江戸風流川柳小咄
面白い川柳小咄を紹介しましょう。
◆その当座後家たて通しそうに見え
(大意)七右衛門が患った末に亡くなったばかりのところへ、ある友人が駆けつけて来て、「驚いた」と言ったところ、七右衛門の女房が泣く泣く「仲良く暮らしていたのに、これからは誰を頼りにすればよいのか」と訴える。
その友人は「七右衛門とは仲良かっただけに、自分もがっかりしている。(女房に向かって)態度には出さなかったが、前からお前さんが好きだった。
今日からは自分を七右衛門と思って、夫婦になろう」と持ちかけたら、女房がにっと笑い、「それはできません。お気持ちはありがたいのですが、七右衛門が死ぬ前から、夫婦になる先約をした男がいます」
(原文)
ある者の友に、七右衛門という者、今死にたるという所へ走り行き、「さてさて、驚き入りたる事かな」といえば、女房、泣く泣くいうよう、「ご存知の如く、二人の仲もよく暮らしましたれば、私が今の心の内をば、推量して下されませい。明日よりは、誰を頼りにしましょう」と、涙(ルイ)てい焦がれければ(涙ながらに訴えれば)、かの男そばに寄り、「七(七右衛門)とは、分けて(特に仲よく)語りましたに、我等も力を落としました。こなたには日頃、思惑(恋い慕う気持)であったれど、さすがに色にも(それを態度に)出しませなんだ。今日より、おれを七だと思わしゃれ。夫婦になりましょう」と、じっと絞めければ(ぐっと迫れば)、女房、にっと笑い、「ああ、えずや(それは出来ません)。お心入れ(お気持)は嬉しうござんすが、煩い(病気)のうちから先約がござんす」というた。
★某・タウン誌(『軽口大わらひ』)から転載。仮名遣いなど原文ママ。