limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ⑳

2019年02月12日 13時09分31秒 | 日記
エピローグ ~ 光の戦士達

Kの逃走は直ちに関係各所に通知され、行方を追う体制が採られた。警察は手掛かりを求めてU法律事務所にも通知を行った。社長は、帰宅直前に「K逃走」の報に接し、八王子の“司令部”へ緊急連絡を入れた。その日の当直は、何とミスターJその人であった。「ミスターJ!とっ・・・とんでもないこっ・・・事が起こりましたよ!」「社長、落ち着いてゆっくり話してくれるかね?」「こっこれが、落ち着いてはっ・・・話せる事じゃない!けっ・・・Kが・・・」「Kがどうしたんだ?」「びっ・・・病院から、とっ・・・逃走した!」「馬鹿な!!術後に動いたら生死に関わる!何たる愚か者よK!」「そっ・・・それで、“Kの行き先に心当たりが無いか”と警察から問い合わせが来た。こっちは何も分からないので、そう返してあるが、ミスターJならと思ってね。何か思い当たる節はあるかね?」「私にも行方は思い当たらんよ。ヤツの思考ならどこを目指す?」ミスターJは思いを巡らせる。「ともかく、警察は非常線を張り巡らせて、捕縛するべく動いている。何か情報が入れば、至急電話をしますよ。こっちも万が一に備えて当直を手配したので。そちらは誰です?」「今晩の当直は私だよ。社長、動きを掴んだら直ぐに知らせてくれ!」「承知しました!お騒がせしました。失礼します」電話は切れたが、ミスターJは固まっていた。「Kなら、何を企んで逃げる?仕掛けはどこにある?」地図を広げて必死に考える。「横浜!Pホテル周辺か?!だとすれば、どうやって移動する?ヤツも無理は出来ない事は百も承知のはず、だとすれば、最寄駅から電車か?!そうすると、直通でなくては意味が無い!病院からだとすれば・・・」Kになりきり推測を組み上げていくと、朧気ながらにもヤツの行動が浮かび上がった。「リーダー、“シリウス”、N、F!」1階へ向かって叫ぶと4人は直ぐに2階へ駆けあがって来た。「どうしました?ミスターJ!」「Kが病院から逃走した!ヤツは、横浜のPホテル周辺を目指しているはずだ!Kの入院していた病院から最寄り駅へ行き、直通電車で逃走するならどこだと思う?」「そうだな、東武東上線なら渋谷経由で横浜まで移動できます!」“シリウス”が地図上を指した。「駅までの間は、車をジャックするでしょう!コンビニに網を張ればチャンスはあります!」N坊が指摘する。“シリウス”は着席すると、病院周辺の地図を画面に出した。合わせて東武東上線の時刻表を重ねる。「周辺のコンビニは3店舗、東武東上線の最寄り駅はここ。車さえ手に入れば、充分に到達できますね!」リーダーが画面を見ながら指摘する。地図の尺度が変わり画面上に光る点が表示された。「Nシステムのカメラ配置です。これから、通信網に割り込んで画像を手に入れましょう!顔認証システムで絞り込めば、Kを見つけられるかも!」「顔認証システムとは何だ?」ミスターJが誰何する。「最近開発されたもので、顔写真から被疑者の顔の特徴を読み取り、画像から得られたデーターと照合して割り出すシステムです。まだ、実験段階ですがソフトは持っているので、使って見ますよ!」“シリウス”はキーボードを叩き、画面から片時も眼を離さずに言う。「こちらも臨戦態勢を組もう!横浜のPホテル周辺に部隊を配置するんだ!」ミスターJは決断した。「そちらの配置は、私が指揮を執ります!総員緊急配備!!」リーダーは3階へ駆けあがった。「N坊、F坊、そっちは渋谷駅と横浜駅の監視カメラへアクセスして見てくれ!Kが乗車しているなら必ず引っかかる!」“シリウス”が言うと「OK、直ぐにかかる!」2人は端末に取り付くと“侵入”を開始した。「何としてもKの足取りを掴め!クズとは言えヤツの命が掛かっている!」ミスターJは厳命を下した。そして、Y副社長へ緊急打電を送信した。「何処に居るんだKめ!」

