老人の四肢は やせこけ、
項 には 深い皺が刻みこまれていた。
熱帯の海が反射する太陽の熱で、老人の頬には 皮膚癌をおもわせる 褐色のしみができ、
それが 顔の両側に ずっと下のほうまで 点々とひろがっている。
両手には ところどころ深い傷痕が見える。 網を繰って 大魚をとらえるときにできたものだ。
が、いずれも新しい傷ではない。
魚の棲まぬ 砂漠の蝕壊 地域のように 古く乾 からびていた。
この男に関するかぎり、なにもかも 古かった。
ただ 眼だけがちがう。それは海とおなじ色をたたえ、不屈な生気を みなぎらせていた。
「老人と海」より ヘミングウェイ (著) 福田 恆存 (翻訳) 新潮文庫
熱帯の海が反射する太陽の熱で、老人の頬には 皮膚癌をおもわせる 褐色のしみができ、
それが 顔の両側に ずっと下のほうまで 点々とひろがっている。
両手には ところどころ深い傷痕が見える。 網を繰って 大魚をとらえるときにできたものだ。
が、いずれも新しい傷ではない。
魚の棲まぬ 砂漠の
この男に関するかぎり、なにもかも 古かった。
ただ 眼だけがちがう。それは海とおなじ色をたたえ、不屈な生気を みなぎらせていた。
「老人と海」より ヘミングウェイ (著) 福田 恆存 (翻訳) 新潮文庫
Ludovico Einaudi - Punta Bianca
誰かの為に 台所に立つのは いつ以来だろう
菜を洗い
刻み
煮る
炒める
・・・見よう見真似で 覚えた料理だ
菜を洗い
刻み
煮る
炒める
・・・見よう見真似で 覚えた料理だ
口に 合うだろうか・・・・・・
らしくない笑みが ふいに浮かぶ
腹いっぱいに 食べさせてやりたい。
慣れた段取りの ひとつひとつが
ま新しい、それでいて 懐かしく くすぐったいような「この感じ」
身もこころも
すべて 満たしてあげたい。
この気持ちが 本当の 「うれしい」なんだろうか。
腹いっぱいに 食べさせてやりたい。
慣れた段取りの ひとつひとつが
ま新しい、それでいて 懐かしく くすぐったいような「この感じ」
身もこころも
すべて 満たしてあげたい。
この気持ちが 本当の 「うれしい」なんだろうか。
De l’éternel Azur la sereine ironie
Accable, belle indolemment comme les fleurs,
Le poète impuissant qui maudit son génie
À travers un désert stérile de Douleurs.
にんげんというヤツは 現金 な ものだ。
あれが家を出てから
勝手気ままな生活に 胡坐をかき過ぎた。
心やすい習慣は 思う通り カタ付けられるが 故に
感情の昂ぶりを鎮め、平穏で 居られるが、
些細な変化や 虫の知らせに 鈍くなる ヨイ
今まで 何にひとつ 私は
まともに 学んでこなかったように観じる
なさけない・・・。
思いつくまま
食べたいものを 作っていると
無意識に 口馴れた かんたんな総菜ばかり並べる
こんな
訪ねて来てくれたのだ。美味いものを 食べさせたい
笑ってほしい。
・・・・・・そうだ。 魚を 分けてもらおう。
今日は 何処で 釣り糸を垂れているだろうか
馴染みの番号に 電話をすると 相変わらず
飄々とした そのひとは いつもの口ぶりで ひとにやるような魚はないと いった。
「 最近は 海には出ないんだ。
この 異常気象 だろ。水温が上がって ろくなものしかいない。
漁場が変ってしまった。
じき この辺りも 釣れなくなるね。
食える魚が ないんだ。いずれ ひとも いなくなるよ。
それよりも お前、俺に 魚の所望なんて どういう風の吹き回しだ?
