limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 8

2019年04月05日 14時59分43秒 | 日記
土曜日がやって来た。さち、は来週には¨復活¨出来るメドも立った。だが、大気の不安定な状態は改善せず、相変わらず、午後からは雷雨の予報が出ていた。朝は快晴だが、午後は分からない¨気まぐれ¨だった。バス通なので4人が追い付くのは時間の問題だったが、その日は¨珍客¨が追い付て来た。「参謀長、オス!」「竹ちゃん!珍しいな!早起きが苦手じゃ無かったかい?」「そうも言ってられねぇ事情があるんだ!顔を貸してくれないか?」「それは構わんが、もう少しすると賑やかになるよ!」「Y、おはよー!って、竹内君?どうしたの?こんなに早くに」雪枝達全員が驚いた。「わりぃーけど、参謀長に用事があってさ。頑張って出て来たのさ。ちょいと拝借してもいいかな?」「それは、いいけど長くなりそう?」道子が言うと、「手間は取らせねぇよ!じゃあ、悪りぃけど貸してもらうぜ。参謀長、2人サシで聞いてくれねぇか?」「ああ、みんな先に行っていいよ。それで、竹ちゃんどうしたの?」「実は、道子の事なんだが・・・、参謀長!道子を譲ってくれねぇか?マジで俺、道子と付き合いたい!」竹内は真剣に頭を下げた。「竹ちゃん、何か勘違いしてない?それは、道子に言わなきゃならないセリフだろう?どうして僕の同意を求める?」「それは・・・、長官に言われてさ。¨参謀長のレディ達なら、まずは同意を取り付けろ¨って、言われちまってよ。それで、その・・・、」「僕が彼女らの管理人?それは、無いよ。恋愛と友情は別物だろう?好きなら、正々堂々と“かっさらって行けばいい”じゃないか!竹ちゃんなら相手とすれば¨申し分が無い¨し、道子もその気になるんじゃないかな?」「えっ!参謀長!いいのかよ?俺、本気で“かっさらっちまうぞ”!」「1人で5人を抱えるなんてあり得ないだろう?恋愛に関しては、僕は何も感知しないし“本人の意思を尊重する”つもりだよ。そうでなくとも、道子については、行く行くは“竹ちゃんに託そう”って考えてたとこだしな!先の“香水事件”の時に、“竹内君が香水たまに付けてるよ”って教えてくれたのも彼女だ。どうやら道子も意識的に竹ちゃんの背中を追ってるんじゃないか?これを逃す手は無いぞ!」「今の話、ガセじゃないよな?」「マジだ!それは保証する」「じゃあ、早速でわりぃーが“かっさらっちまうぞ”!目の前の大魚を逃がすつもりはねぇ。でも、本当にいいのか?参謀長にとって道子は“特別な存在”じゃないのか?」「それは否定しない。何しろ・・・」僕は道子と雪枝との“偶然過ぎる再会”について話した。「ひょえー、何とも“ドラマチック”な話じゃねぇか!そんな偶然ってあるんだな。だったら尚更手放すのは・・・」「僕は道子を導いて行く自信は無い!彼女の器は大きい。いや、大き過ぎる。来年の前期のクラス委員は、竹ちゃんと道子の出番になるはず。だから、今から信頼関係を作って置け!そして、竹ちゃんも僕等のグループに手を貸してくれ!伊東が基礎工事をして、次は恐らく久保田が建屋を作ってくれるだろう。それを強固にして揺ぎ無いモノにするのは、竹ちゃん!お前さんの役目になる。3期生が来る来年こそ大事な1年になる。その時までに、クラスをまとめて置くのは当然必要になるし、僕等の任務も拡大して行くだろう。今、一番困ってるのが野郎達の情報収集と動向についてだ。ここは1つ、手を組まないか?」「参謀長の条件は、それだけかい?」「道子を大切にするのは、言わなくても分かり切ってる事だろう?“伊達男、竹内”の真価は分かってる。グループの任務さえ認めてくれれば、僕がどうこう言う事は無い!任せたよ!