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「ハーモニー」
著者 伊藤計劃
めらめら度★★★★★
20140612THU-20140624TUE
伊藤計劃の長編デビュー作「虐殺器官」は、独創的なアイディアがバンバン詰まった素晴らしい近未来SFだったが、その続編である「ハーモニー」は、更に独創的な物語だ。近未来SFなんて世界中に溢れているけど、「ハーモニー」のような世界観って、前代未聞なんじゃないかなァ。人類が、未来に適応した生命へとバージョンアップするような…。圧唐ウれて、目からウロコがボロボロ落ちまくったぜ。
「虐殺器官」は、徹底的な情報管理によってテロが駆逐された近未来の物語だったが、あの衝撃的なラストによって、世界が崩壊したんだよなァ。「ハーモニー」は、その崩壊から復興した世界の物語で、続編と言っても直接的な繋がりはない。「虐殺器官」と「ハーモニー」の間には、「大災禍」と呼ばれる混乱の時代があったという設定になっていて、あえて、その黒歴史をスッ飛ばしているのが面白い。
虐殺が核戦争を惹起し、放射能が未知のウィルスを発生させ、世界中に死が蔓延した「大災禍」。その混乱を経て、人類は、徹底的な福祉厚生社会を築き上げる。医療分子とネットによって健康を監視し、殆どの病気を克服。アルコール、ニコチン、カフェイン、エログロなどの刺激物を規制し、公共性を優先したハーモニー社会。それは、慈母によるファシズムであり、天国の紛い物のような世界だった。
ユートピアとディストピアの二極化した未来世界なんてのは、割と良くあるSF設定だけど、ここまで徹底したユートピアってのは、今まで無かったと思うんだよねェ。ルーカスの「THX-1138」になんとなく雰囲気が似てるけど、アレは、管理社会モノだしなァ。優しすぎて、幸せすぎる世界に息苦しさを感じ、その世界を壊したくなる。他人を傷つけて、自分さえも傷つけて解放される。ダークサイドもヒトの本質なのだ。
「ハーモニー」は、星雲賞と日本SF大賞を受賞し、「ベストSF2009」の国内篇第1位に選ばれ、英訳版がフィリップ・K・ディック記念賞の特別賞を受賞したそうだ。しかし、伊藤計劃は、その名誉を身に受ける事なく、2009年3月に34歳の若さで逝去。肺ガンと戦いながら執筆を続けていたらしい。そんな状態で、病気を克服した世界の歪みを描いていたなんて…。ホント、惜しい才能だ。生命って、何なんだろう…。
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早川書房「ハーモニー」778円
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