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facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル2007

2007年08月28日 | pocknのコンサート感想録2007
8月27日~28日に恩師の関先生の別荘にご厄介になりながら、草津国際音楽アカデミーを2年振りに訪ねた。
草津の音楽祭は世界的に著名な演奏家を集めてマスタークラスを行い、その講師や学生が演奏会を行う。毎夏2週間に渡って行われ、今回は28回目になり世界的にも知られるようになっている。ここに来る錚々たる講師陣は毎年常連として草津にやってくる演奏家が多い。草津の音楽祭はこうした演奏家達にとってギャラを度外視した魅力的な存在になっているように思う。
そんな音楽祭から魅力的な演奏会を3回、それにマスタークラスや公開レッスンも聴くことができた。



8月27日(月)エルンスト・ヘフリガー追悼/ リートの時代  シューベルトからブラームスへ
草津音楽の森国際コンサートホール

【曲目】
1. バッハ/オルガン小曲集より「われら悩みの極みにありて」BWV641、「我は汝の御座の前に進む」BWV668
2. モーツァルト/ピアノ四重奏曲第2番変ホ長調K.493
3. モーツァルト/「魔笛」K.620~「何と美しい絵姿」
4. 山田耕筰/「鐘が鳴ります」
5. シューベルト/「白鳥の歌」D.957より「鳩の使い」
6. モーツァルト/「夕べの想い」K.523
7. シューマン/恋のたわむれ 作品101より「私の美しい星」 
8. シューベルト/「夕映えの中で」D.799
9. ベートーヴェン/「アデライーデ」作品46
10.チェルニー/「ヘマンズ夫人の詩による6つの歌」より第5曲
11.チェルニー/「イタリア・カンツォネッタ」より第16,4,13曲
12.チェルニー/「魔王」
13.マルクーセン/「郵便馬車」、「風見」
14.ブラームス/「愛の歌」作品52より第1,6,7,8,9曲
15.ブラームス/「新愛の歌」作品65より第12~15曲

【演 奏】S:天羽明恵(10,11,14,15)/A:日野妙果(6,7,8,14,15)/T:小貫岩夫(3,4,5,14,15)/太田直樹(9,12,14,15)/Pf:A.シピリ(9~15)、岡田知子(3~8,14,15)/Org:C.ブリツィ(1)/遠山慶子(Pf)&パノハ弦楽四重奏団員(2)

草津の音楽祭の歴史で最重要人物を一人だけあげるとすれば誰でも迷わず今春惜しくも亡くなったテノールのヘフリガーをあげることだろう。ヘフリガーのレッスンを目当てに日本中はおろか国外からも集まってきた受講生達をその無二のレッスンで魅了し、演奏会では「白鳥の歌」や「冬の旅」など今でも語り草になっている名唱の数々を残したヘフリガーを偲んでの演奏会。ヘフリガーが草津に初めて来た当初は僕も合唱団員としてハイドンやシューベルトで共演させてもらったことを懐かしみながら演奏会を聴いた。

まずはオルガンによるバッハのコラールが2曲演奏されたあと、遠山慶子とパノハ四重奏団員によってモーツァルトのピアノ四重奏曲第2番が演奏されたが、これが素晴らしかった。パノハの弦は柔らかくて温かな音色や語り口に定評があるが、その持ち味をここでも十分に発揮した。嬉しい誤算は遠山さんのピアノ。これまで草津で何度か聴いた印象からあまり期待していなかったのだが、ピアノの第1音から慈しむような温かな音色が響き、優しい語りかけでパノハの弦と唱和し、語り合い、喜びに溢れた美しい歌を紡ぎ出して行った。控えめな中にも瑞々しい活き活きとした自然な息吹が息づいた珠玉の演奏を聴いて幸せな気持ちになった。

