limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 80

2019年12月24日 17時23分09秒 | 日記
「あん!・・・気持ち・・・いい・・・、いっぱい・・・出たね」ホールから溢れる液を指ですって、懸命に中へ押し込む姿は、他人には見せられたものでは無い。千絵との3連戦を終えた僕は、ソファーに座るとタバコに火を点けた。1本を灰にすると、シャワーを浴びにバスルームへ行った。千絵は背後から抱き着くと、息子を掴んで「坊やは、まだ元気だねー、あたし、まだ満足出来ないよー!」と言う。体調不良や帰省もあったから、千絵を抱くのは久しぶりだ。「まだ、頑張らせるのか?」「うん!“ご懐妊”を狙って!排卵日、今日だからさ!」「真面目に基礎体温を測ってるな。“当てる”つもりか?」「同然でしょう!?」千絵は水しぶきを浴びながら返して来た。「この底無しがー!」カランを閉じると、バスマットの上で4回戦が始まった。四つん這いになった千絵の背後から、猛然と突きを入れてやる。喘ぎ声にエコーがかかり、バスルームを占領し続けた。「まだよ!・・・まだ出しちゃダメ!・・・一緒に・・・イクの・・・イキたいの!」荒い息遣いの中で、千絵はねだった。絶頂に達すると、悲鳴にも似た声を上げる。同時に液が千絵の中へ送り込まれた。「ありがと・・・、これで・・・命中したわ」バスマットに崩れつつ、千絵は微笑んだ。“懐妊”を確信しているかの様に。千絵と互いに“洗いっこ”をしてから、バスタオル1枚を巻いてソファーに座ったところで「千絵、教えてくれないか?神崎先輩と岡元の間に何があったのかを?」と言うと「あたしも完璧に知ってる訳じゃないけど・・・」と言いつつも、過去を紐解いてくれた。

神崎先輩が新入社員だった頃の国分サーディプは、今のような体制では無く“混合生産”の時代だった。“大ピン”“中ピン”“小ピン”に部門が別れたのは、2年後にみーちゃんが入社した頃だった。丁度、時を同じくして、返しに岡元が配属されのが“事件”の発端だった。岡元は、みーちゃんに惚れ込んでしまい、あらゆる手段を駆使しての“セクハラ”を始めた。身体を触ったり、みだらな言葉をかけたりと日に日に“セクハラ”は、エスカレートして行った。業を煮やして、神崎先輩が抗議に出向くと「そんなつもりも無いし、していない!」と岡元はトボけたり、はぐらかしたりして“罪の意識”すら持たなかったと言う。そして、遂に神崎先輩は、上司に訴え出た。当時の上司は、岡元と神崎先輩を呼んで事情を聞いたが、岡元が全てを否定した事や“証拠”となるモノが無かった事から、注意するのみに留めて、“セクハラ”の根底を断ち切らなかったと言う。故に、悲劇は続き完全に岡元のなすがままになった。それでも、神崎先輩は折れる事無く、声を上げ続けた。しかし、ある朝、神崎先輩を“中傷”する怪文書が撒かれた。筆跡で岡元が犯人である事は、一目瞭然だったが、神崎先輩は好奇な目で見られる様になってしまった。上も“我関せず”を通したため、更なる地獄へと落とされる事になってしまう。即ち、“無視”される事になってしまったのだ。流石の神崎先輩も折れてしまった。孤立して仕事もロクに与えられず、男性陣からは“扱いに困る問題児”と見られ、同僚の女性達からも浮いてしまった。最悪の結末だった。それ以来、彼女は“貝”となって深く閉じ籠る日々を送って来たと言う。僕が、返しに座るまでの4年間、彼女は陰で隠れる様に過ごして来たのだと言う。

「そうか、そんな過去があったとはな」僕も絶句するしか無かった。「Y先輩、どうして今の話を知りたがったんです?」千絵もややバツの悪い顔をしていた。「神崎先輩に“もう一度、輝いてもらわなくてはならない”からさ。経験の無さは、経験する事でしか補えない。赴任して、わずか4ヶ月足らずの僕には、到底追い付けない高みに立ってるんだ彼女は。しかも、検査の経験はゼロ!そんなヤツが“責任者”のツラをして、頭ごなしに指示を出せるか?“餅屋は餅屋”の例え通り、“検査には検査”が適任なんだよ。そりゃ、回しの指示や総合的な判断は、責任を持って下すが、“良否判定や細かな症例”については、“委任”しなきゃ出来るはずが無いだろう?返しは、これから橋口さんと共同で回して、いずれは任せる方向だし、出荷は徳さんと田尾の独壇場。そうすると、検査は必然的に神崎先輩に振るしか無いんだよ!勿論、岩崎先輩や千春先輩、宮崎さんや千絵にも率先して動いてもらわないと無理だ。けれど、その人達をコントロールする“管制官”を置かなくては、混乱は必至だろう?僕1人で全てが回せる訳じゃ無い。要所、要所に拠点となる人を置いて管理させなくては、これから先は絶対に躓くだろうよ。神崎先輩に検査を委ねる事、それが“本来の検査室”を取り戻す一番の近道なんだよ」「今でも、わだかまりを抱いている神崎先輩の心のドアを開けさせるの?」「“閉ざされたドア”を強引に開ける必要は無いよ。氷解するまで待てばいいんだ。少しでもいいから、振り向いて欲しい。知識と知見を広めて欲しい。そうすれば、検査のレベルは自然に上がるし、流れも品質も向上する。最終責任は負うから、彼女なりのやり方で、牽引して行って欲しい。その一念なんだよ。だから、過去にあった事を知り、同じ轍を踏まない様にしたい。多分、神崎先輩もそれを一番懸念してるだろうからさ」「大丈夫じゃ無いかな?神崎先輩、Y先輩が検査室のデスクで仕事してる時、凄く優しい表情をしてますから。先輩は一番後の席だから、見えないかもしれませんが・・・」「本当か?」「ええ、硬かったのが嘘みたいにほぐれてますよ!“鼻歌”なんかも出てますし・・・」「ちーえー!そう言う情報は、メモ書きにして直ぐに僕の手元に届けてくれよ!全てを把握しなくては、“責任者”の名折れじゃないか!」「はーい!今後は“スパイ活動”で先輩を支えてご覧に入れまーす!」と返事をしつつ膝に乗ってはしゃぐ千絵。結局は、千絵の計算にミスがあり、今回も“懐妊”はおあずけになったのだった。

日曜日の午後イチ。「カンパーイ!」威勢良く声が上がり、グラスを重ね合う。昼食会を兼ねた“宴”は、賑やかに始まった。上座に座らされるのは居心地が悪い。橋口さんも「何処でもいいと思うけどね?」と困惑して居た。僕の左側は、原田さんが座り、右側には恭子とちーちゃんが鎮座。原田さんの隣が橋口さん。上座の面々は、こんな面子だった。他は全て“おばちゃん達”である。強敵揃いの面々は、順番にお酌に訪れる。開催までに、随分と時間を要した本日の“宴”を“おばちゃん達”は、みんな待ち望んでいた。“我が子同然の子と呑める”のをひたすらに待ったのだ。返しだけで無く、検査のおばちゃん達も“さあ、どうぞ!”とばかりに馳せ参じるのだ。お猪口が空になる時など無い。「これ、ヤバくない?」恭子に言うと「かなり、ヤバイわね!ちーが潰れなきゃいいけど・・・」と不安そうに言う。そのくらいのハイペースで徳利が転がって行くのだ!ビールなど飲ませては貰えない!冷やの“芋焼酎オンリー”なのだ!僕は、意識的に呑む量をコントロールしなくてはならなかった。コップで呑んだら間違い無く“前後不覚”にされてしまうだろう。だが、敢えてそれをした人が2人居た!橋口さんとちーちゃんだ。20分もすると、2人は“怪しい雰囲気”を醸し出し始めた。「恭子、原田さん、注ぎに回ろう!鎮座してたら潰れちまう!」「OK!」「了解です!」3人揃って宴席へ打って出て、潰されないように予防線を張りに出た。僕は、牧野・吉永のご両名へ注ぎに出向いた。「ねえ、10月末で帰っちゃうの?」「もう、返しは“卒業”しちゃうの?」と先行きについて尋ねられた。「橋口さんに、任せっきりにはしませんよ。そのために、返しの作業室にもデスクを据えたんですから。それに、僕は“はい、そうですね”って帰るつもりはありませんよ!出来る限り長く“居座る”腹積もりですから」と言って安心させる。「そうなら、安心したわ!」「でも、本当に忙しくなっちゃったわね。そんな中でも、返し作業やれるの?」と言われる。「返しは、僕の“原点”ですからね。腕を落とさない様に、時間を見つけてやり続けますよ。仕事は増えましたが、最終的な責任は僕の肩に乗ってます。これからも、宜しくお願い致します!」と言って頭を下げた。「かあさん!一杯やろうか?」次は、西田・国吉の両“家老”に注ぎに行く。「おー、息子が帰って来たわ!」と2人の顔が緩む。母の様な存在であり、陰に日向に支えてくれる“重臣”である。「橋口さんだけじゃ、つまらん!」「午前中は、返しの作業室におるのやろう?」2人は寂しそうに言う。「まだまだ、目は光らせてますよ。“本丸”は返しの作業室なんですから、追い出さないでよ!」と言うと「それでよか!」「長男の顔が見れんのは、つまらん!」と口々に言ってから、お返しを注がれる。一気に干してやると「流石は長男たい!」「共に苦労して来たかんね!」と喜んでくれる。しばらく、“2人の母親”と語りだした。その姿を見ていた野崎さんと恭子は「あれが、彼の凄いところよね。誰とでも仲良くするし、グチにさえ耳を貸してくれる。だから、信じて付いて行くのよ!」「Yと言う男性が、“年齢すら飛び越えて愛される存在”であると思い知らされるわ。本当にアイツにしか出来ない芸当。橋口さんには悪いけど、陰すら踏ませないつもりでしょうね!」と言い合っていた。「恭子ちゃん、千春ちゃんヤバくない?目が座ってるよ!」「橋口さんもヤバそうね!撃沈寸前よ!」野崎さんと恭子が気付いた時点で、橋口さんは、落ちる寸前、ちーちゃんは陽気にはしゃいでいた。「Yに言って止めさせなきゃ!Y!Y!手を貸してよ!」喧噪の中で恭子が懸命に叫んだ。「どうした?何かヤバいか?!」僕は慌てて駆け付けた。「橋口さんは、沈没したからいいけど、ちーが危険な状況よ!止めに行かなきゃ!」「ヤバっ!目が座ってる!これって危険水域で沈むかもな!」僕等は、ちーちゃんの元へ駆け付けた。だが、時既に遅しであった。ちーちゃんは“前後不覚”寸前まで酔っていたのだ。このままでは、あらぬ方向へと暴走しかねなかった。最悪の場合、恭子は「衣服を脱ぎ捨ててあられもない姿になる」と警告した。「ちーちゃん、風に辺りに行こうよ!」僕が耳元で言うと「うん!行く!」と言ってフラフラと立ち上がった。「Y、悪いけど、ちーを見てあげて!」恭子に言われるままに、僕はちーちゃんを宴席から連れ出した。通路に出ると「Yお兄ちゃん、オシッコー!」と腕にもたれて来る。「行っておいでよ」と言うと「ダーメー、一緒に行こうー!」と呂律の回らない口調で言い出す。仕方が無いので、オトメストイレに連れ込んだ。ちーちゃんは、恥じ入る事も無く用を足し始める。「Yお兄ちゃん-、見て!見て!止まらないよー!」と、ちーちゃんは言うが、流石に振り返るのは気が引ける。しばらくすると、グイッと手を掴まれて抱き着かれた。「へへへへ、パンティあげる!Y、しちゃおうか?元気になってるしさ!」デニムのスカートをめくって、ちーちゃんが襲い掛かって来る。「これでがまんしてよ」と言って、指を2本ホールに入れてかき回してやる。直ぐに愛液が滴たり落ちて行く。「あー、気持ちいい・・・、もっと・・・激しくー!」ちーちゃんは、たちまち底無し沼へ沈みだした。唇を重ねつつ、腕を動かすと絶頂に昇り詰めて、多量の愛液を流した。「大好きだよー・・・、今度は・・・、あたしが・・・イカせてあげるー!」と言うと息子を引きずり出して吸い付いた。「お口の中に出してね!」と言って舌を使いだす。飢えているちーちゃんにして見れば、久々の行為に夢中なのだ。唇と舌に刺激されて「ダメ・・・出る」我慢の限界を超えた僕は、ちーちゃんのお口に液を注ぎ込んだ。ちーちゃんは、1滴も余さずに液を吸い取った。「最高の美容液!もっと出せない?」と小首を傾げた。「今日は、ここまでで・・・我慢して」と言うと「次の週末は、ちーの中にお願いね!」念押しを忘れなかった。やっと、外へ出るとタバコに火を点じた。「ハードな宴席だなー」と言うと「これも、Yの実力の内だよ。みんな、あなただから付いて来たのよ!橋口さんは、未知数だけどYが背後でちゃんと見てれば大丈夫。きっと、いい結果がでるんじゃない?」少し酔いの覚めたちーちゃんが言った。「そうなら、何も問題は無いけど、ちーちゃんにもお手伝いはしてもらわないと、検査は大変だよ!」「勿論、あたしも先頭に立つわよ。それくらいはしなきゃ、Yに申し訳が立たないじゃない!」と力強く言ってくれる。タバコ1本を灰にすると、ちーちゃんを連れて宴席へ戻った。その後も、宴会は続き橋口さんは、ノックアウトとなり、国吉さんに引き取られて帰宅するハメになり、“おばちゃん達”もお迎えを待って、三々五々に帰宅して行った。僕と恭子は、完全に酔い潰れたちーちゃんをタクシーに押し込んで、女子寮の玄関先へ乗り付けさせた。恭子が事前に連絡を入れてくれていた事もあり、ちーちゃんはタオルケットを担架の代わりにして“搬送”された。「Y、お疲れ!」「恭子もな!」ひとしきり、荒い息を整えると、肩を叩き合ってから別れた。ヘビー級の“宴会”は、無事に終わった。

翌朝、出勤時間になり寮を出ると、みんなが顔を揃えていた。「おはよう」「おはよう。Y、あたし、昨日どうやって帰って来たの?」ちーちゃんがケロリとして聞いて来る。「ちー、あなた記憶無いの?」恭子が疲れ切った声で言う。流石はちーちゃんである。都合の悪い事は“一切記憶に御座いません”なのだ。「僕等がタクシーに押し込んで、寮の玄関先まで連れて来て、タオルケットを“担架”の代わりにして“搬送”された時、寝てたからな。骨が折れたよ」と言うと「あたし達が“搬送”に関わった事も知りませんよね?」永田ちゃん以下、千絵や実里ちゃんも手を挙げて言う。「えっ!えっ!そんな迷惑をみんなにかけたの?」ちーちゃんが青ざめて慌てだす。「流石は、千春だよなー!酔うと記憶が飛ぶのは、いつもの通りじゃねぇか?」田尾が腹を抱えて爆笑し出す。僕と恭子は、肩を竦めるしか無かった。「まあ、いいや。行こう!9月が始まる。正念場はこれからさ!」僕は前を向いて歩き出した。みんなも続いて来る。「まあ、4分の1は済んでるし、今日も更に先行させる!Y、心配は無用だ!」田尾は自信を見せたが、「橋口さんが使い物になるか?神崎先輩が乗ってくれるか?前途は多難だよ。管理業務もあるし、落ち着いて仕事になるか?否か?諸々を考えると、頭が痛い」「でも、やるんでしょ?あなたらしく“全開”で!」ちーちゃんが言う。「そうね、良くも悪くも“指揮官先頭”がYのやり方。“大人しくしてなさい”って言っても突っ走るんでしょ?」恭子が釘を刺しに来た。「そうした姿が見られない時を想像したくないな~!」永田ちゃんが何気に言う。だが、僕は、ハッとさせられた。“今の当たり前は、いつかは終わる日が来るんだ!”と。「簡単には“終わらせる”つもりは無い!例え剣を手にして戦う事になろうともな!」語気を強めて言うと「誰と戦うんです?」と実里ちゃんが言う。「田納さんやO工場の連中さ!“はい、それまで”なんて言わせるものか!」「そう来なけりゃ、困るぜ!体制刷新は半分も終わってねぇ!投げ出すのは許さねぇからな!」田尾が肩を組んで来る。「Yが“途中下車”なんてしないわよ!必ずやり遂げる!だから、みんなが付いて行く!そうでしょ?」恭子が不安を振り払う様に言った。みんなが頷いた。僕には“最強の仲間達”が居る!「さあ、行こうか。まだ見ぬ世界へ!」朝礼に備えて、足早に建屋を目指す。新たな月の幕開けだ!