Y副社長は、退社寸前にミスターJからの緊急打電を受け取り、顔色を変えた。「Kが逃走だと!!ヤツの事だ、私に復讐を企んだか?!」インターフォンを手にすると秘書課長を呼び出す。「お待たせしました」「直ぐに来い!」雷鳴にも似た大音声で言うと、秘書課長はノック抜きでデスクの前へ転がり込んだ。「如何なさいました?」「Kが収容されていた病院から逃走した。目下、警察とミスターJ達が全力で追っているが、まだ手掛かりを掴めておらん!」「Kが逃走?!何故そんな愚かな行為に・・・」秘書課長は絶句した。「逃走経路が見えていないと言う事は、どこに現われるか分からない事を意味する。つまり、ここへ押し入ってもおかしくは無いと言う事になる。今現在残っている社員はどのくらい居る?」「大半は退社しておりますが、本社屋にはまだ10名程度は居残っています。工場には、遅番と夜勤の者達が約30名程度が居ります」「そうか、緊急事態だ!本社屋の者達は至急帰宅を促せ!それから、前回の作戦に参加した者達を集めてくれ。我々のところは自分達で護るしかない。Kの顔を知っている者達が必要だ!」「分かりました。至急呼び出しをかけます。Y副社長、対策本部はどこへ設置されますか?」「ここでいい。必要な食料や飲料水は呼び出す者達に買い集めさせろ。とにかく時間が無い。至急手配にかかれ!」「はっ!」秘書課長が飛び出して行くと「K、何を企んでいる!復讐か高飛びか?いずれにしても備えを取らねば。ミスターJに情報提供を依頼して置くか」Y副社長は返信を打電した。

いみじくもKは、ミスターJ達の予想通りに動いていた。唯一、違ったのは病院からの脱出に職員の車をジャックした事であった。職員更衣室から盗み出した衣服や財布の中に車のキーもあったからだ。だが、車を特定するのは難儀だった。リモコンキーのボタンを押しながら駐車場を徘徊する事10分。黒い軽自動車を突き止めると車に潜り込み、着替えを済ませた。「さて、最寄駅までのルートを検索するか」エンジンを始動するとナビの起動を待って、ボタンを押しまくる。音声操作ボタンを偶然押して「どちらまで行かれますか?」とのガイド音声にギョっとしつつ「東武東上線の○○駅へ行け!」と命じた。画面が切り替わり「ルート案内を開始します」と話しかけられ、またギョっとするがKは車をスタートさせた。病院のゲートは職員パスで意図も簡単にクリアする。パトライトの洪水を尻目にKは帆をかけて逃走を始めた。「ふふふふ、ここまでは読めていた。後は警察の検問だな。ナビがあるから、裏道を走っても目的地には辿り着けるだろう。まず、初動は成功だ!」Kは幹線道路を避けて裏道を選び車を走らせた。警察車両との接触は避けなければならない。裏から裏へ、遠回りにはなるが駅方向へ軽自動車は近づいていた。「当然、駅にも網は張ってるだろう。だが、今なら隙は必ずある!」Kには妙な確信があった。直感、いや第六感と言ってもいい。Kは吸い寄せられる様に駅へ走り続けていた。

