さて、強風の吹きすさぶR178号線。
かつらが飛びそうなので(嘘)、帽子をかぶって
足取りも、軽く歩き続けます。
肩は少し痛みますが、差支えるほどではありません。
伊根トンネルを抜けて、どんどん進みます。
しばらく行くと、道が二つに分かれていました。
広い道をそのまままっすぐ行く方は山側に、
細い道を下る左は海の方に伸びています。
どう考えても左の海側の道が正しいとは思いましたが
バスがどのように進んできたか記憶になく
右に海を見ながら来たけれど、バスは迂回して来たかも知れない。
などと迷い始めた時、
ちょうど分かれ道の所にある小さな畑で、おばあちゃんが作業をしていました。
「すいません」
「・・・・・」
「すいません~」
「・・・・・・・・」
「すいませ~~~~~~~~~~~ん!」
やっと振り向いてくださったおばあちゃんに
バス路線はどちらなのか聞いてみました。
思った通り細い道を下って行く海の方でした。
おばあちゃんにお礼を言って、写真を撮らせていただきました。
「まあ~~」と恥じらう可愛いおばあちゃん。
それでも、笑顔でぱちり。
私が正しい道を下り始めるまで見送ってくださいました。
ありがとうございます。長生きしてくださいね!
さて時刻表を見ると、今通り過ぎたバス停にバスが来るまで
まだ30分ほどあります。
そして、バス停からバス停までは歩いて5,6分ほど。
バスの来る時間は1分刻みです。
まだ行けるな~。
八幡神社下というバス停があったので
神社に上ってみようかなあ、と見上げると
あまりにも急な階段なのでさすがに断念。
しかし、ここで根性を出して上っておいたほうがよかったのかも知れません。
ここら辺で海を見て時間をつぶして、バスに乗ろう。
そう思いつき、浜辺を歩きます。
波間に見え隠れする海鳥たち。
ぷかぷか、ゆらゆら、気持ちよさそうに波に身を任せています。
さあて・・・・。
後一つ行けそうだな。
もう一つ先のバス停まで、また歩くことにしました。
が・・・・・
しばらく歩いて、この旅最大の誤算に気づいたのです。
今通り過ぎたバス停までは、バスの来る間隔が1分でした。
しかし、この先のバス停までは3分になっています。
うそ!見逃した!!
道の先を見ると、いくつものカーブがあり、
民家らしきものは一つも見えません。
果てしなく続くよ海岸線の道路。
しまった!
はるかはるか遠くに集落が見えます。
希望的に考えてそこの入口にバス停があるとしても
あの集落の所まで15分、いや下手すると20分はかかるはずです。
3分は1分の三倍のはずですが
これまでのバス停の間隔の三倍とはとても思えません。
バスがスイスイ走って三分なんです!
やばいやばいやばい。
せっかくここまで歩いたのに、次のバス停にバスが来るまでに
あそこまでたどり着けるわけがない!
戻るにも半分近くは来てしまっている。
しかも、あの集落の入り口にバス停があるとは限らないのです。
頭の中で色んなことが駆け巡ります。
最悪の場合、バスをヒッチハイクするか。
しかし、この時に感じたことは
この道はヒッチハイクが出来る道ではなさそうだということ。
後から来る車の事を考えると、ここでは停車できないのではないかと思ったのです。
ヒッチハイクで日本を一周したという大学生のブログに書いてあった事が
現実として分かったような気がしました。
肩にかけた荷物がだんだん重くなり、強い向かい風で前に進むのがきついくらいです。
しかしこの時、肩の痛みは全くなくなっていました。
私は人の脳の不思議を感じていました。
痛いなんて言っているバアイじゃなく、非常にヤバイ現実に
痛みを感じる神経がマヒしてしまったのでしょうか。
後5分しかない。
絶対に無理だ。
お願いだからバス、10分遅れて!