“安さん”の長い演説を聞き終えて、慌ただしく作業の準備に取り掛かったものの、橋口さんの“ダメージ”は結構大きかった。午前中は、僕の手出しが必要だろうと考えて、自分の治具の用意も行った。「Yさん、手伝ってくれるの?」「ええ、午前中はやりますよ。時折抜けるかも知れませんが、基本は、ここのデスクで対処しますから」必要なファイルも検査室のデスクから持ち込んだ。「済まん!無様を晒すとは、何たる不覚!」「“おばちゃん達”を甘く見ない事ですよ。見て無い様で、ちゃんと見てます。昨日の事は忘れましょう!今日は“通常体制、Aシフト、速度はやや早め”で行きますから、無理しないで付いて来て下さい」「その“通常体制、Aシフト、速度はやや早め”ってどうやって決めてるの?」「製品の出具合や、急ぎがあるか?無いか?溜まり具合を見て決めてます。“体制”と“シフト”については、皆さんに聞いて下さい。いずれは、文書にしますが、今は僕の頭の中と“おばちゃん達”の頭の中にしか入ってません。日に寄って随時可変しますし、人数でも変わるので、組み合わせは無数になります。言わば“身体で覚える部分”ですね。理屈じゃ無いんですよ。説明しろ!って言われても答えられない箇所なので」「他にもそう言う部分はあるのかな?」「勿論、多々ありますよ。これから随時覚えて行けばいいので、敢えて言いませんでしたが、まずは、基本をしっかりと作りましょうよ!1週間やそこらで全て継いでもらおうとは、考えていませんから。僕は“否応無し”でしたが、橋口さんには時間をかけてじっくりと取り組んで欲しいんですよ。1度に“あれもこれも”じゃ身が持たないでしょう?」「まあ、そうだね。もう少し猶予がもらえるならありがたいからね。そろそろ“おばちゃん達”が来るね。朝礼はどうするつもり?」「僕がやりますよ。接点が少なくなる分、貴重な時間になりますから。“安さん”の話を噛み砕いて伝えるのは、意外と難しい作業ですし」「そんな事までやってたの?」「ええ、必要な“情報”は、全部オープンにしてますよ。そうしないと、隅々まで伝えた事にはなりませんし、同じ方向を向いて仕事に臨めませんから」「そんな細やかな事も手抜き無しか。だから、“みんなが付いて行く”のか!“信玄の極意”はこんなところにまで及んでいたとはな。サラリと言われたけど、やっぱり並みの事をやってた訳じゃないのか!私には到底及ばないよ!」「だから、9月いっぱいかけて覚えて行きましょうよ!僕もバックアップしますし、“おばちゃん達”も教えてくれますから!」と言っていると“おばちゃん達”が続々と出勤して来た。昨日、結構呑んだ割にはみんなケロリとしているのが“薩摩おごじょ”らしい。歳は取れども肝が据わっているのが、何よりの証拠だ。「では、そろそろ始めましょうか?」パート朝礼で、僕は9月の予定と具体的な細目を伝え、今月の方針を示した。「実質は、8月の後半から生産は続いていますが、これから中旬までが1つの勝負どころになります。例月の倍ですから数量も加速度的に増えて行くでしょう。大変なのは、百も承知。皆さんの活躍と協力が欠かせません!僕も出来る限り力を尽くします!どうか、付いて来ていただきたい!そして、細かな問題は直ぐに僕に話して下さい!その都度、速やかに修正を行います。どんなに些細な事でも構いませんから、困ったら直ぐに言って下さい。午前中は、ここのデスク、午後は検査室のデスクにいるので、声をかけて下さい。では、今月も宜しくお願いします!」朝礼を閉じると「“信玄”、橋口!ちと、ツラを貸せ!」と“安さん”から声がかかった。作業室の隅に行くと「橋口、いよいよ“信玄”の“国家老”として、真価が問われる月が始まった。覚悟はいいな?」「及ばぬ事ばかりですが、鋭意努力します!」「うむ、頼んだぞ!貴様の働き如何で“信玄”が、自由に“軍事作戦”を展開出来るか?否か?が決まる!死ぬ気で食らいつけ!さて、“信玄”、下のフロアは、完全に貴様の“領国”になった。支配権は引き渡したのだから、思うがままにするがいい!ただ、これで終わりでは無いぞ!まだ、塗布工程と整列工程の2つの城を落としておらん!“地ならし”はしてやるが、攻略して攻め取るのは、貴様の才覚と知略と戦略にかかっておる!貴様が標榜する“新体制”の元、事業部の1部門を1つの“線”で繋いで見せろ!整列から出荷までを一元管理出来れば、その効果は計り知れん!必要なら“権限”は渡してやるし、物品も揃えてやる!後戻りする事無く必ずや“新体制”を確立して見せろ!“派遣任期”など気にせずともよい!田納さんは、俺が跳ね返してやる!背後を気にせず、ただひたすらに前進しろ!“無敵の騎馬軍団”を率いて頂点を目指せ!いいな?」「はっ!必達のために前進し続けます!」僕等が神妙に答えると「これを機会に、古い衣は脱ぎ捨てる!名実共に“新世界”へ一気呵成に突き進む!貴様達は“先陣”を切って進む武人に他ならん!期待を裏切るなよ!“別の意味で裏切る”なら、なおいいがな!」と言うと肩をバシバシと叩いて引き上げて行く。「とんでもない事を命じられたな」「そうですか?これは、千載一遇のチャンスですよ!“思う通りにやれ!”って言うんですよ!これに乗らない手はありませんよ!」「それなら、早速、要請を出そう!」「何をです?」「午前中、力を貸してくれ!スタートで躓くのは、避けたいんだよ!」「では、早速、始めましょうか?」僕等は作業台に向かった。「通常体制、Aシフト、速度はやや早めで!」僕が号令を出すと「はいな!そんなら行こうか?!」“おばちゃん達”が動き出す。「Y、スポットを急いでくれ!」田尾から煽りが来る。「僕がやりましょう!現状を維持!橋口さん、手伝って下さい!」僕等の“進撃”が始まった。“武田の騎馬軍団”は止まらない。立ちはだかる者は蹴散らして行く!その先頭を切って進むのは、僕だった。

その頃、用賀事業所の一室では、田納本部長が“しかめっ面”をしてFAXに見入っていた。それは、O工場の三井さんが発したもので、“早期帰還要請者”の一覧がくっついて来ていた。3日3晩、三井さん達“生産技術”の連中が練りに練った労作であり、一覧には、僕や吉田さん、克ちゃん、鎌倉、高山(美登里)の名もあった。三井さんは、“新機種立ち上げに当たり、どうしても必要な技術者の早期帰還を実現していただきたく、ここに要請します”と綴っていた。「どうも、O工場はアカンな!“絵に描いた餅”を突き付けられても、“でけへん!”言うしかあらへんがな!居ないなら“居ない成りの体制”で切り抜けるんが、技術屋の腕の見せどころやないか!小林、こないだの“帰還者名簿”は、O工場へ送ってあるやろ?」「はい、既にFAX済みで、メールでも送付してあります!」「ほんなら、これは何や?“まだ足りん”ゆうんか?」「どうやらその様ですが、些か“欲張り過ぎている”と言って宜しいのでは?」「そうやな!向こうは、なんも“見えとらん”ようやな。お前も知っての通り、各本部長がやっと話を聞いてくれる様になって来たばかりやぞ!“ほう、そないか!”とゆうてくれ始めた最中や!そして、50名を“帰してもええ”と国分も折れたばかりや!いらん欲を掻いとる場合やあらへんがな!こんなん、出したら臍を曲げられるんが落ちや!小林、済まんがO工場へ行って“しばらくは、黙っとけ!”ゆうて、釘を刺して来てくれへんか?今、下手に動いたら“半永久的に留め置かれるだけや!”とゆうて口を封じてくれんか?」「はい、では、早速午後の列車で向かいます!」「よっしゃ!頼んだでー!どんな手を使こうてもかまへん!いらん口出しは“今後一切するな!”と言っとけ!この文書は見んかった事にするさかい、罪には問わん!その代わり“口出しは無用や!”と念を押して来てくれ!」「はい、黙らせて参ります!では、直ぐに出張の手配を致します!」小林副本部長が部屋を辞すると、田納さんは、FAX文書をシュレッダーにかけて粉砕した。「アホ共が!ワシらの苦労を水の泡に変えられてたまるか!」吐き捨てる様に言うと、タバコに火を点じた。紫色の煙が怪しく揺れた。

同時刻のO工場では、三井さんと国分の田中さんとの電話会談の真っ最中だった。「三井、FAXを田納さんに送り付けたりして無いだろうな?」と田中さんが誰何すると「送りました。返事を待ってますが?」と平然と言われる。田中さんは呆れ果てて「三井!首が飛んでも知らんぞ!田納さんがこのままで済ませるつもりは、更々あるまい!覚悟しろ!」と怒鳴り返した。「しっ、しかし、これはどうしても通したい案件で・・・」「馬鹿者!50名を帰還させるに当たって、田納さん達がどれだけ神経を使ったか?分らんのか!国分側との“和平交渉”も一筋縄では行かなかった!裏で必死の“工作”を展開してやっと掴んだ代物だぞ!それに、鎌倉やYや美登里や吉田に進藤は、国分工場の“中核を担う至宝”と呼ばれる逸材になっとる!特にYは、今月から事業部の部門の半分を束ねる“責任者”に抜擢されてる!約70名を率いる“総大将”なんだ!それが、O工場へ戻れば、ただの“平社員”だとすれば、国分側が納得すると思うか?タダでさえ“帰すに及ばず”と言われてるヤツを“はい、そうですか”と引き渡すはずが無い!美登里も“本部長表彰”が噂されてるし、鎌倉も設備更新の指揮を執る“看板”なんだ!吉田も進藤も“生産に欠かせないリーダー”になってる!いずれにしても“それなりの椅子”を用意しなくては、帰すに返せない“大物”ばかりだ!それを“事情がありますので”なんて気楽に帰還云々を言うな!恐らく、小林さん当たりが来て“口を出すことはまかりならん!”と釘を打たれるのがオチだろうよ!首を洗って待つんだな!」「しっ、しかし、元は“責任者”でもありませんよ!歳の差はありますが、みんな平等です。“それなりの椅子”云々を言われても・・・」「三井!もっと広い視点でモノを言え!O工場では、“平社員だった”だろうが、国分工場では“事業部の大看板”なんだぞ!そつちの常識が通用しないのが、何故理解出来んのだ?“年功序列”では無く、“実力主義”が国分工場の掟だぞ!例えば、Yの事だが、ヤツが職場を仕切る立場に立ったのが、着任後、わずか、2週間足らずなんだ。そこから、徐々にステップアップして、今は“責任者”。経験や何処から来たなどと言うのは関係無し。実際、業績は右肩上がりに回復させたし、通期で“トントン”がやっとの現場で、上期だけでも“黒字化”を達成させるだろうと言われる“金看板”にまで出世してるんだよ。恐らく、部門全体を掌握するのも時間の問題だろう。そいつが“平社員で、1から出直し”なんて立場になると知れたら、間違い無く“反乱”が起きる。Yの名前は知らなくても“サーディプ事業部の信玄”と言えば知らぬ者は居ない“大物”に化けたんだ。そいつを意図も容易く“引き抜こう”なんて、安易な考えは捨てろ!“誰もヤツには届かない”んだよ!他の連中も、みんなそうだ。自らの力を発揮して地位を得たんだ!当人と所属事業部の了承無くして“帰して下さい”などと安易に言うな!これは、非常にデリケートで難しい問題に発展しとる。横車を押し通すのは止めろ!いいな!三井!」「ですが、“籍”はこちらにありますし、派遣されている立場ですよ?」「“転籍”させれば問題は無い。本部長同士が合意すればな。確かに“籍”は、O工場にあるが、紙切れ1枚で済むんだ。事業部の意向や本部長の腹の内で、どうにでもなっちまう。三井、そっちの事情もあるだろうが、国分にも“事情”はある!それを無視して事を運ぼうとしても、もう無理なんだよ。“2枚落ち”でも事を進める手を考えろ!駒が足りなければ、他の手を指すしか無いだろう?お前さんの首が繋がる事を祈るよ!」その時、三井さんの手元にメモが来た。“小林副本部長が来場する”と書かれていた。「田中さん、副本部長が来ます。多分、お咎めがあるでしょうよ。分かりました“駒落ち”で指す方法を考えて見ますよ!」「こっちからも、援護はして見よう!可能性は低いが、田納さんに“今回に限り格段の配慮”を願い出て見る!期待はするなよ。事が事だ。後は自ら血路を切り開け!Yの様にな!」「やって見ますよ。Yに出来て、俺に出来ないとは言わせない!やれる事はやり切りますよ!」「うむ、やってみろ!こっちも急いで手を回してやる!じゃあな」電話を終えた三井さんは「全行程を見直すぞ!1から組み直せ!社内で出来ない分は、外注に振れ!工数を削るんだ!」と宣言した。「しかし、3分の1は既に外製化が決まってます!これ以上、出せばコストに跳ね返りますが?」「“飛車角落ち”を覚悟しなきゃならん!戻って来る50名をどう使うか?も含めて再検討しよう!」と言い放った。生産技術と製造技術、設計も含めた再検討をしなくては、O工場の存亡が危ういのだ。「無理は承知でやらなければ、活路は開けん!次の会議に間に合わせるぞ!」三井さんの決死行が始まった。前途多難ではあったが、O工場も9月のスタートを切ったのだった。

life 人生雑記帳 - 79

2019年12月21日 11時23分19秒 | 日記
O工場で三井さんが、“遅すぎる追撃”に取り掛かった頃、僕は徳永さんからの“引継ぎ”を受けていた。「大変だろうが、お前ならやれる!後は任せるぞ!」膨大なファイルを受け継いで、9月からは管理業務も背負う事になったのだ。「はい、思う様にやらせていただきます!」重責を担う訳だが、徳永さんが異動する訳では無い。“安さん”も含めてのバックアップはまだ受けられるのだ。“新体制”の構築に向けて、着実に新たな道へ一歩を踏み出せばいいのだから、晴れやかな気持ちだった。そして、終礼では、8月の“大勝利”を“安さん”が宣言して「9月は倍の生産に挑む!」と高らかに言った。いよいよ、正念場を迎える事になるのだ。「Y、いよいよだな!」徳さんと田尾も引き締まった表情で言う。「ああ、だが、4分の1は既に終わってる。スタートから飛ばすよ!」と言うと「任せな!」「ブッちぎりでゴールしようぜ!」と勇ましく返して来る。「Y、このまま飛ばして!」「“新体制”を確固たるものにしましょうよ!」と恭子も神崎先輩も言って来る。全員が前を見据えて動いている。着任した当時とは大違いだ。「これで、当初の予定通りに“移譲”した訳ですが、来月は“地獄の苦しみ”を味わう事になりそうですな!」と井端さんが言った。「それはそうだが、相手は“信玄”だぞ!余程の事がない限り、根を上げるような“無様”を晒すとは限らん!先が愉しみだ!」と“安さん”が応じた。「しかし、後ろからの追い上げもそろそろ限界に達するのでは?」井端さんは懐疑的だった。「今、“信玄”が目論んでいるのは、“磁器の納入から出荷までをトータルでコントロールする”と言う壮大な計画だ。既に素地は出来上がっておる。後は、改良を重ねて“システム化”するだけ。新型整列機や塗布機の置き換えと改良が加われば、効果は計り知れんものになる!どう転んでもタダでは起きないヤツの事だ、必ず何かやってくれるだろうよ!」“安さん”が目を細めて笑った。「“川中島の戦い”さながらですな。決戦の時が来ましたね!」「そうだ!命運を分ける決戦だ!ヤツの底力がどれ程のものか?占うには格好の舞台。予定通りなら、O工場に帰す理由が無くなるし、ヤツとて“平社員”に成り下がる事は望むまい。有無の一戦!俺は、ヤツが勝利する方に賭ける!」「もし、予定を上回ったら、誰も異を唱える者は居なくなりますな。“信玄無くして、サーディプ事業部無し”を地で行くと?」「この勢いは本物だ!O工場が、光学事業本部が何を言って来ようが、“信玄”は、我々がいただくさ!」“安さん”は、不敵な笑みを浮かべていた。「Y、早速、作戦会議だ!ブッちぎりで行くには、“策”が無けりゃ進まねぇ!」田尾が呼んでいた。「そうさ、出だしが肝心だ。何処まで先行させられるか?読んでみるか!」僕等は、打ち合わせに向かった。小林副本部長の来場など知る由も無かった。

今や“全社が注目する問題”となった、O工場VS国分工場の“和平交渉”が始まったのは、その日の夕方近くからだった。小林副本部長は、これまでの経緯を素直に詫びて、第1次隊の妻帯者を中心とした“帰還予定者名簿”を提示して、ひたすらに理解を得ようとした。田納本部長からの“親書”も届いており、国分側も態度を幾分トーンダウンさせざるを得なかった。しかし、人員が抜ける事に変わりは無いのだ。国分側としても一旦態度を保留にして、“工場責任者会議”を招集し、別室で対応を協議した。田納さんが示した“帰還予定者”は、国分側の生産活動への影響を最小限に留める“配慮”がなされており、“帰還ありき”ではあったが、国分側としても“無下に出来ない”ものになっていた。最大の関心事は、“誰が抜けるのか?”であり、人数は余り問題にはならなかった。ある事業部からは「これなら、影響は最小限に留められる。これを“拒否”してしまったら、“泥沼の抗争”に発展してしまい、我々のメンツにも関わる大事になるだろう。今回の提案には前向きな検討をするべきだ!」と言った意見が出された。一方では、「ここに来ての人員の減少は致命的である。せめて、後、数か月の猶予期間を求める!」との慎重論も出た。今回の“帰還予定者名簿”には、半導体部品事業部在籍の派遣隊員は対象から外れてはいたが、「いずれは、抜かれる対象にされるのは明らか!現段階での引き上げには、当然ながらリスクも伴う。後任の育成には、数か月を要する事を考えれば、年内の引き上げを見送る様に、O工場並びに光学に対して申し入れるべきだ!」と岩留さんが釘を刺した。“安さん”も同じ意見を述べて“時間稼ぎ”を要求した。国分工場幹部は、悩ましい事態に直面してしまった。“当初の予定”ならば、9月末日を持って第1次隊の50名を帰還させる義務がある。しかし、現状で50名の人員を抜かれたら“穴埋め”は困難な調整作業を伴ってしまう。そこで、急遽、捻りだされた“奥の手”を用いる事で調整を図ろうと画策したのだ。すなわち、“抜かれても影響が少ない人員”を派遣時期を問わずに、50名選抜して帰還させ、時間稼ぎを図ろうとしたのだ。子細に言えば、第4次隊として再派遣されて来た、有賀・滝沢・西沢・五味の4人や女性隊員達、妻帯者で高齢な者達、下期に減産を余儀なくされる事業部の妻帯者達である。この手は賛同者が得られ易く、当面の時間稼ぎにもなり、1ヶ月後に予想される次回の交渉までに体制を立て直すには、有効な手であった。各事業部の責任者の9割が賛成して、可決され同時に50名の選抜も済ませた。驚いたのは、小林さんだった。25名を「何とか戻していただきたい」と懇願したばかりなのに、“50名を9月末で帰す”と回答されたのだから“瓢箪から駒”が出る状態になった。O工場としての希望、25名の内5名は削られたが、倍の人員を帰してもらえるのだ。断る筋合い、選択は無かった。こうして、何とか“和平交渉”は軌道に乗り、50名の帰還も約束された。万々歳ではあったが、ホテルに引き上げた小林さんの表情は冴えなかった。それは、最も欲しい人材が多数残さる事になったからだ。用賀の田納さんに電話を入れて、結果を報告して見解を述べると「ええやないか!倍返しにしてくれるんやろ?初回にしては万々歳やないか!ようやった!」と褒められた。「しかし、我々が欲しい、最も肝心な“技術者”の帰還は見送りとなりました。それでも宜しいのですか?」と恐る恐る聞くと「“国分の事情”も無視でけん!今回はこれでかまへんがな!下手に臍を曲げられてみいや?“また、無理難題を押し付けた”言われて四面楚歌になってまう!今は、これでええんや。小林、ようやったな!来月は、ワシも出向くさかい、もっと突っ込んだ話もでけるやろ。しっかりと“調印”に持ち込んでくれ!」と励まされた。田納さんは、押すか?引くか?を慎重に見極める人だった。今回の“交渉”が成功したのは、“無理を言わなかった”からだと分かっていた。「これで、一息付けるでー。50人はデカイ!次は、俺が決めに行かなアカンな!」と先を見据えていた。

