limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 2

2019年03月25日 18時15分17秒 | 日記
「Y、ちょっと残ってくれ」理科の授業が終わったところで、大島先生が僕を呼び止めた。誘われる様に“理科準備室”へ招かれる。「お前も気付いているだろうが、原先生と沼田先生のバトル。どうにかならんか?」学年主任でもある大島先生がぼやく。「沼田先生の背後には内田先生が居ますよね?犬猿の仲ですからね。両者が譲り合うとは思えません!」僕がそう返すと「やはりそれか!このままではマズイ展開になるのは火を見るより明らかだ。やはり乗り出すしかあるまい。これを原先生に渡してくれ!」大島先生がメモ書きを僕に差し出す。「言うまでも無いが、他言は無用だ!くれぐれも他の先生方に気付かれるなよ!」「はい、お預かりします」僕はメモ書きを内ポケットへ滑り込ませる。「きっかけは何だ?お前は何処まで知っている?」「女子の中の誰かが、沼田先生と直接相談しちゃったのが引き金になったとは聞いてます。そこから事がこじれて行ったのと、内田先生が乗り出して来たのが追い打ちになっています。原先生にしても“引くに引けない”状況でしょう。元々仲は微妙でしたが、沼田先生があちこちに話をばら撒いたのと、内田先生が支持に着いたのが面白くないのは確かです」僕は知り得ている範囲を話す。「分かった。この話は俺もお前から聞いたとは言わん。だが、これ以上事がこじれるのは問題だ!ウイスキーか?日本酒か?」「水割りです。最近はロックでやっている様ですよ!」「分かった。考えて見るか!もういいぞ。確実にメモ書きは手渡してくれ!」大島先生は時計を見る。休み時間は5分を切っていた。「失礼します」と言って“理科準備室”を抜け出すと同校舎3階の“国語準備室”へ急いで登る。ドアをノックして「失礼します」とドアを開けると原先生がタバコを吹かしてプリントの仕分けをしていた。「Y、どうした?」「大島先生からの伝言です」と言ってメモ書きを手渡す。しばらく見入っていた原先生は「水割りかロックと言ってあるな?」と確認を入れる。「はい、そう返事をしてあります」と言うと「よし、久々にタダ酒だ。給食は控えめにするか?丁度いい、このプリントを5組へ届けろ。内田の顔色を窺って来い!」とプリントの束を指す。「分かりました。始業に遅れますがいいですか?」「ああ、ヤツの腹の内を見定めて来い!」「はい」僕はプリントの束を抱えると、北校舎の3階を目指した。5組と6組は体育のはず。内田先生は教室で策略を巡らせているはずだ。さりげなく教室内を見回して変化が無いかも確認をしなくてはならない。運動会が近づいていた。



マンモス校の運動会は大変だ。赤白以外に青と黄の組が縦割りで編成され、総当り戦が組まれる。1年や2年も頑張らなくてはならないが、3年は“大将戦”として勝敗を左右する立場になる。これまでの2年間、5組には負けていないが“最終学年”として各組の担任は成績に拘る。原と内田の両者は“犬猿の仲であり、因縁の対決”に燃える傾向が特に強かった。クラスマッチも運動会も内田の5組は僕らの2組に“惨敗”を続けていた。今回は特に“勝ちに拘る”に違いない。そのためには、禁じ手をも辞さないだろう。現在進行中の先生方のバトルもそうだが、とにかく内田は原先生を“ギャフン”と言わせたくてたまらないのだ!果たしてどう言う手を考え出すのか?それを探るのが今回の任務だ。



案の定、内田先生は教室の机で唸っていた。「失礼します。先生、プリントをお届けに来ました」と僕が言うと「おー、悪いな。持って来い!」と手招きをした。机の上には“体力測定”のデーターと電卓が置かれていた。どうやら、数字を積み上げて勝てる算段を組み立てているのだろう。「原の機嫌はどうだ?つまらん事でグダグダ言いおって、ピアノの音が狂いっぱなしだ!」吹奏楽部の顧問である内田先生の言葉を聞いて、バトルの元凶はどうやらウチの敏子らしいと察しがついた。「お前のとこの戦略は読めている!だが、ウチにも“秘策”はある。“今度こそ2組に勝ってやる”と原に言っとけ!こっちには優秀な1年と2年が付いているしな。ヤツもそこまで計算はしとらんだろう?」「どうでしょう?僕らも全力でやりますから、易々とは負けませんよ」と挑発して見ると「数字は嘘は付かない!前半でリードすればこっちにも勝ち目はあるぞ!お前らがヘトヘトになったところで勝負すればこっちのモノだ!優勝は貰った!」と胸を張った。壁を見るとウチのクラスの個人成績が貼り出されている。各人に意識させるためだろう。「それとだな、これを原に渡してくれないか?」内田先生は封筒を差し出す。「分かりました。お預かりします」と受け取ると「沼田先生からの親書だ。彼女も反省しとる。いい加減に和解しろと原に言っとけ!」と言い放った。あまり長居をすると怪しまれるので、封筒を内ポケットにしまうと「失礼しました」と言って5組の教室を辞した。