この後はヘフリガーに師事したり草津でレッスンを受けた経験のある歌手達によって草津ならではの多彩なプログラムが続いた。

テノールの小貫さんは若さ溢れる美声の持ち主で、モーツァルトのオペラのアリアではその水も滴る美声を十分に発揮した名アリアを聴かせたが、歌曲になると細かい表現や詩の語り聞かせといった次元ではこれからという感じ。
アルトの日野さんは貫禄さえ感じる落着いた歌唱で3つの歌曲をじっくりと聴かせてくれて心に響いた。
バリトンの太田さんは珍しいチェルニーの「魔王」で情景やキャラクターを見事に歌い分け、言葉も明瞭に伝わり心に刻まれた。終盤では迫真のドラマを聞かせた。このチェルニーの「魔王」はシューベルトやレーヴェと同様ゲーテの詩によるものだが、場面場面で音楽がガラリと変わり、キャラクターの歌い分けはやり易いが、魔王が語る場面などはどこかの楽園にでも連れて行かれたようで馬を駆っているという情景からは完全に離れてしまう。終始緊迫感に貫かれたシューベルトの作品の素晴らしさを改めて認識する機会ともなった。

ソプラノの天羽さんは役者としても歌手としても完全に聴衆の心を掴み、余裕さえ感じる見事な歌いっぷり。役者が一枚上というのはこのことか。チェルニーの歌もなかなかいい。

ピアノ伴奏は草津では欠かせない岡田さんと近年毎回魅力的な演奏を聴かせてくれているシピリ。岡田さんは安定感という点ではピカ一。細やかで深い詩の情景や感情の表現も素晴らしい。シピリのウィットに富んだピアノも歌を盛り立てる。

そんな伴奏者2人と4人の歌手が一堂に会して演奏されたブラームスは魅力たっぷりでワクワクする歌が次から次へと続いた。それぞれの演奏家の持ち味が合わさって、プラスアルファの加わった音楽に心から楽しんだ。


8月27日(月)ポピュラー・コンサート/ エリザベート・シュヴァルツコップ追悼
草津音楽の森国際コンサートホール
【曲目】
1. バッハ/コラール「いざ来たれ、異邦人の救い主よ」BWV.659
2. シューベルト/「アヴェ・マリア」
3. マルティーニ/「愛の喜びは」
4. アイルランド民謡「ダニー・ボーイ」
5.越谷達之助/「初恋」、中田喜直/「霧と話した」、山田耕筰「からたちの花」
6. シューベルト/「ます」、「野ばら」、「セレナード」、「春の夢」、「ミューズの息子」
7. レハール/オペレッタ「メリーウィドウ」より「ヴィリアの歌」
8. ジーツィンスキー/ウィーン我が夢の街
9. ロッシーニ/二匹の猫の滑稽な二重奏曲
10.フンメル/トランペット協奏曲 変ホ長調
アンコール:同上~第3楽章
11.サン=サーンス/七重奏曲 変ホ長調作品65

【演 奏】S:秋山恵美子(5,7,9)、小濱妙美(2~4,8,9)/T:岩渕嘉宝(6,9)/Pf:岡田知子(2~9)、森美加(11)/Vn:嶋田慶子、白井篤/Vla:小野聡/Vc:茂木新緑/Cb:井戸田善之/T:H.P.シュー(以上10,11)/Org:C.ブリツィ(1)

この日は音楽祭中毎日ある16時からの演奏会に続いて草津国際音楽アカデミー友の会主催によるコンサートが行われた。夕方のヘフリガー追悼演奏会に対し、こちらは昨年亡くなったシュヴァルツコップの追悼コンサート。シュヴァルツコップの教えを受けた3人の歌手によるポピュラーなプログラムを前半に置き、トランペットの名手ハンス・ペター・シューを後半に迎えてコンチェルト等をやるという、これも多彩でわくわくする内容。