・・・・・・ははぁん。オンナ か!」
私を いろ道に 引っ張り込んだ 張本人の彼である。
うまく言い繕っても、
どのみち 墓穴を 掘るのは 明らかだった。
やりきれない・・・。
あんな思いは もうしたくなかった。
誰も傷つけない 善い人間になりたがるのは
女を漁る 好色家と 本質は変わらない。ただの欲望だ。
ひとの心を喜ばせ、
おんなの身体を悦ばせて 私は「何が」欲しかったのか。
うまく言い繕っても、
どのみち 墓穴を 掘るのは 明らかだった。
「 私は 貴方の様な 間夫にはなれません。 師匠
そんな 器ではない。分かっていたんでしょう、スキ者の貴方なら 」
そんな 器ではない。分かっていたんでしょう、スキ者の貴方なら 」
やりきれない・・・。
あんな思いは もうしたくなかった。
誰も傷つけない 善い人間になりたがるのは
女を漁る 好色家と 本質は変わらない。ただの欲望だ。
ひとの心を喜ばせ、
おんなの身体を悦ばせて 私は「何が」欲しかったのか。
真実は 非情だ。
人を
何でも 理解してやれる人格者は それ故 罪深い。
望むものを 与えさえすれば 身も 心も
すべて 委ねてくれる 好都合な相手が いくらでも 簡単に 手に入るのだ。
「すべて」
およそ まともな人間ではない。キカイ人形である。
嫌だ。なにかが 間違っている。
厭だ。 ちがう、チガウ、違う やめてくれ。
「はいよろこんで 」 こっちのけんと
「 やれやれ。やっと 気づいたかね 。この 朴念仁。
いい加減 目ぇ 覚ませや。
ユカの事にしろ
別れた奥さんにしろ お前は お前なりに 充分尽くしたろ?
遁 れつつ、眼 を閉じても、感じている、見ているのだ、
打ちのめさんばかりの 後悔の 激しさで、
虚ろな わたしの魂を。どこへ遁 れる? いかなる
狂暴な夜を千切 っては 投げる、胸を抉 るこの侮蔑に?
いい加減 目ぇ 覚ませや。
ユカの事にしろ
別れた奥さんにしろ お前は お前なりに 充分尽くしたろ?
打ちのめさんばかりの 後悔の 激しさで、
虚ろな わたしの魂を。どこへ
狂暴な夜を
「殷文鳥獣戯画」 青山杉雨筆
ああ。
お前だけが 悪いんじゃないさ。
彼女たちが 良いワケでもない。
お前は 十分苦しんだ。もういい。苦しみ過ぎだ。
もっと 幸せになれよ。
もう自分を許してやれ 。
Brouillards, montez ! versez vos cendres monotones
Avec de longs haillons de brume dans les cieux
Que noiera le marais livide des automnes,
Et bâtissez un grand plafond silencieux !
それと、お前、忘却の河の 沼地を出でて、拾うべし、
来がてらに
親愛なる 倦怠よ、塞ぐのだ、疲れを知らぬ その手によって
鳥たちが 悪意を籠めて
自分の作った
自分も
彼女たちも 自由にしてやるといい。
お前は 自由だ。
自由なんだよ。幸せになっていいんだ。
お前みたいな いいニンゲンが
のさばるから 世の中 どんどん悪くなる。
風雲児気取りの 革命家か、
冥想に迷走する 坊主に君子様、
我が物顔で 人畜無害な リーマン稼業に逃げる、
腰抜け よ。
Encor ! que sans répit les tristes cheminées
Fument, et que de suie une errante prison
Éteigne dans l’horreur de ses noires traînées
Le soleil se mourant jaunâtre à l’horizon !
のさばるから 世の中 どんどん悪くなる。
風雲児気取りの 革命家か、
冥想に迷走する 坊主に君子様、
我が物顔で 人畜無害な リーマン稼業に逃げる、
腰抜け よ。
Encor ! que sans répit les tristes cheminées
Fument, et que de suie une errante prison
Éteigne dans l’horreur de ses noires traînées
Le soleil se mourant jaunâtre à l’horizon !
