逍遥日記

経済・政治・哲学などに関する思索の跡や旅・グルメなどの随筆を書きます。

(改訂版)トランプ氏の貿易戦争(trade war of Trump[Revised edition])

2018-03-23 18:10:36 | 日記
(改訂版)トランプ氏の貿易戦争(trade war of Trump[Revised edition])
和洋女子大学・山下景秋

とうとうトランプ氏は、貿易戦争を始めようとしているようだ。米国は中国と日本に対して、鉄鋼とアルミの輸入に関税をかけて輸入制限するというのである。
17年の米国の鉄鋼製品輸入先は、多い順から、カナダ(16%)、ブラジル(14%)、韓国(10%)、メキシコ(9%)、ロシア(8%)、トルコ(6%)、日本(5%)、…中国(2%)である。
アルミに関しては、多い順から、カナダ(43%)、ロシア(11%)、アラブ首長国連邦(10%)、中国(9%)であり、日本からの輸入はほとんどない。
米国商務省のこのデータを見ると、日本と中国からの鉄鋼とアルミの輸入に関して米国が輸入制限する理由は見当たらない(特に日本)。しかし、カナダなど輸入量の多い国からの輸入に関しては輸入制限しないというのである。
では、トランプ氏は、米国の貿易赤字全額の順位によって輸入制限国を決めたのだろうか。17年4月時点で判明した16年の、米国の貿易赤字の相手国の第1位は中国(3470億$)、第2位日本(689億$)、第3位ドイツ(649億$)である。日本とドイツはほとんど差がないにも拘わらず、ドイツあるいはEUに対しては輸入制限しないというのである。
先祖がドイツのトランプ氏の私情から、彼はドイツを除外したのではないか?
日本は同盟国ではなかったのか?

中国は、報復として、米国からの輸入に対して高い関税をかけるようだ。
米国は日本からの自動車の輸入に関して関税をかけているのにも拘わらず、日本は米国からの自動車の輸入に関しては関税が0である。日本車が米国で売れるのは米国の消費者が決めていることであり、米国車が日本で売れないのは日本の消費者が欲しいと思うような車を米国企業が製造していないからである。
しかも、日本の安倍首相は、トランプ 氏の求めに応じて米国の巨額の兵器の購入を約束した。また、日本企業もまたトランプ氏の要求を受け入れて米国への工場移転に協力することにした。
ところが、この仕打ちだ。
日本人は従順な国民だと思われているのかもしれないが、米国に従順なのは日本の指導者だけで、多くの日本国民は今回のトランプ氏の措置に対して怒りを感じている。日本の世論に押されて、トランプ米国に対する日本政府の態度・姿勢が変わらざるをえなくなるかもしれない。そうなれば、日米同盟の危機となり、米国の利益が損なわれることになる。
米国にとって注意しなくてはならないのは、米国債の多くを中国と日本が保有しているということである。
17年6月末時点での、米国債の保有国順位。1位は中国1兆1465億ドル、2位は日本1兆900億ドル。中国や日本が、保有している米国債を売り始めることもありうる。
もしこの両国(中国単独でも)が米国債を売れば、→ドル安→米国の輸入価格↑(←関税賦課による輸入価格↑)→米国の物価上昇率↑→金融引き締め→米国の景気失速、のシナリオの可能性もある。さらに、ドル安の進行はさらに米国債の売却を増やすという悪循環に陥る可能性もある。
本来、日本は日米同盟が重要であると考えているので、米国債を売って米国との関係を悪化させたくないと思っている。しかし、トランプ氏が日本に対してこのような強硬姿勢をとるのならば、トランプ氏の「裏切り行為」に反発する世論が黙っていないだろう。国内の支持率低下を恐れる日本政府が、米国債を売るのも仕方ないということになるかもしれない(そうならないことを祈る)。特に、中国が米国債を売り始めてドル安が進行すると、米国債の価値が下がり日本が損失を被るので、日本は米国債を売らざるを得なくなるかもしれない。