自分の教室へ舞い戻ると、運動会の作戦会議が始まっていた。¨指定席¨座ると「Y、内田はどうだ?」と先生が聞いて来る。僕は席を立ち聞いたままを報告して、沼田先生の¨親書¨を差し出す。先生は、¨親書¨に眼を落とすが薄笑いを浮かべると「Y、これは適当に¨始末¨して置け!」と言って封筒を差し出す。つまりは¨いらないから分からない様に処分しろ。中身は一応見て置け¨と言う意味合いだ。「それと、内田の話だがどう思う?」「確かに数字は嘘は付きませんが、心の内まで読んでるとは思えないですね。天候や風向きや心理状態を含めて総合的な判断をしないと、結果だけを求めても勝てるはずはありません。逆にプレッシャーになって散々な成績になるのでは?」「俺もそう思う。ウチと5組の決定的な違いは¨厚み¨だ。先行逃げ切りはこの¨厚み¨があるか無いかで大きく変わる。1年生や2年生は¨飲まれれば¨本来の力は出せないはず。それを内田はどう読んでるか?だが、お前はどう感じた?」「単純に数字を繋ぎ合わせてるだけだと思います。団体競技は作戦は立て易いですが、リレーは数字以上に心理戦です。先行逃げ切りを狙ってるんでしょうが、向こうは¨追われる立場¨を知りませんから、電卓でいくら計算しても数字通りに事が進むはずがありません」「そうだな。内田が知らないのはそこだ。事は思惑通りには運ばんモノだ。精々電卓を叩かせて置くか?」「はい」「よし、いつもの様に¨最強のメンバー¨を集めよう!お前は、作戦担当者として相手の出方を分析して、俺に策を提案しろ!委員長!Yは¨いつもの任務¨に当てるから、なるべく競技から外せ!」「分かりました。どうしても人手が足りないモノだけにします!」こうして僕は運動会の選手選考からは外れ、¨作戦担当者¨として頭脳戦を戦う事になった。体力は無くとも作戦は立てられる。だが、今回は“勝ちに拘る策”を求められる。「瞬時の判断が事を左右しかねない」僕は選考メンバーを見ながら早くも思慮に沈んだ。