ごちゃこちゃ 御託を並べないで
素直に テメエの 欲しいもんを 手に入れりゃあいいんだ。
素直に テメエの 欲しいもんを 手に入れりゃあいいんだ。
他人の 顔イロばかり伺う 頭でっかち野郎め
同じ
男もオトコだが、女もオンナ、おタガイ様の おカゲ様よ。
どいつもコイツも イかれてやがる
ナニでも 知ったかぶるような
ナルシストのオナニスト同志で ナニが 楽しいかねえ
La Vie En Rose 人生いろイロ さき乱れて なんぼの人生だろ
しかし、まあ 根っから隠者みたいな
お前を オトコにする ヒメさんが いたとはなぁ 」
「 彼女は・・・・・・
その、天女 のようなひとなんです・・・」
そう口にした途端
半時前 この腕の中で
しなやかにたわむ 彼女の しろい肢体が 生々と よみがえり
私の「チ」という「ち」が 再び 逆流しはじめる
ほしい。
この世の男がのぞむ 夢のような あのひとが・・・・・・
半時前 この腕の中で
しなやかにたわむ 彼女の しろい肢体が 生々と よみがえり
私の「チ」という「ち」が 再び 逆流しはじめる
ほしい。
この世の男がのぞむ 夢のような あのひとが・・・・・・
サカナクション「 忘れられないの 」
「 用が 済んだんなら 電話を切ろうか、おワカイの(笑)
老いぼれの説教より
お前の天女さんに 尽くしてやりな
「彼女」なんだろ? お前が 本当に欲しいのは。
L a v i e e n r o s e
人 の 一 生 は 短 い。
想い残すことなく 存分に「いま」を たのしめ。
さぁーて、俺も 弟子には 負けられんなぁ。
今晩のアフターは、取りやめだ。陸のオトヒメちゃんばかりじゃつまらねぇ
明朝 日の出前には、海へ出る。」
老いぼれの説教より
お前の天女さんに 尽くしてやりな
「彼女」なんだろ? お前が 本当に欲しいのは。
L a v i e e n r o s e
人 の 一 生 は 短 い。
想い残すことなく 存分に「いま」を たのしめ。
さぁーて、俺も 弟子には 負けられんなぁ。
今晩のアフターは、取りやめだ。陸のオトヒメちゃんばかりじゃつまらねぇ
明朝 日の出前には、海へ出る。」
「 師匠・・・
釣った魚を口実に 天女さんを
口説こうなんていうのは 止してくださいよ。
私は 貴方ほど ニンゲンが 出来ていません。」
「 ほほお、お前 いっちょ前に 嫉妬 できるようになったかぁ♨
かわいいヤツだ。コレだから
お堅い クソ真面目の弟子は 女に 泣かされるんだよ、ばーか。
狙った獲物を 目指す 意志 と
下肢の一物は 固くて 構わん。むしろ 必要 だ。
だが、テメエの アタマと ハートは 赤ん坊 のように うーんと 柔らかく しとけ。
下肢の一物は 固くて 構わん。むしろ 必要 だ。
だが、テメエの アタマと ハートは 赤ん坊 のように うーんと 柔らかく しとけ。
天は 地に
地は 天に 「な る」
善悪も 色恋と同じ様に 常時変化する 「モノ」だ。
今 イたる所で 「そ」のイジョウが 変則 している。
― 空は、死んだ。― お前のほうへ、わたしは駆け寄る! おお、物質よ
与えてくれ、残酷な理想と 罪の忘却とを、
人間どもという 幸せな 家畜どもが 眠っている
寝藁 を 分かつべく やって来た この殉教者に、
与えてくれ、残酷な理想と 罪の忘却とを、
人間どもという 幸せな 家畜どもが 眠っている
お前は ソレをちゃんと 識別した。
識別するだけじゃなく 受け入れた。
そうだ。ソレでいい。
ここは 普遍ではない。
不変でもない。
「それ」と
Car j’y veux, puisque enfin ma cervelle, vidée
Comme le pot de fard gisant au pied d’un mur,
N’a plus l’art d’attifer la sanglotante idée,
Lugubrement bâiller vers un trépas obscur…
草書千字文巻(部分) 文徴明筆 明時代・嘉靖24年(1545) 東京国立博物館蔵
……頃合いだ。
ゼン意を 棄て
ゼン知を 捨て ひとのネを聴 し
ソの 自分自身を すべて 「 問 え 」
お前は 俺じゃない。
お前が しんに 求めるものは
俺の教えや 偉人賢人の真言、いかなる宗教、主義思想にはない
ここに 既存しない「なにか」だ。
ゼン意を 棄て
ゼン知を 捨て ひとのネを
ソの 自分自身を すべて 「 問 え 」
お前は 俺じゃない。
お前が しんに 求めるものは
俺の教えや 偉人賢人の真言、いかなる宗教、主義思想にはない
ここに 既存しない「なにか」だ。
無駄なのだ! 蒼穹は勝ち誇り、聞こえてくるのは、その凱歌、
鐘楼の鐘の響きに。わが魂よ、蒼穹は さらに我らを
恐怖せしめんものと、悪意に満ちた
活き活きとした 金属からは 響く、蒼い色の お告げの鐘が!