同時刻、横須賀ではSとクレニック中佐との会談が行われていた。「Sさん、パスポートはお持ちですか?」「俺のトランクに入っている。それがどうした?」「我々は、もう直ぐ貴方を解放します。ですが、この基地から一歩出れば、貴方は日本の当局の追及・訴追を受ける事になる?そうではありませんか?」「こっちの手の内はお見通しか?ならば聞くまでもあるまい。首都高の事故、撹乱波発生器による襲撃、その他にも後ろ暗い事は多々ある。それがどうした?俺が訴追を受けてもあんた達には関係あるまい?」「それが大ありなのよ。貴方に“その意思”があればの話だけれど」「何を企んでいる?」「ペンタゴンにFBIにCIA、それらの関係者が撹乱波発生器について、非常に強い関心や興味を持っていているの。渡米して証言してくれるなら、貴方が引き起こした一連の事件について、大使館ルートで揉み消しを約束してもいいわよ!でも、これはあくまでも提案に過ぎない。貴方にその気があればの話。どう?考えてもらえるかしら?」「うーむ、期間はどれくらいだ?」「おおよそ半年。それだけ時間があれば、事を雲散霧消に持ち込むのに充分な時間を得られるわ。我々も国防上の懸念や脅威に対して、重要な証言を得られる。双方に不利な事はないと思うけど」「その間、身柄の保証はしてくれるのか?」「重要な参考人に危惧を抱かせる事はしないわ」「部下達はどうする?」「3人とも亡命を希望しているわ。勿論、証言と引き換えにだけど」「堀は埋めてある様だな。投降しなければ、狼に食わせるつもりだな!だが、俺は死なん。切り抜ける道を開く。いいだろう、アメリカで証言する事に同意する。その代り、事を揉み消すのを忘れるな!あんたに言っても知らんだろうが“火中の栗を拾う”と言う諺がある。俺は敢えて飛び込んで活路を拓いてみせる!」「分かったわ。その諺なら知っている。貴方なら活路を拓いて凱旋できるはずよ!」「あんた、軍人にしとくのは惜しいな。政治家に転身すれば、合衆国も思うがままに出来るだろうに」「いずれ、政界にも進出はする予定よ!でも、まずは法務部長の椅子と少将の階級を手にしたわね!」「あんたなら行けるだろう。俺の予感は結構当たるんだ」Sは不敵な笑みを浮べた。クレニック中佐も微笑んだ。取り引きは成立した。

「どうだ?」「セダンは全て出動させました。乗り込めるだけの隊員を詰め込んで。その内4人には背広を着せて、渋谷駅へ紛れ込ませます。Kを発見した場合は、状況に応じて追跡か捕縛を実行させます」「Kの写真は?」「携帯に送ってあります。4人は最寄駅から電車で渋谷駅に潜入します。他の者達は、Pホテル周辺に分散して待機します」「よし、今のところは最善手を打ったな」ミスターJはリーダーの報告を聞いて頷いた。「“シリウス”、何か掴めたか?」「Nシステムも完璧ではありません。今のところ網にかかって来ませんね。裏道を辿られた可能性が高いと思われます」“シリウス”が悔しそうに言う。「仮にKが電車に乗り込んだとしよう。渋谷駅で捕捉出来る確率はどのくらいある?」「東急線へ直通する列車はまだありません。工事が完了するには、まだ時間がかかります。乗り換える必要がありますから、ホームで捕捉出来る可能性は充分あります!」「それに、監視カメラへの“侵入”は終ってます。画像認証システムで割り出せば、間に合いますよ!」N坊も声を上げる。「横浜駅にも“侵入”は終ってます。最後の砦も備えはできてます」F坊も答える。「網は張り巡らせた。獲物がかかるのを待つばかりか。Kのヤツどこに消えおった?」ミスターJは唇を噛む。「待つしかありませんね。しかし、必ず網にかかりますよ!」リーダーが言う。「危険な状態でなければな・・・。傷口が開けば感染症から多臓器不全に陥る可能性が高い。一刻も早く見つけるんだ!」ミスターJは渋谷駅の画像に見入っていた。

ミスターJの懸念は、的を射ていた。Kは、東武東上線の最寄り駅を目指したが、途中で進路を変えて首都圏よりに1駅先を目指したのだ。警察の裏を掻いた策は当たり、見咎める者を気にせずにKは堂々と列車へ乗り込んだ。しかし、代償が無かった訳では無い。縫合した傷口が開き始めていたのだ。初めは疼く程度ではあったが、次第に痛みは波打つ様に襲い掛かった。「¨心頭を滅却すれば、火もまた涼し¨これしきの事で、俺は諦めんぞ!」Kは虚勢を張って素知らぬ風を装ったが、傷口からは遂に出血が始まった。列車は一路首都圏を目指してひた走ってはいたが、Kは次第に意識を失いつつあった。「何処まで来たんだ?」虚ろな目に駅名標は映らなかった。時間と共にKは昏睡状態に陥った。だが、他の乗客達は気付かない。Kを乗せた列車は、首都圏へと入って行った。状態は加速度的に悪化していた。¨DB!後を、後を頼む!¨Kの思念は遥か彼方に及んだ。

