、アメリカの民主党の大統領候補だったサンダース氏も、アメリカで導入する案を表明している。
内容
富裕層のもつ資産の多くが、「預金やその他の金融商品に充当されており、さらにその資金は設備投資にまわる」とされている。
いくら富裕層の資金が金融機関に供給されているとしても、消費が少なければ企業は金融機関から資金を調達しようとしない。富裕層のお金は富裕層のふところで眠っているというよりも、金融機関で眠っていることになる。
経済を刺激する(そして富裕層の資金が有効に利用され彼らの利益がそれによって大きくなる)ためには、金融機関内の資金やその資金による設備投資だけでなく、同時に消費が増えなくてはならない。社会全体にとって重要なことは、設備投資と消費のバランスなのである。
しかし、社会全体では、富裕層1人当たりの消費といってもその金額には限界があるし、また彼らが多額の資金を使って消費する商品は多くの場合はぜいたく品に限られている。
もっと広範な商品をもっと広範な人々が買うようになってこそ、社会全体の消費が増加し、これによって企業が金融機関からより多くの資金を調達しようとし、そしてその資金を投入している富裕層の利益も増すのである。そのためには、富裕層のお金を解放し、富裕層でない人たちにそのお金が流れるようにするのが好ましい。
人々が国難に直面する現在、人々が経済の落ち込みを回避するためには、それが可能な者たちは自らある程度の犠牲を払わなくてはならない。そのためには、富裕層だけでなく、貧困に苦しんでいない中流上層階級も痛みを分かち合う必要があるのではないか。その1つの基準は、年収1,000万円以上の世帯かもしれない。
方法
富裕税の実施方法の要点として次の3つが必要である。
純資産が大きくなればなるほど税率を上げる。恒久的に実施すると富裕層の反対が大きいと思われる場合は、富裕税の徴収は経済が困難な状態にある期間に限る(つまり時限的に行う)。富裕税の金額を超える金額の寄付をした富裕者には、富裕税は課さない。
問題点
①徴税コスト
過去において富裕税が廃止された理由の1つに、資産の把握が難しいということがある。資産の把握が正確にできることが必要である。
②株価の下落
富裕税を課すと、富裕者が換金のために株などを売る可能性があるとされる。経済が困難な状況にある時に多数の株が売却されると株価が下落して、企業の資金調達が困難になる懸念がある。
このような事態を避けるために、政府は富裕者から富裕税として現金を徴収するのではなく、政府が株や金融商品そのものを受け取る方法があるのではないか。政府は徐々にそれを売却し現金化する方法もあるが、政府は株(など)を売却して現金化するのではなく、受け取る株に見合った資金を財政支出し、政府が保有するこの株は将来危機から脱出する時に売れば良い。
③資産の海外流出
富裕者が富裕税の徴収を嫌って、資産を外国に逃避させる可能性がある。タックスヘイブンに逃避させないように国際的に監視しなくてはならない。また各国間の税率が異なっていると、税率が軽い国へ資産が逃避する可能性があるので、国家間で税率を統一するように各国が協力しなくてはならない。
3.現金給付
政府の予算から、そして富裕税などから、この危機に際し経済的に困窮している人達に経済的支援をすることが求められる。個人に対するその方法としては、消費税率の引き下げや現金給付、商品券の配布などがある。
日本政府はこのうち、個人に対する30万円の現金を給付する方法を実施しようとしている。
①日本政府の原案
政府の原案によると、次の(A)、(B)の方法により実施する。
(A)給付対象は、世帯主の2月以降の月間収入が1月以前と比べて減少し、年収換算で個人住民税非課税の水準まで落ち込む場合。
(東京23区内に住む会社員で単身世帯は年収100万円以下、専業主婦と子供2人の4人世帯では年収約255万円以下だと住民税が非課税となる。)
一方、(B)住民税を課される収入があっても、急激な客足の減少などで月収が半減した人は給付される。収入(年収換算)が住民税非課税水準の2倍以下であることが条件とされる。
給付を求める場合は、希望者がその旨を自己申告する。
②.問題点
資産の保有者
自己申告者のうち過去の年収が多い人の場合、資産を形成している可能性が高い。収入が落ち込んだとはいえ、彼らはその資産を取り崩してある一定期間生活できるはずである。
特に、年収がたとえば2,000万円や3,000万円などと非常に多く、高級な外国車や豪華な家に住み、宝飾品や美術品を多くもつなど、ぜいたくな生活を享受していた人たちに経済的支援することに対しての批判が多い。
(A)の条件で、今年1月以前の個人の年収がたとえば1,000万円を超える人達には、1,000万円を超える金額が大きければ大きいほどその支援額を減らすことが必要である。
ただ、何らかの納得できる事情・理由がある場合は考慮しなくてはならない。病気治療や介護などで多額の出費が必要であった場合などである。このような訴えがある場合は、役所の中で、複数の職員により構成される査定委員会で適否を判断することが求められる。
所得と納税状況の正確な把握
現金給付は自己申告で行われるが、問題は本当に申告通りの所得であるか(あったか)、税金を正確に納めていたか、支援の必要性がないぐらいの資産を保有していないかどうかなどの厳格な調査が必要である。できるだけ自己申告者の家庭の財産状況を調べることが求められる。
特定の人達に対する現金給付を国民が納得するためには、以上のような条件が満たされなくてはならない。
自己申告の受付
役所の窓口で、適正な自己申告のみを受け付け、不当・不法な自己申告を排除するためには、複数の職員(できれば警察出身者を最低1人含む)で対応することが必要である。なかには、暴力や脅しで不正な申告をしようとする者がいる可能性があるからである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます