「世界自然遺産」候補地となって奄美群島は国立公園に「昇格」されることとなった。しかし、土木開発主体の有り様は何も変わらず、自衛隊基地、巨大旅客ターミナル建設など、あらたな開発が始まろうとしている。本来なら、「危機遺産」登録を求めたいくらいだ。
奄美大島は森と川の島だ。沖縄本島、佐渡島についで大きな島で、面積は沖縄本島の約6割、島の南部、湯湾岳は標高694mと奄美沖縄でもっとも高い。同様な緯度にある世界の亜熱帯地域は乾燥した土地が多いが、モンスーンのもたらす大量の雨によって、奄美沖縄には世界的には数少ない湿潤な森林が発達している。スダジイなどの常緑樹からなる奄美の照葉樹林は日本国内でも最大級の広さ、その森と年間3000mmを越える雨に育まれ、奄美大島には多くの川がある。
1990年名瀬で開催したリュウキュウアユフォーラム。参加者がこぞって指摘したのは、奄美の自然は国立公園として守るべき価値があるという評価だった。奄美の森林は民有地が多い、国立公園となると開発が制限されるという思惑もあり、奄美群島が国立公園に指定されたのは、27年をへて昨年三月のことだ。
奄美群島国立公園は第34番目の最も新しい国立公園だ。指定されることになった背景には沖縄本島などとともに「世界自然遺産」登録を目指していることがある。「東洋のガラパゴス」などと称されることがある奄美沖縄の島々だが、新しくできた火山島に大きな亀がすむ「ガラバゴス諸島」と比べ、奄美沖縄の島々は遙かに長い歴史と高い生物多様性を誇っている。
昨年の6月、私は新たに国立公園となった森から流れ出る川にいた。流れを育んできた照葉樹林は何回か皆伐され、島全体でも自然林は6.5%しかない。その皆伐から30年近くが経ち、樹木は深い緑陰を宿し、自然を取り戻しつつあるように見えた。しかし、川は濁っていた。亜熱帯最後ともいえる自然海岸のひろがる瀬戸内町嘉徳浜。流れる嘉徳川の上流では、国立公園に隣接した山を削り、自衛隊のミサイル基地の建設が始まっていた。折からの梅雨のなか、開削された赤土の山肌から始まる赤い流れは、浜を染め海に注いでいるのだった。
川は流域の自然をうつす鏡だ。私と同じ時期に世界自然遺産審査の国際調査団が島を訪れていた。彼らが奄美大島の澄んだ流れを見ることはあっただろうか。島は「世界で唯一の価値を有する重要な地域」として開発から守られ、十分に「保護管理されている」と判断されたのだろか。了)
本文に書いた 亜熱帯域最後の自然海岸についてはこちらに。
自衛隊基地の造成現場。
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