「どうだ?」ミスターJがリーダーに問う。「県警の知り合いの話では、非常線を破られた模様です。病院の看護師の軽自動車が盗まれ、他にもスーツや財布や帽子が無くなっているとの事です。また、Kは、刑務所内で剃髪しているそうで、容貌も我々の知り得ている姿とは変わっています。車にはナビが付いていたそうですから、裏道を走って逃走し、既に列車内に居ると見ています!」「だとすれば、何処までKは前進したか?だな。ヤツなら何を考える?どう、潜り抜ける?」ミスターJは必死に思いを巡らせる。「¨スナイパー¨、距離と方向から推察して、病院からの最寄り駅の前後駅までの推定到達時間は読めるか?」「幹線道路を避けて裏道を抜けたとすれば、40~50分はかかるでしょうか。警察の裏を突くなら1駅前に出るのがセオリーでしょうね!路線図を見ると、準急や急行が確実に停車するのが、1つ前ですから」「多分、ヤツもそれを狙っただろう!渋谷駅まで確実に行く列車のダイヤは?」「この4本の内のどれかでしょう!」¨スナイパー¨は画面上を指差す。「F、Kの写真を編集して現状を反映させてくれ!スキンヘッドに帽子を被らせろ!」「はい、10いや5分下さい!」F坊が言う。「Nよ、Kのパソコンのデーターを至急洗い直せ!青龍会からの買い物を今一度調べ直してくれ!恐らく¨偽造パスポート¨を手に入れているだろう」「分かりました!メールを調べてみます!」「¨シリウス¨お前さんは、渋谷駅の監視カメラから眼を離すな!Kが姿を現すのはあそこしかない!」「はい、顔認証システムで追います!」「Kの写真が出来ました!」F坊が叫ぶ。「リーダーと私の携帯へ送信しろ!リーダー、渋谷駅と横浜駅の隊員へ転送をしろ!」「はい、今、やってます」「¨スナイパー¨4本の渋谷駅到着時刻を¨シリウス¨に教えろ。それと、車を用意してくれ。私も横浜へ向かう!」「承知しました。これが到着時刻だ」¨シリウス¨の手元にメモが渡される。「リーダー、状況が分かり次第、携帯へ連絡をくれ!私はKを捕らえに出る!指揮は任せるぞ」「了解しました。Kの画像は転送を終えました。ミスターJ、どちらまで出られます?」「横浜駅で待ち構える。まず、ヤツを捕らえて病院へ担ぎ込むのが緊急の課題だ!¨スナイパー¨、出るぞ。最速で横浜へ飛ばせ!」ミスターJは腰を上げた。エンジンの咆哮は急激に高まり、¨スナイパー¨の車は急発進して行った。
「Y副社長、前回の作戦に参加した者が集結しました。現在、車で敷地内のパトロールを開始しています」秘書課長が報告すると「よし、Kの容貌写真が届いている。彼らの携帯へ転送しなくてはならん。今、君のPCへ送ったから、各員へ転送を急げ!それと、ベトナムにもK逃走を知らせて置け!DBになんらかの変化があるはずだ」「分かりました。しかし、ベトナムに影響があるとは思えないのですが?」「KとDB、彼等の時空間を越えた繋がりは侮れない。何かしらの変化は予測すべきだ。万が一を考えれば手は打って置くべきだよ」「はい、至急ベトナムに打電します!」秘書課長が飛び出して行くと「KとDB、彼等は最後に何を伝え合う?必ずやKはDBに¨彼¨の始末を託すだろう!それをキャッチ出来れば最善なのだが…」Y副社長は1人呟いた。

