ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

勝手に裏切られ、“もう男なんて”と嘆くオバサン

2015-10-12 00:05:49 | 日記
丸夫よ、お前もか・・・

8月21日付のブログ「人の振り見て…」でご紹介した91歳の丸夫。
奥様を亡くした喪失感から立ち直り
生きがいを求めてウチに入居してきた丸夫。
食堂でハーモニカを吹き
おばあちゃまたちに囲まれてほのぼのとした時間を楽しんでいる丸夫。

かわいいオジイチャンと
入居してすぐに職員やヘルパーの人気者になっていた。

しかし
ヤツもどーしよーもないほど男の性(さが)を持っていたことを
今日、知る。

以下、入浴介助を担当している登録ヘルパー・Y子からの報告。

「最初は少しだけ腕を触って、ぽちゃぽちゃしてるねぇと言う程度だったんです。
それがこのごろエスカレートしてきて
今日は腕を何度もモミモミして“気持ちいいねえ、アンタの肌は”って」

それだけではない。
Y子が結婚していることを知るや
「じゃあ、アンタの結婚生活をもっと幸せにするために
僕がセックスについて教えてあげよう」
…そうも言ったんだそうだ。

実は他にもいくつか凄い台詞があるのだが
凄すぎて、私の口からは言えない。
いや、私のブログでは書きたくない。

いやはや、まったく困ったジイサンであったことよ。

高齢で、奥様を亡くして、ウチで寂しい生活をすることになって
と、つい、情にほだされて必要以上に甘い顔をしてしまうのだが
こういうジイサンほど油断はならない。

もう男にはだまされるもんか!と
清らかな乙女のごとくプンプンする57歳の私である。




希望のミシン

2015-10-07 00:10:30 | 日記
9月に入居してきたヤエコさん(仮名)は
関節リウマチで手の自由が利かない。
ペットボトルのキャップを回すだけでも
わざわざエレベーターを使い
事務所まで訪ねてこなければならない。

先週、ヤエコさんのもとにミシンが届いた。
一人では梱包が解けないだろうとお手伝いに行った私は
ふと、疑問に思って彼女に尋ねた。

ヤエコさん、ミシンで何か作るんですか?

まだここでの生活に慣れないせいか
あるいはもともとの性格ゆえか
食堂でも一人ぽつんと座って誰とも話をしない彼女。
こちらから声をかけなければ
職員ともほとんど言葉を交わすことがない。

そんな彼女が私の質問に
くるりと首を回し、初めて見る笑顔でこう言った。

「希望、なんです」

キボウ? 何のことだか分かりかねている私に、彼女は言葉を続けた。

「病気になる前は、ミシンで色々なものを作っていたんです。
それこそ、子供が小さいときは洋服は全部手作りしたんですよ。
それが病気で指先がうまく使えなくなってしまって・・・。
でも、このままじゃあまりにも悲しいから
もう一度ミシンを踏めるような自分になりたいから
だから、希望を捨てないためのミシンなんです」

ふんわりと、見えない羽毛が身体を包む。
とっさに口をついて出てきた言葉は
「ありがとうございます」だった。

しんどいことが続いたから
ヤエコさんの言葉は本当に温かかった。

ヤエコさん、ありがとう。
あなたの存在が、今の私には“希望”です。




介護者の人権

2015-10-05 22:49:43 | 日記
「高齢者の人権を守ることは大切だけど
私たち介護者の人権も、もっと守られるべきじゃないかって思う」

介護学校でともに学び、現在特養で働いている友人が
ちょっと愚痴めいたメールの最後を、そう締めくくった。

そうだよね。うん、そうだよね。

おとといのことを思い出す。

1日中「トイレ、トイレ、トイレ~」とコールしてきたり
こちらの対応が遅れると「介護をボイコットされた!」と家族に電話したり
米食の日は「パンが食べたい!」
麺食の日は「ご飯が食べたい!」と子どものように駄々をこねたり…と
呆れるほどわがままな老女・カヨ子。
腰痛のため部屋で食事をする彼女のところへ
昼食を届けたときのことだ。

