ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

キヨシをめぐる、熱い冬

2016-02-26 23:50:30 | 日記
キヨシの周辺が、今、熱い。

キヨシについては19日付のブログで紹介したが
彼をめぐり、なんだかおかしなことになっている。

80を超えた今はもちろん
若き日も“イケメン”という言葉とは縁遠かったであろうキヨシは
その代わりに
人懐っこい性格と愛嬌、花と笑いをこよなく愛する優しさを
神様から授かった(と、思う)。

だから脳梗塞で倒れ、言語や歩行が少しばかり怪しくても
他の住人や職員たちから好かれているのである。

そんな彼の部屋を掃除するヘルパーのあおいちゃん。
若くかわいい彼女もまた、誰にでも好かれる娘(こ)だ。

毎週花屋さんからお花を届けてもらっているキヨシは
ある日、よくしてくれているあおいちゃんの分も花を注文した。
ありがたいが、断るのが規則。
あおいちゃんは彼を傷つけないように
「花をもらっても花瓶がないから」と
やんわり断って帰ってきた。

すると優しいキヨシは、バスに乗って近隣のショッピングモールまで出かけ
あおいちゃんのために花瓶を買ってきた。

「うへへ、これ、プレゼント!」
背中に隠し持った花瓶を差し出したキヨシの心は
どんなに弾んでいたことだろう。

そこまでされてどうしても断りきれなかったあおいちゃんは
花瓶を事務所に持って帰ってきた。
話を聞いた私は断腸の思いで没収。
カクカクシカジカで…と経緯を説明し
上司に渡したのだった。

そこまでだったら、何の問題も起きなかっただろう。
しかし、気のいいキヨシは
すべてを保佐人に話してしまう。
注)保佐人とは、精神障害により判断力が不十分になった人につけられる保護者。
 身よりのいないキヨシには、レイコさんという60代女性の保佐人がおり
 彼の財産管理や生活の手助けなどを行っている。

コトは、そこからはじまった。

事務所に電話を掛けてきたレイコさんは
失神しそうな勢いでまくしたてた。

「花をあげるといったら花瓶まで要求したヘルパーがいるらしい」
「なんて図々しい女を雇っているのだ!?」
「だいたいオタクはヘルパーたちが彼に優しすぎる」
「下心があるに違いない!!!」

責任者がどんなに丁寧に説明しても、レイコさんの怒りは収まらない。

そしてとうとう、彼女は狂う。

どうやらキヨシに内緒で、他に転居させようとしているらしいのだ。

いくら保佐人といえども、本人の同意を得ないまま転居させるなんて
ありえない話である。
しかし10年以上、保佐人であるレイコさんを頼って生きてきたキヨシ。
「あの人のお陰で今の俺があるんだよね」というほどに
彼女を信頼している。

ウチでの今の暮らしがどんなに楽しかろうとも
恩義を感じているレイコさんに歯向かうことはできないかもしれない。

どうするキヨシ!?

優しい職員やヘルパーに囲まれた自由な生活を採るのか
保佐人・レイコさんへの恩義を採るのか・・・

今日、彼と話をしていたら、こんなことを言っていた。
「この歳だけどさ、三味線とか落語を勉強したいんだよね」

素敵だよ、キヨシさん。
だけどね
レイコさんがアナタを転居させようとしている特養じゃ
そんな自由な暮らし、できないんだよ。

私たちが口を挟むことは決してできないけれど
あの無垢な笑顔を思うと
彼が気の毒でならない。