¨DB、起きよ!DB聞いてくれ!我は間もなく一生を終えるだろう。貴様を救う事も叶わずに、逝くのは痛恨の極みだ。だが、貴様は必ずや日本の土を踏み、憎き小僧に会い対するだろう。後を、後を頼む!¨
DBは、潜在意識下でKのメッセージを受け止めた。睡眠薬が切れて覚醒した後、DBは眼だけを動かして周囲を伺った。身体を動かすと、透かさずロックンロールがフルボリュームで流れるからである。¨Kよ!メッセージは受け止めた!後は任せろ!¨DBの眼からは涙が流れた。しかし、声を上げたり身体を動かす事無く、横臥し続けた。静かにKを送るにはそれしかなかったのである。「どうだ?変化の兆しはあるか?」「いえ、特にありません!そろそろクスリは切れるはずですが、此れと言った変化は見えません」「念のため麻酔ガスを噴射して置け!下手に暴れられると事だ」「はい、ガス噴射開始しました!」「DB、悪いが今しばらく眠ってくれ。安全管理上、やむを得ないのだ」間もなくDBは、意識を失い深い眠りの世界へ落ちて行った。

闇夜を切り裂く様に¨スナイパー¨の車は疾走していた。どこを走っているかを知っているのは、ハンドルを握る¨スナイパー¨だけ。裏道を抜け、幹線道路を避けて車は横浜を目指している。ミスターJの携帯が鳴った。「Kが青龍会から買ったブツが割れました!偽造パスポートです!」N坊が報告する。「やはりそうか!現金と共に隠されいるに違いない。場所は推定出来ないか?」「前回の作戦でのK達の行動記録を洗って見ましたが、Pホテルに程近いサウナが怪しいですね。ロッカーの鍵が見つかれば、間違い無くそこしかありません!」「分かった!当局の手に落ちる前に、我々が手に入れねばならん!渋谷駅の状況は?」「1本目が到着しましたが、Kの姿は見つかっていません。隊員達からも報告はありません!」「引き続き監視を続行しろ!連絡は適宜かつ速やかに入れろ!¨スナイパー¨、後どのくらいかかる?」「30いや、20分下さい!これからが山場です」右に左に車は目まぐるしく旋回する。「Aか。夜分に済まんが、Qに連絡して□病院に救急受け入れ体制を取らせろ!間もなく患者を捕らえて搬送する。応急処置後にZ病院へ送る事になるだろう。¨ドクター¨にも知らせてくれ!Kだよ!ヤツが逃走してこちらに向かったのだ。かなり厳しい状況になるだろう。ああ、そうだ!1秒も無駄に出来ん!直ぐにかかってくれ!」ミセスAに繋ぎを付けている間も、車は疾走し続けている。また、携帯が鳴った。「Kを捕らえました!隊員達が介助しています!意識はまだありますが、朦朧としていて自力での歩行は困難な状況です!」リーダーの声は絶叫に近い。「分かった!○○駅まで護送しろ!□病院へ担ぎ込むんだ!全速力で車両を回せ!¨スナイパー¨□病院へ急げ!」「了解、荒っぽく行きますよ!」前にも増してエンジンは咆哮し、横Gが容赦なく襲い掛かった。ミスターJは必死にY副社長への打電を行った。¨K捕獲す。意識等は不明。急ぎ治療へ…¨で送信してしまった。「まずは、Kから鍵を奪わねば!」ミスターJにも珍しく焦りの表情が浮かんだ。当局の手に落ちる事だけは避けなくてならないのだ。

「どうやらKを捕らえた様だ。秘書課長!全員を集めてくれ。危険は回避された!後はヤツの安否確認をすればよい。最終的には、恐らくZ病院に担ぎ込む筈だ。私の車を用意したまえ。時が来たら行くとしよう」「はい、直ちに!」秘書課長が行く背中を見ながら、Y副社長は「これがヤツの最期となろう。如何に化け物染みた輩でもな」と呟いた。相容れない仲ではあった。仇敵でもあった。だが、そんな人間でも¨先に逝く¨のは、寂しい事だった。「Kよ。貴様は仇敵ではあったが、共に社業に励んだ事もある。悪に手を染めたのは痛恨の極みだが、先に逝くとは何事だ?!」誰も居ない部屋でY副社長は、吐き捨てる様に言った。頬に一筋、流れ落ちるモノが光った。