その日の夕方、O工場VS国分工場の“和平交渉”の結果は、新谷さんや岩元さんの協力もあり、鎌倉に“情報”として耳打ちされて、僕等の知るところとなった。田中さんは、早くも“帰還予定者達”に向けた“通知文書”の作成に追われていると言う。「派遣時期を問わずに、50名を即決で決めたとはな。責任者連中も思い切った手を繰り出したな!」夕食の食卓を囲んで鎌倉が言った。「そりゃあ、いずれは“帰す”のが前提だ。取り敢えず“居なくても支障のない人達”を選んで、カッコ付けたんだろうな!“本丸”である僕達に抜けられるよりは、遥かに“現実的”ではあるぜ!」と返すと「言ったら怒られるかも知れないけど、有賀・滝沢・西沢・五味の4人も帰すのは、賢明な策ではあるわね!大した貢献もしてないらしいから」と美登里が斬り捨てた。「“阿婆擦れ女4人衆”が引き上げるのは、当然さ。O工場に閉じ込めておく方が無難だよ!」と鎌倉も斬って捨てた。「問題は、次の“選抜方法”だな。今回であらかたの“余材”は斬っちまう。次は、間違いなく“壮絶な駆け引き”になるだろうよ!」「確かに、言えてるな。俺達は“プロテクトリスト”に入ってるが、他にどれだけリスト入りしてるか?まだ、調べが付いて無いんだ。1ヶ月でどれだけ配置転換と異動で間に合わせるのか?疑問だな?」鎌倉が首を捻った。「1ヶ月じゃ無理だよ。年内は動かさない方向に向かうか?田納さんが頭を下げて引き抜くか?いずれにしても、容易じゃない。多分、田納さん自らが乗り出してくるはずだ!」僕は、9月末に起こるであろう“タイトルマッチ”を予測した。「あたし達は“帰らない”方向でしょう?帰っても“平社員”に逆戻りなんて割に合わないわ!」「そりゃそうだ!それなりの“椅子”があるなら話は別だが、O工場にそんな“椅子”なんてあるものか!ジジイ達が“踏ん反り返ってる”だけなんてゾッとするぜ!」美登里も鎌倉も現実を良く認識している。「僕も“思う通りにやれ!”って言われる場所の方がいいに決まってるさ。“帰る選択肢”は持たない!折角、ここまで積み上げたんだ。捨てて帰る程、愚かしい事はしないさ!」「決まりね!“徹底抗戦”で!」「ああ、決まりだ!剣を持って戦うのみ!」僕等は改めて“残留・転籍”へ向けて“徹底抗戦”を貫く事を確認した。

「やってくれるじゃない!そんな裏取引をしてるなんて、冗談じゃないわ!」話を聞いた恭子は、すっかり“おかんむり”だった。「まあ、まだ時間も手も残ってる。“責任ある立場”にある者を“強引に引き抜く”真似でもすれば、総スカンを喰らうだけさ。田納さんだって、そこまで無茶はやらんだろう?そうした事案を作らないための“権限移譲”でもあるんだから、時期的にも丁度良いタイミングだと思わなきゃ!」となだめにかかる。「でも、不安は拭えないのよ!所詮は“紙切れ1枚の世界”じゃない!失うのが何よりも怖いのよ!」恭子は、今度は怯え始めた。「Y、置いてかないでよ!あなたを失ったらどうすればいいか、分からないのよ!」涙が頬を伝う。どうした訳か感情が揺れている。普段は、絶対に見せない姿だった。路側帯に車を停めると、恭子を後部席へ連れ込んで抱いてやる。「嫌よ!嫌よ!」止めど無く涙が溢れて止まらない。「大丈夫だ!置いてったりしないから!」と優しく言って抱きしめてやる。恭子も離すまいと必死にしがみ付いて来た。「恭子、落ち着け。泣きたいだけ泣け。誰も咎めやしないさ」胸元に顔を埋めると、恭子は肩を震わせて泣き崩れた。泣きたいだけ泣かせると、恭子は落ち着きを取り戻した。「ねえ、キスして」と言うので唇を重ねて舌を絡ませる。恭子も懸命に唇と舌を絡ませて来る。手を取り、スカートの中へと導くと、「お願い、忘れさせて」と言う。脚を開かせてから、湿り気を帯びているパンティの中へ指を入れた。ピクピクと痙攣が始まった。不安を快楽で忘れさせるには、ちょっとだけ“いじわる”をしなくてはならなかった。指を2本、ホールにゆっくりと潜らせると、そっとかき回す。恭子の口から喘ぎ声が漏れだした。やがて、声は徐々に荒くなり「もっと・・・いっぱい・・・して」とねだった。勢いよく指でピストン運動をしてやると「ああー…、出る!・・・出ちゃう!・・・イッてもいいですか?・・・いいですか?」と言い終わらない内に愛液が溢れ出した。パンティはびしょ濡れになり、腕を伝った愛液はシートをも濡らした。「ごめんなさい・・・、でも、・・・気持ちいい!」恭子は唇を重ねてから、濡れたパンティを剥ぎ取った。「早く、行きましょう。“坊や”が欲しいの。何もかも忘れさせてよ!」恭子との逢瀬は、激しく熱く繰り広げられ翌朝まで続いた。

恭子に一晩中付き合って、寮に戻ったのが早朝5時。「Y、ごめんね。あたし、どうかしてたわ。あなたが“愛しい人達”を置いて行く訳ないものね。でも、これで少しは落ち着いて過ごせそうよ」と彼女は微笑んだ。「それならいいさ。“正室”がシャンとしてないと、必ず伝染するからな」と言って唇を重ねる。「さあ、休んで。あなた、殆ど寝てないんでしょう?」「そうする。じゃあ“おやすみ!”」と言って車を降りると、ローレルから、鎌倉がフラフラとした足取りで降りてきた。「よお、揃って朝帰りとはな」「Y、女の子ってヤツは、どうして不安に陥るのかね?“置いて行かないで”ってさめざめと泣かれたんだよ」と鎌倉が言う。「以下同文か。こっちも同じさ。泣きたいだけ泣かせて落ち着かせたよ」と返すと「同じ事をやってるとはね。新谷さんが、あんな姿を見せたのは、初めてだよ。Y、恭子さんもそうか?」「ああ、だが、こっちは慣れてるから、まだマシだったが、神経質になってるのは確かだ」「参ったなー、手が浮かばんのだ。Yはどうしてる?」「ストップさせられるか?泣かせて落ち着かせる。そして抱きしめてやる。他に名案は?」「それしか無いか。ほぼ寝てないよな?」「右に同じく。とにかく、寝ようぜ。腹が減ったら起こしてくれ。社食で善後策を考えよう」「了解だ。じゃあ、おやすみー」僕と鎌倉はベッドに潜り込むと直ぐに寝息を立てた。だが、悪魔が僕達を呼び起こしに来るとは想像していなかった。昼前、2人揃って田中さんに叩き起こされて「おやすみ中に申し訳ないが、騒ぎの鎮圧に手を貸してくれ!」と藪から棒に言われる。「誰だ?ギャーギャーと騒ぐ迷惑者は?」「こちとら、寝足りないんだ!いい加減にしてくださいよ!」僕等の機嫌はいいはずも無い。「騒ぎを起こしているのは、有賀達だ!“お前さん達を出せ!”と言ってる。“同期のサクラ”でなくては、鎮圧もままならんのだ!」「あの“阿婆擦れ女4人組”か!」鎌倉が悪態を付く。「有賀を止めるとなると、僕等がでるしかあるまい。鎌倉、出陣だ!」「おうさ!」僕等は、談話室へ向かった。各派遣隊の隊長達と、激しくやりあう声は直ぐに耳に入った。「12月まで任期があるのに、何故このタイミングなんですか?帰らなきゃいけない理由はなんですか?」有賀が声を張り上げている。「田中さん、今回の帰還予定者名簿は?」僕は、談話室へ乗り込む前に、名簿を見せてもらった。鎌倉も隣から覗き込んだ。「ちょっと借りますよ」と断りを入れてから、談話室へ入った。「あー、お恥ずかしいったらありゃしない!男子寮で騒ぎを起こして、何の得があるんだよ?」僕が言うと、有賀が振り返る。「Y!納得できないからに決まってるでしょう!」ヒスを起こして詰め寄って来る。「まずは、静かにしろ!そして、Yの話を聞け!」鎌倉が鎮圧に乗り出した。「これが、今回の帰還予定者名簿だ。これを見れば一目瞭然!O工場が“助けてくれ!”って悲鳴を上げてるのが分かるぜ!一刻も早く“レスキュー隊”を呼んでるのもな!」「どう言う意味よ?」有賀が名簿を引っ手繰ると目を落とした。「この人選に何が隠れてるって言うのよ?」「分からないかなー、有賀なら“読める”はずなんだが?」わざとはぐらかして、怒声を鎮めた。「Y、答えは何なのよ?」有賀は首を傾げた。「男性陣は、“ダイキャスト加工のエキスパート若しくは、組立の達人”で構成されてる。女性陣は言うまでも無く“組立のエキスパート達”だ。そこから見えて来るとしたら、何が見える?」「うーん、答えは何?」有賀が焦れた。「“ミラーボックス”の加工時間と工数、サブ・アッセンブリーの開始時期を考えて見ろよ!適材適所で呼び戻すとしたら、最適な人材を選んでるじゃないか!新機種の開発が大詰めを迎えて、いよいよ量産に向けて動き出したい!だが、如何せん人手が足りない!その道の“プロフェショナル”に戻って来てもらわなきゃ、進む事さえままならない。“サブ・アッシーの女王”を呼ばずして、事が進むと思うか?」「うーむ、確かに言われて見ればその通り。じゃあ、O工場がSOSを出してるって事なの?」「当たり!喉から手が出る程、欲しい人材ばかりじゃないか!ここで燻ってるより、得意分野で活躍出来る方が気は楽だろう?有賀なら、生産高を3倍に上げられる“技”を持ってる。“匠”と呼んでもいいだろうな。そんな有賀に“早く戻ってくれ!”って非常招集が来たんだぜ!拒む理由がどこにあるんだ?」「そっそうなの?そう言う意味での“帰還要請”って話?」「他に何がある?」「有賀、落ち着いて分析して見なよ!Yの話を聞いて少しは分かって来ただろう?」鎌倉が押しを加えた。有賀は改めて名簿に目を落とした。さっきの剣幕はどこへやら。どうやら、読めて来たらしい。有賀は、ヒスを起こして騒ぐ場面もあるが、説明をしてやれば読み解くのは早い方だ。頭の回転は悪くはない。始末に負えないのは、滝沢と五味ぐらいだった。「そうか!そう言う話か!」有賀は目覚めた。滝沢・西沢・五味と共に小声で話し始めた。こうなれば、鎮圧完了である。各派遣隊の隊長と田中さんが、胸を撫で下ろす。「流石に“同期のサクラ”だな。ツボを心得とる。Y、後は任せていいか?」「やっときますよ。帰せばいいんですから」と言って引き受けた。田中さん達は、ゾロゾロと引き上げて行った。一方、有賀達は、ようやく“事の意味”を理解した様だ。落ち着いて何やらコソコソと話している。「Y、“工場責任者会議で適当に人選した”名簿で、良くあそこまで言い切ったもんだな?」と鎌倉も声を潜めて言って来る。「“口から出まかせ”を並べてみただけさ。だが、半分は嘘じゃないぜ!実際、さっき言った通りの人達が集められてる。有賀には“多少のおだて”は付けといたがね」「そう言う技をさり気なくやってのけるのは、お前さんの得意技だよな!」鎌倉がしてやったりの表情で言う。有賀が名簿を返しながら「ごめん。意味も知らなくて騒ぎ立てて。でも、これで納得が行ったのも事実よ。Y、カマ、ありがとう!寝てたのに叩き起こして悪かったわ!」と言うと談話室を出た。借り上げてあるアパートへ戻る様だ。「起きちまったついでだ、メシ食いに行くか?」鎌倉があくび交じりに言う。「そうだな、出るか」僕等は社食を目指して歩き出した。残暑と言うには気が引ける暑さの中へ。

その日の午後2時頃、有賀から呼び出しが来た。「同期のサクラとして、Yと“おしゃべり”がしたいのよ!サシでどう?」「久しぶりだな。新入研修以来になるかな?いいだろう!受けて立つぜ!時間は?」「30分後でどうかな?迎えに行くから」「乗った!サシでとことん話そうぜ!」僕は電話を切ると、部屋に戻り支度に掛かった。「おい、Y、何処へ行く?」鎌倉が心配そうに聞く。「有賀とサシで、“おしゃべり”をして来る!」「おいおい!ヒステリーの餌食にされちまうだけだぜ!止めとけよ!」と鎌倉は止めたが、「同期のサクラとして、引導を渡してやるさ。有賀のヒステリーを止められるのは、誰だった?」「そりゃ、お前さんか、三井さんだったが、無理してやる事か?」「必要性はあるだろう?蹴りを付けるなら、誰かがやらなきゃならん!同期のサクラから引導を渡して置くのも、義務の内さ!」「確かに、有賀の暴走を制御が出来るのは、お前さんしか居ない!OK!行って来な!きちんと落とし前をつけて来な!俺達、“同期のサクラ”の代表としてな!」鎌倉は諦めたらしい。午前中の悪夢を再現されたら、たまらないからだ。寮を出ると、1台のポンコツカローラが控えている。「Y、こっちだよ!」有賀が呼んでいた。

城山公園の茂みの陰に車を停めると、窓を開けてシートをリクライニングさせた。有賀と向き合うのは、久しぶりだ。「Y、いつもの通りでいい?」「ああ、“オフレコ”も含まれてるから、本人には言うなよ!」僕等は話始めた。昔と変わらずに。「Y、美佐江が“戻れる”って聞いて一番喜んでたわ。あの子にとって、ここは“荒野”だったから」「だろうな。アイツは“人見知り”が半端ないからな。一歩じゃなくて三歩は引いちまう。ルーティンワークにしても、人の倍かかって理解するからな。昔、僕と有賀とカマの3人で、何度も責任者の元へ“説明と要請”に行ったのを覚えてるか?O工場ならそれで済んだが、ここだと事業部の枠を飛び越えちまう。“越権行為”だと見なされりゃ、それまでだからな。手出しも出来なかったし、やれる事には限界がある。“集団直訴”で解決出来ないとすれば、自ら立ち向かうしか無いのが、ここのルールだ。“壁を越えて進める者”だけが生き残れる“サバイバルレース”に向かなけりゃ、帰るのが現実的な選択だな」「Yは成功したね。責任者にまで昇り詰めたじゃない!あれって、どうたの?」「“好きな様にやって見ろ!”って言われて、本当に“自分の都合のいい様に”やったら、結果がくっついて来た。“瓢箪から駒が出る”を地でやっちまったから、責任も降って来た訳さ。望んでやった事じゃないよ」「それで、もしかして、戻らないつもり?」「分かるだろう?“途中下車”何てのが一番嫌いだって事をさ。ここまで来たら後へは引けない。行けるとこまで行くだけさ」「やっぱり、そうかー。Yの性格だとそうなるもんね。“指揮官が先頭に立たずして、部下が付いて来るはず無し”だもんね。走り続けるんでしょ?」「そのつもりだよ」「美佐江が悲しむなー。“頼りになる同期が居なくなる”って下を見て歩くよ」「そろそろ、自立してくれなきゃ困るぜ!後輩達に抜かれ続けて、いい訳ないだろう?もう、個々人の道へ進まなきゃダメさ」「それは、あたしも常々言ってるの。“1人で出来る様にならないとダメ!”って。でも、美佐江は断ち切れないんだろうね」「丁度いい機会でもある。O工場へ戻ったら、自らの力で立たせる事を仕向けてくれ!いずれは、それぞれの道へ別れて行く定めだ。現実を見させなきゃ、いずれ取り残されちまう」「Yとカマ、それと美登里が残るのかもね。もう、手は回してるんでしょ?」「抜かり無く」「本当に変わらないわね。陰でちゃんと手を打ってる。それに何度も救われて来た。あたし達も変わらないよね?」「嫁に行けたらな。行けなかったら、考えてやる」「あー、酷いなー、女としての魅力ゼロって事?」「S実の“番長”だからな。余程の“物好き”か“騙してかかるか?”の2択だろう?」「馬鹿!あたしだって1人や2人は・・・」「無理するな。自然体で居ろ!有賀ならきっと出会えるさ」「そう?Yみたいに理解のある人何ているかな?」「多分、居るさ。上か下かは別にしてな」「あたしの事どう思ってた?」「香織ちゃんには及ばないが、他の同期の女子とは明らかに違う。男子に交じって馬鹿やってたからなー、“女の子”ではあるが、ワルガキ仲間としては欠かせない存在ではあるな。こうして、話してても“本音”で言い合える仲だし、もらい手が無ければ、僕が手を挙げようか?」「何よ!それー!まあ、Yだから許せるけどさ。異性として見られてない?もしかして?」「“襲え”って言うのか?」「そう!襲ってきなよ!あたし、Yになら素直に裸見られても平気だもの!」有賀は、プリーツスカートをヒラヒラとさせた。上は水色ノースリーブだけだ。「じゃあ、遠慮なく行かせてもらいますか!窓閉めて、エンジンをかけろ。エアコンは全開にして。後部席に行こう」有賀に誘われて、僕は彼女を膝に乗せた。「いつだったか、泣きに来た事があったろう?」「うん、部材間違えて不良にして、怒られた時に。あの時も、ずっと抱いててくれたよね」「ああ、そうだな」「Yの胸は“駆け込み寺”みたいなとこ。でも、今日は違うの。愛しい場所。ずっと憧れてた場所」「初めて会った頃、ショートだった髪も伸ばしたな。ロングも案外似合うじゃん」「そうしないと、見向きもしなかったくせに!Yは、女の子の選考基準が高すぎよ!」「それは、それは、失礼」唇を重ねると、直ぐに舌を入れて来た。飢えているのは察しられたし、何より“男に抱かれたい”と言う欲求が有賀から発せられていた。1度だけ、有賀とした事はあった。あれから数年ぶりに彼女を抱いているのが不思議に感じられた。本能のおもむくままに求め合い、激しく欲求と快楽をぶつけあった午後だった。「Y、必ず戻りなさい。あたし、待ってるからさ」有賀は最後にそう言って、僕を車から降ろした。

