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新国立劇場オペラ公演「さまよえるオランダ人」

2007年03月07日 | pocknのコンサート感想録2007
3月7日(水)新国立劇場オペラ公演
新国立劇場

【演目】
ワーグナー/「さまよえるオランダ人」

【配役】
ダーラント:松位 浩(B)、ゼンタ:アニヤ・カンペ(S)、エリック:エンドリック・ヴォトリッヒ(T)、マリー:竹本 節子(MS)、舵手:高橋 淳(T)、オランダ人:ユハ・ウーシタロ(Bar)
【演出】
マティアス・フォン・シュテークマン
【美術/衣装】
堀尾 幸男/ひびのこづえ

【演奏】
ミヒャエル・ボーダー指揮 東京交響楽団/新国立劇場合唱団

ワーグナーのオペラを観るのはフランクフルトで「マイスタージンガー」を観て以来5年ぶり、「オランダ人」を観るのは20年以上も前、チラシ配りのバイトをやっていてタダで入れてもらった東独時代のベルリン国立歌劇場の来日公演以来。あのときの公演はその迫力に打ちのめされた記憶がまだ鮮明に残っているが、今夜の新国の公演もとても素晴らしかった。

序曲は余り腰が座っていないような頼りなさを感じ、中間部のゼンタのモチーフも薄っぺらな感じで、いつもオペラで良い演奏をする東響だが、ちょっとアレ?という気がしたが、本幕に入ってからはとても雄弁で充実した演奏になった。ピーンと芯の通ったしなやかな弦、肝心なところをしっかり踏ん張り、迫力あるサウンドを築いた管、オケはボーダーの指揮で終始幅広い表現力を熱く聞かせた。

このオペラでは合唱が大活躍するのも嬉しいが、新国の合唱団は素晴らしかった。男声合唱のボリューム感には昔ベルリン・シュターツオーパーを聴いた時の感動が甦った。ボリューム感だけでなく、輝かしく、また柔軟で雄弁。女声合唱も男声に負けじの存在感を示し、奥行きのある表現と艶やかな音色が見事。ステージ上の動きも自然で余裕さえうかがえた。

オケ、合唱に輪をかけて素晴らしかったのが歌手陣。それまで知らなかったような歌手ばかりだったが、誰もが甲乙付け難いほど大物と感じる歌い手が集まった。

まず最初に耳を引いたのはダーラントを歌った松位浩。貫禄たっぷりの骨太の歌唱だが無骨さはなく、表現力にも優れている。存在感も十分で、金に目がくらんだ父親という以上の威光を放っていた。オランダ人を歌ったウーシタロはフルーティストから転身した歌手とのことだが、もはや名ワーグナー歌いを思わせる見事なバリトン。一方では威厳さを持ちながらも、激しい部分も迫力たっぷりに歌い上げた。始めからこんなに飛ばして大丈夫?と心配になるほどのエンジン全開はとうとう最後まで衰え知らず。すごい!

その相方であるゼンタ役のカンペもすごい。まず2幕で登場して第一声で歌うゼンタのメロディーがなんと気高く神々しく響いたことか。オケの大音量にも負けないような強靭な声の持ち主で、弱音から強音へ持っていくしなやかなコントロールをはじめ、声・表現力共に圧倒された。エリックを歌ったヴォトリッヒもヘルデンテノールを思わせるような見事な歌唱で、ゼンタにあまり相手にしてもらえず、苦悩する役ではもったいないと思うほど。しかし、こんな素晴らしい歌だからこそ、オランダ人はゼンタに疑いを抱き破局を迎えることを妙に納得させる。その他、竹本節子、高橋淳の活躍も見逃せない。

舞台もいい。開幕冒頭嵐の中、ノルウェー船が漂着する場面の迫力、オランダの幽霊船が近づき、不気味な真っ赤なマストを広げるシーン、糸車を回す女たちのシーンではゼンタの船の穂先のような形をしたエリアが隔絶され、糸車も船の舵のようで象徴的。女達の衣装の色合いもいい。圧巻は第3幕始め、姿無きオランダ船の船員の合唱と共に真っ赤なマストが大空に大きく舞い上がって広がり、それがノルウェーの水夫達を包み込んでしまう場面。このあたりから終幕に至るまで息つく暇もないほどに視覚的にも聴覚的にも引き込まれてしまった。これには指揮者ボーダーの手腕も大きいはず。

筋書きでは最後の場面はゼンタが海に身を投げ、オランダ人がそれを海中から抱き上げてある種の「救い」があるはずだが、この舞台ではゼンタが幽霊船に一人乗り込み、穂先に立ったまま船もろとも海中へ沈み、オランダ人は陸で倒れこむというシーンになっていた。これがゼンタの貞節と自己犠牲を一層際立たせ、最後のオーケストラのゼンタのモチーフがより気高く響いて聞こえた。これに対し、疑いを持ったためにこのような結末を招いたオランダ人の軽率さを浮かび上がらせてもいた。

これだけの歌手陣を揃え、合唱もオケも素晴らしく引き込まれて行く舞台は、ヨーロッパに行ってもそういつもは出会えないと思う。メルクル率いるドレスデンのゼンパーオーパーとカサロヴァを擁するチューリヒ歌劇場が「ばらの騎士」を持ってくるのにはもちろん大いに惹かれるがあまりに高いし、やっぱり新国の「ばらの騎士」に期待することにした。

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2 コメント

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オランダ人は (一静庵)
2007-03-09 13:31:22
今回の新国立劇場「さまよえるオランダ人」はとても良かったですね。
最後のところですが、オランダ人は陸地に残って倒れますが、あれは、死んだということなのでしょうか?あの世でゼンタと結ばれるということなのでしょうか?私は、ゼンタだけが幽霊船とともに死んでしまって、悲しみのあまり、ただ倒れこんだのかと思いました。ゼンタに自己犠牲させておいて、自分は生き残ってしまったという、悲しみと後悔。呪縛からは救済されたものの、一人残っちゃった、ということでしょうか。
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Re:オランダ人は (pockn)
2007-03-10 11:43:07
一静庵さん、こんにちは。僕はあれを単純に独り残された「みじめなオランダ人」という風に感じました。ゼンタの話に耳を貸そうともせず、あらわな疑いのせいで自ら招いてしまった破局、「人を信じぬ者の運命はこうなる」とでも言っているような・・・
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