Kは、□病院で応急処置を受けてからは、救急車でZ病院へ搬送された。「ミスターJ、有りました。ベルトのバックルの中に入っています!」隊員が切り取ったバックルを差し出した。バックルをこじ開けると、やはり鍵が見つかった。「あった!これがヤツの切り札か。他には怪しいブツは無かったか?」「いえ、不審なものは何もありませんでした」「そうか。君達は、警察から事情聴取を受けるだろう。対策は準備してあるな?」「はい、4人で口裏を合わせる準備は出来てます。ただ、ここの関係者とはどうします?」「私にお任せを。ミスターJ、□病院側と部下の皆さんとで擦り合わせをしたいのですが、宜しいですか?」「Qよ、済まんが宜しく頼むぞ!ところでKの容態は?」「大変危険な状況です。朝まで持つかどうか?断言出来ません!」「いよいよ、あの悪党も最期か・・・、Q、後は任せる!私はZ病院へ向かう!」「急いで下さい!時間はあまりありません!」「分かった!¨スナイパー¨、Z病院へ向かう!」「はい、急ぎましょう!」ミスターJはZ病院へ急いだ。「リーダー、KはZ病院へ搬送された。各隊は、最小限を残して引き上げさせろ。私は、ヤツに会って来る」「了解しました。警察はまだKの行方を把握しきれていません。ですが、追い付くのは時間の問題でしょう。¨ブツ¨はどうなりました?」「私の手の内に確保してある。心配は無用だ」「では、我々は待機体制に戻ります。くれぐれもご用心なさって下さい!」携帯は切れた。Z病院はもう目と鼻の先だった。「¨スナイパー¨、どう言う魔法だ?」「住宅街を突っ切っただけです。普段は使わない奥の手ですが、時間帯が深夜ですから」「救急口に着けてくれ!¨ドクター¨に話を聞いて見よう」「了解、私も同行しますよ」「いや、1人で行かせてくれ!最期になるだろうから」ミスターJはしんみりと言った。救急口には、¨ドクター¨が待ち構えていた。「覚悟は出来てるじゃろうが、朝日を拝めるかどうか・・・」「Kは何処に?」ミスターJは誰何する。「ICUの右手前じゃ!どれ、案内しよう」¨ドクター¨はICUへミスターJを招き入れた。Kはあらゆる医療機器を纏っていた。時間の問題ではあったが、医師達は最善を尽くしていた。「1人にしてくれるか?」「ああ、別れを言う時間はある。わしは外で待つとするかの」¨ドクター¨が席を外すとミスターJは「悪党の分際で、散々振り回しおって!だが、貴様は卑怯者だ!何故、先に逝く!仇敵とは言え、同じ時代を生きた証を奪うのか?!」ミスターJの頬にも一筋、光るモノが流れた。しばらく無言の時が流れた。「去らばだKよ。いつの日かまた会おう!」ICUを出ると¨ドクター¨が「時代は変わるな。老兵は去り、若者が次の時代を紡ぐ。時間は誰にも止められん!」と呟いた。ミスターJはY副社長へ打電をした。¨K、世を去る¨享年60歳。悪に手を染めなければ、後5年は活躍の場はあった。だが、これも運命だったのかも知れない。朝日が顔を出した。Kは静かに息を引き取った。