有賀との“おしゃべり”を終えた僕は、寮に戻りシャワーを浴びた。言うまで無く有賀の匂いを消すためだ。彼女の唯一の厄介な点を上げるとすれば、“香水”を愛用している事だろう。シャネルの何番目か?は失念してしまったが、独特な“香り”を消すには洗い流すしか無かった。夜には、千絵が待っていた。このところ、すっかり遠ざかっていたが、千絵も“飢えた狼”に違い無かった。その頃、“別の世界”では、別の“プロジェクト”が密かに進んでいた。“安さん”が主宰した“帰還阻止計画”である。徳永さんや井端さんを中心に、サーディプ事業部の各責任者が国分市内のとある居酒屋に、続々と集っていた。「知っての通り、10月末で10名の派遣隊の“任期”が来る!来月になれば、誰を“O工場へ戻すか?”否応なしに“選択”しなくてはならん!恐らくは、田納さん自らが交渉に、乗り込んで来るのは明らかだ!俺は、基本的に“全員の帰還阻止”を考えているが、“譲歩”を迫られるのは明々白々だ!そこで、改めて問う!仮に“譲歩”するとしたら、“誰を差し出して時間稼ぎ”を図ればいい?」「問答無用!全員を死守すべきです!」大ピン部門は、そう答えた。「我々も同じく!剣を携えて戦うべきです!」中ピン部門も続いた。「私も同意見です!再建は道半ば。Yを筆頭に死守すべきと考えます!」徳永さんも続いた。「しかし、相手は、田納さんだ。何処かに“逃げ道”を用意しなくては、勝てませんな!向こうも決死の覚悟で来るでしょう。真っ向勝負では、傷だらけになりますよ!半分程度は、“譲る姿勢”を取らなくては、“バルチック艦隊”は打ち破れませんよ!」井端さんは、慎重論を展開した。「確かに、遥か遠方から攻めて来るのだから、“バルチック艦隊”に例えるのは、的を射ているな。だが、井端よ、気休めでもいい、“肯定的な要素”は無いか?」“安さん”が問うた。「人材を失うのは辛いですが、O工場が定めた期限は“半年間”でした。期日が来たから、“戻して下さい”と言われたら、余程の“理由”が無い限り、全員を帰さない選択を取るのは、難しいですな。ただ、“信玄”だけは、プロテクトする“具体的理由”があります!“責任者”に抜擢しましたから、直ぐには“代わりの人材を育成をするには無理がある”と言えるばすですから」「それでは、我々はみすみす手足を失ってしまう!残る9人をどう守るのだ?」“安さん”が更に言う。「“信玄”の様に“権限委譲”を進める以外にありますまい。“代わりの利かない人材”に仕立て上げるのが最善策です。“信玄”以外の9人も資格はあります!“流出”を止めるには“隔離”するしかありません!」井端さんは、淀み無く言い切った。「高代、花岡、今井の3人は、切り離しても構わんか?いずれも、塗布工程に在籍しておる。“譲る代わりに残りの7人は守る”これしかあるまいよ!こっちにも“自らの飛行計画”はあるが、この際、忘れようじゃないか!我々にも“切り札”は必要不可欠だろう?“新たなるミッション”が始まると思うしかあるまい!」“安さん”の意は決まったかに見えた。「しかし、各塗布工程から1名づつを抜かれれば、少なからず影響は出ます!何とか“全員をプロテクト対象”に出来ませんか?せめて、年内一杯は留め置きたいのが本音です!」と声が上がった。「誰も失いたくは無いだろう。俺も本音は“全員残留”で行きたいのだ!だがな、田納さんを攻略するには、“武器”が欠かせないのだ!例え“平取”であっても“本部長”に変わりは無い。それを相手に剣を持って戦うには、“盾”も必要なのだ!3人には悪いが、“盾”の代わりとなってもらうしか無いのだよ!それに、あの3人なら、補充は比較的に容易だ!機械工具事業部に余剰人員が出そうなので、早速手を回して押さえてある!これからの難局を切り抜けるには、被害を“最小限”に留めて体制を立て直すしか無いのだ!手塩にかけて習熟させたのは誰も同じ。しかし、皮肉な事に、個々人に“格差”が生じてしまった。“信玄”の様に“大化け”したヤツも居れば、単純作業に終始している者も居る。振るいにかけるとすれば、自ずと答えは見えるだろう?“信玄”を含む7名を抜かれたら、“再生・再建計画”そのものに類が及ぶ。それだけは、譲れない一線なのだ!“肉を切らせても、骨を切らせぬ事”押さえなくてはならんのはそこなのだよ。無論、これは、あくまでも“最終手段”に過ぎない。基本は、“全員残留”で臨むつもりだ!それも、“年内に限り”の前提条件を示してな。余剰人員3名は、予定通りに受け入れる方向で動く。“和戦両様の構え”を取ることで生き残りを目指す!」こうして、“安さん”は反対論と慎重論を封じて、“宴”に移った。水面下では、“決戦”に向けての準備が着々と進行していた。

life 人生雑記帳 - 78

2019年12月19日 06時03分13秒 | 日記
盆休み中、城田や長谷川、三井さんからの電話で、O工場の情報はある程度把握出来ていたが、鎌倉達の帰還に寄ってより具体的内容が、明らかになった。“モグラ叩き”と呼ばれる細部の詰めが、意外に“重荷”になっている様だった。ボディは量産の目処が立ったものの、AFの精度やプログラムには、まだ課題が多く低温での動作が不安定になるなど、主に電気系統の“モグラ叩き”に手こずっているらしかった。初のAF一眼レフでもあり、技術的な課題は山積していた。それでも、各ユニット単位で先行出来る部分もあり、サブアッセンブリーは、9月中にスタートするとの情報も入った。更に、国分側の“砲撃”に対しての“応戦”を見送らせたのは、田納さんの判断に寄る事も分かった。「相手を刺激したらアカン!平身低頭!嵐が過ぎ去るのを待て!」と言い含めた様だった。だが、それでも一度火が点いた“導火線”を消すのは容易では無い。爆発の連鎖は続き、火は燃えるに任せて置くしか無かった。「下手な手出しはアカン!ワシが何とか消しにかかるわ!それから“まともな話”を進めるより無いやろう?長い事かかるけど、こちらの“誠意”を見せるしかあらへん!」と田納さんは、幹部を制したと聞いた。そうした事情もあり、“帰還事業”は時期が来るまで事実上、“棚上げ”にせざるを得ず、O工場は沈黙を続けるしか道は無かったのであった。

こうした“隙”を国分側も黙って見ては居なかった。その1例が、僕への“権限付与”である。新体制の構築と平行して、徳永さんが見ていた仕事の一部が、僕の手元に転がり込む結果となったのである。“勤怠管理”や“物品・消耗品”の調達、“進捗管理”、前工程との“調整”など、業務内容は多岐に渡った。こうなると、流石に“火の車”になるのは、必然性があり“国家老”とも言うべき人材の必要性が課題になった。しかし、“安さん”が黙って居るはずは無い!8月の最終週に1人の社員が、返し工程に配属された。橋口さんと言う方で、機械工具事業部からの転属であった。“安さん”が、強引に引き抜いた橋口さんは、30代半ばで、大人しい性格であった。無論、仕事は1から教えなくてはならないし、原田さんに対する“指導”からも目は離せなかった。僕の1日は、分刻みのスケジュールを組まなくては、回らなかった。基本はこんな感じだ。

1.朝、朝礼後に、炉から出て来ている製品を調べて、橋口さんと作業準備に頭出し。
2.午前8時から、徳さんと田尾との打ち合わせと調整。
3.午前8時半から、パートさんの朝礼。その後に、整列工程と塗布工程との打ち合わせ。
4.午前9時頃から、“進捗管理”と橋口さんと原田さんへの指導、教育を兼ねて作業。
5.昼食前に検査室のデスクに移って、検査の“進捗管理”と打ち合わせ。
6.食事後に“勤怠管理”やその他の“雑務”をしながら、返し作業にも入る。
7.午後3時にパートさんの作業終了時の片付けの手伝いと、明日の見通しの確認。
8.定時後に、徳さんと田尾と検査との“調整”と“修正”若干の“雑務”をして、退勤。

こうした間にも、電話や下山田さん、橋元・今村のご両名との折衝も入ってくるし、田尾や徳さんとの“微調整”や煽りが入るし、神崎先輩達との打ち合わせや煽りも来る。返しの作業室のデスクと検査室のデスクを行き来しながら、橋口さんと原田さんの面倒も見るのだ。僕としては、基本的には返しを預かる立場に変わりは無く、作業にも加わる必要があった。だが、中々“そうは問屋が卸さない”で、度々作業を中断しなくてはならない事も多々あった。橋口さんと原田さんが、1人立ちするまでは“我慢”の日々になった。「Yさん、忙しすぎて目が回らないか?」と橋口さんや西田・国吉のご両名も心配してはくれたが、「大丈夫ですよ!まずは、今月をキッチリと終わらせましょう!」と言って虚勢を張った。しかし、所詮は虚勢である。その日の夕方「Y、少しは橋口さんに任せなよ!」と恭子に詰め寄られた。「“国主”が現場に立ち続けるなんて、無理よ!“国家老”が来たんだから、指示だけ出して見てればいいんじゃない?」と神崎先輩も言い出した。「お説、ごもっともなれど、“指揮官が自ら先頭に立たずして、部下が付いて来る訳無し”でね。“他力本願”が一番嫌いなんだ!現場で育った者は、現場の空気が吸いたいんだよ!」と返すと「Yは、充分に“先頭”に立ってます!前との“調整”だって一手に担ってるし、徳永から降ってきた“業務”もあるのよ!いずれ何処かで“線引き”しなきゃならないんだから、少しは考えてよ!」と恭子に噛み付かれる。「今月一杯は待ってくれ。橋口さんが慣れるまでは、もう少し時間が必要だ。完全に手を引く事は出来ないよ。“おばちゃん達”を率いて行くには、それなりに、僕が目を光らせる事は必要さ。9月に向けての“布石”だからね。もう少し待ってくれないか?」と粘り強く説得をするしか無かった。そうした僕の姿を陰から見ていた“安さん”は、「今が“信玄”の踏ん張りどころかな?いずれは、全体を背負って進まなくてはならん!“人に任せる”事の真の意味合いをどう見つけて、折り合うか?愉しみにするとしよう!」と笑っていた。「徳永、来月からは完全に“真下”はヤツにくれてやれ!お前は“新型整列機”に専念して構わん!その次が“塗布機”の更新になる。古い衣は捨て去って、新体制で増産に乗り出す!Yが手掛けている“構想”に乗っかって、一気呵成に事業部の体制を刷新する!」と階段を昇りながら言った。「しかし、如何に“信玄”の能力を持ってしたとしても、いささか性急過ぎませんか?」と徳永さんが反論すると、「ヤツは必ずや、やり遂げるだろう!そして、“代わりの利かない人材”となるだろう!Yを“留め置く”には、“それなりの理由”が無くてはならん!目下、苦戦しては居るが、必ずや立て直して成果を出すだろうよ!その時に“誰も異を唱える者”が出ない様に仕向けるのが、俺達の役目。田納さんに文句を言わせぬためにも、今から備えて置かねば、勝てはせん!」と“安さん”は言い切った。「Y、午前中は返しの作業室、午後は、ここの検査のデスクって居場所を決めて!のべつ幕無しに仕事するのは、認めないわよ!」恭子が言い放つ。「そうだな。完全に手を引けない代わりに、この条件を飲んでくれるなら、認めよう!」と徳さんも言い出した。「仕方ないね。仰せの通りに致します。どうやら、来月は全面的に“責任者業務”が降って来そうだからな!」止む無く折れるしか道は無かった。

「Y、遂に“責任者”にされちまったらしいな!」鎌倉と夕食の食卓に相対した時に切り出された。「もう、噂は拡散してるのかよ。広めたのは“安さん”だな!有無を言わさずにかかるつもりだな!」「まあ、予定通りじゃないか。これで、安易に“引き抜こう”と画策しても“無駄”だとO工場側に突き付けた様なもんさ。俺も負けては居られないな」鎌倉も大いに刺激を受けたらしい。「あたしも、岩留さんから“いいレポートだった”って褒められたわよ!これで、少しは“理由”を作れたかな?」遅れて美登里もやって来た。僕等3人の“残留計画”は、順調に推移している様だ。「どうやら、来月の頭に光学の副本部長が“交渉”に来るらしい。9月末を持って、第1次隊は“任期”を終えるからな。どれだけの人員が引き上げられるか?1つのバロメーターにはなりそうだな!」鎌倉が意味ありげに言った。「事は簡単じゃない。1人でも多く“帰して欲しい側”と“帰さずに済ませたい側”の全面対決だ!すったもんだの大騒ぎになりそうだな」「その“余波”を受けたくは無いわね」僕と美登里の見解は一致していた。「田納さんの腹の内がどうなってるのか?現時点では、全く分からないが、妻帯者は優先的に“帰す方向”で総務は考えて、各事業部に通知した。我々、単身者の扱いについては、“トップ会談”の席上で“ある程度”は決まるだろうが、O工場側が沈黙してるのが気になる要素ではある。特に1次と2次隊には、優秀な技術者が多数含まれてる。果たして、O工場側がどう出るかな?」鎌倉が宙を仰ぐ。「肝心の新機種の開発が遅れてる事を考慮すれば、余り無理は言わないだろうな。“やる事がありません”じゃ、余剰人員になっちまう。ただ、この場合の“規則”がどうなってたかな?」僕も宙を仰ぐ。「その辺は、総務でも頭を悩ませてるよ。“延長戦”に持ち込むにしても、一時的な“引き上げ”は必要かも知れないとは言ってたぜ!」「そうすると、一旦は“帰着”してから“再派遣”って事になるの?」「あり得るな!そこで、“足止め”しちまえば有無を言わさずに、人員は確保出来るからな!ただ、そんな手を使うか?疑問もあるけどな」僕等はそれぞれに思いを巡らせた。共通しているのは、“安易な妥協をしたく無い”事だった。「3人共に“責任ある立場”に居る事だ。それを放り出して帰還するのは、“主義”じゃないだろう?国分側だって“育て上げた人材”なんだ。簡単に“はい、そうですね”なんて言うはずが無い。何処で“折り合う”つもりなのか?今は、性急に結論を探らなくてもいいんじゃないか?」僕がそう言うと「かもねー」「道は続いてるしー」と反応が返って来た。「田納さんの腹の内が読めればなー」「遠すぎて無理よ!」鎌倉も美登里も僕も、一抹の不安を抱えて夕食を終えた。

「ええか、帰してもらえるだけでも“ありがたい”と思うんや!愚痴を聞いても、何も変わらんし、身動きも取れへん!工場側のリストに寄れば、国分と“抗争”が起きて、どえらい話になるだけや!最小限での帰還を目指すんが、順当や。じっくりと腰を落ち着けんとダメやで!」居並ぶ工場幹部達を前に、田納さんは釘を刺した。O工場側が作成した“早期帰還者リスト”には、僕も、鎌倉も、美登里も含まれていた。しかし、田納さんはこれを一蹴して、決めつけたのだ。国分側の強硬姿勢を踏まえて、確実に人員の帰還を目指すには、まず“和平”を結ぶしか無い。それも、O工場側が全面的に“譲歩”する形を取らざるを得ない。そうしなくては、数多の人員を失いかねない!田納さんは、そう力説した。「しかし、これから先は、ベテランの腕が必須です。配置転換をして、早期に“育成”する技術者も含まれてます。何とか早く帰してはもらえませんか?」製造部隊の幹部が切り出すと、「ボケ!強引な“申し入れ”をして、話をややこしくしたヤツは誰や?!そんなん、一々聞けるか?聞いとったら、血を見るで!」と田納さんは撥ね付けた。こうなると、幹部達も諦めるしか無かった。「ええか!妻帯者優先!単身者は、粘り強く口説き落とす!これでええな?」誰も異を唱える者は居なくなった。こうして、副本部長が作成した“帰還者リスト”が承認された。僕等の帰還は、“無期延期”とされたのだった。

木曜日になると、流石に慌ただしさが増して来た。流れて来る製品の9割は“9月分”で、8月の残りは、GE関係を残すのみとなった。“おばちゃん達”が作業にかかると、僕は橋口さんに「来週からは、午後は検査室のデスクで執務を取ります。無論、全てから手を引く事はしませんが、午後は、橋口さんの“裁量”で事を進めても構いませんよ」と告げた。「えっ!“武田の騎馬軍団”の指揮を執るの?!無理!無理!“信玄公”が居てこその“武田軍”じゃない!私にそんな能力は無いよ!」と尻込みをされる。「僕も、実質1週間で、ここの指揮を執る事になりました。あなたにも出来ない理由がありません。朝礼や勤怠関係は、僕が行いますよ。必要ならば、朝からの指示も出しましょう。午前中は、ここのデスクで執務を執りますから、聞いてくれればその都度指示は出せます。しかし、午後だけは目が届かないので、橋口さんに指揮して欲しいんですよ。実際問題、徳永さんが行っていた執務の大半を振られて来て、手が回らないんです。しかし、基本はあくまでもここでの仕事。先は分かりませんが、早めに慣れて置く事が必要でしょ?10月以降の“身の振り方”も未決定ですし、引継ぐとしたら、顔が見える内に手を渡したいのですよ」と言って手の内を明かした。「聞ける内に、居る内に私が指揮を執れる様にする?知らぬ者は居ないと言う“武田の騎馬軍団”の一部を率いるのか!やっては見たい気はするけど、・・・」「責任は、僕が取りますよ!そのために僕はここに居るんです。検査も出荷も僕が“最終責任を負う”これでもダメですか?」「自由にやらせてもらえるなら、困ったら助けてもらえるなら引き受けるけどね。それでもいいかい?」「そのつもりです!まだ、全てを教えてはいないですから、時間をかけて継いでいってもらいますよ。原田さんの事もあるし」僕と橋口さんの会話は筒抜けだった。わざと聞こえる様にしたのだ。手強い“おばちゃん達”を手懐けるとしたら、余程の理由か実力が無いと無理だった。“午前中は目を光らせてますよ”と言うメッセージをさり気無く流すことで、動揺を最小限に抑える。昨夜、散々考えて捻り出した“渾身の一撃”だった。その時、「GEが出たよ!」と焼成炉の担当者から知らせが来た。あいにく、全員の手が塞がっていた。「よし、ぼくがやりましょう!」素早く身支度を整えると、治具をセットして、素早く処理に入る。「Y、GEはまだか?」田尾が誰何してきた。「今、やってるよ。後、5分くれ!そうすりゃあ、検査に煽られても続けられる!」「急げよ!口空いて待ってるからよ!」「了解だ!」「続けて2ロット来ます!」炉からも情報が飛んで来る。「このまま、続行します!皆さんは各自のベースを維持!原田さんは、キャップを続けて!」僕は揺らぐ事無く言った。「スゲェ!これが“信玄”と呼ばれる由縁か!」橋口さんが唸った。彼の想像を超える速度と処理能力。最近は、手を染める機会も減ってはいたが、腕は落としてはいない。“いつでも、牙を剥いてかかれるよ!”と言うメッセージも伝えられた瞬間だった。GEは、午前中に倉庫へ納められた。