竹ちゃん!」「それなら、俺も文句は言わねぇ!それにしても俺が“委員長”だって?マジでそう思ってるのかよ?」「長官にそこんところは言われてないか?裏では着々と人事が決まってるんだぜ!」「恐れ入ったよ!参謀長、ついでで悪いが道子との繋ぎを頼んでもいいか?」「勿論!引き受けるよ!取っ掛かりは付けよう。だが、そこから先は2人次第だ!」僕と竹内は、昇降口から教室へと向かった。レディ達は窓辺でお喋りに夢中になっていた。「道子、ちょっといいかい?」僕が呼ぶと「Y、遅い!みんなしびれを切らせてお待ちかねよ!」と苦言を呈される。「竹ちゃんが相談したい事があるらしい。聞いてやってくれない?」「うん、分かった。竹内君、何事?」僕は竹ちゃんに眼で合図すると、机に鞄を置いて窓辺に立って2人を見ていた。「Y-、あれどう言う事?」雪枝たちが心配そうに見守っていた。「静かにしてよう。2人の問題だ。竹内なら道子と仲良くやれるはず。もっとも、道子もその気になればの話だがね」「Y、竹内君が早く来た理由ってまさか・・・」「それだよ。野暮は言わないの!」僕はレディ達を懸命に抑え込んだ。

「Y、ちょっといい?」しばらくして道子が僕を廊下に連れ出した。微かに顔が赤い。「あたし・・・、竹内君に告白されたの。Y、どうすればいいと思う?」「道子は竹ちゃんをどう思う?」「気にはなってた。だから・・・、ちょっとビックリ。竹内君もYの手伝いをしたいって言ってるの。それと、“化粧品見に行かないか?”って誘われたけど・・・、どうしよう?」顔を赤らめて道子は困惑していた。「道子、竹内は真面目でいいヤツだよ。一見そうは見えないが、アイツなら間違いはない。後は、道子の気持ち次第じゃないかな?」「うん、そうだけど、Yを裏切る事になるのが・・・」「道子、それは違う。友情と恋愛は別だよ。そこんところは線を引けばいい。僕も道子が線を引いたら踏み越える事はしない。僕等もいつまでも子供じゃない。次のステップへ進んでみれば?」僕は静かに語りかけた。「Y、認めてくれるの?」「竹内と同じことを言うな。僕は“保護者”か?」「あたしにとっては“保護者同然”だもの。Yの“保護者”はあたし達5人だからさ。一応、同意は取って置かないといけないから」「許可します!2人で仲良くしていきなさい。これでいい?」「ありがとう。でも、これからもYとは色々やりたいから邪見にしないで!」「邪見になんかしないよ。道子がリーダーシップを取ってこそのグループだ。僕はあくまでも陰の実行部隊。指揮官は道子しか居ない。それは忘れないでくれ!」「うん、分かった!今日の放課後、さちのノートの総まとめに竹内君も加わってもらってもいい?」「了解!歓迎するって竹ちゃんに言っといてくれ。返事は保留してるんだろう?」「あー!全てお見通し?Yの観察眼の鋭さを忘れてた。じゃあ、返事して来るから。Y、ありがとね!」道子は走り出した。「さあ、行くがいい。新たな世界へ!」僕は道子を送り出した。ホームルーム前に竹内が「参謀長、感謝するぜ。絶対に離さねぇ!」と言って握手をしに来た。「後は、任せた!」僕等は笑って握手を交わした。

放課後、僕等に竹内を加えた面子で、さちへ渡すノートの仕上げと総点検作業が行われた。「何気に凄い事やってるんだな!進藤の分までノート取ってたとは知らなかったぜ!」竹ちゃんが眼を丸くして驚く。「僕等は、助ける時も戦う時も全力でやってるんでね。別に普通じゃないか?」「いや、ここまでやるのはあり得ねぇ!だが、長官や参謀長が言うと、普通に見えるのが不思議だ!へー、こんなに細かくまとめてるのか!」竹ちゃんは恐る恐るノートを見ている。「さちのためだもの。手は抜かないよ!それに自分達の復習にもなるから、一石二鳥の効果が出てるのよ!」道子が誇らしげに言う。