神様仏様にお願いしながら、力をふり絞って歩きます。
さて時間はもう、バスが次のバス停に着く時間となってしまいました。
今来た道を見通せる場所まで来て後ろを振り向くと
幸いバスはまだ見えません。
おっし!バスは時間が曖昧なのだ!
そうだ、朝だって6分ほど遅れたじゃないか。
必死で歩を進める私。
もう一度振り向くと
あ”ー!
いくつかのカーブのある道のはるか彼方に、
見覚えのあるオレンジ色の車体のバスが見えました。
きたー!
そして、また前を向くと、集落の入り口の辺り
およそ100メートル先にバス停の丸い看板が見えています。
あった~!
私は、非常用にとってあったアルコール燃料を燃やして走り出しました。
走りながら振り向くと、バスは最後のカーブに隠れて見えなくなっています。
なんと間に合いました。
およそ20秒、バスより早く私がバス停にたどり着いたのです。
バスがカーブを曲がって見えて来た時には
ここでしばらく待ってました、という顔でバス停に立っていたのです。
伊根を出たのが9時半頃でした。
時刻は11時6分。バスは8分遅れてきました。
一時間半も歩いていたわけです。
途中で少しまったりしたとはいえ、人の歩く速さは普通時速4キロほどと言いますから
私は6キロの道を荷物を担いで歩いたことになります。
平静を装ってバスに乗り込むと
なんと、朝一緒に乗って行った学生たちが乗っているではありませんか。
試験が終わって帰る所でしょうか。
しかも、運転手さんも朝と同じ人。
行って帰って来られたのですね。
何もない所のバス停から乗り込んだ私をどう思ったでしょうか。
興奮が冷めやらぬまま、目的の「笠松ケーブル下」バス停で下車しました。
ここからケーブルカーで上って、天橋立を展望するのです。
ケーブルカーはすぐには出ないけれど
リフトならすぐ乗れると聞いてリフトで上ることにしました。
なぜに人は、このようなものに乗ると足をブラブラするのでしょうか。
おじちゃんおばちゃんたちが足をブラブラしている姿は
とてもかわいらしかったです。
なので私もぶらぶらしてみました。
上まで6分。
バスは満員で立ってきましたから、やっと座れたという感じです。
息を整えながら、昨日のハードな電車の乗り継ぎや
先ほどのハードな道のりを思い出します。
あの激しい痛みに襲われた日々、
もう自分には、こんな旅は出来ないのではないかと思いました。
しかし、あの道のりをリュックとバッグを肩にかけて
痛みも忘れて歩き切ったのです。
すでに達成感でいっぱいでした。
つる姫、完全復活か?
色んなことを考えているうちに、間もなく到着です。
ずいぶん前、スキーのリフトを降りるときコケて
リフト全体を緊急停止させてしまったという武勇伝を持つ私は
降り口で待ち構える2人のおじさんを見てめちゃくちゃ緊張しましたが
無事に着地できました。
さて、天橋立。
正直、ああ、ここですか。という感じでした。
テレビや写真などで見ていたからなのか、精魂使い果たしていたからなのか。
素晴らしい夜明けを見ていたからなのか。
うお~~!とかいう感動はありませんでした。
しかし敢えて言えば、これでやっと日本三景制覇です。
噂の股のぞき。
おばあちゃんが、腰がそれ以上曲がらなくて、ちゃんと股のぞきができません。
がんばれ~!
じいちゃんも応援しています。
よし!私はまだ行ける!
しかし、昇り龍には見えんかったな。
しかし、誰が最初に股のぞきなんて考案したのでしょう。
もしかしたら、子どもかも知れないですね。
子どもはよくこういう格好しますから。
くれぐれも股のぞきしてる人を、馬跳びしないように。
危険です。
さあ、これだけでもう満足です。
見ました。
とっとと下に下って、あそこにみえる松並木を歩くつもりです。
はい!
まだまだ歩きますよ!
つづく
ご訪問ありがとうございます。
感謝をこめて
つる姫