「ええか!頭を低くして、平身低頭で行くんや。1人でも多く1次隊の連中を帰してもらうんやから、国分側に逆らったらアカン!ぎょうさん帰してもらえるなら御の字や!手始めに半分、25名を“帰して下さい”とお願いに行くんやからな。欲を掻いたりしたら承知せんで!やっと、各本部長も“うん、そうか”ってゆうてたさかいな!」国分工場へ単身乗り込む副本部長に、田納さんは言い含めた。「はい、これ以上の関係悪化は回避する方向で、調整にかかります!」「うむ、頼んだでー。工場の連中を連れて行ったら、これまでのワシの苦労も“水の泡”になってしまうさかいな!お前に託す!」「はい、では、行って参ります」副本部長は、用賀から羽田へと急いだ。田納さんが“苦心して希望した”25名の“帰還者名簿”を副本部長は持参している。工場の理屈は抜きにして、まず“帰還実績”を重視した結果だった。「ホンマは、“四天王”を取りたいが、ガードが固すぎて無理や。じっくりと、時間をかけて取り返すしかあらへん!」タバコに火を点じると、一服して東京の街並みを見る。「山はこれからや!長いでー!」田納さんは、自分の置かれた立場をわきまえていた。O工場側からは、“必要な技術者を優先出来ないでしょうか?”とのFAXと電話が来たが、「ボケ!この前、話した通りや!」で一顧だにせず切り捨てたばかりだ。工場側の事情も分からなくは無い。しかし、“過去の失態”のツケは重く、それを跳ね除けてまで強引に押し通す理由が見えなかった。「“無益な戦争”だけは、回避せなアカン。“橋頭堡”を築くのが先やないか!それからやっと“交渉の席”に着けるんや!お前達も黙って見とれ!」総務にも矢と鉄砲を撃ち込んで、副本部長を送り込んだのだ。文字通りの“背水の陣”で望むしか無かったのだ。「まずは、“和平交渉”からや!」新本部長の長い戦いが始まった。

そして、金曜日。最後の追込みに力を尽くす。来週からは、こうした作業にも手を染める機会も中々無いだろう。午後からは“引き継ぎ”が待っている。「今更なんだが、“引き継ぐ側”と“受ける側”それぞれに“質疑応答”はある。前工程は、引き続き俺が見るが、後は“完全委任”になる。いずれは、全てを渡す日も来るだろうから、しっかりと継いでくれ!」と徳永さんは言った。“全てを引き継ぐ日”とはいつなのか?そら恐ろしい事だと身震いが来た。しかし、“安さん”の腹の内は変えられない。「早いか?遅いか?それだけさ!」と自身を鼓舞するしか無かった。「来週から引き受けるのか!不安感ばかりだよ」と橋口さんは、戦々恐々だった。「まあ、気楽にして下さい。本格的に“継いでもらう”としたら、後、半月は必要ですから」とサラリと言うと「“信玄公”の留守番だからね!“領国の支配”も忘れんでくれよ!」と悲鳴に近い声が上がる。「大丈夫!獲って食う訳じゃないから」と“おばちゃん達”も言う。検査室のデスクには、書類が山積みになっているし、返しの作業室のデスクにも、進捗管理の書類が山積みだ。走り出した“新体制”は、まだ完全には機能してはいなかったが、検査室と出荷スペースには、要請したホワイトボードも取り付けを終えた。返し工程にはコルクボードが新たに追加され、磁器の納入予定と、出荷予定が合わせて掲示された。着々と事は進行しているのだ。引き返す選択は有り得ない事になった。そんな中、「今更になっちゃったけど、原田さんと橋口さんの“歓迎会兼、信玄公の総司令就任祝い”をやりたいんだけど、日曜日の昼でどうかな?」と野崎さんが聞きに来た。「いいですよ。時間は?」「午後1時から、場所は恭子ちゃんが知ってるから、揃って来て!」と言う。検査からは、恭子とちーちゃんが代表として出るとの事で、神崎先輩は、都合上無理だそうで、欠席となると言う。「やっと呑めるから、愉しみにして置いてよ!」とおばちゃん達もワクワクしていた。“ザル”がどれだけ居るのか?“ウワバミは誰か?”怖いモノ見たさ半分の“宴”になりそうだった。「Y、スポットはあるか?」徳さんが確認に来た。「ああ、炉から出始めたばかりだが、どうした?」「納期の“前倒し要請”が来ちまった!流せるか?」「やりましょう!1つでも先に流せば、それだけ後が楽になる。シフトはこのまま、現状を維持。ギアを1段上げて!原田さん、“実習”も兼ねて手伝いをお願いします!ゆっくりでいいので、付いて来て!」即断で、僕が動く。原田さんに、治具の使い方を見せながら、僕が追込みをかける。「何度見ても、隙が一切無い。あのパワーとスピードは、どうやって身に付けたんだろう?“信玄”の実力の基は、何処から手に入れたんだ?」橋口さんがまたまた、呻く様に首を傾げる。「周りを見て下さいよ。“師匠”は、皆さんです。仕事は“盗んで覚える”モノ。実力者ばかりに囲まれてるんです。日々1つでもいい。何かしらの技術的な事を見て、教えてもらう。僕は、そうして身に付けました。1からのスタートでも、たゆまぬ努力を積めば、自然に身に染み込む様に馴染みますから」と口は言うが、手は止めない。原田さんも、コピーをしようと必死になっていた。「焦らなくて大丈夫!初めての時は、ゆっくりと確実にトレーへ納める事だけを意識して。肩の力を抜いて、目の前に集中するのが第1歩目。誰だって最初から完璧に出来た人は居ませんよ。まずは、このロットを終わらせる事だけを意識するんです」と原田さんには、目を向けて指示を出してやる。だが、僕の手は、片時も止まらない。「Y先輩、スポットをもらって行きますね!」実理ちゃんが、サンプルを受け取りに来た。“御朱印の儀”と誰かが言い出した品証へのサンプル出しだけは、譲らなかった。どんなに忙しくても、きちんと手渡す。こうした姿勢を見せる事は、“おばちゃん達”にも安心感を植え付けるためには、必須項目だった。「どれだけ忙しくても手は抜かない!Yさんらしい事だわ!」「あたし達が、育てた人だから間違いは無いわよ!」口々に“おばちゃん達”も言う。「やっぱり、スゲェ!途轍も無くデカイ背を追うのか?並の事では、“影すら踏めぬ”だな。皆さん、来週からは、“弟子入り”させてもらいますから!」と橋口さんが腹を括って言った。「甘くは無いよ!」「ビシッと行くからね!」西田、国吉のご両名が、脅しをかけてから笑う。「お手柔らかにお願いしますよ!」と泣き付いて行った橋口さんだが、頭を下げた。彼も、歳下に負けまいとする“プライド”は当然あった。スポットを片付けた頃には、早くも“実習”が始まっていた。必死に追い上げる“追尾作戦”は始まったばかりだった。

その頃、O工場では、三井さんを中心とした技術者達が苦悩していた。新機種のボディの加工時間は、約40秒、1直8時間での生産個数は、720個。1日当たり約2160個となり、20日間稼働に換算すると、約43200個になる。3機種に振り分けるには、些か足り無いのだが、4直3交代を組めばクリア出来なくは無かった。ただ、もう1つの基幹部品である“ミラーボックス”は、深刻な事態に直面していた。アルミダイキャスト製であるが故に、その加工工程は長く、20数工程に及ぶ段階を踏まねばならない上に、時間も要するため、ボディの半分程度である1直当たり約360個、1日当たり約1080個、20日間稼働換算でも約24600個が限界であった。しかも、加工工程の“鍵”を握る技術者達の多くは、国分に“派遣隊”として“従軍”している最中であり、第1次及び2次隊に集中していた。彼らの技術的な見識無くして、“増産”への道筋は付けられず、工程の見直しすら手が出せない状況下に置かれていたのだ。一連の“モグラ叩きゲーム”もようやく蹴りが付き、ボディと共に“先行生産”に手を付けねばならない時期に来ては居たのだが、肝心の“戦力”が圧倒的に不足していては、先行きに立ち込める“暗雲を吹き飛ばす事もままならない状態”だったのだ。「エースの吉田さん、進藤(克ちゃん)が居なくては、事態の打開策も立たない!一刻も早く戻ってもらわなくては、生産高の向上すら見込め無い!どうすればいい?」「2人は、2次隊だ。11月にならないと、O工場に戻って来ない。それまでは持たないぞ!」「Yも同じくだ。プレスからコンバートするにしても、時間が惜しい!9月末を持っての引き上げ要請は、無理だろうか?」三井さん達は、連日連夜人の確保に頭を悩ませて居た。そこへ、用賀の長谷川から、副本部長の小林さんの鹿児島行きの知らせが届いた。「直に依頼をかけて、3人の早期引き上げを“要請”出来ないか?」と三井さん達が考えたのは、自然な流れだった。ただ、“対外情報の収集に疎い”技術者集団は、田納本部長の“和平交渉”を知り得て居なかったのである。それ故に、小林さんが三井さんの依頼を呑めるはずが無い。宿泊先で小林さんを捕まえたのはいいが、双方の主張が噛み合う訳が無かったのである。「三井!俺は“和平交渉”を進めて、第1次隊の連中の“帰還”をスムーズにするために、鹿児島へ来てるんだ!2次隊の3人を“早期に帰還させる事”など、本部長から指示は受けていない。勝手な真似が出来ると思うな!」と小林さんは言い返した。「しかし、事は深刻さを増してます!何とかなりませんか?」「無理だ!何と言われようが、無理なんだ!半導体部品事業本部を“敵”に回せると思うか?三井の言った3人は、いずれも、半導体部品事業本部の所属だ。この前、やっと“うん、そうか”と同意を取り付けたばかりだぞ!田納さんが聞いたらタダでは済まんぞ!この話は伏せてやるから、大人しく待て!そもそもだ、仮に交渉のテーブルに話を乗せたとしても、まず通らないだろうよ!お前達は、“対外情報”に疎すぎる嫌いがあるな!国分工場の田中さんに連絡して、3人の情報を聞いてからモノを言え!」「どう言う事です?応援先で、何か問題でもあるんですか?」「大ありなんだよ!特にYについては、“信玄”と呼ばれて“重用”されてる!9月からは、製造課の半分を取り仕切る立場まで、“出世”しとるんだ!課全体を任されるのは、“時間の問題”だとまで言われてる!“事情が代わりましたから”何て気軽に言えると思うか?国分工場で“信玄”と言えばサーディプ事業部の“エース”として、知らぬ者は居ないそうだ!こっちは、完全な“実力主義”なんだ!実際問題、数字も出してるし、“万年お荷物だった部門”を立て直した立役者なんだ!迂闊な事をすれば、“島津家の精鋭部隊に総攻撃を喰らう”だけで無く、“流血”の惨事になりかねん!そうなれば、“誰も帰れない”と言う最悪のシナリオが現実問題として浮上しかねん!三井、そうした“情報”にも目を向けてくれないか?闇雲に“帰して下さい”とは、言えない“事情”を理解してモノを言え!」小林さんの言葉に三井さんは、呆然と立ち尽くすしか無かった。「応援で派遣されたのに、“課責クラス”?!そんな馬鹿な?!」「嘘でも何でも無い“事実”だ!Yは、パートを含めて約70名を統率する“責任者”なんだよ!O工場では、“有り得ない人事”に感じるかもしれんが、国分工場では、“完全実力主義”が敷かれてるんだ!本人が“水を得た魚”になれば、どんな地位にも昇り詰められるんだよ。未だに“年功序列主義”に固執しているO工場の常識は通用しないんだ。吉田も進藤も、“事業の中核を担う人材”として“プロテクト”の対象になってる!下手な手出しをすれば、我々の“目論見”は根底から覆る事になるんだ!三井、その辺は、国分に居る田中さんから、“情報”を聞いてくれ!嘘偽りでは無い事はそれで証明出来るだろう!田納さんの努力を無にしないためにも、余計な口出しはするな!分かったな!!」そう言うと小林副本部長は、電話を叩き切った。三井さんから話を聞いた者達は、口々に「そんな事は、有り得ない!」と言って呆然と立ち尽くした。「手も足も送り込んでしまった、我々のミスだ!O工場に帰って来ても“平社員”に戻るだけなら、“帰る”と言う選択肢は意味を失うだけだ。クソ!何と言う失態だ!」三井さんは臍を噛んだが、時すでに遅しであった。派遣隊もO工場も“土壇場”ではあったが、“逆転の芽”は見えなかった。

三井さんは、その後、国分工場の田中さんにも電話をして確認したが、返って来た返事は同じだった。「三井、お前さん達の認識は甘すぎるぞ!“プロテクトリスト”には、既に数多の者達の名前が列記されてる。そっちが思う程、簡単に必要な人材が“帰れる”と思うな!」と釘を打たれる始末だった。「しかし、“任期満了”を持って引き上げるのが“筋”じゃありませんか?そもそも、“籍”はO工場にあるんです!」と言うが「先般、そっちの総務が、勝手に“帰してくれ!”と喚いた事に対して、国分側は“反発して、不信感すら抱いている”んだぞ!国分側は、各事業本部の本部長に働きかけて“帰すに及ばず”とまで踏み込んでの“抗議活動”を展開しとる。国分側にしても“死活問題”だからな。その話を知らぬ訳があるまい!」と言われるが、三井さんはその辺の経緯を全く知らされていなかった。初めて耳にする始末であったのだ。これは、O工場の幹部の責任であり、三井さんに非は無いのだが、関係する当事者にして見れば“知らない”と言われる事の方が意外に感じられてしまった。「三井、お前達の認識の甘さは何処から来るんだ?“光学対各事業本部の全面戦争”の一歩手前なんだぞ!既に国分側は“先制攻撃”をしている。まあ、田納さんが“応戦するな!”と止めたから、流血の事態は回避されとるが、完全に“和平交渉”へ移行した訳じゃ無いんだ。火の粉はまだ舞っている状況なんだ。“導火線”に火が付けばそれで終わりだよ。その手の話は全く知らんのか?」「ええ、初めて聞きましたよ。そんな深刻な事態になっているとは、夢にも思いませんでした!」「三井、全社が注目している一大事だぞ!当事者が“知りませんでした”などと軽々しく言うな!情報が降りて来ないなら、俺のところから情報を吸い上げて、周知するなり手を打て!泥縄主義では、仲間を、優秀な技術者を失いかねん!もっと外部で起こっている事にも関心を持て!ついでに言うとだな、Yは確実に“残留して転籍”になるだろうよ。あそこまで、昇り詰めたヤツがO工場に戻って“平社員”に甘んじるはずが無い。それ程にヤツは成功したんだ。鎌倉も、美登里もそうだ。“責任ある地位”に据えられた以上、“帰す理由”が無いんだよ!これ以上の流出を止めたければ、お前達も活動を起こして“帰還支援”に当たれ!田納さんや小林さんだけに任せきりでは、存亡に関わる大事をただ黙って受け入れるしか無くなるぞ!」田中さんの言葉に三井さんは愕然とした。知らぬ間に、内堀まで埋められていると言うのだ。裸同然の城では、防御態勢すらままならない。このままでは“座して死を待つ”も同然なのだ。「分かりました!遅きに失した感はありますが、出来る限りのアクションを起こします!定期的に連絡しますので、情報を流して下さい。お願いします!」と言うと電話を切って、内情を仲間に伝えた。「用賀に連絡を取れ!田納さんや派遣隊の情報を搔き集めろ!急げ!」周回遅れではあったが、追撃は開始された。苦しく長い戦いの始まりでもあった。

life 人生雑記帳 - 77

2019年12月17日 15時45分24秒 | 日記
「Y-、おはよー!」みーちゃんが、鼻を摘まんで僕を起こす。緑のタンクトップにパンティ1枚。タンクトップの下はノーブラ。昨夜は、互いに求め合い、激しく逢瀬を重ねた。みーちゃんは、餓えた状態で戻って来たので、ひと際激しく営みに励んだものだ。カーテンは、全て閉め切られており、僕もトランクス1枚だけで起き上がった。朝食を終えて片付けを手伝いながら、タンクトップの中に手を入れて乳首を摘まむと「ダメーよ!また・・・したく・・・なっちゃう!」と言って身をくねらせる。「いじわる!また、抱かれたくなるから、“夜だけにしよう”って決めたのに!」といいつつも、みーちゃんはベッドへ引っ張っていくと、タンクトップを脱ぎ捨てて抱き付いて来る。「ねえ、どうするの?」胸元で小首を傾げる“女神”は実に美しい。「みーちゃんはどうしたいの?」「邪魔な下着は取っちゃえ!Yだって元気だもの、しようよ!」パンティとトランクスを剥ぎ取った後は、みーちゃんが馬乗りになり、激しく腰を動かした。下から突いてやると、か細い喘ぎ声が直ぐに漏れた。「気持ち・・・、いい!みーの・・・中に下さい!」望み通りに注いでやると、溢れた液を指でホールに押し込んだ。「Yの赤ちゃん・・・、欲しいから」と言うと息子に舌を這わせて残りを味わう。汗を流そうとシャワーを浴びていると、みーちゃんが入って来る。ユニットバスは狭苦しいが、キャーキャーとボディソープを付け合って遊ぶには最適だった。着替えると、市内に買い出しに出かける。ホームセンターとスーパーを回ってから、一旦アパートに戻って食料品を冷蔵庫へ押し込むと、再び市内へ出てカフェへ入る。アイスコーヒーを飲みながら、今晩のメニューを決めた。「それよりも、来月に大増産するんでしょ?乗り切れるかなー?」みーちゃんが不安げに言う。「半月、先行してるから、実質は今月の後半から9月分の生産が始まる。磁器の納入予定も、8月後半と9月の頭に集中してる。今までのペースで飛ばしたとしたら、余裕を持って望めるけど、学校が始まるのと“運動会シーズン”に被るのが難点だよな。とにかく、前半で“どれだけリード出来るか?”にかかってるのは確か。これまでの常識を越える“何か”を起こさないと、辛くなるかもね」「Y、何か考えてる?“これまでの常識を越える”何かを?」「“5人の信玄”が居ればなー。返しにもう1人、検査に2人、出荷に2人。それぞれが、僕の意を汲んで動いてくれれば、切り返すチャンスはあるんだが・・・。アメーバーでもなければ、細胞分裂って訳にも行かないだろうし、とにかく“指揮官”が欲しい!もう1人!」「居るじゃない!神崎先輩も恭子も千春もあたしも居るよ!Yには及ばないけど、4人束になれば検査と出荷は回せるよ!返しは、Yでないと無理だけど、自分達の“領域”ならあたし達でもブン回して見せるよ!そのために必要なのは、“情報と明確な意思と目標の共有”じゃない?風林火山の計、あれを検査室に貼り出して、みんなで共有したら?」みーちゃんが言い出したのは、偶然にも僕の考えとイコールだった。しかし、何かが足りない気がした。「みーちゃん、お説ご最もなんだよ。僕も同じことを考えてた。でも、何か足りない気がするんだよ!見落としてる何かがあるはずなんだ!」「“看脚下”(かんきゃっか)、“足元を見ろ!”って先輩の医師が、若手の医師に言ってたって、同級生の看護師が言ってたな。今まで歩んで来た道は続いているでしょ?Yの足元に答えはあると思うな」みーちゃんが優しく言った。「“看脚下”か」僕が思考を集中する姿をみーちゃんは、黙って見ていた。

