12月28日(日)~音楽ネットワーク「えん」通算500回記念イヤー新シリーズ~(通算519回)
尾上邸音楽室
【曲目】
1.モーツァルト/幻想曲ニ短調 K.397
2.ラヴェル/組曲「鏡」
3.チャイコフスキー/組曲「四季」~「11月:トロイカで」「12月:クリスマス」
4.ショパン/舟歌 嬰ヘ長調Op.60
5.ショパン/3つのワルツ Op.64
6.ショパン/アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ変ホ長調Op.22
【アンコール】
1.リスト/ラ・カンパネラ
2.リスト/リゴレットパラフレーズ
【演奏】Pf:中桐 望
小さな会場で良質の音楽を聴かせてくれる音楽ネットワーク「えん」主催のコンサートが近所の尾上邸音楽室で行われるというお知らせをもらって出かけた。中桐望さんは、日本やヨーロッパのコンクールで1位をはじめいくつも上位入賞を果たしている大型新進ピアニストだが、演奏に接するのは今日が初めて。
最初のモーツァルトは、様式感を大切にしつつ、そのなかで柔軟にファンタジーを開花させた好演。このピアニストの音楽への誠意ある立ち位置がわかり、先の演目にも期待が膨らんだが、なかでも素晴らしかったのがラヴェルの「鏡」。どの曲でも近景から遠景まで幅広く奥行きのある情景が表現され、それぞれの場所での空気の色や温度、濃度が描き分けられている。その中で鳴るメロディーが、全体の情景のなかでくっきりと立ち現れ、まっすぐな眼差しをこちらに向けてくる。
「蛾」では打ち震える蛾の羽の様子が、「悲しい鳥たち」では暮れゆく深い森で鳴き交わす鳥たちの孤独が、「洋上の小舟」では大海原に浮かぶ小舟の情景だけでなく、そこに乗っている人の心が、「道化師の朝の歌」では中間部のレチタティーヴォで、まさしく「鏡」に映った自分の姿を見つめるピエロの思いが表現されているように感じた。そして終曲の「鐘の谷」の何と多層的な表現。霧がかかったような幻想的な情景のなかで、鐘の音だけがはっきりと、ストレートに心を揺さぶってきた。最後に鳴らされた鐘は、お寺の鐘楼の鐘の音のような存在感と永続性を伝えていた。組曲全体からファンタジックで、かつ、シリアスな感覚が伝わってきた。
「鏡」を演奏する前に中桐さんのトークが入り、除夜の鐘の季節に「鐘の谷」を演奏したかったこと、それからこの組曲の「鏡」と名付けられた理由は、単なる姿見としての鏡ではなく、それぞれの楽曲に心を映し出すような鏡の役割があるように思う、といった話を聞いた。とても示唆に富んだ、音楽へのイマジネーションを膨らませてくれる内容の話をしてくれたことが、演奏を聴くための一助になったことも付け加えておきたい。
後半で特に感銘を受けたのは舟歌。これも「鏡」と同様に遠近感と多層的な空気を感じさせる演奏で、物憂げななかに熱い情熱が迸り出てくるのを感じた。他のプログラムも含めて、瑞々しい音色の美しさが際立っていたことも、彼女の魅力的な持ち味のひとつ。
3か月前からワルシャワで留学を始めたという中桐さん。「ショパンをもっともっと勉強して、ショパンの心を表現したい」ということで、4月8日には浜離宮朝日ホールで室内楽版のコンチェルトも含めたオールショパンプログラムによるリサイタルが開かれる。ワルシャワでの留学によって、どんな「ショパンの匂い」を聴かせてくれるようになるか、ということでも楽しみだ。
懇親会の中で「実はもう1曲アンコールを用意していた」と弾いてくれた「リゴレットパラフレーズ」
終演後は「えん」の恒例、演奏者を交えての懇親会と忘年会が行われ、演奏以外でも楽しく充実した時間を過ごすことができた。中桐さんの今後の益々の活躍が大いに期待される。
