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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

伊藤 恵 ピアノ・リサイタル

2017年03月26日 | pocknのコンサート感想録2017
3月24日(火)伊藤 恵 ピアノ・リサイタル 
ヤマハホール


【曲目】
1.シューマン/幻想小曲集 Op.12
2.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109
3.シューベルト/ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D.959
【アンコール】
シューマン/リスト編/献呈

3年ぶりに聴く伊藤恵のリサイタルは、恵さんが得意とする作曲家たちの傑作が並んだ。シューマンは響きもアプローチも明晰。恵さんが弾くシューマンは、少しくぐもった響きのなかにたっぷりと詩情を湛えるイメージがあったのでちょっと意外。ヤマハのピアノの響きを意識したのだろうか。後半に入るに連れ熱が込もってきて、終曲ではシューマンが込めた思いを熱く朗々と歌い上げた。

この熱気はベートーヴェンに繋がった。恵さんはベートーヴェン晩年のソナタに真っ直ぐに向き合い、迷うことなく高みを目指して突き進んで行った。終楽章のバリエーションでは集中力とテンションを一層高めると同時に純度も増し、明晰なタッチで音楽を掘り下げて核心を捉えた迫真の演奏を聴かせた。さすが恵さん!と言える充実の演奏だった。

後半に演奏されたシューベルトのソナタは、もう10年以上前に恵さんの演奏を聴いて大好きになった曲。今夜の演奏も素晴らしかった。恵さんは深い懐で作品から一歩下がって全体を見渡すように音楽を大きく捉えつつ、その中で起こる様々な小さなドラマを親密に描き出す。壮大なファンファーレ風の開始部は、単に力強く華麗に音を響かせるのではなく、ほのかに香る淡い色調の空気で音楽を優しく包んでフワッと空中に解き放つ。そして次々と現れるシューベルト独特の、憧れと切なさと慈しみが混ざりあったようなフレーズが穏やかな口調で語られ、歌われて行き、胸キュンの感覚。

第2楽章は孤独と深いメランコリーを湛え、中間部ではデモーニッシュとさえ言える深刻な表情を覗かせた。第3楽章は、軽やかで嬉々とした明るい演奏もありかも知れないが、恵さんの演奏は第2楽章の憂鬱や不安の余韻が影を落としていた。それが完全に癒されるのは第4楽章。恵さんの手から紡ぎ出される優しさと慈愛に満ちた世界が全てを大きく包み込み、調和と平安をもたらした。シューベルトのスピリッツにこれほど共感し、共鳴していると感じる演奏に出会えることは稀だ。そんな貴重な場に居合わすことができた喜びを噛みしめた。
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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