毎日、皆様との夕食の時間になる頃には、私の心と体はもう限界でした。
付き合いが悪いと思われるだろうと、気を遣いながらも
食事を終えると、疲れているのですいませんと断って、すぐさま部屋に戻ります。
せっかくのホテルの温泉にも、怖くて行く事は出来ません。
シャワーだけ浴びて、早めに横になり浅い眠りのまま朝を迎えます。
朝食もなるべく早めに終えて、出発までの短い時間に体調を整えます。
あまりにしんどい時は、まだ覚えられない般若心経を読みました(笑)いや笑えない。
日中は少しも疲れた様子を見せる事なく、先頭を切って歩きます。
タクシー移動の時に、座席で船を漕いでおられる皆様を横目で見ながら
さりげなく脈を計ったり、呼吸法で落ち着かせたりしていました。
一日一日がどれほど長かった事でしょう。
旅に出て、この旅を早く終えたいと思った事は初めてでした。
それでも、車窓を流れて行く四国の美しい山に癒されました。
新芽の出た若草色の中、ところどころ桜色が置かれた山々をみて
自宅に置いてある真っ白なキャンバスを思い浮かべ、心の中で絵の具を乗せて行きました。
そんな4日目。
朝一番に行くのは岩屋寺という、切り立った山の上にあるお寺でした。
道中、そこは坂道と階段があるかなりの難所だとドライバーさんがお話されている時
すでに私は緊張していました。
この状態で上れるのだろうか。。。
このツアーには足の少し不自由なご婦人が参加されておりました。
しかし、周りに迷惑をかけないようにととても頑張って歩いておられました。
その姿に勇気をもらい、私も坂道の一歩を踏み出しました。
しかし、その時に心臓がバクバク!
うわ・・・また不整脈が出るか?
いつも先頭を行く私が一瞬立ち止まったので、周りの人がどうしました?と気にしてくださいます。
「あ、足がつりそう~~」
私はそう言って、足がつったふりをして皆さんの後姿を見送りました。
「ここは、無理か、お札とお賽銭だけ誰かに預けて昇らないでおこうか・・」
と思った時、足の不自由なご婦人にドライバーさんが声をかけておられます。
「無理をしなくても、誰かにお札とお賽銭を預けて休んでいてもいいんですよ」
「無理して後が回れなくなっても困りますし、まあその時は自己責任ですけどね」
そんな言葉を聞きながら私は思いました。
そう、ここで頑張ってまた具合が悪くなったら自己責任だ。
いつ終わっても仕方のない旅だ、ええい!行けるとこまで行こう。
心臓は大丈夫なんだ。急に倒れて死ぬような事はない。
私は、お大師様に力を貸してくださるように願いを込めて、金剛杖をしっかりと握りしめ
坂道を上り始めました。
切り立つ崖の下にある本堂にたどり着いたときは、不思議に心臓も落ち着いていました。
そう、本当に心臓自体が悪ければ上る事などできないのです。
きついよ、と言われた事への緊張で、心臓がバクバクしたに違いないと感じました。
無事に上り詰めたお堂の屋根の苔から、花が咲いていました。
しんどい想いをした分、このお寺の事ははっきりと覚えています。
45番岩屋寺。このお寺の本尊は
奇しくも私の干支である酉年のご本尊である、不動明王さまです。
不動明王は大日如来の化身とも言われ、怖いお顔ですが
煩悩を抱える最も救い難い衆生をも力ずくで救うために、忿怒の姿をしているそうです。
あのお顔は人を脅かしているのではなく、必死で人を救おうとしているお顔なんだそう。
この日は奇しくも4月8日の花祭り。
何処かのお寺で甘茶をいただきました。
朝一でリタイアかと思われた一日も無事終わり、初日のような血圧の変動もなくなりましたが
やはり夕食が終わる頃にはバッテリーが切れるように、力尽きます。
しかし疲れや集団行動のストレスにも少し慣れてきて、夜も割と眠れるようになってきました。
あと半分、頑張れるかもしれないな・・。
行く先々で「来させていただいてありがとうございます」と感謝の気持ちで手を合わせていた私も
この辺りからはちょっとだけお願いもさせていただくようになりました。
「どうか、この体調不良がなくなって快適に旅が続けられますように、」と。
他には何もいらない。
身体のどこも気にしないで、普通でいられる事がいかに幸せな事かと
改めて思うのでした。
つづく。
感謝をこめて。
つる姫