宮尾登美子を読む「櫂」~「春燈」「朱夏」「仁淀川」

2024年11月29日 | 本・よもやま話
宮尾登美子さんのエッセイ「生きていく力」を読んで、その時にも載せましたが、

私がもの心ついたころ、父の職業は「芸妓娼妓紹介業」という、
貧しい家の少女たちを妓楼にあっせんする仕事だった。
家の職業のため、私がどれだけ苦しんだか、
父への怨みと憤りのために作家を志したようなもので、
げんに拙著『櫂』、『春燈』などにはその怒りをぶちまけてある。


これは、「櫂」も、それに続く自伝も読まなくては・・・



「櫂」
作者自身の生家をモデルに、太宰治賞を受賞した名作。



高知の下町に生まれ育った喜和は、十五の歳に渡世人・岩伍に嫁いだ。
芸妓紹介業を営み始めた夫は、商売に打ち込み家を顧みない。
胸を病む長男と放縦な次男を抱え必死に生きる喜和。
やがて岩伍が娘義太夫に産ませた綾子に深い愛を注ぐのだが・・・。

大正から昭和戦前の高知を舞台に、
生家の事情を両親の側から克明に描いた作品です。





「春燈」

これは「櫂」の後日譚で、作者自身(綾子)の視点で描かれています。

土佐の高知で芸妓娼妓紹介業を営む家に生まれ育ち、
複雑な家庭事情のもと多感な少女期を送る綾子。
育ての母・喜和と実父・岩伍の離縁という破局の中にあって、
幼い綾子が、小学生、女子師範付属高等科生、山間の小学校の代用教員と成長していき、
三好という教員から求婚されるまで、昭和の初めから、昭和十九年までの事が描かれています。


その次にくるのが「朱夏」で、
結婚した綾子が満州に渡り、敗戦後、無一文になって散々に苦難の道を歩みながら、
昭和二十一年に引き上げてくるまでの悲惨な描写です。


「朱夏」の終章で、綾子はようやく二十歳。
この後、どんな運命が展開していくのでしょう。



「仁淀川」

満州で敗戦を迎え、夫と幼い娘と共に必死に引き揚げてきた二十歳の綾子は、
故郷高知県の仁淀川のほとりにある夫の生家に身を落ち着ける。
農家の嫁として生活に疲れはてて結核を発病した綾子に、さらに降りかかる最愛の母・喜和と父・岩伍の死。
絶望の底で、せめて愛娘に文章を遺そうと思い立った綾子の胸に、
「書くことの熱い喜び」がほとばしる。

作家への遥かな道のりが、いま始まったーー。


宮尾登美子さんの自伝4部作が、宮尾文学の核をなしています。

追い立てられるように読み進めて来ましたが、
「仁淀川」は「櫂」から始まる物語の、終わりであり、また始まりでもあるとか。

この後、綾子の人生はますます波乱に満ちたものになっていくようで、宮尾さんは「仁淀川」の続きを、
「これだけは書き上げなければ絶対に死ねない」と意欲を示しましたが、
2014年12月、88歳で帰らぬ人に・・・。

この次は何を読めばいいのか・・・?と、思案しています。
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