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作曲家の横顔 武満 徹 東京シンフォニエッタ

2020年12月04日 | pocknのコンサート感想録2020
12月3日(木)板倉康明 指揮 東京シンフォニエッタ
作曲家の横顔 武満 徹~生誕90年~ 第48回定期演奏会

東京文化会館小ホール
【曲目】
1.武満 徹/雨ぞふる(1982)
2.武満 徹雨の呪(1982)
3.川島素晴/And then I knew 'twas Toccata II(2020、委嘱初演)
4.武満 徹/系図−若い人たちのための音楽詩−(1992・岩城宏之編曲による室内楽版)
語り:林 愛実/アコーディオン:大田智美


東京シンフォニエッタによる武満特集を聴いた。前半は「雨」シリーズから2曲。
「雨ぞふる」は、各パートがクリアに語りかけてきた。それらが交感し合い、息づき、意思を伝えてくる。輪郭が曖昧にぼやけてしまうこともある武満作品が、透明でくっきりとした音像を結んだ。

「雨の呪文」は指揮者なしの小編成。プレイヤー同士が敏感に反応し合いながら音を発し、デリケートでかつ研ぎ澄まされた静謐な世界を描いた。後半ではアンサンブルが滑らかに連携し、作品が具体的に雨を描写しているかはともかく、シトシトと降る雨の情景が浮かんできた。

川島素晴については最近FMの「現代の音楽」で、いずみシンフォニエッタ大阪のプログラムアドバイザーとして、また作曲家としてトークと作品(尺八協奏曲)を聴いて興味と共感を覚えていた。武満の「そして、それが風であることを知った」へのオマージュというこの作品からは武満の世界に通じる響きがする一方で、より具象的、明確な旋律やリズムが登場して、川島独自の世界も見えた。常にトレモロを奏するヴィブラフォンの響きが印象的。

始まって間もなくしてあるパートが入って来ず(恐らく)、一旦演奏を止めて最初からやり直すハプニングがあった。止めずに取り繕っても聴き手は気づかなかっただろうが、こうしてやり直すのは音楽と聴衆に対して誠実な態度だと思う。

そして再び武満。今夜の「系図」は、岩城宏之がオーケストラ・アンサンブル金沢用に編曲した室内オケ版が使われた。とは言え、この小さめのステージにところ狭しとプレイヤーが居並び、なかなかの存在感。板倉は速めのテンポ、能動的なアゴーギクで、このファンタジーに富んだ音楽を生き生きと表情豊かに進めて行った。響きはクリアで、聴き慣れた演奏よりも更に親密に心に届いた。

林愛実の朗読は清らかで、表情は大袈裟に過ぎず、かといって淡白でもなく、ほどよい抑揚で心に素直に響いてきた。谷川俊太郎のこの詩はもはや詩単体としてではなく、この音楽と分かちがたく一体となって存在している。

オケはそれぞれのフレーズをよく語り、よく歌う。音楽と言葉から情景が見え、香りを感じ、風や陽射しの感触、温度や湿度が伝わってくる。それらが囁きかけ、息を吹きかけ、手を引いてくる。憧れ、切なさ、悲哀、愛、夢、様々な感情が自然に喚起され、独特の世界に浸り切った。大田智美の哀愁帯びたアコーディオンが心を揺らす。調性音楽に回帰「してしまった」(←敢えて)武満の甘く切なく深遠な世界が表現されたこの作品は、調性音楽の新たな世界を開いたと云ってもいい本当に素晴らしい作品だ。

終演後、板倉さんがマイクを持ち「どんな状況でも活動を続けるというのが、私たち東京シンフォニエッタのポリシー」と挨拶。板倉さんは今年ご両親を続けて亡くし、当初考えていたものとは全く異なる意味がこの作品に加わったと話してくれた。曲を聴いたあとだけに、そして僕も大切な身内を見送ったあとだけにこの言葉は沁みた。演奏者との面会が出来ない代わりにと、ステージ上で出演者がポーズを取ってくれて、聴衆のための撮影タイムが設けられた。これも含めてとても心暖まるコンサートとなった。

板倉康明/東京シンフォニエッタ ~サマーフェス2020~ 2020.8.23 サントリーブルーローズ
板倉康明/東京シンフォニエッタ ~湯浅譲二特集~ 2010.12.10 東京文化会館小ホール

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