その夜、ベッドに入っても中々寝付けなかった。みーちゃんは、僕胸を枕にして寝ていた。互いにパンティとトランクスしか身に付けていない。みーちゃんのガラスの様な素肌が暖かい。「Y、眠れないの?」「うん、どう言う訳かね」「忘れちゃいなよ。あたしのアパートに居る間だけでも。みんな、忘れちゃえば?」と言うとトランクスの中に手を入れる。「昼間にしたから、“夜はお預け”じゃなかったの?」「あたし、濡れちゃったの。パンティの中。やっぱり、夜でなくちゃ」と言って刺激を続ける。「悪いクセになっちゃったね」「そう?あたしは、欲しいだけよ」みーちゃんはパンティを脱いで床に落とした。ホールを触ると、グッショリと濡れていた。「指、入れて」2本の指を入れて激しくかき回すと、たちまちか細い喘ぎ声が漏れた。「もう・・・、出ちゃいそう!あっ!」愛液が多量に噴出した。「本物が欲しいの」と言うとトランクスを剥ぎ取り、舌でエネルギーを注入し始める。「この子をみーに下さい」と言うので、ベッドに押し倒すと、中へ入れてゆっくりと前後運動を始める。「硬い・・・、いつもより大きい・・・いい!」みーちゃんも腰をくねらせて答える。徐々に激しく腰を使うと、みーちゃんは快楽の世界に浸った。乳房を鷲掴みにして、突きを入れ続けると「いい・・・、もっと・・・突いて下さい」とねだる。体位を入れ替えて下から猛然と突くと、喘ぎ声が高まり、「イク!・・・イク!・・・いってもいいですか?・・・いいですか?」と狂ったように言う。絶頂に至ると激しく全身を痙攣させて崩れ落ちた。液は余す事無く注ぎ込んだ。「いつもより・・・大きかったね、・・・興奮して・・・イッちゃった」みーちゃんは満足そうに耳元で囁いた。抜くと液が雫となって落ちて来る。指ですくうと、身体に塗って行くみーちゃん。「出来るかな?」「運が良ければね」「このまま眠りましょう。しあわせな気分のままで」みーちゃんは、再び胸を枕にして目を閉じた。シーツを被せると、寝息を立て始めた。寝顔も実に美しい。その寝顔を見ながら僕も深い眠りに落ちて行った。

翌朝、トースターの「チン!」で目覚めた。みーちゃんは、朝食の用意に追われていた。あいも変わらず、タンクトップにパンティ1枚。傍から見れば“何じゃこりゃ?”かも知れないが、彼女の“意志”なのであれこれ言っても無駄だろう。「あっ、起きた?待っててね。もう直ぐだから」軽く唇を重ねてから、紅茶をカップに注ぐ。新婚生活の“予行演習”みたいなものにも、大分慣れて来た。みーちゃんは、すっかりその気になっている。昨夜、寝付きが悪かったのは、“閃き”が喉まで来ていたからかも知れない。欠けているピースを埋められれば、絵は完成する。何が欠けているのか?霧が邪魔をして見えないだけなのだろう。食卓を挟んで座ると「今日は、お洗濯に行くから、衣類まとめて置いてね」と言われる。そうだ、コインランドリーに行かなくては、みーちゃんの体面に関わる事になる。コッソリと同居させてもらっているし、女性の下着を大っぴらに外に干す様な事はしないだろう。不貞な輩(ハッキリ言って僕もそうだが)に狙われるのは、避けなくてはならない。みーちゃんは、普段部屋干ししているとの事だが、カーテン閉め切りでは、無理があった。シャワーを浴びてから、車で洗濯に出かけた。およそ2時間の空き時間をベンチで潰す。「ねえ、何かしらの“閃き”は出そう?」「ここまで来てるが、後1歩及ばずだよ」喉元を指差すと「もう少しか。“産みの苦しみ”ってヤツだよね。大丈夫!Yならきっと見つけるから!」と励まされる。「“情報と明確な意志と目標の共有”か。これまでも、意思疎通は図って来てるし、同じ方向性は持ってやってるよな。何を見落としてる?」「情報は確実に伝わってるでしょう?次に、何を出荷しなきゃいけないか?納期はいつか?以外はね」みーちゃんの何気ない言葉に、僕は電撃を喰らった様にビリビリとした。「そうか!出荷に関する一連の“情報”は、徳さんと田尾しか知らない!“次に何をいつ出荷するのか?”これを2人以外は、誰も知らないじゃないか!それを明らかにすれば、組織立って動けるし、更に効率も上がるじゃないか!こんな簡単な事に気づかなかったとは、何たる不覚!」「“閃いた”のね?」「ああ、やっと分かったよ。出荷情報・指示を開示させる事で、検査は“次に何を検査しなくてはならないか?”が、返しは“いつまでに検査に送り込まなくてはならないか?”が、更に前は“いつまでに炉に入れなくてはならないか?”が芋づる式に分かる。磁器の納入予定と照らし合わせて、スケジュールを詰めれば効率は格段にUPする!しかも、各自が“何をしなくてはならないか?”も自然と分かる!一々指示を聞く手間も省けるし、行動だって今の方式より“自主性”を持たせられる!これだよ!9月に向けて体制を刷新しなきゃ!まず、必要なのは?ホワイトボードだな。検査室に2枚、出荷に1枚。これらに“納入予定と出荷予定”を掲示して、書き込みも入れられる様に工夫する。各自は、これらを見て必要なアクションを起こす。スケジュールに変更があったり、磁器の納入が遅れたりした場合も、情報を書き入れて注意喚起を促す。“何を最速で回すか?”も一目で分かれば、あらかじめ体制も整えられるし、スピードも上げられる!そして、確実に先行させて、逃げ切る仕組みにする!」僕の頭の中には、次々とプランが浮かんで来た。「Y、“覚醒”したね!休み明けから、忙しくなるよ!」みーちゃんも嬉しそうだ。「忘れない内にメモを残して置かなきゃ!今は、概略だけが浮かんだに過ぎない。詳細は、みんなと詰めてから実行に移すよ!」僕は、いつも持ち歩いているメモ帳にアイディアを書き込んだ。実際に“どう言う体制に持っていくか?”はまだ未知数だが、“策”が浮かんだのは1歩前進だ。そうこうしている内に、洗濯が終わった。そのころには、具体的な青写真は、見え出していた。

その日の午後、みーちゃんのアパートに恭子から電話が入った。「どう?“新婚生活”を満喫してる?」「恭子!謀ったな!」「まあまあ、目くじらを立てないでよ!みーちゃんが出した“条件”なんだからさ!それより、あたしも帰って来たんだけど、寮に実家からの“救援物資”が届いてるわよ!運ぶから、中身見せてよ!」「やっと届いたか。運ぶってこれから来るのか?」「ええ、お邪魔させてもらうわ!彼女にもそう言っといてね!1時間後に行くから宜しく!」要件だけを喋ると、恭子は勝手に電話を切った。「恭子が“救援物資”を持って来るって言ってた!この格好だとヤバイよ!」「そうね、服を着なきゃ!」アパート内で服を着るのは、数日ぶりだ。閉め切ってあったカーテンも開けて、換気をする。久しぶりに外の景色を見た。きっかり1時間後に、恭子は現れた。「Y、ダンボール持つの手伝って!」箱は2つあった。「もう1つは余りにも重すぎて持てなかったから、管理人さんが預かってるわ。超弩級の重さだったけど、あれは何なの?」「多分、味噌と醤油の塊だな。ミニサイズだけど、人数分取り寄せたから、超弩級になっちまったんだろうよ」「この2つは比較的軽いけど、何を送ってもらった訳?」「恐らく、数ヶ月ぶりに味わえるモノだろうよ。試食するかい?」「何の試食なの?」みーちゃんも興味を引かれたらしい。「久々の“ご対面”だな。“醤油ラーメン”の袋だよ。インスタントだけどね」「これが、“醤油ラーメン”の袋麺かー!」2人は手に取ると珍しそうに眺めた。5食入りのパックが4つ。しばらくは、懐かしい味を堪能出来るはずだ。「ねえ、Y-、試食させてよー!」2人が合唱する。「みーちゃん、鍋貸してくれる?2食まとめて作りましょう!」僕が自ら袋を開けて、ラーメンを作り出す。「どんな感じなんだろう?」「スープの味が気になるね!」2人はウキウキしながら待っていた。待つ事約5分。丼2つに盛り付けが完了した。「うわー、茶色のスープ!」「お醤油の匂いがする!」と言う2人に「食べてみて!」と勧めた。スープを含んでから、麺をすする。「あっ!意外としょっぱくない!」「見た目以上にコクがあるのね!」2人は夢中で食べ続けた。隙を縫って蓮華でスープをすくって、久々に醤油味を味わう。美味い!懐かしい!僕は欠かせない味だ!2人共に完食した感想は?「あっさりとしながらも、味わい深いわね!」「トッピングがあれば、もっと愉しめそう!ベースは鶏ガラなの?」と意外に好評だった。「勿論、チャーシューとかメンマ、ネギもあれば、もっと美味しくはなるよ。でも、基本はこれなんだ!うどんのつゆにしても、茶色が“当たり前”の世界だからな」「地域毎にも“違い”はあるでしょう?バリエーション考えたら、それこそ無限にありはしない?」恭子がいいところに目を付けた。「それは、当然だよ。背油を乗せるところも、鰹節をベースに入れる地域もある。バリエーションを数える方が大変だよ」と答えた。「でも、これがYを育てた味なのね」みーちゃんが言った。「そう、すべてはここから始まってると言っても過言では無いよ。幼いころから“ラーメンは醤油か味噌か塩”が基本だったからね」「Yを育てた味かー。別世界のモノだよねー!」恭子も残ったスープを飲みつつ言う。「ところで、この瓶の塊は何?」みーちゃんが見つけたのは、清酒の“ワン・カップ”だった。「迂闊に飲まないでよ!日本酒の塊だからな!」「“清酒”か。原料は?」恭子が聞く。「お米さ。米と麹と清らかな水。秋になれば一斉に新酒の仕込みが始まる」「こっちの焼酎とは、違うわよね?」「アルコール度数が全然違うさ。半分以下だろうよ。高くても16度程度さ」「お酒じゃ無いじゃない!」と恭子が笑うが「芋の匂いはしないからな!米麹の香りがするだけさ。原料の米の“研ぎ具合”に寄っても、また違う。純米酒ともなれば、味も違うから日本酒も奥が深いぜ!」「Yは、“高級品”に囲まれて育ってるのね。ここでは、お米は“貴重品”だもの。それをお酒にしちゃうなんて、贅沢よ!まあ、向こうでは“普通”なんだろうけどさ」「でも、お酒に弱いあたしならいいかも!」みーちゃんが言い出した。「今晩、2人で飲んだら?みーちゃん、今日で“新婚生活”はおしまいだからさ!」「そうね、明日の午後には送って行くから。それまでは、自由にさせてもらう!」いつの間にやら、“協定”が結ばれて、その期限が“明日の昼”だと言う。恭子達はどうやって“密約”を結び、実行に移したのか?どうやら聞かない方がいいらしい。実家から送られて来た、その他の物品の1部を持って、恭子は寮に戻ると言う。「Y、明日の午後、“作戦会議”からよ!画期的なシステムの構築には、それなりの下準備が必要よ!先に骨格は決めて置かないと、9月は目の前。時間は余り無いわよ!それと、あたしも餓えてるから宜しくね!」微笑みながら恭子は戻って行った。「さて、元に戻そう!Y、脱がせてくれる?」みーちゃんが、カーテンを閉め切ると言う。ワンピースは意図も簡単に脱がせられる。ブラのホックを外すと、僕のシャツを剥ぎ取りにかかる。「ねえ、もう直ぐお別れなのよ。今夜は寝かさないから!」と言うみーちゃん。唇が重なり舌も絡みつく。トランクスの中に手を入れて、盛んに刺激を与え始める。「今日は、みーが始めるから」と言うとトランクスを剥ぎ取って、息子に吸い付いた。みーちゃんらしくない“積極的”な行為だ。元気をもらって、上を向いた息子を触りながらタンクトップを脱ぎ捨てた。「ベッドへ行こう」手を引かれて行くとあお向けになって脚を開いた。パンティには、既にシミが付いている。ゆっくりとバンティを脱がせると、指を2本入れてやりゆっくりと前後に動かす。か細い喘ぎ声が漏れだすと、徐々に速度を上げて力を入れて行く。「あー・・・、出ちゃうー!」と叫んだ瞬間、多量の愛液が泉の様に噴出した。「いじわるしないで・・・、この子を下さい」と半泣きで訴える。中へと入れるとゆっくりと腰を動かす。みーちゃんの中が、ギュっと締め付けられて感触が変わった。今までは無かった事だ。腰を振って突きをガンガンと入れると、快楽の沼へと沈んで行く。長い脚を腰の当たりでクロスさせて、抜かない様に用心も欠かさない。「もっと!・・・もっと!・・・もっと!」みーちゃんの声に誘わるかのように、僕も沼へと落ちて行く。「中よ!・・・中に・・・出して!」荒い息遣いをしながら彼女はねだる。喘ぎ声が一段と高まると同時に、液が中に注がれる。「大好き・・・、いっばい・・・出たね」しばらくはそのまま抱き合っていた。長い脚は背でクロスされたままで、頬には涙が伝っていた。こうして、みーちゃんとの“新婚生活”が終わった。

翌日の夕刻、「あん!気持ち・・・良かった・・・」恭子に液を注いでやって、汗を拭う。“餓えた狼”さながらの激しさに、少し足元がふらつく。みーちゃんや他の子達の逢瀬もそうだが、僕がフラフラになるのは、恭子との逢瀬だけだ。悔しいが、何故かやっと分かった様な気分になる。恭子の身体は僕に“合わせて設計されてる”様なのだ。少し小柄で細身、やや不釣り合いな豊満な乳房。どれも好みの形なのだ。千絵とは、また違う意味で“フィト”するのだ。ソファーに座り込むと、タバコに火を点じる。「ちょっと、ちょうだい」恭子が“後始末”を終えてタバコを横取りして膝に転がり込んで来る。「ねえ、まだがんばれそう?あたし、ずっと我慢してたから、待ち切れないのよ!」豊満な乳房を擦り付けての“おねだり”が始まった。「狼さんには、敵わないな」と言ってホールに手を伸ばす。指を入れてゆっくりとかき回してやると、甲高い喘ぎ声が出て、愛液が滴る。「ダメー、この子を入れてくれなきゃ・・・あー、漏れちゃうー!」息子を掴んだまま、恭子は多量の愛液を噴出し、垂れ流して行く。ソファーは、大洪水でびしょ濡れだ。「いじわる。早く、この子で突いてよ!」唇を塞ぐと舌を入れて盛んにねだった。理性のリミッターを解除してから、猛然と腰を入れて突いてやると、恭子は歓喜の声を上げて、快楽の世界へ入って行った。彼女は溺れる事は無い。ただ、快楽に浸りたいのと“懐妊”したいだけなのだ。そのために、懸命に営みを繰り返して来た。結果が出ないのが残念だが、それは運にも恵まれなくてはならない。僕がしてやれる事は、液を注いでやるのと、快楽の世界に連れて行くことぐらいしか無い。この日、3戦目もしっかりと注いでフィニッシュした。恭子は、荒い息をしながらソファーに身を横たえた。「気持ち・・・いい。やっばり・・・あなたが・・・一番よ」と言うとフラフラとしながらも起き上がる。乱れた髪を手櫛で直すと、背中から抱き付いて来た。「どうして、“懐妊”しないのかしら?こんなに頑張ってるのに?」「運も必要だよ。そろそろじゃないか?」「だと、いいけど。シャワーを浴びに行こうか?」バスルームで一頻り遊ぶと、バスタオルを巻いてから、別のソファーへ座る。「Y-、O工場の方はどうなの?」「2度電話が来たが、“モグラ叩き”に苦労してる。細かい問題を叩いて量産に繋げるのに必死だな。まあ、もうしばらくは、様子見に徹していた方が無難だろう。帰って来た連中の報告も聞いてみなきゃならないけど」「でも、何か変じゃない?国分側から“砲撃”してるのに“応戦”して来る気配が無いなんて」「多分だけど、田納さんが押さえてるんだろう。“応戦はするな!頭を下げろ!”ってさ。あの方も、侮れない強敵だ。“どうすれば和解に持ち込めるか?”知恵を絞ってる最中だろうよ。次の手は、8月の末ぐらいだろうな。副本部長当たりを送り込んで来るかもな」「それでも、“安さん”が揺らぐ事は無いわよ。多少の“譲歩”つまり、9名の内の何人かは帰すかも知れないけど、Yはあくまでも“死守”するでしょうよ!」「そうで無くては困るんだよ。実は、ある“構想”を思い付いてね。休み明けから、手を付けたいと考えてるんだよ!」「今度は何をやるの?」僕は“閃いた構想”を話した。ヒントはみーちゃんの言葉だった事も含めて。「うーん、実現したら物凄い事が起こるわよ!でも、みんなどう思うかな?」「それが心配の種。乗ってくれるなら、最高なんだがね!」「いいえ、何としても乗せるのよ!9月からは、Yの“構想”をやらないと回らないわよ!明日、主要メンバーを集めるわ!下打ちを急がないとね!」恭子は計算を始めた。今回の“構想”に何人のメンバーを集めるか?それ如何に寄って、事の成否が決まる。僕等は遅くまで打ち合わせを続けた。