「情」に のまれるな。
「理」にも 逃げるな。
テメエの「まこと」が お前の師だ。
やっと 今スタート地点に立った お前だ。
まだまだ 新参。これからが本番だ。かちにいけ。
絶 対 に 逃 が す な。
Creepy Nuts - オトノケ-
師匠の眼差しは 地上の私から離れ 既に
真っ蒼な 大海原で 師を待つ 彼の
ここにいきる 我々に
等しく 同じみちが あろうはずがない。ああ。
「ある」に 師があるか。
「ない」に 弟子があるものか。
みな 自分に 都合のイイ 現実を いきているのだ
言うに事欠く 良い人間が
真理だとか正義だとか愛だとか ヨイ「善」を 振りかざすだろう。
都合のイイ お誂え向きの「悪」で 自分も他人も 全てシタがえ
ヨクない みな殺しを 肯定 する 好い人間の「ゼン」だ。
なにが 神で
なにが 仏なのか。
なにが 仏なのか。
言うに事欠く 良い人間が
真理だとか正義だとか愛だとか ヨイ「善」を 振りかざすだろう。
都合のイイ お誂え向きの「悪」で 自分も他人も 全てシタがえ
ヨクない みな殺しを 肯定 する 好い人間の「ゼン」だ。
Il roule par la brume, ancien et traverse
Ta native agonie ainsi qu’un glaive sûr ;
Où fuir dans la révolte inutile et perverse ?
Je suis hanté. L’Azur ! l’Azur ! l’Azur ! l’Azur !
ほんものは 言葉にあって言葉ではない この自明
そのものを 生きている この「なにか」である。
師の言葉に あかあか 滾 る
この 「しん」の ふるえこそが 私をいきるいのち
「せい」 しん の証しだ。
この 「しん」の ふるえこそが 私をいきるいのち
「せい」 しん の証しだ。
「 有難うございます。師匠、御武運を祈ります。
カタがついたら また いつもの(いさな)で 吞みましょう。」
「おう。またな」そういって 電話を切った
師匠は ひとり 彼のふへんの海へ 挑みにいくだろう。
こいしい
師は 師のみちを
私は 私のみちを ゆく。
儚い ひとよの夢だろうと
まだ。わたしは 私をいきている。
このままでいたくない。
La Vie En Rose Chet Atkins
欲しい魚には ありつけなかったが
いま自分の出来る限りを尽くす
そう思うと 肩の力が抜け、冷蔵庫から 卵を取り出した。
そうだ。だし巻き を 作ろう。
・・・海を見るだけだった かつての私と彼女の 深夜のドライブは
ときに 楽しいピクニックになった。
彼女は ときどき お弁当を持ってきた。
仕事を終えた後
小腹が空くからと言って
ご相伴に 与ったものは どれも つつましい
家庭で食される 普段のおかず だった。
仕事を終えた後
小腹が空くからと言って
ご相伴に 与ったものは どれも つつましい
家庭で食される 普段のおかず だった。
芋の煮っころがし
厚揚げの炊いたん、きんぴら、
切り干し大根に、ひじきの煮物、焼き魚、
季節の野菜を使った 炒めものや 胡麻和え 香の物・・・
取り分けたお菜を ひと口ふた口つまんだ後
彼女は お腹がいっぱいになったからと、
いつも 残りの弁当を 私に持たせてくれた。
当時、コンビニや 店屋物で 済ませる私の体を 気遣っていたのだと思う。
・・・・・・初めて 会った時も そうだった。
彼女は ひとが気づかない さり気ない 心遣いをする
彼女は お腹がいっぱいになったからと、
いつも 残りの弁当を 私に持たせてくれた。
当時、コンビニや 店屋物で 済ませる私の体を 気遣っていたのだと思う。
・・・・・・初めて 会った時も そうだった。