尾上邸音楽室
【曲目】
1.モーツァルト/幻想曲ニ短調 K.397
2.ラヴェル/組曲「鏡」
3.チャイコフスキー/組曲「四季」~「11月:トロイカで」「12月:クリスマス」
4.ショパン/舟歌 嬰ヘ長調Op.60
5.ショパン/3つのワルツ Op.64
6.ショパン/アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ変ホ長調Op.22
【アンコール】
1.リスト/ラ・カンパネラ
2.リスト/リゴレットパラフレーズ
【演奏】Pf:中桐 望
小さな会場で良質の音楽を聴かせてくれる音楽ネットワーク「えん」主催のコンサートが近所の尾上邸音楽室で行われるというお知らせをもらって出かけた。中桐望さんは、日本やヨーロッパのコンクールで1位をはじめいくつも上位入賞を果たしている大型新進ピアニストだが、演奏に接するのは今日が初めて。
最初のモーツァルトは、様式感を大切にしつつ、そのなかで柔軟にファンタジーを開花させた好演。このピアニストの音楽への誠意ある立ち位置がわかり、先の演目にも期待が膨らんだが、なかでも素晴らしかったのがラヴェルの「鏡」。どの曲でも近景から遠景まで幅広く奥行きのある情景が表現され、それぞれの場所での空気の色や温度、濃度が描き分けられている。その中で鳴るメロディーが、全体の情景のなかでくっきりと立ち現れ、まっすぐな眼差しをこちらに向けてくる。
「蛾」では打ち震える蛾の羽の様子が、「悲しい鳥たち」では暮れゆく深い森で鳴き交わす鳥たちの孤独が、「洋上の小舟」では大海原に浮かぶ小舟の情景だけでなく、そこに乗っている人の心が、「道化師の朝の歌」では中間部のレチタティーヴォで、まさしく「鏡」に映った自分の姿を見つめるピエロの思いが表現されているように感じた。そして終曲の「鐘の谷」の何と多層的な表現。霧がかかったような幻想的な情景のなかで、鐘の音だけがはっきりと、ストレートに心を揺さぶってきた。最後に鳴らされた鐘は、お寺の鐘楼の鐘の音のような存在感と永続性を伝えていた。組曲全体からファンタジックで、かつ、シリアスな感覚が伝わってきた。
「鏡」を演奏する前に中桐さんのトークが入り、除夜の鐘の季節に「鐘の谷」を演奏したかったこと、それからこの組曲の「鏡」と名付けられた理由は、単なる姿見としての鏡ではなく、それぞれの楽曲に心を映し出すような鏡の役割があるように思う、といった話を聞いた。とても示唆に富んだ、音楽へのイマジネーションを膨らませてくれる内容の話をしてくれたことが、演奏を聴くための一助になったことも付け加えておきたい。
後半で特に感銘を受けたのは舟歌。これも「鏡」と同様に遠近感と多層的な空気を感じさせる演奏で、物憂げななかに熱い情熱が迸り出てくるのを感じた。他のプログラムも含めて、瑞々しい音色の美しさが際立っていたことも、彼女の魅力的な持ち味のひとつ。
3か月前からワルシャワで留学を始めたという中桐さん。「ショパンをもっともっと勉強して、ショパンの心を表現したい」ということで、4月8日には浜離宮朝日ホールで室内楽版のコンチェルトも含めたオールショパンプログラムによるリサイタルが開かれる。ワルシャワでの留学によって、どんな「ショパンの匂い」を聴かせてくれるようになるか、ということでも楽しみだ。
懇親会の中で「実はもう1曲アンコールを用意していた」と弾いてくれた「リゴレットパラフレーズ」
終演後は「えん」の恒例、演奏者を交えての懇親会と忘年会が行われ、演奏以外でも楽しく充実した時間を過ごすことができた。中桐さんの今後の益々の活躍が大いに期待される。
気に入って頂けて嬉しいです
これからもコンサートの感想を載せていきたいと思うので、また是非いらしてくださいね。