最初にシュヴァルツコップの追悼としてプリツィのオルガンで演奏されたバッハの「異邦人の救い主」はしんしんと心に沁みた。

続く3人の歌手による歌を聴いて、夕方の演奏会に出演した若手の歌手と比べてその熟達ぶりに感嘆した。夕方歌った天羽さんが「役者が一枚上」と感想を書いたが、こちらの3人は更に歳を重ねただけの貫禄、深さ、表現の幅などを確実に備えていた。

小濱さんの朗々とした堂々たる歌唱とステージ姿は、世界の一流オペラハウスでタイトルロールを歌う貫禄。その存在感の凄さ、まだまだいくらでも出そうな声をコントロールして、このホールに合わせたように歌う余裕の歌は、高みから降り注ぐような神々しささえ感じる。
秋山さんは最近名前を見ることが少なくご無沙汰という感じだったが、その歌を聴けば、名前を見ることが少なかったのは自分の怠慢と思えるほどの成熟した素晴らしい歌を歌う歌手であることがわかる。日本の有名な歌曲を、繊細な表現と豊かな情感を湛えてホールを包み、一人一人の心に届けてくれた。また、ヴィリアの歌では聴衆に合唱役を働きかけ、受講生などの歌声が入ってオペレッタの世界に浸った。
テノールの岩淵さんは直立不動の姿勢とは裏腹に実に柔らかで細やかなリートを聴かせてくれた。とりわけ「野ばら」は絶品!歌曲での歌詞の大切さを若い人達はこうした歌から学ぶことができるだろう。
「ポピュラーコンサート」に相応しい打ち解けた素晴らしい前半だった。

後半に登場したトランペットのシューは、さらにこのポピュラーコンサートに花を添えた。
18世紀当時、演奏会といえば常に主役だった「歌」に代わって「歌手が歌うごとくに」自由自在に、技巧を駆使した「歌」で聴衆を魅了するような楽器の奏者がオーケストラをバックに演奏をするようになったのが、協奏曲の起源ということを丁度読んでいた石井宏の本「クラシック音楽意外史」で知ったが、N響のメンバーによる弦楽合奏をバックに演奏したフンメルのコンチェルトでは、シューはまさに歌手が歌を歌うごとくに艶やかで色気がある音色でトランペットを操り、コロラトゥーラのごとく軽やかに駆け巡る胸のすくような超美演!これは無条件に楽しめた。
最後の曲でもないのに拍手が鳴り止まず、3楽章をアンコールしてくれるサービスも嬉しい。

そのフンメルの編成にピアノが加わってのサン=サーンスのゼプテットはフンメルのようにトランペットの独壇場という音楽ではないが、N響のメンバーとのアンサンブルが実に心地よかった。

8月28日(火)管楽アンサンブルの夕べ
草津音楽の森国際コンサートホール
【曲目】
1. ブラームス/バスタブル編/2つのモテットOp.29-2「神よ、わがために清き心をつくれ」
2. サン=サーンス/オーボエ ソナタ ニ長調Op. 166
3. ミヒャエル・ハイドン/ディヴェルティメント 変ロ長調P.92
4. ベートーヴェン/管楽八重奏曲 変ホ長調Op.103
5. ブラームス/ポプキン編/ハイドンの主題による変奏曲Op.56(管楽合奏版)

【演 奏】Ob:T.インデアミューレ(2~5)、加納律子(4,5)/Fg: M.トルコヴィッチ(3~5)、岡崎耕治(4,5)/Tp: H.P.シュー(1)、吉田太美男(4,5)/Hrn:水野信行(1,4,5)、野見山和子(4,5)/Fl:西田直孝(5)、榎田雅祥(5)/Pic: 庄田奏美(5)/Tb:首藤健一(1)、村田厚生(1)/Vn: P.フランチェスキーニ(3)/Vla: L.ラニエリ(3)/Cb:井戸田善之(3,5)/Cl:伊藤圭(4,5)、齋藤雄介(4,5)/Pf:吉村真代(2)