戦前、1930年代の大恐慌後、自国の経済を守るため世界各国が輸入制限をはじめ、いわゆるブロック経済体制が構築された。このような経済対立が政治的な対立につながって、第2次世界大戦が勃発した。
戦後は、その反省にたって、国際政治面では国連が結成され、経済面では自由貿易体制が構築された。世界的にはGATT→WTO、世界の地域ではEU、NAFTA、ASEAN、TPPが作られ、2国間ではFTAが結ばれた。
貿易の自由化による経済のグローバル化は、先進国企業が途上国に工場を移すことを可能にする。先進国の輸入制限がなくなるとどの国で生産してもよくなるので、低賃金を利用できる途上国に工場を移すことが経営者にとって利益になるからである。この工場移転により先進国は低価格製品の輸入が可能になる。しかし、これは輸入国の一部の産業の雇用を減少させる。
しかし一方では、輸入制限をなくすことにより部品や素材・原料を低価格で輸入できれば、それを使って製造する輸入国企業(アップルなど)は利益を得る。これらの企業は国内で低価格製品を供給できる。
ところが、輸入国が関税を課して経済を閉鎖するようになると、このような低コストを利用できなくなるので、輸入国の製品価格が上がる。これが物価上昇率を上げる可能性がある。
また、価格上昇は販売数を減らして、企業の売上高、そして利益を減らす可能性もある。こうなれば、結局、輸入国の企業利益や生活水準が低下し、したがって株価が下がる可能性もある。

輸入国の米国が関税を課すことによる輸入価格の上昇に加えて、各国の米国債売却によるドル安の進行を通じる輸入価格の上昇が加わることによって、米国の物価上昇率がさらに上がることに注目しなくてはならない。
しかも、ドル安は、米国の輸出を増やすことにはつながらない。他国が報復措置として関税を引き上げるからである。また、このような世界における貿易戦争の進行は各国の経済を悪化させるので、米国製品を各国が買ってくれる状況にもならない。
そうでなくても、米国は、メキシコ国境の壁建設やインフラ投資などの政府支出増と減税による米国財政赤字の拡大が、金融引き締めの本格化と共に米国金利を上昇させる可能性がある。また、米国債の売却が進むと、これにより長期金利が上昇する。このような金利の上昇がcrowding outを起こし、米国の民間投資と株式投資を抑制する可能性があり、以上の全効果を合わせて、米国の経済・景気が失速する可能性がある。

ついでにいえば、ドル安の進行は円高の進行でもあるので、日本は米国の関税の引き上げと共にダブルパンチを受けることになり、日本の景気が失速する。そうなれば、安倍政権の支持率がこの面でも低下する可能性がある。
その結果、日米の政治的距離が遠ざかることになり、北朝鮮や中国を利することになる。

 トランプ氏は日本が米国を利用してきたと述べたが、日本と中国が対米輸出で稼いだお金の多くは米国債の購入にまわった(また、リーマンショック以前の米国の住宅ローンの資金の多くは、日本・中国と欧州からの資金だった)。米国の財政赤字を埋める資金として米国に還流したのだ。80年代日本が長期にわたり公定歩合を2.5%に引き下げ続けた(→バブルの原因)のも、米国財政赤字を埋めるためだった。
 中国と日本が米国債を売却すれば、米国債の価格が下落し、そのような状況下では米国債を購入する者はいなくなる。すなわち、米国の財政赤字を埋めることはできなくなる。中国と日本は、米国債の購入とそれによる米国債の価格上昇により、米国の財政赤字の埋め合わせに協力してきたのである。米国の双子の赤字のうちの、貿易赤字を見るだけでなく、財政赤字も見る視点が必要だ。
 米国と中国・日本は、こうして経済面で支え合ってきたのである。
 世界各国は、相互に依存し合う関係なのである。


過去の栄光を取り戻す、あるいは過去の屈辱をはらすために、国民が強い指導者を求める結果、世界では各国が対立し、争いの時代に入ることを人々は認識すべきだ。

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