給食が終わった直後だった。「Y、ちょっと顔貸してくんない?」女子のお呼び出しだ。Tさんを筆頭に長田、山本、有賀、阿部の5人がずらりと顔を揃えている。嫌な予感が背筋を凍らせるが、行かないと“つるし上げ”を喰らいそうなので、仕方なく教室の隅へ向かう。「あんた、大島先生に呼ばれた後、何処に行ってたのよ?」長田が口火を切った。「それは言えない。先生達からの依頼は、原則話してはいけないんでね」僕が返した途端「沼田先生とのバトルの引き金になったのが、敏子だって気付いてるよね?今、どうなってるのよ!」山本が斬り込んで来る。「それも言えない。ただ、数日中に何らかの変化はあるとは言える」と僕はぼかしてして答える。「守秘義務があるのは知ってるけど、そこを敢えて曲げて答えなさいよ!敏子の命運がかかっているのよ!バトルは終結に向かうの?どうなの?」Tさんも踏み込んで来る。眼つきが怖いが、話していい事と悪い事はハッキリしている。“秘書役”としての責務上、これ以上の“情報開示”はNGだ。「今晩、大島先生が説得工作をやる。その結果如何で流れが変わるかも知れない。これ以上は勘弁して!」僕は逃げに入る。「あんたの口の堅さには、恐れ入るけど風向きが変わりつつあるのは確かなのね?」「敏子と先生が和解する方向に向くかも知れない?そう言う事?」有賀と阿部が出口を塞ぎつつ言う。「これ以上はNoコメント!沼田先生の背後には内田先生が付いてるから、原VS内田の代理戦争になってるのは分かるだろう?これ以上首を突っ込まない方がいい!」僕は必死に脱出口を探す。「あんた、先生から封筒を渡されてたけど、あれは何よ?」長田が尚も突っ込んで来る。「中身は知らない。ただ、後を残さず“始末しろ”って言われたモノだよ。もう、勘弁して!」僕は身を翻して逃げようとするが、女子達5人は中々逃走をさせてくれない。「敏子はどうなるのよ!曖昧に処理されても困るんだけど!」有賀が噛みついて来る。「そこまでは、僕も感知してない!どうするのか?も聞いてない。答えようが無いよ!」いい加減僕も解放されたくて、つい口調が荒くなる。「全ては今晩の説得工作次第って事?そこから先は、あんたも知らない?知らされてない?」Tさんがダメを押しに来る。「そう言う事!僕が知ってるのはそこまでだよ!」僕は悲鳴を上げた。つくづく実感するが、女子の集団は怖い。「悪かった!あんたを責めるつもりは無いよ。ただ、先がまったく見えないからこっちも困ってたのよ。でも、少しは明るい要素はあるんだね?それが分かれば敏子も気持ちが楽になる。もう少し様子を伺っているわ。でも、何か掴んだら話してくれないかな?」長田が言う。「全部は無理だけど、風向きが変わったのを感知したら知らせるよ」僕は止む無く“取引”に応じた。5人の女子はようやく僕を解放してくれた。敏子の席を見ると彼女は打ちのめされた様に座っていた。僕は急いで焼却炉へ向かった。“親書”を燃やす為だ。燃やす前に一応内容を読んだ。切々と謝罪の文言が綴られていた。「もしかすると、これは無くてはならないモノかも知れない」と僕は呟いた。今後の展開によっては、“親書”の存在が命運を左右する可能性もある。僕は独断で“親書”を制服に終い込むと教室へ戻り、通学鞄の底へ押し込んだ。



それから数日後の夕方「Y、例の“親書”はどうした?」学校委員会が終わって帰ろうとしていた僕に原先生が聞いて来た。「“始末”を言われましたので、焼却炉へ投げ込みましたが?」と言うと「ヤバイ事になった。“親書”の存在を問われて窮地に立っている。本当に灰にしちまったか?」先生はお手上げのポーズを取る。「実は・・・、もしやと思いまして、保管しています」と言って僕は通学鞄の底から“親書”を引っ張り出して先生の前に差し出した。「ほう、それは慧眼だ!首の皮1枚で繋がったよ!中身は読んだか?」「いえ、何も知りません」僕はそう言った。「流石だな!食えないヤツだ。知りながら知らないと言う。燃やしたと言いながら、手を回してある。俺の仕込みに100%答えてやがる!やはり、適材適所だったよ」先生はホッとした様に笑った。「敏子の事はちゃんと考えてある。戸口に隠れてる女子達に一言言って置け!それから、コイツの中身は他言無用だぞ!」先生は僕の左肩を軽く叩くと「もう、遅い。帰宅しろ」と言って教室を出て行った。Tさんと長田が雪崩れ込んで来る。「どうだった?」「和解の道筋は付けたって。明日くらいに話があると思う」と言うと「こっちが聞き入って居たの知ってたの?」長田が言うので「気配は察してた。先生も僕も。ちゃんと考えてるよ。先生は」僕が帰り支度をしながら言うと「よかったー、これで敏子もトンネルから脱出出来る!」2人は笑顔になった。「さあ、帰るぜ!早くしないと怒られちまう」「そうだね。ちょっと待ってて、あたし達も支度するからさ。途中まで“護衛”してよ!」Tさんが言う。「あいよ。あまり役には立たないけど」と僕も笑った。



