Life in Japan blog (旧 サッカー評 by ぷりりん)

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個人主義の強い国ほど経済成長率が高いという論文が2010年9月発表された

2011年01月23日 03時25分00秒 | 経済・社会

個人主義の強い国ほど経済成長率が高いという論文が2010年9月発表された

Culture, Institutions and the Wealth of Nations  Yuriy Gorodnichenko  Gérard Roland またはこちら
著者による解説もある。 Does culture affect long-run growth?

個人主義・集団主義とGDP(豊かさ)が関係するというのは日本の経験からいって直感的に違和感が無い。
個人主義・集団主義を調べたヘールト ホフステード氏は豊かさが個人主義・集団主義に影響したと仮説したが文化の違いをどう説明する? この経済学者の論文では逆の仮説を証明している。
しかし、私の計量経済学の無理解からかもしれないけれど、その証明に用いられた操作変数法の操作変数の仮説に大きな問題があるように感じた。

○個人主義・集団主義指数が経済に影響を与える
×経済が個人主義・集団主義指数に影響を与える 
この証明の操作変数法の操作変数は
– 妥当性:個人主義・集団主義指数と相関する
– 外生性:GDPを決める観測不可能な要因と相関しない
ものでなくてはならないが(ここは門外漢で勘違いの可能性があるが)彼等は

→操作変数:国間の遺伝的距離を採用。遺伝的距離は血液型(A型とB型)の頻度に関する特定国と、最も個人主義指数が高い米国のユークリッド距離を採用した。

The instrumental variable we use is a measure of genetic distance between countries. In particular we employ a measure of the Euclidian distance between the frequency of blood types in a given country and the frequency of blood types in the US, which is the most individualistic country in our sample.

→その理由とhimaginaryさんの翻訳

•First, genetic data indirectly measure cultural transmission since parents pass on both culture and genes to their children.
文化と遺伝子は共に親から子に伝わるので、遺伝子データは文化の伝播を間接的に測定している。
•Second, blood types are a neutral genetic marker not related to fitness. It would thus be hard to argue that blood types may have a direct effect on why some countries are richer than others. Furthermore, genetic variation was by and large determined thousands of years ago.
血液型は人々の環境への適合度に関係しない中立的な遺伝的指標である。従って、血液型がある国が他の国より裕福な直接的理由になるとは考えにくい。また、遺伝的分布は概ね数千年前に決定されている。
•Third, our genetic distance measure correlates strongly with our individualism score and thus the instrument is powerful.
作成した遺伝的距離の指標は個人主義の指標と相関が高いので、操作変数として極めて有効である。

◆妥当性の問題 個人主義・集団主義指数と相関する?

ABO式血液型は遺伝的距離とは異なる

もし採用されたのが本当にABO式血液型の出現頻度であるならば、個人主義・集団主義指数にたまたま相関(見せかけの相関)をしているだけであると思われる。理論的な根拠が無い。

「1971年にカバリィ-スフォルツァは、血縁係数によって、世界の民族間の程度を、多くの血液型遺伝子を用いて測定しているが、ケル式血液型とともにABO式血液型は、その変異の程度をみるのには最も役に立たないものであると述べている」
日本人は何処から来たか 松本秀雄著 NHK BOOKS 27頁
そのカバリィ-スフォルツァ(L. Luca Cavalli-Sforza)氏の資料をこの論文は採用している。
論文の遺伝子(?)のデータ元ネタの本
The History and Geography of Human Genes

また、「人々の環境への適合度に関係しない中立的な遺伝的指標である」と仮定しているがABO式血液型の遺伝子は非中立進化をしている。
斎藤成也博士の研究室 -血液型遺伝子の進化

ABO式血液型は人種ごとに出現頻度が異なるものの、人種間の遺伝的な「距離」は表現していない。
(遺伝学の遺伝的距離はM(モルガン)という単位であらわされる。現在、遺伝学ではミトコンドリアDNAによる解析が遺伝的距離の解析の主流となっている。)
元の論文のFigure 2. Figure 3.との関係は存在しない。
遺伝的距離が近い西欧州人とインド人のABO式血液型出現頻度はかなり異なっている。したがって遺伝的な距離は表現していない。この図であると、 西欧州人と日本人の方が遺伝的距離が近い事になってしまう。
異なる人種間で似た比率でABO式血液型が出現しても、それはたまたまで、遺伝的な距離ではない。
したがって、異なる地域で似た比率でABO式血液型が出現してもそれは文化の伝播とは関係がない。

遺伝学での人種間の遺伝的距離を示した図

産業革命や植民地主義の歴史を考えると、アングロサクソン系を主に宗主国がある欧州や米国はGDPが高いとも考えられる。
たまたま個人主義文化を強く持つアングロサクソン系欧州系人種の国と、たまたまアングロサクソン系の国とABO式血液型のパターンが似ている国では、疑似相関が観測されやすいとも想像できる。

「文化と遺伝子は共に親から子に伝わるので、遺伝子データは文化の伝播を間接的に測定している。」という仮説がおかしい。

人類のアフリカ起源説が有力であるとされているが、アフリカからユーラシア大陸を渡りアラスカを経て北米から南米、またはユーラシアからポリネシア、ニュージーランドへいたる流れは人類学、考古学では10万年~1000年前におこった とされているが 「日本人になった祖先たち」篠田謙一著 NHK BOOKS 59頁 
文化の伝播は宗教の分布図が示すようにもっと後のもので現在も活発に流れている(例:アフリカ大陸でのイスラム教の南下と隆盛)。戦前の日本と2011年の日本で個人主義・集団主義指数が同じ数値を示すとは想像しがたい。

◆外生性の問題 ABO式血液型の出現頻度はGDPを決める観測不可能な要因と相関しない?

遺伝子はGDPと当然相関しないが、アングロサクソン系を主に帝国主義時代、宗主国であった欧州系人種が持つABO式血液型出現頻度が高い欧州系人種の国はGDPは高い。
欧州系人種の遺伝子がGDPを高くすることはないが、今現在たまたま欧州系人種の遺伝子を持つ国のGDPが高い時代である。無相関ではない。

2011年現在の 1人当たりのGDPの順位 の上位はほぼ欧州と米国である。

※操作変数法についてはこちらこちら を参照しました
※この論文は上記のヒマジナリーさんのブログと2011年1月17日日本経済新聞でも紹介されています。



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