「幸子、来週から“復活”するは間違いないかい?」僕が雪枝に確認を取る。「大丈夫。月曜には出て来るのは間違いないよ。“退屈で死にそう”って嘆いてたからさ」「Y、この部分だけどさ、方程式の解き方を詳しく書いといた方がいい?」堀川が僕の袖を掴んで言う。「あー、そこは僕もあやふやにしか理解してない!後で写させてくれ!」僕が頭を抱えると「俺にはチンプンカンプンでしか無い!参謀長、解説してくれねぇか?」と竹ちゃんが言う。「堀川、補習しよう。授業してくれ!」「分かった。この方程式の解き方は・・・」堀川がスラスラと黒板に書き出して解説を始めると、みんなも必死にノートを取り直す。「こんな事までやってるのか?」竹ちゃんが驚く。「普通だよ。みんなが得意分野をそれぞれに教え合ってるから」と小声で言うと「先生より上手いな。俺でも分かるぜ!」と竹ちゃんも俄然ノートに筆を走らせる。堀川が基本線を終えると、中島が応用編の解説を始める。相変わらず脱線するが、彼女なりの話術は聞いているだけでも楽しい。「参謀長は、どの教科を?」「僕は日本史と世界史と生物だよ。それぞれ、みんなのパートは違うが、全員が教える側と教わる側になる様にしてる。ノートの取り方も公開して工夫してるよ」「だから、ノートの山があるのか!やっばり凄いぜこれは!」「はい、じゃあ、まとめと点検にかかるよ!落ちが無いかキチント見てやって!」道子の音頭でみんなが一斉に見直しに掛かる。竹内は各人のノートを見て、必要とおぼしき部分を必死に写し始めた。「こんな機会滅多にねーから、ここで取り返してやる!」彼も俄然やる気になったらしい。「こら!あたしのノートをジロジロ見ないで!字が汚いの恥ずかしいんだから!」手の空いた中島が、竹内に噛みつく。「いいからもうちょっと貸してくれ!赤点取りたくはねーんだから!」竹内と中島のバトルが勃発だ。だが、決定的に違うのは両者共に笑っている事だ。こう言う雰囲気をクラス全体に広げたいものだ。「はい、はい、はい、2人共その辺にして!見直しいいかな?」道子が統率を執り始める。「OK、落ちは無い様だ。これで完成だな。では、“デイリーメッセージ”を書き込むか。今日はどうする?」僕はみんなに尋ねる。「“中島と竹内君のバトル勃発”でいいんじゃない?」雪枝が笑って言う。「それはダメ!差し替え希望!竹内君!そろそろ返してよー」中島は地団駄を踏んでゴネる。「“今日から竹内君参戦”はどう?」「それで行こう!堀ちゃんイラストを添えてよ」道子が決定を告げる。「ちょっと待ってね」堀川がイラストと共にメッセージを書き入れる。「これでどう?」「いいねー。完璧だよ!」「面白いね。Yのアイディアに脱帽!」こうして、さちに渡すノートは完成した。道子が紙袋に入れて慎重にしまい込む。「さあ、みんな帰ろう!」

いつもの帰り道、竹内が加わる事で話に花が咲いた。「参謀長、こう言う雰囲気をクラス全体に広げなきゃならねーな!」竹ちゃんがしみじみと言う。「そうだよ。だから竹ちゃんにも加わってもらったのさ!野郎共も日和見を止めて、打ち解けてくれれば雰囲気はガラリと変わるし、風通しも良くなる。そう言う日を1日でも早く迎えなきゃならない!伊東や長官の願いもそこにあるんだ!」「でも、菊地嬢は?ここ2日は休みだが、また何か仕掛けて来るんじゃねーか?」竹ちゃんの懸念は的を射ていた。「恐らく、また仕掛けては来るだろう。それは疑いの余地は無い。でも、それを水際で食い止めるのが僕と長官の役目だ。むしろ竹ちゃんは、野郎達の尻を叩いて溶け込みやすい方策を考えて欲しい。菊地嬢はこっちで叩き潰す!」僕は決然と言った。「了解だ。俺も今日、初めて思い知った。折角クラスメイトになったんだから、もっと互いに歩み寄って行かないとダメだ!