彼女は ひとが気づかない さり気ない 心遣いをする
「 常備菜を 詰めただけ 」と言う
少し多めのお弁当には 必ず 私の好物の 甘い卵焼き を 入れるひとだ。
まったく。今頃になって 気づくとは・・・。
ぎぃっと 床板のきしむ音が 聞こえ 振り返ると、
台所の戸口から 彼女が ちょこんと顔を出して 私を見ていた。
・・・・・・目元が まだ ほんのり赤い。
「 やあ、少しは 眠れたかい? 」
化粧っ気のない みだれ髪のせいか あどけない少女のように見えた。
「 いいにおい。何をつくっているの? 」
「 あり合わせのものだよ。
生憎、肉も魚も切らしていてね、今
だし巻き卵を 作ろうとしていたところなんだ。
貴女は 甘くない味 が 好みだったね 」
「 まあ、そんなことまで 覚えていたの 」
「 覚える必要はないよ。貴女の顔に 全部 書いてあるんだから。笑
さて、マダム この後の予定は? 誰かと約束がある?」
「 あり合わせのものだよ。
生憎、肉も魚も切らしていてね、今
だし巻き卵を 作ろうとしていたところなんだ。
貴女は 甘くない味 が 好みだったね 」
「 まあ、そんなことまで 覚えていたの 」
「 覚える必要はないよ。貴女の顔に 全部 書いてあるんだから。笑
さて、マダム この後の予定は? 誰かと約束がある?」
「 私はもう(マダム)ではないの・・・
予定も約束も
・・・・・・何もないわ。
遅くなりそうだし、どこか 宿を取らなきゃ」
予定も約束も
・・・・・・何もないわ。
遅くなりそうだし、どこか 宿を取らなきゃ」
「 なら、うちに 泊まっていかないか? 私ひとりだ。
遠慮することはないよ。風呂も わいている、ゆっくりするといい。」
「・・・・・・ありがとう。
あの・・・じゃあ、お言葉に甘えて、お世話になります。」
「 こちらこそ。
来てくれて ありがとう。
久しぶりに ひとりではない 賑やかな晩だ。とても嬉しい。
風呂は すぐ隣だよ、好きに使って構わないから。
それはそうと、だし巻きなんだけどね、
塩加減が よく分からないんだ、味を見てくれないかな? 」
塩加減が よく分からないんだ、味を見てくれないかな? 」
「 ごめんなさい・・・・・・
あの、今 とても はしたない格好 なの
・・・ねえ、私の服、知らない?」
「 ああ、風通しのいいところに 干してあるよ。
しわくちゃに してしまったからね。
それより そんな所に 隠れていないで、こっちに おいで。
陽の当たる場所で 貴女の身体を 隈なく見たが
はしたないところは ひとつもなかった。綺麗だ。とても。」
「 貴方って相変わらず 口がお上手ね 」
「 私は 嘘はいわない、知っているでしょ 」
「 イけないひとね。
わたしを 俎上の魚 にして どうなさりたいのかしら
アナタ? お台所は 料理をするところよ、
ねえ、気づいてる?
さっきから 左のお鍋が 噴いてる、焦げているみたい 」
「しまった!」
独り男の秋波を 上手に返す 私の天女さんは
くすりと 笑い残して 再び 手の届かない所へ 隠れてしまった。
くすりと 笑い残して 再び 手の届かない所へ 隠れてしまった。
これは 厄介だ。
焦げた鍋底を こそぎながら
遠くから聞える 湯浴みの音に 耳を澄ませる。
・・・・・・よかった。 少しは 元気になったようだ。
欲 は 適切に満たしてやると 対象 に 執着せず 消えてしまう。
ケガの功名か、多くの女性と関係を 持ったおかげで
情欲に 溺れることは まずない。
その代償は 私にとって あまりに大きかったが
余計な情を 挟む事なく 物事が クリアー に 観得る。
巻子本 『高野切』・巻第十八 断簡『よをすてて』第三種書風(古今倭歌集巻第十八 雑歌下)
何 故 彼女は 私に 会いに来たのだ?