盆休みの最終日、恭子の呼び掛けで“一体運用作戦会議”が開かれた。徳さん、田尾、神崎先輩、ちーちゃんらが顔を揃えての“事前準備”を兼ねた打ち合わせである。僕の“構想”を叩き台にして、返しから出荷までをトータルで一体化する、“一元管理”が出来るか否か?奇譚の無い意見交換が行われた。徳さんと田尾は、「現状は、出すだけで手一杯なのさ。だが、事前にアクションを起こせるなら、やる価値はある!」「先が見えないのが、一番の課題だからな。予測が出来るなら余裕も生まれるし、もっと楽になるだろうよ。月末の“殺人的な忙しさ”を回避するには、これをやるしかあるまい!」と意外にも乗り気満々だった。「検査にしても、次に“何を出荷する?”って聞く手間と“飛び込み”に対する備えとしては、いいと思う。忙しい中で問いかけるのは、流石に気が引けるもの。その点、この仕組みが動けば、“次は何をすれば良いか?”一目瞭然だもの!事前に備えて動いて置けば、もっと回転率も上がるはず。やる価値は高いと思うな!」と神崎先輩も乗り気だった。「しかし、実際問題、運用上の“要”を誰がやる?“調整作業”だけでも、かなりのボリュームがある!返しは、僕が責任を持てるが、前との調整や全体的に俯瞰して見る役をどうする?」僕が核心を突くと「Yなら前にも、2階にも顔が効くから、“総司令”であるお前さんが見なくてどうするんだ?」と田尾が言い出した。「整列から塗布、返しの回しまではYで無くては、務まらないと思うし、的確な判断力を見込むなら、あなたが率いるのが“筋”じゃなくて?」と神崎先輩も言う。「そもそもの始まりは、Yの“構想”からなのよ!上手く転がすなら、Yの手腕に期待しなきゃ!」と恭子もちーちゃんも同意見だった。「OK!やれるだけやってみるか?!」僕は腹を括って“前面”に立つ事にした。「だが、“サブ”は、出してくれよな!日々の進捗をそれぞれに反映させる“家老職”は、必須項目だ!検査は、神崎先輩以下、恭子にちーちゃんに宮崎さん。出荷は、田尾が役を担ってくれ!」「新たに必要になる“物品”はどうする?それと、デスクの設置場所は?」徳さんが早くも先を見始めた。「“物品”は、僕が交渉しつ揃えてもらう。デスクは、返しの作業室の隅にしたい。基本的には、返しに腰を据えなきゃならないからな!」と言って決めを取るが、「検査の一番奥に、誰も使って無いデスクがあるから、Yの席にしちゃえば?内線だって置いてあるし、“総司令”の席が作業室の隅なんて、カッコ付かないじゃない!」ちーちゃんが、主張して来る。「日中は、作業室、夕方は“総司令席”。使い分けりゃ済むじゃねぇか?」と田尾も言う。「それに、“安さん”が黙って無いわよ!徳永さんの業務内容の“1部移転”も、視野に入るはず!まずは、“勤怠管理”や“消耗品の取りまとめ”から来るでしょう!それも踏まえて、置く事よ!」恭子も賛成した。「分かった。二重にデスクは置かれるが、業務内容に寄って切り替えるとしましょう。まずは、現行体制から徐々に切り替えなきゃならない。8月中に目処を付けよう!その都度、修正は入るだろうが、ともかくやってみますか?」「やるに決まってるだろう?“武田の騎馬軍団”の真の力を示すんだ!何としても、“軌道”に乗せてやるさ!」徳さんは早る気持ちを抑え切れずに、先を見据えた。とにかく、“新体制”に移行するのは、決した。明日からは、大車輪で取り掛からねばならない。まずは、“安さん”を落とさねばならなかった。

盆休みが明けると、再び慌ただしい日々が始まった。長い朝礼をやり過ごして、自らの作業の準備を終えると「Y,打ち合わせに入るか?」徳さんと田尾が現れる。まず、手始めにやらなくてはならないのは、直近の出荷に対する“マーク”だった。営業からの出荷指示は、出荷当日の3〜4日前には出る。それを受けて、徳さんと田尾は動くのだが、当月の生産予定と品目は、予め分かっている。故に、先行出来るモノは、経管の“使用高倉庫”へ積み上げをしているのだ。目下の課題は、これから流れて来るGEやその他の主要品+来月分である。「8月分は、大方目途が付いてる。GEぐらいだろう?急ぎになるのは?問題はそれ以外の“飛び込み”と来月分の区分けと進め方だな。さて、どうする?」徳さんが腕を組んだ。「何分、新しい体制を1から組立てるんだ。出来る範囲から手を付けよう。当面は、磁器の納入日程は分かってるから、これから流れて来るはずの来月分を“マーク”する事。後は、GEを始めとする“飛び込み”の“マーク”。この2点に絞ろう!データーをまとめて、検査室へ掲示して、こっちにも回してくれ。まだ、掲示板も何も無いが、追っかけで用意させる。ともかく、やって見てからその都度“修正”して行くしかない」「かなり荒っぽいが、やるしかねぇよ!自分の首をもう絞めたくはねぇからな!じゃあ、順次追っかけで行こうぜ!情報は直ぐもまとめて流す。返しの順番をミスるなよ!」田尾が豪快に笑う。「夕方に進捗確認のミーティングをセットしよう!そうすれば、落ちも無くなるだろう?」「その線で行こう!毎日“修正”してけば、慌てる事も無いだろうから。パート朝礼を終えたら、“物品”の購入依頼をかけに行く!」「捕まるなよ!そうで無くても、Yは狙われてる節があるぜ!“この機会に・・・”なんて振られたら、覚悟するんだな!」田尾が茶目っ気たっぷりに言ってから、引き上げて行った。パートさんの朝礼を終えて、“お土産”も配布し終わった(20数個の“お土産”は、個別にレジ袋に入れて、みんなに手伝ってもらって何とか運び入れた)ところで、僕は2階の管理室へ向かった。徳永さんのデスクに歩み寄ると“物品”の購入を依頼した。「Y、何を企んでおる?」徳永さんは、怪訝そうな顔をした。僕は、みんなが合意した“一体化構想”を説明して「次月に向けての準備のためです。急で申し訳ありませんが、ご許可願います!」と頭を下げた。「ふむ、更に効率を上げるのか?だが、下山田と橋元・今村が付いて来れるかな?」と首を捻った。「徳永!Yの思う通りにやらせて見ろ!面白いモノと結果が見られそうだ!」“安さん”が同意した。「しかし、足元は黒字ですが、何分取り返したばかりですよ?」と言うと「今月に多少、色を付ければ事足りる。“総合的な一体運用”がどれだけの威力を見せるか?お手並み拝見だ!それとだな、“勤怠管理”と“消耗品管理”もYに付与して置け!“下”はYの領国だ。国主として領国を管理するのは当然の義務になる!切り離せるモノは、任せてしまえ!」と“安さん”が言った。予想された通りの展開だ。「Y、デスクがいるだろう?検査室の奥を使って構わんし、返しの作業室の分は、ここから降ろしてやる!存分に暴れて見せろ!貴様が今日、言いに来なくてもそのつもりで居た。俺としては予定の行動だ!驚くには及ばん。これで、徳永の負担も少しは減るだろうよ!ははははは!」豪快に笑った“安さん”は返って不気味だった。しかし、“物品”の調達は承認され、デスクの件も含めた“権限の付与”も実行に移される事になった。万事、予定通りになったのである。その日の内に、2階からデスクや必要な機器が降ろされ、返しの作業室と検査室のデスクに据えられた。“安さんが”決めると事は早い。償却済で廃棄される予定だったコピー機までもが、持ち込まれた。「まだ、充分に使えるから、好きな様にしろとさ!」ワープロも含むOA機器がズラリと用意された。それらを何処に設置するか?配置をどうするか?夕方に散々もめたが、どうにかして収まりを付けられたのは奇跡だった。「やっばり“降って来た”わね。Yが言わなくてもいずれはこうなったんだろうな」恭子が言う。「これで、結果が出なけりゃ、蜂の巣を突いた様な騒ぎになるぜ!」田尾も先を見て言う。「上手く行けば“ご喝采”だな。勿論、失敗するつもりは更々無いけど、どこまで食らいつけるか?」「お前さんなら、やるさ!」田尾が平然と言った。初めは半信半疑だったが、この先は予想外の展開が待っていた。僕はまだ気づいていなかったが、これが僕を“引き止める理由”の1つになろうとしていた。

life 人生雑記帳 - 76

2019年12月15日 11時38分26秒 | 日記
第6章 社会人白書 2 ~ 川中島の決戦。“武田の騎馬軍団”奮戦!

鎌倉達のフライトの翌日。目覚まし時計を慌てて止めたが、「そうか、誰も居ないんだった!」と呟くハメになった。完全に“居ない”訳では無い。第1次隊の4直3交代勤務の連中は、依然として仕事を続けていた。9月末に纏めて“休暇”を取り、その際に“引き上げる”算段だった。恭子も千絵も田尾も、実家に帰っているのでインターフォンも静まり返っていた。休暇中は、社食も1社しか稼働しないので、注意せねばならない。後は、膨大な時間をどう過ごすか?だった。顔を洗って、社食へ行くために寮を出ると、木陰に美登里が居た。「おはよう」「待ちましたよー!いつまで寝てるんです?」美登里はご機嫌斜めだ。だが、それは大した問題にはならない。お互い“1度きり”と割り切った“関係”しか持っていないから、手を出す相手では無かった。社食で食卓に相対すると「不気味ですね。O工場から何も言って来ないなんて」と言うので「その内に“全面戦争”へ突入する!“帰して下さい!”って光学が平身低頭に出ても“帰すに及ばず!”って各本部長がはねつければ、否応なしに巻き込まれる!束の間の“平和”を謳歌するに限るさ!」「その、束の間の“平和”を謳歌する相手が、あたしじゃあダメ?」「ダメとは言わないよ。他に誰が居る?4直3交代の連中は動けないぞ!」「それなら、この後、付き合って下さいよ!あたし、職務に追われて、何処にも出掛けてないんですよ!」「それなら、どこへ行く?」「日南方面へ!日向灘のブルーの海が見たいんです!」「それなら、1時間後に行動開始だ。どっちの車を出す?」「女子寮のヤツを。ATの方が楽でしょう?」「だったら、UVケアを忘れるな!肌にダメージは残したくないだろう?」「“化粧しろ”なんて言われたの久しぶり!“すっぴん”が当たり前だから、意識から抜けてました。腕が鈍ってたらごめんなさい」美登里が恐縮気味に言う。“すっぴんでも、綺麗だけどな”と言いかけて言葉を飲み込んだ。迂闊な事は言わないに限る。キッチリ1時間後、寮の前に車が横付けされた。

「これ、お願いします!」キーを投げられて、運転席に座る。相当な“ポンコツ”だが、エンジンは元気だ。「時間が惜しいから、一気に出るぞ!」車は、溝辺鹿児島空港ICを目指した。薄化粧だが、美登里は見事に変身していた。タンクトップに薄手の羽織物、デニムのミニスカートにスニーカー。白い太腿に思わずハッとさせられる。宮崎自動車道へ入ると、給油のためにSAに停まった。「何か飲み物探してきます!」「いや、僕も行こう。1人じゃあ、持ち切れないだろう?」と言うと美登里が赤くなった。「“女の子扱い”してくれるんだ。あたし、こう言うの慣れて無くて・・・」「慣れればいいだろう?美登里は、美登里なんだから!」「優しいんですね。だから、みんなが放って置かない。こんな事に気づかなかったなんて、恥ずかしいです。“遊び回ってる”だけだと思ってましたから。先輩も、こんな気遣い見せてくれなかったし・・・」「噛み付いてばかりじゃあ、周囲は好奇な目でしか見ない。特にO工場ではな。でも、ここは違う。実力さえあれば上に行けるし、任せてもくれる。美登里だって、今の地位を自らの力で勝ち取ったんだろう?岩留さんの信頼も厚いし、品証でも1目置かれる立場まで昇り詰めた。ここなら、“個”を活かして活躍できるだろう?誰にでも出来る事じゃないんだ!自信を持て!そして、少しは洒落た姿を見せろ!呼ばなくても男達は寄ってくるぞ!」「思い切って良かった!“似合わない”って言われるのが怖かったけど、“女の子”として見てくれてる!あたしも、捨てたもんじゃ無いでしょう?」腕を絡ませると嬉しそうに笑った。「ああ、表面だけしか見ないのは、O工場の悪いクセだな。危うく、僕も見失いかけてた。大切な“レディ”として接さないとダメだな!」「うん!そうして!」美登里は、羽化しようとする“さなぎ”なのだろう。少しでも輝ける女性として羽ばたける様に、手助けするのも悪くは無かった。

快晴の日南は、“コバルトブルーの海”が輝いていた。「綺麗!何とも言えない解放感!身も心も洗われるわ!」美登里は、心行くまで海風に吹かれていた。少し、離れて見ると“女性らしさ”を感じることが出来た。イヤリングが、ネックレスが日を受けて煌めく。まるで、生まれ変わったかの様に。「こんな海は、感動するなー。先輩は何度目です?」「4回目かな?だが、その度に違う表情が見える。夕方になるとまた違う表情を見せるさ」「ふーん、誰と来たのか?聞かない事にしますね。今は、あたしだけのモノですから!」彼女は波打ち際に降りると、砂の中を探った。「あっ、綺麗な貝!“天使の爪”見たい!」無邪気な顔を見せているのは、心が洗われた効果だろう。少し離れた場所に座って、彼女を見ていた。「見つけましたよ!ほら、こんなに!」ピンクの貝殻を持って彼女も座り込んだ。「ちっぽけな悩みですよね。毎日、誰かに噛み付いて、我を通そうとして振り回して、あたし、今まで素直になれなかった。いえ、“ならなかった”です。“自分がやらなければ”って変な使命感があったんですよ。でも、この景色を見ると“なーんて、ちっぽけな使命感だったんだろう”って思えます。男性に対してもそうです。“上から目線で威圧して何なの?!”って突っ張って生きて来ました。拒絶して、見下して、懐こうともしなかった。懐いている女は“馬鹿丸出しだ!”って偏見持ってました。でも・・・、」「どうした?」「今こうして、先輩と座って居ても、何の違和感も無いんです。“男女7歳にして、席を同じくせず”が、モットーだったのに。呆気なく波に持ってかれた感じです。今、無性にしたい事があります。実行してもいいですか?」「何をやらかす?」と言った僕の唇に美登里が吸い付いて来た。舌を絡ませて甘えだす。「こら、ルール違反だぞ!」と言う傍から唇は塞がれた。「あたしじゃダメですか?」「前に“1度きり”と決めただろう?」「前は前です。自分に素直に従って見ただけ。したかったから、キスしただけです。本当は、もっとエッチな事も考えてます。行きましょうよ!好きなだけ好きな事が出来る場所へ!」「傷ついてもいいのか?」「充分に傷だらけ。その傷を忘れさせて!」素直な目で美登里は言った。言葉に嘘は無いだろう。「行くか?」僕は折れた。折れなければ、彼女はもっと深い傷を負うかも知れなかった。宮崎市内へ引き返すと、部屋を探して2人きりになった。「見て下さい。あたしの裸を」美登里は、自ら衣服を脱いだ。やや細身の身体が露になった。「元気ですね」彼女は息子を引き出すと、いとおし気に舌を使う。ベッドでお互いに、激しく求めあうのに理由は要らなかった。

どのくらい時間が経過したのだろう。すっかり眠っていたので、時計を探す。午後4時を過ぎた頃になっていた。美登里は僕の胸を枕に眠っていた。意外に寝顔が可愛い。普段は絶対に見られない顔だ。安心しているか、完全に落ちている。シーツを引っ張って裸体を覆ってやる。突っ張って、突っ張って生きて来た会社人生に、やっと終止符を打てたのだろう。狂ったように求めて来たのが、何よりの証拠。力を使い果たして眠る彼女が、一瞬可哀そうに思えたくらいだ。起こすのは忍び無いので、そっと髪を直してからもう一度目を閉じた。美登里と言えば“スッポン”の綽名を奉られている“手ごわい女”だった。とにかく、“妥協”の2文字を知らない事で有名だ。でも、それは表面の顔でしか無かった。彼女の本心は“女性として認められたい”一心だった。1人の女として、女の子として“認められたい”それだけだったのだろう。無心に眠る彼女は、やっと“解放”されたのだろう。不意に胸元が動いた。「う、うーん」美登里が目覚めた様だ。「良く寝てたよ」「そうですね。寝顔見られちゃった!」悪戯っぽく笑う彼女は、別人に見えた。軽くキスをすると、「お茶かコーヒーでも淹れますね」と言って起き上がった。湯を沸かしている間、ソファーに座ると、膝に座り込んで来る。「気持ち良かったー。本気で愛されると言うか、抱かれると何もかもフッ飛んでいきましたよ。まだ、頑張れます?」「底無しか?目覚めたか?」「両方です。どうせなら、泊まりません?割勘にすれば、お財布にも優しいし」「ここで、逃がしたら“後悔する”か?」「ええ、お風呂でも遊びたいし、もう1回はしたいから。先輩を独占できる唯一のチャンスなんですよ!」「随分とフッ切ったもんだな。突っ張るのは、もう止めるか?」「素直に思いを伝えて、抱いて欲しいだけ。あたしだって女ですから、快楽に浸りたい気持ちはありますよ」「並大抵の快楽じゃモノ足りないだろう?例えば、こんなヤツとか」僕はホールに2本指を入れてかき回してやった。「ダメー、出ちゃう!出る!出る!ああー・・・!」と喘ぎ声が高まると同時に、愛液が噴出した。更に指で突いてやると、止めどなく溢れ出した。「ダメ・・・、もう、狂っちゃう!イジワル・・・しないで」と言うと指に吸い付いた。「もっと、エッチな事して。もう、止まらないの」唇を塞ぐと、舌を入れて、手で息子を刺激し始める。「じゃあ、鏡の前に立って手を突くんだ。そうしたらこうする!」背後から突きを猛然と入れると、たちまち理性を失って喘ぎ声を出し始めた。「もっと!もっと!もっと!あー・・・、もっと犯して下さい」快楽の沼に引きずり込むと、彼女はズブズフに沈み始めた。「あー、イク・・・、いっちゃう!」と言うので、わざと息子を抜いて、横抱きにしてベッドへ押し倒す。息子を中へ潜らせると互いに激しく腰を使う。「イジワル!もっとよ!・・・もっと突いて!」理性を失った彼女は、快楽に浸ろうとおねだりを繰り返す。「あー、抜かないで!イク!・・・イッても・・・いいですか?いいですか?」フィニッシュは、中へ多量の液を注いでやった。「気持ち・・・良かった・・・、一杯・・・出して・・・くれたね」美登里は快楽の余韻に浸りながら、ピクピクと身体を震わせた。流れ落ちる液を指で身体に擦り付けると、放心状態でしばらく動けなかった。結局のところ、僕も美登里の身体に溺れてしまい。宿泊をする事になった。営みは熱く激しく続けられた。