参謀長とレディ達の関係みたいにな!これが“当面の目標”だが、もっと良くする事を考えねぇといけねぇ」竹ちゃんは豪快に笑う。その左には道子が寄り添っている。「Y、来週は自転車に戻す?」堀川が聞いて来る。「天気予報次第。濡れて帰ったら幸子の二の舞になるから、当日にならないと何とも言えない。どっちにしても朝は真ん中当りで待ってるよ」「分かった。傘また置いて来ちゃったから、来週まで待って!」「おー、忘れるなよ!」堀川と中島と雪枝は、じゃれながら先を歩いている。「参謀長、堀川とはどうなってるんだよ?」「竹内君、Yはね、今は長官と命懸けで奔走してるのよ。見れば分かると思うけど、現在は堀ちゃんの一方通行のままよ。Yの尻も叩いて置く必要はあるけどね、クラスが落ち着くまでは無理みたい。さちも、そこは気にしてる」道子がため息交じりで言う。「隅に置いとく訳にもいかねーな!参謀長!期待に答えてやれよ!」竹ちゃんが僕の背中を叩く。「そうしたい気持ちが無いんじゃ無いよ。でもさ、余りにも事が多くて手が回らないのが本音だ」僕はうな垂れるしか無かった。「そこは、今度から俺達が何とかするからさ。彼女の気持ちに答えてやれよ!」「ああ、いずれは決めなきゃならない事だからな。次のヤマを片付けたら返事を考える」「“次のヤマ”って何だ?」「菊地嬢の最後の悪あがきさ。既に事は動いてる」「本人不在でか?何を掴んだ?」「3組の原田が菊地嬢と手を組んだらしい。犬猿の仲にも関わらず、利害が一致した様だ。3組は原田が掌握してるが、ウチを傘下に置くつもりの様だ。コイツだけは絶対に阻止しなくてはならない!」「そんな話が進んでるのか?!それだけは許せねーな!長官と伊東は知ってるのか?」「知ってる。だが、手が足りないし、確証はまだ掴み切れてない。阻止するとしたら、竹ちゃんや久保田にも応援をしてもらわないと無理だ。原田を止めるには、クラスをキッチリ固めて置かないと、現状ではスキだらけだ。伊東は壁を固めるべく動いてる。竹ちゃん、手を貸してくれよな!」「言われなくても手は出してやる!久保田にも言っといていいか?」「頼むよ。1人でも多く集めて欲しい。これは、本当に最後の決戦になる!」「竹内君、Yを頼むね。そして、早く堀ちゃんの気持ちに答えられる状況にしてあげて!」「そこまで言われなくてもそうするつもり。野郎達の意地を見せてやるぜ!参謀長!次で決着させようぜ!」「ああ、必ずな!」僕と竹ちゃんは決着を誓った。血で血を洗うであろう決戦は迫っていた。

その日の夜、滝から電話がかかって来た。「菊地の動きを掴んだぞ!彼女、休んでる間に着々と手を打ってるらしい」滝の声は明るい。「こっちの“仕掛け”に引っかかったか?」「ああ、6組に居るヤツが情報を掴んだ!」「何をやってる?菊地嬢は?」「原田と取引を成立させた様だ。委員長の椅子を担保に、“人質”を差し出すと言ったらしい!」「“人質”とは、俺と長官か?」「ビンゴ!原田は“ブレイン”を欲しがってる。お前と長官を囲い込んで、意のままに操るのがヤツの狙いさ!そのために、あらゆる“要求”を呑むと言ってるぞ!」「悪いが、そのヨタ話に乗るつもりは毛頭ない!原田は何を用意すると言ったか分かるか?」「女に昼メシに、専属の秘書とか言ってたな。より取り見取りだそうだ!」「長官はこの話、知ってるのか?」「先に話してあるよ。“その様な事は断じて許さん!”って言ってたし、お前にも告げてくれとの仰せだった!」「滝、盗聴器を仕掛けられないか?」「おい、おい、マジか?どこに仕掛ける?」「3組の教室さ。直に原田の言動が聞ければいいが、手は無いかい?」「秋葉原が隣なら直ぐにも行けるが、如何せん遠いからな。それに“予算”をどうする?」「ローコストで行くなら、FMトランスミッターの方が現実的だ!