12月12日(金)フォーレ四重奏団(Vn:エリカ・ゲルトゼッツァー/Vla:サーシャ・フレンブリング/Vc:コンスタンティン・ハイドリッヒ/Pf:ディルク・モメルツ)
トッパンホール
【曲目】
1.マーラー/ピアノ四重奏曲 断章 イ短調
2.R.シュトラウス/ピアノ四重奏曲 ハ短調 Op.13
3.ブラームス/ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 Op.25
【アンコール】
1.ムソルグスキー/フォーレ四重奏団編/組曲「展覧会の絵」~卵の殻をつけた雛の踊り
2.フーベルト/フォーレ・タンゴ
3.シューマン/ピアノ四重奏曲変ホ長調~第3楽章アンダンテ・カンタービレ
これはずっと気になっていたコンサートだったが、別の用事が入りそうでチケットを買うのを待っていて、結局チケットを予約したのはつい4日前だった。「フォーレ四重奏団」と言ってもドイツ人のアンサンブル。プログラムによれば、「室内楽こそが音楽の唯一の真の形式であり、個性のもっとも真正な表現」と、フォーレが語ったことに因んで命名したとのこと。実際、室内楽の醍醐味を存分に味わうコンサートだった。
最初のマーラーの「断章」のピアノによる3連符前奏が始まるや、濃厚な空気が会場を支配した。3人の弦が加わっての四重奏は、コトコトと煮立った具だくさんでどろどろしたスープを、怪しげな老女が木べらでゆっくりゆっくりかき回し、やがてスープ全体がゆっくり回転を始めるイメージ。スープはやがて沸騰し、老女は魔女の正体を現し、恐ろしい形相で熱く煮えたぎったスープの鍋をひっくり返してしまう…
それほどフォーレ四重奏団の演奏するマーラーは、濃厚でエモーショナルで熱い。弦楽器は弓の先端から末端までを余すところなく使い、重くて大きなうねりを作り出す。ピアノがそのうねりの中にあるわずかな空間を埋めつくし、窒息しそうなほどの密度と音圧で覆い被さってきた。ゆっくりしたテンポに更にたっぷりとルバートをかけ、彫りの深いボリューム感たっぷりの姿を現出させる。この曲が「断章」でなく4楽章構成だったら、この圧力に押し潰されてしまうところだった。
このマーラーの演奏のイメージがあまりに強烈だったせいか、続くシュトラウスや、後半のブラームスではマーラーのときのような驚きはなかったが、たっぷりとした濃厚な演奏スタイルという点では他に類を見ないほどの存在感と個性を聴かせた。指揮者で例えるならティーレマンのような濃厚な官能美に共通するものがある。
ただ、凝ったメインディッシュばかりを次々と並べられた気分で少々食傷気味になり、口直しやデザートが欲しいところだったが、ブラームスの最終楽章では、それまでの集大成と言えるような更なるメインディッシュとなり、パワーと勢い、熱い血が押し寄せてきて、向かい酒のような効果があったのか新たな興奮を呼び起こし、グイグイと演奏に引き込まれ、最高潮へと導かれた。「すごい!」という言葉しか見つからない、日本人には真似できないタイプのパワーを見せつけられた。
しかし、どんな曲でもこの調子で演奏されてはちょっと芸がないのでは、と思っていたところで、アンコールではそれまでとはガラリと趣を異にした音楽と演奏で見事に気分転換をさせてくれた。ユーモラスでスピーディーな「卵の殻をつけた雛の踊り」は、ディナーパーティーでいきなり乱入してきた余興のパフォーマンス、「フォーレ・タンゴ」は香り高い食後酒、そして、シューマンのアンダンテ・カンタービレは、上品な甘さのガトーショコラにコーヒーが添えられ、豪華なコースに相応しいデザートとなった。
このアンコールを聴いて、フォーレ四重奏団が多彩な才も持ち合わせていることを知り、また別の曲を聴いてみたい気持ちになった。会場はブラボーと大きな拍手が続いた。