まずは「トイレ!」
いつものことだが、ほぼ1時間おきにトイレに行くのだから、出るはずもない。
そのときも「ふん、ふん」といきんで
ようやくチョロッと、拭いてわかるほどのオシッコが出ただけだった。
さあ、でもこれですっきりしたでしょ? ご飯を食べましょう。
ところがご飯にひと口、ふた口手をつけただけで
またしても「トイレ~!」
カヨ子さん、今行ったばかりでしょ?
とりあえず先にご飯を食べてしまいましょうよ。

しかし、こうなったらあくまでも我を通す彼女。
こっちも決められた時間内でトイレばかりに時間を割いていられない。
「トイレ~!」
あとでね。
「トイレ~!」
だから、ご飯のあとね。

しばしの攻防の末に、「じゃ、もう寝る」と
彼女はおかずの入った小鉢を投げた。

そして思わずむっとする私に向かってひとこと。
「人殺し!!!」

ひ、人殺し?
なんて事を言うのだ。
あまりのことに、思わず目頭が熱くなる。

結局ふてくされて布団に入った彼女からは
私が退室したあとも「トイレ」のコールはなく
次の排泄介助まで失禁すらなかった。
私を人殺し呼ばわりするほど切迫した尿意はなかったのである。

ああいう人なんだ、そうなんだ。
しかし抑えようにも抑えきれない悲しみ。

テレビでは訳知り顔のコメンテーターが
「老人ホームに親を入れるって事は
親を人質にとられているのも同然なんですよ」
などとのたまう。

介護職員はみんな犯罪者か!?
高齢者はみんな被害者か!?

こっちだってときには怒りを押し殺して頑張ってるんだ。
そう、私たちにも人権はあるのです。

追記
ひと眠りしたカヨ子は私への暴言をすっかり忘れたらしく
夕食を届けたらあっけらかんとした顔で「トイレにつれてって」と
せがむのだった。おまえなぁ・・・






アリセプトに祈りをこめて

2015-10-02 01:05:01 | 日記
ジジイⅩ、クレイジー・ミヨ…
カキコミもいただいた通り
“濃ゆい”メンバーのネタが続いている。

たまには天使のような高齢者の話を書きたいが
ごめんなさい、本日も濃ゆいオバアサンの話を。

昨夜は夜勤。
排泄介助の“ツアー”をこなすため
1階に降りたときのことである。

時刻は夜中の11時半。
エレベーターから降りた私の耳に
ケンカ?とも思える大きな声がとどろいてきた。

廊下の角からそ~っと奥のほうを見てみると
いた、いた、いた~~~!
物盗られ妄想の激しいK子が、いた~~~!!!

廊下に出て自分の部屋のドアを開き
部屋の誰かに向かって大声で怒鳴っている。
「出て行きなさ~い!
そこのお菓子は持っていってもいいから
早く出て行きなさ~い!」

またしても、誰かと闘っているようである。

先月、認知症の一つであるレビー小体型認知症と診断され
それに有効であると言われるアリセプトという薬を飲み始めたK子。
どうか効き目が現れますようにと祈っていたが
レビーの主だった症状である幻視は
まだ、おさまらない。

いろいろなものと闘っている彼女も
どんなに怖くて不安で辛いかと思うが
正直、こっちもツライ。

K子の部屋を通り過ぎた向こうに
何人も、排泄介助をしなければならない方がいるのだ。
つまり
誰かと闘っているK子の脇を通らなければ夜間の仕事が進まず
トイレ誘導やオムツ交換を待っている人たちの援助が
どんどん遅くなってしまうのである。

5分間、私は廊下の角に潜んで待った。
K子が部屋に戻ってくれるのを祈りながら、息を殺して待った。

K子よ、ごめん。
昼間なら他の職員もいるから対応できるが
今、あなたの悪霊払いにつきあっているわけにはいかないのです。

彼女がやっと部屋に戻ってくれたのを見定めて
ようやく排泄ツアーに戻った私だったが
ああ、いつまでこんな夜が続くのか。

アリセプトよ、どうか効いてくれ!