管楽器主体のこの室内楽コンサート、管楽アンサンブルというのは野外演奏とかオペラや大規模なオーケストラの音楽を当時の市民が身近で楽しむために編曲されるなどの背景があるだけに、リラックスムードの楽しめるプログラムが揃い、名手達による演奏のおかげで実際とても楽しいコンサートとなった。

特に印象に残ったのはベートーヴェンのオクテットとハイドン・ヴァリエーション。ベートーヴェンではインデアミューレ、トルコヴィチなどの外国勢の活躍に加え、この曲で活躍するクラリネットを吹いた伊藤さんと斎藤さん、ホルンの水野さんらも大活躍。アンサンブルの妙を堪能した。井戸田さんの弦バスが加わった「ハイドン・ヴァリエーション」では充実した響きで原曲の魅力が十分に伝わってきた。

また、最初に演奏されたブラームスのモテットの軟らかく光彩を放つ金管アンサンブルの響きにも魅了された。この演奏会では皇后の美智子さまが後半のプログラムを聴いたが、僕の一つ前の列に座ったので入場、退場の際はすぐそばを通った。ブラームスの金管アンサンブルの雅な響きのような雰囲気を感じた、なんて感想を持つのはやっぱり庶民の感覚か…
それにしてもこの日は厳重な警備体制が敷かれ、およそクラシックの演奏会に似つかわしくない強面のSPが睨みを利かせていたので、こちらも負けじと睨み返してみたが勝敗はすぐに終わった…

美智子さまは自分のBösendorferのピアノを持ち込んで、翌日のパーティーではモーツァルトのピアノコンチェルトの23番を弾くとのこと。遠山慶子さんのレッスンを受けていたということだが相当な腕前らしい。聴いてみたかったな…

美智子さまのものと思われるBösendorferのピアノ


8月28日(火)マスタークラス聴講(ボーグナー&カニーノ)
演奏会だけでなくマスターコースを聴講できるのもこの音楽祭の楽しみのひとつ。午前中はピアノのフェレンツ・ボーグナーのクラスにお邪魔し、午後はやはりピアノのブルーノ・カニーノの公開レッスンを聴講した。

二人とも一人の受講生について40分ほどかけてたっぷりレッスンを施していた。どのレッスンも大変勉強になったが、ボーグナーでは音楽のイメージ作りを丁寧に指導していた。1つ1つのフレーズにイメージを持つということは、打鍵されるすべての音に責任を持っていなければできないということを思い知る。「このピアニストの発する音は1つの音もおろそかにされていない」なんて感想を持つことがあるが、それがいかに綿密な準備と深い読みを要求されるかを改めて感じた。

カニーノのレッスンではフレージングとアーティキュレーションがいかに奥が深いものかを教わった。ベートーヴェンの後期の作品では初期の作品と比べてアーティキュレーションが曖昧になってくることや、自然なフレージングを行うための指使いなどメカニックな部分でも多くのものを学んだ。

受講生達は音はまあよくさらっていたが、表現という部分に関しては準備不足の生徒が多い。「音だけさらっておけば、後は先生が素敵な表現を付けてくれる」と思っているような「白紙」状態でレッスンを受けているように感じる部分もあったが、せっかく大家に教えてもらう貴重な機会なのだから、自力で準備できる最高の状態まで仕上げてレッスンに臨めば、更に多くのことを学べるのではないだろうか。「完璧に準備した」と自分では思ってレッスンに臨んでも「何もできていなかった」と思い知って勉強できるのがこうしたマスタークラスのはずだ。
「この部分はどんなイメージを持って弾いていますか」とか「なぜここをあなたは今このように弾いたのですか」とか聞かれても何も答えられないなんて… でもこれは「言うは安し成すは難し」の好例かも。自戒を込めた感想ということで、受講生の皆さんが熱心に参加していたことはもちろんです。

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