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ベートーヴェン、交響曲前夜。

2020年11月19日 | pocknのコンサート感想録2020
11月14日(土)ベートーヴェン、交響曲前夜。
ピリオド楽器によるベートーヴェンの「夜明け」〜初期の室内楽《北とぴあ国際音楽祭2020参加公演》
北とぴあ つつじホール

【曲目】
♪ 七重奏曲変ホ長調作品20~第1、2楽章
♪ チェロソナタ第1番ヘ長調作品5-1
♪ 「優しき愛」WoO123
♪ 七重奏曲変ホ長調作品20~第3、4、5楽章
♪ ピアノソナタ第20番ト長調作品49-2
♪ 「アデライーデ」Op.46、
♪ 七重奏曲変ホ長調作品20~第6楽章

【演奏】
Vn:原田 陽/Vla:廣海史帆/Vc:山本 徹/CB:布施砂丘彦/Cl:満江菜穂子/Fg:岡本正之/Hrn:藤田麻理絵/B:渡辺祐介/フォルテピアノ:川口成彦

今日はコンサートのダブルヘッダー。ウェールズ弦楽四重奏団のベートーヴェンを第一生命ホールで聴いたあと、北とぴあでこちらもベートーヴェン。毎年良い企画と内容で人気の北とぴあ国際音楽祭も、今年は外国勢が来日できないこともあって規模が縮小されるなか、「ベートーヴェン交響曲前夜」と題して、第1交響曲が書かれる前のベートーヴェン若書きの作品を集めた興味深い室内楽の演奏会が行われた。

メインは初期の傑作、七重奏曲。ベートーヴェンの時代、多楽章の音楽は楽章間に他の作品を入れ込んで演奏会を行うのが通例だったことにちなみ、全曲を3部分に分け、間に他の曲が挿入された。使用楽器はピリオド。発表当時から評判だったという七重奏曲は、生誕250年の今日でも演奏頻度の高い人気の作品だが、ピリオド楽器で聴くのは初めてかも。これが楽しかった。

モダン楽器と比べてピリオドは楽器特有のクセが強い。それがいい味を出してそれぞれが自己主張しつつ、他の楽器と楽しげにやり取りするのがいい。それぞれがやっていることが目立つし、違う楽器の組み合わせで生まれる響きもおもしろい。藤田さんはバルブのないナチュラルホルンで自然倍音以外が入る速いパッセージも難なく演奏してとにかく上手い。旋律での出番が少ないヴィオラやファゴツットも第3楽章などでは活躍の場があって、各プレイヤーの名手ぶりも含め、生き生きした演奏を心行くまで楽しんだ。

3つに分けて演奏するのは気分が変わっていいし、変化がある分眠くならなくていい。そこに挿入された曲はそれぞれ「ベートーヴェン交響曲前夜」の多彩な魅力を伝える曲で、これも楽しめた。有名だけれど実演で聴く機会はまれな歌曲は、渡辺さんの歌がベートーヴェンの初々しい溢れる思いを伝えていたし、川口さんが弾いたソナタ(ソナチネ)は若くて生真面目なベートーヴェンのチャーミングな一面を感じた。

最も感銘を受けたのは山本さんと川口さんのデュオによるチェロソナタ。若きベートーヴェンの迸る情熱と気概がストレートに伝わってきた。それだけではなく、まだモーツァルトやハイドンのスタイルを残す音楽の優美さもいい。チェロよりもピアノパートに重きが置かれたこの曲での、川口さんのフォルテピアノの充実した演奏ぶりが心を捉えた。

川口さんはコロナによる長くて辛い演奏会休止が続いた後に最初に聴いたショパンのコンサートで、繊細で表情豊かなフォルテピアノの演奏に聴き惚れたが、ベートーヴェンではかっちりしたフォルムをベースに柔らかく温かな感触の肉付けと、細やかで美しい細工を施していった。対する山本さんのチェロは力がみなぎり、熱く語りかける。両者は思い切りよく働きかけあって、白熱の演奏を繰り広げるが、そんなときも両者の音色がほどよく溶け合い、時に同質の響きとしてデュオの迫力が増強されるのは、ピリオドならではの効果だろう。もしモダンピアノでまともにガンガン弾いたら、ピアノパートが偉そうなほど際立ってしまってピアニストはバランスを取るのが大変だろうし、そもそも両者の遠慮ないバトルにはならない。川口さんはフォルテピアノの名手として、今後益々活躍の場を広げていくに違いない。

まろワールドで聴いた弦楽三重奏曲もそうだが、ベートーヴェンの初期作品も名作の宝庫であることを今夜改めて認識した。

ウェールズ弦楽四重奏団 ベートーヴェン・チクルスⅢ 2020.11.14 第一生命ホール
超久々にコンサートを聴いて(江口 玲&川口成彦 ピアノリサイタル) 2020.6.19 紀尾井ホール
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