運動会当日、黄の僕らのクラスと赤の5組が真正面から激突した。戦いは5分。一進一退の攻防が続いた。昼食休憩の時「Y、これから後半だが、女子は“騎馬戦”が男子は“棒倒し”がネックになる。何か策は浮かんでいるか?」と先生が問うた。「“棒倒し”は分かりませんが、“騎馬戦”は陣形でほぼ8割が決まります。赤が先に戦う場面にしたいですね。くじ引きの運もありますが。“綱引き”は先手さえ取れれば勝ちは見えてます」と答えた。「今、長田が“騎馬戦”のクジを引きに行ってる。赤の陣形を見定められれば、手はあるんだな?」「はい、恐らく赤は中央に3年生を置いて正面突破を図るでしょう。僕等は2年生を“当て馬”として中央に配置して、1年生を後ろにして3年生と共に左右に翼を広げた様に配置します。そして、1年生に撹乱をさせて3年生が中央を包囲する作戦です」地面に図を描いて説明する。「乱戦に持ち込む訳か!」「確実に3年生を殲滅するにはこれしかありません。大将戦は言うまでも無く勝てますから、僅差でもいいので騎馬を1騎でも多く残せばいいんです。2年生だって善戦はするでしょうし」「包囲されるとは思わないか?だが、次は通用しないぞ!どうする?」「1度見れば向こうも同じ陣形を取って来るでしょうから、2年生を3年生へ置き換えればいいんです。中央を開けて左右から挟み撃ちにすれば向こうも戸惑うでしょう」「うーん、図上ではそうだが、実戦ではどうでるかな?」「展開を有利にするには、赤が全て先に試合をする当り順に持ち込めればいいんですが・・・」と僕が言っていると、長田がガッツポーズで戻って来た。「2戦目を引きました。初戦は赤が青とやります」と言った。「これで作戦が立てやすくなったな。陣形はその都度変えよう!長田!Yからの陣形指示を待って隊列を整えろ!」「はい!Y、初戦の陣形は?」僕は陣形を指示した。「OK、次戦からの指示はその都度出してよ!」「ああ、走り回って行くよ」「おい、“棒倒し”は初戦を引いちまった!Y、作戦は?」M君が聞いて来る。「相手は?」「白だよ」「体力温存でしょ。引き分け狙いで充分。赤とやるまで本気は出さないで!」「まあ、連戦だからな。赤とやるまで戦力は温存でいいな?」「その線で行ってくれ!赤とやる時は攻撃重視で総攻撃だ!」「あいよ!」こうして午後のビッグゲーム2種目の方針は決まった。僕も“棒倒し”には守備要員で出るが、作戦指示は先生がやる。眼鏡を外したら相手の様子は伺えないからだ。その代わりに女子が先生の指示を伝えに来る手筈になっていた。最後の“対抗リレー”は疲れ具合を見て判断するしかなさそうだ。得点が拮抗しているだけに、取れるところで確実に得点を取らなくては最後の“対抗リレー”で突き放すのは難しい。僕はさりげなくグラウンドを1周して、1年生と2年生の疲れ具合を見て回った。特に赤チームは、入念に見入って置いた。前半で飛ばしに飛ばした反動は大きく、1年生と2年生の疲れ具合は他の3チームの比ではないくらい疲れ切っている。ウチは後半勝負と最初から“体力温存”を進めていたので、全学年が元気だ。「どうだ?」先生が聞いて来る。「飛ばした反動が出てますね。かなりへばってます。快晴の天気も影響して、日射病が心配ですよ」「目論見通りだな。こっちはまだまだ行ける状態だ。ヘトヘトになってるのは内田の手駒だけだろう?」「はい、赤の疲労感は相当に出てます。僅差で食い付いてますが、突き放しにかかれば付いて来れないでしょう」僕は見た事を分析して言う。「まず、“綱引き”で力が落ちる。“騎馬戦”“棒倒し”でヘトヘトにすれば、“対抗リレー”では走れない。Y、心理戦では優位に立ってるから、後は作戦次第だ!相手の動きを見逃すな!」「はい、良く観察をしてアメーバの様に策を変えます」いよいよ運動会も後半へ雪崩れ込む。原VS内田の“因縁の戦い”も佳境を迎えている。前半戦で温存した体力を効率よく後半戦に使えば、勝利は転がり込んで来る。内田先生が激を飛ばしているのが遠望されたが、生徒達は既にグロッキー寸前の者も居る。「数字は嘘をつかないだろうが、充分な体力があればこその数字だ。内田先生の算段は崩れたな」「Y、それじゃあ後半戦は楽勝か?」M君が言うが「そこまで甘くは無いよ。でも、長引けば体力は削がれる一方だ。簡単に試合を終わらせないで、引き伸ばせばいい。下級生から脱落者が出るかもね」僕はそう言って座り込んだ。“これからが本番。内田先生には悪いが、そろそろ本気で襲い掛かる算段をするか!”と心の中で呟いて策を考え始めた。運動会は最大の山場に差し掛かって行った。