放送室に転がってるヤツを改造出来ないか?」「同じことを俺も考えたよ。だが、“弁当箱サイズ”に詰め込んだとしても、マイクと電源の問題に突き当たった。雑音を覚悟でマイクに眼をつぶるとしても、電源が無いんだ。それに“明らかな不審物”にする訳にも行くまい!」「なる程、もっともだな。外側を別の筐体で擬装するとしても、電池では無理か?」「どうやって交換する?半日くらいしか持たないぞ!」「そうなると、AC電源か。変圧器が邪魔して小型化を妨げるって言うだろうな?」「当たり。今の電子部品では小型化するのは限界がある。盗聴は不可能だな」「となると、人が頼りだ。原田の女性関係は分かるか?」「あまり付き合いはないらしいが、4組に同級生にして同志の女は居る。それがどうした?」「その女の友達に網を張るんだよ!お喋りのついでにポロリと行けば儲けもの。その線で行けそうか?」「ふむ、長屋作戦か。ご近所に網を張るとは思うまい。OK、繋ぎを付けて見よう!可能性はゼロじゃないしな」「悪いが頼むよ。面と向かって行くのはNGだが、長屋に耳を仕掛けるとは原田も考えないだろう?一か八かだが、価値はある。月曜に長官と相談しよう」「手筈を考えとくよ。じゃあ、そう言う事で。おやすみ!」滝は電話を切った。

月曜日、鉛色の雲に覆われた空からは、時折雨が落ちて来る。やむを得なくバス通としたが、足取りは軽かった。さちが戻って来る。そう考えると心は弾んだ。¨大根坂¨の真ん中当たりでしばらく足を止めて待っていると、6人が登って来るのが見えた。「もしかして、竹ちゃんもか?」「参謀長!オス!」「Yー、おはよー!さちが戻って来たよー!」マスクはしているが、さちは「Y、悪かったね。もう、大丈夫だから」とはっきりと言った。「竹ちゃん、どう言う風の吹き回し?」僕も歩きながら聞くと「生活改善策だよ。自堕落な生活ばっかりじゃ委員長の椅子に座れねぇ!腹括ったぜ!それに、道子と登校するなら必然性があるだろう?」「そう言う事か。いいね!長官との話し合いにも同席してくれ。実は、兵力不足で困ってるんだよ」「そんなにヤバいのか?」「手は尽くしてるんだが、相手は3組の原田だ。実力行使に出られたらアウトなんだ」「と来れば俺の出番!って言ってもいいな。久保田も乗り気になってる。野郎達をその気にさせるのは、俺達に任せてくれ!伊東の援護に手は貸すぜ!」「ああ、荒事は極力避けるつもりだが、男子の結束は不可欠だ。竹ちゃん達に一任するよ!」僕等は話し合いながら教室へ雪崩れ込んだ。「さちー、はい!これが休んだ分のノートだよ!」道子がノートの束を手渡す。「えっ!えっ!教科毎になってるの?わー、こんなに細かく書いてくれてある!」さちは感激して泣き出した。「泣くなよ。当たり前の事しただけなんだからさ!」僕は肩を優しく叩く。「こんな素敵なノート、もらった事無いから。みんな、ありがとー!」さちは、涙声で言う。「良かった!さちが喜んでくれて。あたし達も頑張ったかいがある」道子も雪枝も堀川も中島も笑顔だ。「これは何?」「デイリーメッセージだよ。ちょっぴり遊んでみた」「Yでしょ?これ言い出したの」さちは、少しずつノートをめくりながら言う。「当たりー、少しでもその日の雰囲気を伝えたくてね」と言うと「どれだけ大変だったか分かるよ。Yー、ありがとー!」さちは、僕の頭を撫でる。「Y、道子から聞いた。今“最後の決戦”の真っ最中らしいな。Yの事だから何を置いても戦う覚悟だろう?だけど、無理はするな!あたし達の“保護者”なのを忘れるな!あたし達を置き去りにする事は許さないから!何があっても必ず戻れ!あたしとの約束、必ず果たすために戻って来い!」さちは、真剣な顔つきで言って頭を撫で続ける。「分かった。さち、必ず戻る!」僕は笑顔で言い、さちの手の上にそっと手を重ねた。「参謀長!」伊東達が呼んでいる。「Y、行って来い!」さちが背中を押した。

