ご存知の方もおられるかと思いますが、今月3日に宮崎市で開かれた小学生の空手大会で、試合中に背後から後頭部を蹴られる動画がSNSに投稿され、波紋を呼んでいます。
事実関係(更には背後関係)については勝手な憶測からの中傷も行われているようで注意を要するのですが、動画を見てほぼ間違いない(一目瞭然)と思われる事を述べますと、①A君がB君の顔面に当ててしまったらしく(反則かどうかは不明)、主審が「止め」を指示して両選手は一旦分かれ、B君は中央に背を向け(自分のセコンド側に?)歩きだす。②A君のセコンド側から「行け!」と指示が出て、直後にA君が背を向けたB君の後頭部に上段蹴りを入れ、B君はそのままうずくまってしまう。③主審はA君を制し、旗を持った副審2名が出てきてコート中央で協議を開始。その間、その場に倒れたA君は放置される。というものでした。
重要な問題点は2つ、(1).背を向けた相手の後頭部を蹴るという危険行為、(2).負傷した選手を放置して協議していた審判団、です。空手会には相当な衝撃が走ったようで、様々な意見表明や、先程も述べましたが「勝手な憶測からの中傷」も行われているようです。
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空手界の方々としては、外部の人間がこの事件に色々言うのは本心としては「黙っててくれや」というところだと思いますし、こうなった以上、空手界として何らかの判断はなされるのだと思います。しかしこれは武道・スポーツ全体の問題でもあり、特に格闘系武道(空手・柔道・合気道・SK 等)の指導者であれば意見を求められても当然な案件ではあります。
「武道にあるまじき行為」「これは武道ではない」という意見はよく見るのですが、武道の技術そのものは格闘術であり、自分を護る事が出来る反面、相手を破壊する事が出来る技術です。武道をやってさえいれば善人になる筈もなく、寧ろ技術を得て強くなる事で傲慢になり、より凶暴化する人間も少なくないと思います。
以前亀田兄弟の父ちゃんが試合中に息子に言った事がマイクに拾われてしまって大問題となり、父ちゃんはしばらく追放処分になりました。N大アメフト部で、指導者が危険タックルを指示した事件を思い出した方もいるのではないでしょうか。私は映画『ベストキッド』の「コブラ会」を思い出しました。「ついエキサイトして」ではなく、どんな武道・スポーツでも、勝負至上主義はこうした事件を生み出す可能性はいくらでもあるのです。
私はSK以外の武道や格闘技選手の方々とのお付き合いも何度かありますが、正直な事を言いますと、技術的に優れた諸先輩の言動に、他人への侮りや傲慢を感じる事が何度もありました。(逆説的になりますが「技術を得た事による自信」「指導者としての社会的な地位」が、逆に彼らを抑止している面すらあるのではないかと感じた程です) 力道山も刺されて死にましたし、「格闘技をする事で自分がより危険な場所に近づく事になったり凶暴な人間になるのなら、やる意味があるのか」と考え修行を止めようかと考えた事もあった程です。
しかし格闘技に関係なく、この世には理不尽や暴力が存在するのも事実です。体格的に劣るひとや女性など、肉体的に不利な人々がこの世の中で明るく生きていくには、何らかの自信の源が必要です。弱者がSKの修行で強者にも勝てる技術を獲得出来れば、それはそれで素晴らしいでしょうが、そうでなくても人間社会を生きていく精神的な強さを得る事は出来ると思っています。
暴力的な人々は、精神的な弱さを肉体的優位で補って(隠して)いるようにも見えます。
「弱者の護身術」であること、開祖の言葉を借りるなら「勝たなくてもいい、負けなければ良いのだ」というのが、私がSKを選んで続けている最大の理由です。
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負傷者を放置して協議を続けた審判の行動は理解し難いものではありますが、主審としては「試合という形式を完結する」という自分の仕事に頭が一杯になっていたのかもしれません。自分は行なわれた行為の評価を決定しなければならない、その間蹴られた選手の方は「誰かが面倒を見てくれるだろう」と期待したのではないでしょうか。
B君が倒れたのは恐らく自分のセコンドの目の前ではあったのですが、B君側の大人たちも「自分が助けに入って(介入して)いいのだろうか」と躊躇して対応が遅れたように見えます。ひょっとしたらここにも、勝負至上主義の落とし穴があったのかも知れません。
頭部に打撃を受けて倒れた選手がいたら、その選手の治療を全てに優先しなければなりません。
ボクシングでは、パンチを貰ってグロッキーになった選手に対しては、更に攻撃を畳みかけてトドメを刺す事が普通です。観客は「チャンスだ行け!」「相手はもうヘロヘロだぞ!」と叫び、時には後頭部にパンチが入る事もあります(本当は反則ですよね?)。ボクシングは或る程度それを覚悟して行なっている危険なスポーツであり、レフリーにはより高度で迅速な判断が求められます(レフリーストップに「もっとやらせろや」なんて言ってはいけませんね)。
SKでもここ数年の審判講習会では、演武中の危険な頭部打撲を繰り返し取り上げ、主審は「何を置いてもまず演武を中止し安否確認」と強く念押しされています。
今回は少年大会での事件だっただけに反響も大きかったようですが、どんな武道・スポーツでも事故は起きて欲しくないものです。

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