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ドミトリー・シトコヴェツキー・トリオ ~J.S.バッハの世界~

2017年06月24日 | pocknのコンサート感想録2017
6月21日(水)ドミトリー・シトコヴェツキー・トリオ
ヤマハホール


【曲目】
1.バッハ/3声のシンフォニア BWV787~801
2.バッハ/シトコヴェツキー編/ゴルトベルク変奏曲 BWV988
【アンコール】
バッハ/3声のシンフォニア第11番ト短調BWV797

【演奏】
Vn:ドミトリー・シトコヴェツキー/Vla:アレクサンダー・ゼムツォフ/Vc:ルイジ・ピオヴァノ


バッハはどんな楽器で演奏しても、どんなスタイルで演奏しても「バッハの魅力」は変わらないとよく言われる。僕も常々バッハの音楽の持つ許容力の深さや普遍性を感じていて、そうであればバッハの鍵盤作品を弦楽器で演奏することは何の不思議も不自然さもない。

特にゴルトベルク変奏曲は様々な楽器による演奏が試みられている作品で、近頃は松原勝也らがリリースした弦楽五重奏によるCDが評判になったし、シトコヴェツキーらによる弦楽器3つによる演奏は、その元祖といったイメージがある。ヤマハホールという響きのいい小さな空間でこれを聴けば至福の時間を味わえるに違いないと、またまたヤマハホールに出かけた。

前半は僕も昔散々さらったインベンションとシンフォニアから、15曲からなる3声のシンフォニア。これは鍵盤楽器以外での演奏は聴いたことがなかったが、異なる3つの弦楽器のアンサンブル奏でられた15曲は、ピアノやチェンバロで聴くよりも一層それぞれの曲の個性が出ると感じた。快活な音楽や宗教的な祈りの音楽、祝祭的な厳かな雰囲気を湛える曲など、それぞれの異なるシーンを、シトコヴェツキー、ゼムツォフ、ピオヴァノの3人はそれらに相応しい音色や呼吸、テンションを使い分けて、15の音のアルバムを編んでいった。

それぞれが完結した曲の集まりであるシンフォニアに対し、ゴルトベルク変奏曲は一つのテーマを素材にした壮大な作品だ。それだけに、この大曲を聴き終わったときは、長い旅に出て故郷に帰ってきた気分がした。これは、最後に冒頭と同じアリアに帰ってくるという仕掛けのせいでもあるが、シトコヴェツキー・トリオによる演奏は、旅の途中の変化が多彩で、よりディープな旅をたっぷりと楽しんだ充実感があった。

それは、各変奏の中で行われるリピートの際の多彩なアプローチが大きな要因だ。曲の裏に回って、全く別の顔を演奏で伝える。装飾が加わったり、ディナミークに変化があるのはもちろん、セッコとレガートの対比やアーティキュレーションの変化など、一つの音楽が、光の当て方で表情が大きく変わる実験的な試みのようにも感じられた。

3人の演奏は、とりわけ響きが美しいとか、歌に溢れているとか、生気に満ちているといったはっきりとした特徴を感じるわけではないのだが、そこはかとない魅力を漂わせる演奏と言ったらいいのだろうか、噛めば噛むほど味が出るというタイプの演奏で、それと前の晩に普段より少し多めに酒を飲んだせいもあるのか、眠気を振り払うことが出来なかったのは残念だった。

CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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