宮崎に一泊して、国分へトンボ帰りした休暇2日目、O工場から城田が電話で“レスキュー”を要請して来た。「城田、この見えない状況下でどうしろってんだ?」「Y,済まんが知恵を貸せ!レール板のアルマイト処理が剥げるのを止められないんだ!」「レール板のアルマイト処理後の寸法は当たったか?」「問題無しだ。バラツキも許容範囲内だ!」「成形の型の磨きは?」「全て、池上さんがやったよ。ただ、これ以上の追込みは危険らしい」「オールネガティブか。型にセットする時に傷、すなわちアルマイトが剥げるんだろう?かなりキツイ状況か?」「ああ、どうやっても剥げるのを止められない!」「成形型の温度設定は?」「105℃だよ」「城田、“ダメ元”なら考えが浮かんだぞ!型の上でレール板を暖めて見ろ!アルミなら熱伝導率が高いから、1サイクルが完了する頃には、僅かに膨張するはずだ!100分の数ミリでも膨張すれば、どうにかなる!分かるよな?」「なるほど!確かに僅かに膨らんでくれれば、儲けモノだよな!分かった!早速、トライして見るぜ!後、三井さんに代わるから、待ってろよ!」城田に代わって三井さんが喋り出した。「Y、完成ボディの検査方法なんだが、機械を動かしながら、目視検査する手は無いか?」「あれだけの穴と、ポストが立ってるヤツを見る方法か。現状はどうしてます?」「2人貼り付きで、機械操作と検査を分担してる!これを1人にしたいんだよ。Y,何かしらの閃きはあるか?」「無茶を振ってくれますね。帰ってたら“人質”にされそう、いや、“強制連行”されてますね!ハナから狙ってましたね?」「“まんまと逃げられた”から、知恵は出してくれないか?」三井さんも笑いながら言う。しかし、事は笑い事では無い!「うーん、目視で追うか・・・。そうか!“全部見なければ”道はあるかも!」「“全部見なければ?”どう言う話だ?」「5分割で追って行くんですよ!まず、“レール面側”を見て、次は“その裏”すなわち、ミラーボックスとの接合面だけを見る。“上面”と“下面”を見て、最後に“ヒンジ側”と“ロック側”を見る。これで1周しましたよね?」「そうか!1面づつ追って行くのか!最悪でも10個以内で捕まえるつもりだな?」「そうですよ。一度に全部は不可能ですから、順を追って見て行くしかありませんよ!無論、折れやすい場所を書いた“図面”を用意したり、品管の検査も入れなきゃ無理はありますよ。でも、これは、“現場で止める”のが最善策。ピン折れしたヤツだって、ドリルで加工すれば使う事も可能でしょう?ロスを最小限にするなら、これしかありませんよ!」「流石に切れ味は、衰えて無いな!この手の難問の答えをスラスラと言えるのは、城田にサンプルを送らせただけの事はあるな!ある程度、読んでただろう?俺達が“レスキューを要請する”と?!」「まさか、“本当に来る”とは意外でしたが、三井さんならあり得るだろうとは、予想はしてました。たまたま、留守にしなかったのが幸いしました?」「ああ、これでボディの生産に目鼻が付く!城田が“両手で丸”を出した!当たりだな!まだ、AFの精度やら、低輝度での安定性、標準レンズの完成なんかが残ってるが、いずれは“モグラ叩き”も終わる!Y,サッサと帰って来い!お前さんにやらせる仕事は山程ある!まず、“成形部門”へ異動だな。樹脂加工技術を学んで、チームを率いてもらう。お前さんなら、1ヶ月で成し遂げるだろうよ!これからは、デザインの自由度を高める必要性がある!自由で柔軟な発想が出来るヤツは、今直ぐにも欲しい!まあ、“期限”もあるから、中々早くとは言えんが、必ず戻って来い!じゃあまたな!」三井さんからの電話は切れた。「危ない!危ない!帰ってたら、“座敷牢”に押し込められてたぜ!」危うく難を逃れたが、思わず冷や汗を拭う事になった。

昼前になると、美登里が女子寮から談話室へやって来た。昨日は、快楽の溺れてしまい棒に振ったが(と言うより、彼女に夢中になったと言うべきか?)、本日は岩留さんが出した“宿題”のレポートを仕上げる予定だった。今日も美登里は、“女の子らしさ”を漂わせて来た。「宜しくお願いします」と言うと原稿を差し出す。「まず、データーについて教えてくれ。事業本部は同じだが、事業部としては“まるで違う”事をやってるんだ。予備知識も無けりゃどうしようもない!」「そうですよね」と言ってデーターの説明と岩留さんが命じた“趣旨”のレクチャーから始めた。レイヤー事業部の品証がまとめたデーターと、美登里が持っているデーターを基にして“客観的視点”から“不良問題の考察をまとめろ!”と言うモノだった。意外にハードルが高いのに驚いた。データーの解説を受けている途中で、昼になったので、社食へ行って食卓に相対する。「昨日は、ありがとう。やっと“普通の女の子”になれました。これからも、たまには付き合ってくれます?」「ああ、まずは“戦争”が終わったらな。美登里が来る前に、城田と三井さんから“レスキュー”の依頼が来た。どうやら、“モグラ叩き”に終始してる様だ。先は、まだ長そうだよ」「休み“返上”ですか?O工場も相当焦ってますね。先輩のところにまで、手が伸びて来ると言う事は、煮詰まって喘いでいる感じ?」「出口を探して東奔西走だよ。標準レンズもこれからだそうだ。先行きが不透明感に満ちているなら、時間を稼げる!帰省しなくて正解だった!危うく“座敷牢”に捕らわれるとこだった!」「“トラのアギト”に落ちる寸前ですか。あたしも助かってます。今日は、第3者の意見が聞けますし、2人で過ごせますからね!」すっかり心を開いた彼女は、やっと“普通の女の子”になっていた。寮に戻って、彼女がまとめた原稿に目を通し始めると、違和感にブチ当たった。「おい、赤ペンを貸せ!“誤字”“脱字”“かな送り間違い”のオンパレードじゃないか!どうやって入社試験をクリアした?」「学校推薦ですよ」「現国の時間は居眠りタイムだな!そうでなけりゃ、こんな間違いがあるはずが無い!」容赦なく修正を入れて行くと、原稿は赤字で埋まった。「酷い!真面目に勉強して置くべきだったわ」「もう、遅い!それと、部分毎に“辻褄が合わない”記述があるが、これはどのデーターを基にして書いた?」「えーと、これとこれです」「“客観的視点”ってあるのに“私的主観”が入るのはおかしいだろう?このままだと、岩留さんに“顔を洗って出直して来い!”って突き返さるぜ!下手でもいいから、論理を考え直せ!変なモノを出したら恥の上塗りになっちまう!」「先輩―、お手柔らかにお願いします!」「そうしたいが、これだと無理だ!さあ、分析から組み直せ!僕は広辞苑を借りて来る。ワープロで仕上げるにしても、下手なモノは打てないからな!」こうして、作業は敢え無く“振り出し”へと戻った。美登里が必死に論理を組み直し、僕がワープロに打ち込んで“清書”して行く。夕方になってやっと原型が仕上がった。「あー、何でこんな“宿題”背負わされたんだろう?」美登里が根を挙げた。「選ばれし者の悩みさ。それだけ、重要な地位に居る証拠だろう?期待されてるんだから、ちゃんと答えを出せ!」「先輩、膝に座らせてー」「もう直ぐ印刷が終わる。それまで待て!」感熱紙の束が吐き出されると、美登里は僕の膝に座り込んだ。「頭から、見直してみますね」と言って原稿に見入る。首に手を回すと“お姫様抱っこ”の様なポーズを取った。「うん、大分自分らしく分析出来ましたよ。修正箇所のチェックお願いします」と言うと頬にキスを入れた。「どれどれ」順を追って論理に目を通す。美登里はくっ付いたままだ。誰も居ない談話室に静寂な時が流れた。「2か所ばかり曖昧な言葉を使ってる箇所は“断言”してもいいかもな。自分で集めたデーターを根拠にして、言い切った方がいいだろう。その方が説得力が上がりそうだ」「何処を?」美登里は膝から降りると、指摘箇所に目を走らせる。「あー、そうですね。言い切ってしまえば、それらしく見えますね!」赤ペンで直しを入れて来る。ワープロのデーターを表示すると、直ぐに書き換えてやる。「これで印刷してもらえば“宿題”も終わり。助かりました」「自分の事じゃないが、国分で先頭を走る仲間としては、良い評価をもらってくれた方が、後々のためでもある。これからは、実力者だけが生き残る“サバイバルレース”なんだ。やるからには、完璧であってもらわないと割に合わない!」僕はインクリボンに切り替えて、“正本”を打ち出した。美登里は自販機から、缶コーヒーを持って来る。胸元がV字にカットされたノースリーブから乳房が見えて、ハッとした。昨日、手にした豊満な乳房だ。「見えてます?」「見せ付けてどうするつもりだ?」「誘惑して見ました。男性ならこんなのも“あり”ですか?」「見境無く襲われるぞ!相手を選べよ!」「先輩なら、大丈夫だから、こんな事してもいいでしょう?」彼女はプリーツスカートの前をめくると、バンティを見せ付けた。「仕事は終わりました。指で弄んでくれませんか?」美登里は誘惑を続けた。「中毒症状か?まだ、溺れたいのか?」「うん、溺れたいんです。あなたとならずっと。休みが明けたら、あなたは“愛しい人達”の元へ帰って行くでしょう?今の内に、横取りしたいだけ」と意に介す風が無い。印刷を終えると、僕等は車で外へ出た。城山公園に着くと、後部席で抱き合った。パンティを剥ぎ取ると、指を2本入れて弄んでやる。「ああ、もっと・・・かき回して!」少し、イジワルをしてじらしてから、指で突いてやると甲高い喘ぎ声を出して「出る!・・・出ちゃうー!」と絶頂に達して愛液をまき散らした。「お願い・・・、本物を・・・大きくて硬いのを・・・下さい」本性を現した彼女は止まらなかった。息子を中に入れて下から突き上げてやると、たちまち快楽の世界にのめり込んだ。「中へ!・・・中へ出して!・・・妊娠しても・・・構わない!」狂ったように彼女は言う。液は余さずに注いでやった。「出たね・・・、一杯・・・これが・・・好きなの」と言うと愛おしそうに息子に舌を這わせた。そして、「連れて行ってよ!・・・快楽の世界に。全部・・・、忘れさせて!」とねだった。美登里の望みを叶えるとしたら、今しか無い。僕等はモーテルに泊まり、激しく互いに求めあった。

休暇も3日目に入った。「今日こそは、真面目に考えを巡らせないとヤバイ事になりそうだ!」僕は、勤怠管理表の新規作成を始めた。返しのパートさんは、8月の初めに原田さんが加わり、お盆休み明けには更に2人が加わる予定だった。“武田の騎馬軍団”は、パートさんだけでも28騎に膨れ上がるのだ。そこへ検査の女性社員25騎とパートさん4騎が加わるので、総勢57騎の“騎馬隊”になる。僕と徳さんと田尾もカウントすれば、60騎を率いて行かねばならない。“安さん”からは“勤怠管理も含めた管理業務も、貴様が見ろ!徳永には別にやらせる事が山積みなんだ!”国主“なら、それぐらいは見て置くがいい!”と釘を刺されていた。つまりは、“雑務も含めて、後ろは全て貴様に任せる”と言う意味なのだ。徳永さんの当面の急ぎの仕事は、“新型自動整列機の設置と運用開始”に絞られ、9月からの本格運用を目指していた。“安さん”は、塗布工程にもメスを入れるべく予算取りも含めて動いていたし、後ろに比して遅れていた“前工程の改革”を急いでいた。後ろに比べると“設備投資”が必要な前は、どうしても人が頼りだったが、6月からの“反転攻勢”が順調に推移する事を追い風にして、一気に片付けようと目論んだのだ。そうなると、これまでの様な体制では、こっちも追いつけなくなるのは必定。新たな“戦略”が必要だった。「それにしても、“補佐役”を置かないと、全部を見るのは無理だな!」返しに新戦力が加わるとなると、育成にはどうしても人が要る。これまでの流れを維持しつつ、新人の育成を図るとなると、手が足りなかった。西田・国吉のご両名は、ウチの主力だけに手を止めるのは不可能。「だとすると、牧野・吉永のご両名と僕が教え込む以外に無いか?」と考えるが、検査と出荷に目が届かない。嬉しい悩みだが、同時に早期にクリアしなくては、9月を乗り切れないのは明らかだ。「まあ、神崎先輩と田尾にマメに動いてもらうしかあるまい!」当面はその手しか無さそうだった。だが、いずれは根本から“改変”しなくては、増産に追い付かなくなる。「朝礼を一体化するか?パートさんだけで無く、社員も意識付けをしないと変えられんな!」これまで、検査工程と出荷は、全体朝礼の後や日々の朝礼を省いていた。意思疎通は頻繁に取っていたので、これまでは問題なかったが、“1つの意志”を共有して動くとしたら、朝礼は必須になるだろう。それと、“信玄”が掲げた“疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷振の如し”を改めて掲示する事も決めた。「全ての基本は、ここにある。60人が一斉に動くとしたら、まとめるモノはこれしか無い!」戦国“最強”と呼ばれた武田の騎馬軍を1つにしたのも、この“孫氏の兵法”だった。「共通の物差しがあれば、我々は更に1歩を踏み出せるかも知れないな!」勤怠管理表の新規作成が終わる頃、考えは薄っすらと形に見えて来た。まずは、休み明けが勝負の分かれ目だろう。いつの間にか、昼になろうとしていた。着替えると社食へ行こうとしたが、「サニタリー品が切れそうだな」と思い出して、寮の車を出して、市内へ出かけてラーメンを食べた。久しく食べていなかった豚骨ラーメンは美味かった。

寮へ戻ると、美登里が出かける支度をしていた。「お友達に呼び出されて、実家にご招待だって!しばらく留守にするけど、我慢してね!」美登里は屈託の無い笑顔で言う。「そうか、行って来い。また、気分も変わるだろうよ」「でも、甘えに来るのは先輩のとこだけ。あたしの身体を知り尽くしているから」と小声で言うので「この底無しが!」と鉄拳を頭に乗せた。見た目はボロボロのカローラで、美登里が出かけると本当に1人になった。正確には、勤務中や寝ている連中も居るので完全に1人では無いが、話し相手は誰も居ない状態だ。「まあ、これもありだろう」そう言い聞かせると、荷物を持って部屋に入る。疲れもあって知らない内に眠ってしまった。夕方近くになって、管理人さんに揺り起こされるまで、完全に“落ちた”のである。美登里との逢瀬のツケは重かったらしい。「O工場から電話ですよ!」管理人さんの言葉に跳ね起きると、1階へ降りた。相手は長谷川だった。「Y、270AFが“お蔵入り”する事になったぞ!」「ほー、やっぱりか。4機種でボディを“共用”するんだ。生産には限界はあるよな!」「それも一因だが、“改造計画”が浮上してな。ペンタフラッシュと赤外補助光を加えて、上位機種として“再開発”する事になった。そこで、問題なのが赤外補助光の窓の材質と色なんだ!」「ボリカーボネイトに指定の赤の顔料を入れれば事足りるだろう?あっ!“窓だけ”に使うんだよな?」「それさ!25kgを発注したらどうなると思う?」「他に使い道が無ければ、ゴミにされちまうぞ!半分でも危ないな!だが、試作で使うから12kgを作ってもらうのが妥当だろうな」「やっばりか!それでも余ったらどうする?」「腹を括れ!余るのを承知でやらなきゃ、メーカーも納得しない!少しでも余計に増量して、持ち掛けろ!手間は一緒なんだからな。それと、図面に“色合いと顔料の種類”を書き込んでくれ!もし、もし万が一発注するとしたら、何も分からなくなる恐れが高い!それだけは忘れんでくれ!」「了解だ!今、城田に代わるから、待っててくれ!」「Y、悪いがまた知恵を貸せ!」「しーろーたー!何も見えない中で、今度は、何を捻り出させるつもりだ?」「レールを引いた後に金属屑がシャッター幕に付着しちまう!バキュームで吸ってるんだが、強くすると幕も変形しちまうんだよ!何か手はないか?」「最終段階で引くんだから、ある程度は頭にあっただろう?それでも、手詰まりかよ!」「ああ、目下、お手上げ状態さ!」「クサそうなのは、静電気だな。アースは取ってるか?」「試したけど効果は薄いよ!」「そうなると、厄介だな。帯電防止処理とすれば、何だろう?レール板の裏に薄く塗料を吹き付けたらどうだ?帯電防止の塗料を薄く塗るんだ!」「おー、その手があった!早速手を回すぜ!塗料なら初期段階で噴いて置けば、組立の邪魔にもならないし、シャッター幕も帯電しなくて済むかも知れん!一石二鳥なら、儲けモノだ!Y、ありがとな!じゃあまたの機会に」と言って電話は切れた。「“モグラ叩き”は、1つ1つ潰す作業。後からまだまだ出るだろう。後、1ヶ月半は、続くだろうな。その隙にこっちは“残留”を目指す!精々叩いて歩いてくれ!」そう言うと、着替えて社食へ向かう。1人で食す食事は寂しいものだ。寮に帰ると、管理人さんが「電話がありました。折り返し連絡をして欲しいとの事です」とメモを差し出した。番号に見覚えなど無い。ただ、地元である事は、市外局番が書かれていない事から推察が付いた。どうするか悩んだが取り敢えずかけて見た。「Y、生きてた?」「みーちゃん!もう、帰って来たの?」「うん、Yが“日干し”になってると思ってね!今から迎えに行くから、泊まる支度して待っててよ!」「本当に“暮らす”つもりだな!親不孝者め!」「いいじゃん!Yと2人で過ごすのが予定だもの。1時間後に行くから待ってなさい!」みーちゃんが本当に戻って来るとは予想していなかったが、今は、心から救われた気分になった。迎えのRX-7が来るまで1時間。僕は、慌てて支度にかかった。