蓮月銀也

小説、呟き等々……。

魔導士は胸キュン! 第9話(最終話) 旅立ち

2024-08-01 07:23:48 | 小説

 バリデの森を休み休みに街へと帰る私達。行と違って、気楽なものだったよ。あっ。また、ロタノーラが道の脇にある木の根元に座り込むんだから。

「あたいは休憩希望」

「しかたないか。二人は、病み上がりだからね。休憩でいいよ。さあ。チェリルも座ろう」

「ありがとう。サム」

 サムの横に座ろう。さり気なくに。

「あたいは、思うんだ。あの女は、絶対に尻が臭かっただろうな」

「あはは。そうかもだね」

「私なんか。サムの事をあげるって言われたんだよ」

 つい言っちゃった。ちょっと顔が火照っちゃう。後から心臓が、ドキドキしちゃうよ。

「うーん。僕は、あの女《ひと》の所有物になった覚えがないんだけどね。でも、見捨てられた感じなら、今の街のギルドで冒険者稼業は終わりだろう……」

「……」

「まぁ、いいか。これでチェリルが魔法学校の教師に、なりやすいだろうから」

「えっ。サムは、師匠の仕事の紹介を知ってたの?」

「おっと。あたいは、言ってないよ」

「実は、僕の所にも師匠さんから君を説得して欲しいと手紙が来てね」

 そうだったのか。サムの所にも師匠から手紙が来てたのか。だから、私の将来を考え思ってたの? でも。なんか嫌だな。師匠の言いなりで、サムと離れたようになるの。

「サム。破っちまいなよ。そんな手紙。と言ったけど、二人で決めれば。あたいは、その辺を歩いて来るよ」

 ロタノーラが歩いて行く。サムと二人きりの時間……。

「サム……。私」

 サムは、突然に立ち上がって背を向けた。そして、遠くを見上げた。

「チェリル。君も分かったはずだ。僕は、強い戦士じゃないのを。君は、教師になれば、成功の道だろう。冒険者として、生きたいなら君を幸せに出来る位に、大金を稼げる強い男が他にもいるはずだよ」

「そんな。お金なんて……」

 サムの本心を知った。その時に道の脇から何かが飛び出したのが見えた。猪《いのしし》だよ。それと目が合っちゃった。と、突進してきたー!

「ブガヒー!」

「キャー!」

「チェリルー!  ぐはあ!」

「サムー!」

 一瞬の出来事だった。とっさに突進から私を庇ったサム。突進を胸で、もろに受け止めた感じだよ。鼻を掴まれた猪は、戦意を損失したのかな。スタコラと逃げて行った。私は、サムの背中に抱き着いた。

「大丈夫。サム」

「うん。何とかね。チェリルが無事で良かった」

「私は、サムがいなかったら死んでたかもだよ。私は、大金なんか望んでないよ。これからもサムと一緒がいいの。暮らせるだけあればいいのぉ」

「チェリル。こっちを向いて聴いて欲しい」

 サムと向き合った。サムの目は真剣だったよ。私を真っ直ぐに見つめてくれてる。

「僕も心が決まったよ。チェリルと一緒にいたい。ずっと守りたいと思ったんだ。僕は、街から出て修行しながら旅をする。チェリルに一緒に、ついて来て欲しい。あの。その。こ、恋人として」

「うん。勿論よ。行く。嬉しい」

 サムが告白してくれた。これまでで、一番の胸キュンだよぅ。なんか嬉しすぎて、涙が少し出たもん。私とサムは、ごく自然に強く抱き合った……。

「げっ! お二人さん。いつの間に、そんな仲に?」

「ああ。ロタノーラ。お帰り」

「お帰りなさい」

 ロタノーラに事の成り行きを話すと納得して、喜んでくれた。サムと私の仲を応援してくれたロタノーラには、感謝してる。私にとって、大切な友人だもん。ロタノーラとも別れたくない。サムと私は、旅の事を話したんだけど。

「あたいは、明日から母親の店を手伝うかな。早く街に帰ろうよ」

「そうだね。帰ろうか。チェリル」

「そうね。サム」

 そして、サムと手を繋いで街へと向かったの。ロタノーラの事だけが残念に思いながら。


*****

 チュンチュンと鳥の鳴き声の朝。

「鳥さん。今日で、とりあえずは、さよならだよ」

 さっと着替えて、昨晩準備した旅のための荷物の最終確認。

「あっ。これを忘れたら駄目だね。師匠。落ち着いたら手紙で返事を書きます」

 手紙だけど、お辞儀して背負い袋に入れた。後は待つだけだな。

 トントンとドアを叩く音がした。そしたら、出発のため荷物と帽子ね。最後に杖を持つ。ガチャッとドアノブを回し、ドアを開くと太陽の光とサムの笑顔が有った。

「おはよう。チェリル」

「おはよう。いい天気だね」

「そうだね。旅の出発の門出には、良い日だ」

 バタンとドアを閉めた。これから新しい日々を始める決意を込めたの。
 しばらく歩いて、街の出入り口まで来た時に見慣れた猫耳獣人の後ろ姿が見えた。
 サムと私の気配を感づいたのかな。突然に腰を突き出して、振り出したんだもん。

「ロタノーラだわ。サム」

「あれをするのは、ロタノーラだけだよね。朝の市場の仕入ついでに別れの尻文字かなぁ」

「でも最初は、い。だよ」

「ああ。次は、く。だ」

 行くって言ってる……? 尻文字が終わると、ロタノーラは、足元に置いてた荷物を背負った。そしたら全力で走って来るよぅ。

「あたいは、やっぱり! 行く時は一緒がいいのさー!」

「旅にと付けて言いなさーい!」

 私は、抱きつかれた。直ぐに、お決まりの顔を舐められたよぅ。でも。今日は嬉しい気持ちになる。サムも微笑んでるよ。

「あたいは、これが無いと一日が始まらないんだよ。ペロペロペロ」

「今朝は誰かの、お尻を嗅いでないよねー?」

 
 こうして、これから三人の旅が始まる……。旅先で、つらい事や悲しい事。色々な困難があるかもしれない。でも大丈夫。だって、私達は、一人じゃないから。
 一人が困っても、皆が照らしてくれる森の木漏れ日になるんだもん!
         
                                   おわり



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