解せない事 が 多い。
彼女は 凡夫には 決して手の届かない
よるの世界の ひめがみ 「胡蝶 」
文字通り 天上の女性 だった。
彼女の顧客や パトロンには 政財界の要人だけでなく
芸能界、スポーツ界の有名人、著名な文化人など 錚々たる人間が 名を連ねる。
彼女の男に なりたいオトコは ごまんといた。
望めば、彼女は 富も地位も名誉も 情人も 容易く手に入る。
けれど 彼女が望むのは そんなモノ では なかったらしい。
解せない事 が 多い。
彼女は 凡夫には 決して手の届かない
よるの世界の ひめがみ 「
文字通り 天上の女性 だった。
彼女の顧客や パトロンには 政財界の要人だけでなく
芸能界、スポーツ界の有名人、著名な文化人など 錚々たる人間が 名を連ねる。
彼女の男に なりたいオトコは ごまんといた。
望めば、彼女は 富も地位も名誉も 情人も 容易く手に入る。
けれど 彼女が望むのは そんなモノ では なかったらしい。
わからない。
互いの 連絡先を 知らせなかった
私も 彼女も お互いの立場を 弁える 分別 があった。
男女の縁とは イなるもの。
もう会う事はないと思っていた 彼女 が 私に会いに来た。
彼女の人脈を 持ってすれば 私のイ場所 など 立ちどころに 知られてしまう
O ù f u i r d a n s la r é v o l t e i n u t i l e e t p e r v e r s e ?
いずくへ遁れる、無益かつ倒錯した、反抗のなかを?
八星 LUCA + haruka nakamura
あのひの夜のように 私は 彼女を 抱いた。
もう 夜のおんなではない
正真正銘現実 の 彼女である。
それなのに 彼女の眼は 遠く 私でない 誰かをみていた。
かなしかった。
当時 私には 妻になるひとがおり
彼女に 惹かれるが故に 深い仲になるのを避けた。
求めても得られない 夢のあなたは 「かなしい」
もう 夜のおんなではない
正真正銘
それなのに 彼女の眼は 遠く 私でない 誰かをみていた。
魚の浪におよぎて
よるの海に青き死の光れるをみる
よるの海に青き死の光れるをみる
かなしかった。
当時 私には 妻になるひとがおり
彼女に 惹かれるが故に 深い仲になるのを避けた。
求めても得られない 夢のあなたは 「かなしい」
どうして 君はここに来たの?
問うても 答えないだろう 彼女の唇を奪い
身に付けている服を すべて 剥ぎ取り、遠ざけた。
どうして ほしい?
反応する箇所に触れ、
欲するよろこびを与え 彼女を 高みへ解放する
かなしい。
私に 何を求めているの?
身体は 満ち 私を許すのに、
彼女のこころは 硬く拒んで 誰も 受け入れない・・・
かなしい。
私を見て。
かなしい。
駄目だ。目を閉じないで。
かなしい。
わたしを 観るんだ。
私を見て。
かなしい。
駄目だ。目を閉じないで。
かなしい。
わたしを 観るんだ。
・・・・・・達したあと 彼女は 泣いた。
眼を閉じ、声を出さずに はらはら
とめどなく 涙を流して 彼女は 泣き続けた。
眼を閉じ、声を出さずに はらはら
とめどなく 涙を流して 彼女は 泣き続けた。
J e s u i s h a n t é. L’ A z u r ! l’ A z u r ! l’ A z u r ! l’ A z u r !
取り憑かれている、わたしは。蒼穹に! 蒼穹! 蒼穹! 蒼穹に!
取り憑かれている、わたしは。蒼穹に! 蒼穹! 蒼穹! 蒼穹に!
泣きたいだけ 泣くといい・・・
涙が枯れるまで 抱いてあげる。ずっと 貴女を 護るから
その代わり、この夢が 醒めるまで
どうか「かなしい」あなたを 私に アイさせて欲しい。
涙が枯れるまで 抱いてあげる。ずっと 貴女を 護るから
その代わり、この夢が 醒めるまで
どうか「かなしい」あなたを 私に アイさせて欲しい。
下田逸郎 「 この世の夢 」
※紫字の仏詩は マラルメ「
翻訳文は マラルメ詩集:渡辺 守章(訳)岩波文庫からデス♡