拡散希望記事!STOP!エスカレーターの片側空け
トッパンホール
【曲目】
1.マーラー/ピアノ四重奏曲 断章 イ短調
2.R.シュトラウス/ピアノ四重奏曲 ハ短調 Op.13
3.ブラームス/ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 Op.25
【アンコール】
1.ムソルグスキー/フォーレ四重奏団編/組曲「展覧会の絵」~卵の殻をつけた雛の踊り
2.フーベルト/フォーレ・タンゴ
3.シューマン/ピアノ四重奏曲変ホ長調~第3楽章アンダンテ・カンタービレ
これはずっと気になっていたコンサートだったが、別の用事が入りそうでチケットを買うのを待っていて、結局チケットを予約したのはつい4日前だった。「フォーレ四重奏団」と言ってもドイツ人のアンサンブル。プログラムによれば、「室内楽こそが音楽の唯一の真の形式であり、個性のもっとも真正な表現」と、フォーレが語ったことに因んで命名したとのこと。実際、室内楽の醍醐味を存分に味わうコンサートだった。
最初のマーラーの「断章」のピアノによる3連符前奏が始まるや、濃厚な空気が会場を支配した。3人の弦が加わっての四重奏は、コトコトと煮立った具だくさんでどろどろしたスープを、怪しげな老女が木べらでゆっくりゆっくりかき回し、やがてスープ全体がゆっくり回転を始めるイメージ。スープはやがて沸騰し、老女は魔女の正体を現し、恐ろしい形相で熱く煮えたぎったスープの鍋をひっくり返してしまう…
それほどフォーレ四重奏団の演奏するマーラーは、濃厚でエモーショナルで熱い。弦楽器は弓の先端から末端までを余すところなく使い、重くて大きなうねりを作り出す。ピアノがそのうねりの中にあるわずかな空間を埋めつくし、窒息しそうなほどの密度と音圧で覆い被さってきた。ゆっくりしたテンポに更にたっぷりとルバートをかけ、彫りの深いボリューム感たっぷりの姿を現出させる。この曲が「断章」でなく4楽章構成だったら、この圧力に押し潰されてしまうところだった。
このマーラーの演奏のイメージがあまりに強烈だったせいか、続くシュトラウスや、後半のブラームスではマーラーのときのような驚きはなかったが、たっぷりとした濃厚な演奏スタイルという点では他に類を見ないほどの存在感と個性を聴かせた。指揮者で例えるならティーレマンのような濃厚な官能美に共通するものがある。
ただ、凝ったメインディッシュばかりを次々と並べられた気分で少々食傷気味になり、口直しやデザートが欲しいところだったが、ブラームスの最終楽章では、それまでの集大成と言えるような更なるメインディッシュとなり、パワーと勢い、熱い血が押し寄せてきて、向かい酒のような効果があったのか新たな興奮を呼び起こし、グイグイと演奏に引き込まれ、最高潮へと導かれた。「すごい!」という言葉しか見つからない、日本人には真似できないタイプのパワーを見せつけられた。
しかし、どんな曲でもこの調子で演奏されてはちょっと芸がないのでは、と思っていたところで、アンコールではそれまでとはガラリと趣を異にした音楽と演奏で見事に気分転換をさせてくれた。ユーモラスでスピーディーな「卵の殻をつけた雛の踊り」は、ディナーパーティーでいきなり乱入してきた余興のパフォーマンス、「フォーレ・タンゴ」は香り高い食後酒、そして、シューマンのアンダンテ・カンタービレは、上品な甘さのガトーショコラにコーヒーが添えられ、豪華なコースに相応しいデザートとなった。
このアンコールを聴いて、フォーレ四重奏団が多彩な才も持ち合わせていることを知り、また別の曲を聴いてみたい気持ちになった。会場はブラボーと大きな拍手が続いた。
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