「そうか、やはり“盗聴”は無理か、して変わりの手立ては?」長官の表情は冴えない。「“長屋作戦”で行きます。原田には、4組に同級生にして同志の女子が居ます。その女の友達に網を張ります。菊地嬢が裏切る事を原田は危惧しているはず。必ず女と接触して手を回しにかかるでしょう。手間はかかりますが、ポロリと漏れるとすればそこしかありません!」「ふむ、まさか長屋に網とは原田も思うまいか。繋ぎは?」「既に手配済みで、今朝から網は張ってありますよ。何か引っかかれば直ぐに知らせてくれます!」滝が答えた。「伊東、“壁の構築”具合は?」「ここに居ますが、竹内と久保田が手を貸してくれるそうです」「まずは今井を落とす。そうすりゃ久保田のとこと合わせて7割は動員出来る。問題は赤坂だ!」竹ちゃんが言い問題を指摘する。「竹、それはこっちで手を考えてある!」伊東が僕を見る。「参謀長、有賀を焚きつけて赤坂を落とせないか?」「やっぱりそう来るか?!漏れなく佐藤もオマケで着いて来るが、やって見る価値はあるな。分かった。火は付けとくが、その代わり大火事になっても責任は取れないぞ!」「その前に消火チームを送り込むさ。そっちは竹と久保田の領域だ。竹、任せるぞ!」伊東が水を向けると「あいよ!これで野郎共の共闘は組める!」と竹ちゃんが自信を覗かせる。「女子はどうするんです?参謀長のとこはいいとしても、笠原グループへはどう通知します?」伊東が長官を見る。「ワシから話して置く。“慌てず、騒がず、日和見に終始しろ”とな。参謀長のとこのレディ達にも言い含めて置いてくれ」「分かりました。そうすると、後は、いつ挙兵するかですね。今週中か来週まで待つか?」「小佐野の情報では、原田は電光石火を言っている様だが、菊地嬢はどうするつもりか?今のところ気配は見せておらんだろう?そこをどう読む?」長官が思慮に沈む。「ちょっとごめんなさい。Y、これ、先生からのメモ」中島が届けに来た。「ありがとう。これ、どうしたの?」「預かったまでよ。とにかく見て置いて」中島は素早く戻って行く。僕は急いでメモに眼を走らせる。「そう来たか!長官!」僕は長官に先生のメモを渡す。「うぬ、これは・・・、正攻法で来るとはいい根性だ!」メモが回覧される。全員の表情が変わった。“明日の生物の授業をホームルームに変更する。伊東に連絡をして置け。内容はクラス内の諸問題について、菊地より提案があるのでそれを審議する”と書かれていた。「小癪な女狐め!真正面から突破を図るつもりか!」伊東が唇を噛む。「こうなると原田も動くはず!滝さん、至急網を洗ってくれ!何か出るはずだ!」「了解!6組へ行って来る」滝は教室を飛び出した。「赤坂を落としてる暇はねぇ!伊東、現有の戦力で対抗するしか手はねぇぞ!俺は今井の説得を久保田と急ぐ!」竹ちゃんも動き出した。「参謀長、理論武装をしている暇がない!こうなれば偵察抜きで攻撃機を出すしかあるまい!1次隊はいいが、2次隊は完全に“場当たり的”に出すしかないぞ!」「はい、しかし、2次隊は温存して直衛機を増やす方が現実的では?菊地嬢も仕掛けてくるのは1度だけでしょう。爆弾を落として混乱させればいいのですからね。むしろ、守備を固める直衛機を増やす事です。揺るがなければ転機を掴む目も浮かぶでしょう。どの道、賭けになるのは明らか。どっちがしっかりとした基礎を持っているか?で決まります!」「数の論理が通じない以上、議論の行方を左右するのは“心”だ!」「今のこのクラスにどれだけ“信の置ける者達”が居るか?だな」長官と伊東が僕を見て言った。僕も頷くしかなかった。決戦は明日と決まった。クラスの命運を賭けた一大決戦である。