チャイコフスキー 1812年
[A-B-C-A'-B']
(Largo-Andante-Allegro giusto-Largo-Allegro vivace)
という構造の、チャイコフスキーの「1812年」のしょっぱなAは、
「ラールゴ、3/4、3♭(変ホ長調)」である。
ロシア正教の聖歌「神よ、汝の民を救い給え」が
引用されてる。まず、
速度。イタリア語の標語は「ラールゴ」。そして、
添えられたメトロノーム表示は「四分音符=60」。
楽譜が読める程度のクラ音ファン、または、
本来はクラ音なんてやれる才も能も持ち合わせてなかった"プロ"、
の中には、(おや?)と思われるかたもいるだろう。
「うーん、ラルゴってもっと遅いんじゃなかったかなぁ?」
「四分音符=40くらいじゃないの?」
それは先入観に汚染されてるせいである。たしかに、
メトロノームなどなかった時代の、
バロックのヴィヴァルディやテレマンやヘンデルや大バッハなどの
多楽章作品の緩徐楽章なんかによく使われてた。たとえば、
ヴィヴァルディの「四季」の「春」や「冬」の緩徐楽章なんて、
「四分音符=40」くらいでやってみたまえ。
あんまりのとろさに、1分間に欠伸が40回も出てしまう。
あれを「四分音符=40」で堂々と弾いたら、それは
音楽のセンスがない、ってことである。それはともかく、
チャイコフスキーはその作品において、
速度標語とメトロノーム指示に「概ねブレがない」作家である。
通常の曲ならば、たしかに、このメトロノーム指示では、
「アンダーンテ」の「遅いほう」の標語で
示されるはずである。しかるに、
「ラールゴ」。ということは、
チャイコフスキーはこの部分の速度に
特段の意味を持たせてる、ということである。
音楽用語としてのイタリア語のラールゴは、一般には、
"largo"=幅がある、広い、
というような意味で使われる。つまり、
「遅く」。いずれにしても、その綴りから、
英語の"large(ラージ)"と、おそらく同源なのだろう。
ラテン語の"largus"は「豊富なさまを表す形容詞」、
である。すると、これが音楽におけるイタリア語標語の、
神の領域で使われたとなると、
「お慈悲の御心が豊富」なのだろう。
「懐が深い」「寛大な」という意味にも
なるというものである。したがって、
「せかせかしない」ので「遅く」なる、
のである。さて、
チャイコフスキーはロシア正教の聖歌を引いた。
***♪【ドド|<レー・<ミー、
・>ドド|<レ<ミ・<ファファ・ファー|ーー・ー・ーー】|
>ミミ・ミミ・ミー|ーー・ミー・ミー|>レー・ーレ・レレ|<ミー・ーー♪
後年、リーロイ・アンダースンという米国人が、
「スィンコペイティド・クロック」の弾頭に、この
聖歌を"引用した(※)"。
***♪(ソ<ラ<シ)|【ド●・<レ●・・<ミ●・>ド●|
<レ●・<ミ<ファ・・ーー・ーー】|
>シ●・<ド●・・<レ●・>シ●|
<ド>シ・<ド<レ・・<ミ♪
ナポレオン軍による侵攻ペイティドな時間が
刻々と告げられた、のである。怖いですね、こわいですね。
また、もっと前に、やはり米国の
スコット・ジョプリンが「ディ・エンタテイナー」
***♪【ド<レ|<ミ>ド・<レ<ミ・・ー】>ド・<レ>ド|
<ミ>ド・<レ<ミ・・ー>ド・<レ>ド|
<ミ>ド・<レ<ミ・・ー>シ・<レー|>ドー・ーー・・ー♪
で、もうちょっと先っぽだけを繰り返した。
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