それから数日後、八王子の¨司令部¨には、最後まで残った人員と車両数台が引き上げの準備を終えて待機していた。「¨撤収作業¨完了しました」リーダーが静かに報告すると「さて、帰還するか。皆、ご苦労だった!今次作戦も無事に終了した。¨基地¨へ戻ろう!」ミスターJが宣言をすると、車両は続々と西へ向かった。ミスターJの胸には幾つもの画がスライドショーの様に去来した。まず、1つ目。Kの死は当初収容された病院での急死とされ、逃走の事実は伏せられた。当局にしても取り逃がした事実は、手痛い失敗であり世論の追及をかわす必要があったからだ。Kが秘匿していた鍵についても、当局は気付く事はなくミスターJ達の手によって始末が付けられた。2つ目。M女史の手には合計で1億1千万円の資金が贈られ、事務所経営は当面の安定を見た。¨黒のベンツ¨は2台で3000万円の値が付き埼玉の業者が落札した。予想外の大金にM女史は、腰を抜かしたが「Sがアメリカで¨国際法の勉強をしたい¨と言い出しました。2~3年はかかるでしょうが、バックアップしたいと考えております。それまでに事務所経営を軌道に乗せ、強固な体制を作り上げるつもりです!」M女史はしかと前を向いて答えた。まだ、新生事務所は立ち上がったばかりだが、彼女なら必ず成し遂げるとミスターJは確信した。3つ目。Y副社長は、Kの最期を見届けると「ミスターJ、DBの件は責任を持って引き受ける。“彼”の再起に力を尽くしてくれ!」と言い「“彼”が復職した折には、君の職場に配属しようと思う。免疫の強化とDB対策を伝授して欲しい!」と依頼を持ちかけて来た。ミスターJは、2つ返事で応じた。残された会社勤務の最期に相応しい任務だった。4つ目。R女史は近々、Z病院から退院する予定だ。“ドクター”からの情報では「これからは、地域に特化した事務所経営にするつもり。馬車馬みたいに働くよりは、身近な人々の支えでありたい。人恋しくもなったから、お見合いでもするつもり。相手は弁護士でなくてもいい。父さんみたいな暖かい人を見つけて、しあわせに暮らすの!」と毅然として言い放ったそうである。更に彼女は、Kの遺骨を引き取った。2人の実の娘たちはKの遺骨の引き取りを拒否し、無縁仏となる運命になりかけていたが、何故か彼女は手を上げたのだった。理由はつまびらかではないが、彼女も父親の背を追っている。父のして来た道を知らず知らずに継いでいるのかも知れなかった。「N坊!F坊!いい加減に諦めろ!廃車になっちまったら元も子もないじゃないか!」無線で“車屋”が呼びかける。「そうはいかねぇ!意地でも自力で帰るぞ!」「折角治ったキャリアカーを“おしゃか”にしたら、非難轟轟だろうが!」2人は虚勢を張る。だが、2人の車は遅々として進まない。原因はお分かりだろう。ミセスAの“悪魔のボストンバッグ”と当人である。過積載は覚悟の上だったが、予想した以上に登り勾配に手こずっていた。彼らの車は、後方に置き去りにされつつあった。「だーかーら、諦めろよ!修理不能になったら本業に支障が出るだろう?」“車屋”が必死になって説得を試みる。「ダメよ!折角、NちゃんとFちゃんとドライブを満喫してるんだから!邪魔するなんて野暮はさせないわ!」ミセスAも譲る気はなさそうだ。「OK、付き合うよ。どの道ここから先は急こう配区間だ。牽引の用意もして来たから、ゆっくり行きな!」“車屋”は寄り添う様に後ろから追跡して行った。

退院したR女史は、菩提寺にKの遺骨を納めた。供養に必要な費用は、Kが偽造パスポートと共に秘匿していた現金が充てられた。ミスターJは、パスポートは持ち帰ったが、現金はM女史を通じて彼女に託したのだ。「K、安らかに眠りなさい。DBはベトナムで元気に働いているわ」彼女は優しく呼びかけた。「お嬢様、そろそろお戻りにならなくてはお体にさわります!」母親同然のスタッフが呼んでいる。「はーい、帰るわよ!」彼女は元気な声を上げた。「貴方達には感謝してます。でもね、そろそろ引退に備えて後任を探して頂戴!そうしないと孫の顔が見られないわよ!」いたずらっぽく彼女は言った。「何を言われますか!我々は亡きお父様からお嬢様を託されております。まずは、相応しい婿探しからです!」「弁護士に拘らないで!父さんみたいな人ならサラリーマンでもいいわよ!」2人は眼を丸くした。「私は、この街と共に生きてくれる人なら、それでいいの。父さんが護ったこの街を私も護り続けたいのよ!」青空の下、彼女は歩き出した。光あふれる港街に向かって新たな一歩を踏み出していく。「光の戦士。ウルトラマンじゃないけど、そんな弁護士になる!」彼女はそう言って、次の時代を紡ぐべく進みだした。

New Mr DB 完