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日本共和国憲法私案要綱
昭和二十年十一月二十一日 十二月十日 高野岩三郎 根本原則 天皇制ヲ廃止シ、之ニ代ヘテ大統領ヲ元首トスル共和制採用
参考 |
北米合衆国憲法 |
ソヴィエット聯邦憲法 |
瑞西聯邦憲法 |
独逸ワイマール憲法 |
現行帝国憲法制定ノ由来ト推移△ 現行憲法ヲ改正シ政体ヲ変更スルニ現時ヲ以テ絶好ノ機会ナリトスル理由 △明治初期ニ於ル民権論ノ興隆、之ニ対スル藩閥政府ノ対策、国会開設ノ誓約、憲法ノ制定、其ノ以後ニ於ル軍閥ノ一貫セル組織的陰謀、最近ニ至ルマデノ民衆ノ奴隷化、現時ヲ以テ絶好ノ機会ナリトスル理由ハ「憲法改正要綱」ノ中ニアリ 上記根本原則ニ基テ立案セル憲法私案ノ要綱
一、 第一章 主権及ビ元首
日本国ノ主権ハ日本国民ニ属スル 日本国ノ元首ハ国民ノ選挙スル大統領トスル (帝国憲法第一条乃至第五条削除) 大統領ノ任期ハ四年トシ、再選ヲ妨ゲザルモ三選ヲ禁ズル 大統領ハ国ノ内外ニ対シテ国民ヲ代表スル 立法権ハ国会ニ属スル 国会ノ召集 其ノ開会及閉会ハ国会ノ決議ニヨリ大統領之ニ当ル、大統領ハ国会ヲ解散スルヲ得ズ 国会閉会中公益上緊急ノ必要アリト認ムルトキハ大統領ハ臨時国会ヲ召集スル 大統領ハ行政権ヲ執行シ国務大臣ヲ任免スル 条約ノ締結ハ国会ノ議決ヲ経テ大統領之ニ当ルv 爵位勲章其ノ他ノ栄典ハ一切廃止、其ノ効力ハ過去ニ於テ授与サレタルモノニ及ブ
一、 第二章 国民ノ権利義務
国民ハ居住及ビ移転ノ自由ヲ有ス 国民ハ通信ノ自由ヲ有ス 国民ハ公益ノ必要アル場合ノ外、其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ〔営業ノ自由ヲ含ム〕 国民ハ信教ノ自由ヲ有ス 国民ハ言論著作出版集会及結社ノ自由ヲ有ス 国民ハ労働ノ権利、生存ノ権利ヲ有ス 国民ハ教育ヲ受ルノ権利ヲ有ス 国民ハ文化的享楽ノ権利ヲ有ス 国民ハ休養ノ権利(労働不能トナレル勤労者ノ休養、妊婦産婦ノ保護等ヲ含ム)ヲ有ス 国民ハ憲法ヲ遵守シ社会的共同生活ノ法則ヲ尊重奉スルノ義務ヲ有ス 国民ハ納税ノ義務ヲ有ス
一、 第三章 国会
国会ハ第一院及第二院ヨリ成ル 第一院ハ選挙法ノ定ムル法ニヨリ国民ノ直接選挙シタル議員ヲ以テ組織ス 第二院ハ各種ノ職業及ビ其ノ内ニ於ル階層ヨリ選挙セラレタル議員ヲ以テ組織ス、議員ノ任期ハ三年トシ毎年三分一ヅツ改選スル 何人モ同時ニ両院ノ議員タルヲ得ズ 二タビ第一院ヲ通過シタル法律案ハ第二院ニ於テ否決スルヲ得ズ 両院ハ各々其ノ総議院三分一以上出席スルニ非ザレバ議決ヲナスコトヲ得ズ 両院ノ議事ハ過半数ヲ以テ決ス可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル 両院ノ議事ハ一切公開トシ、之ヲ速記シテ公表スヘシ 両院ハ各々其ノ議決ニ依リ特殊問題ニ就テ委員会ヲ設ケコレニ人民ヲ召喚シ意見ヲ聴聞スルコトヲ得 両院ノ議員ハ院内ニ於テナシタル発言及表決ニ就キ院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ 両院ノ議員ハ現行犯罪ヲ除クノ外会期中又ハ院ノ許諾アリシテ逮捕セラルルコトナシ 両院ハ各々政府又ハ大臣ニ対シ不信任ノ表決ヲナスコトヲ得此ノ場合政府又ハ大臣ハ直チニ其ノ職ヲ去ルヘシ
一、 第四章 政府及大臣
政府ハ各省大臣及無任所大臣ヲ以テ組織ス (枢密院ノ廃止、宮内大臣内大臣ノ廃止)
一、 第五章 経済及労働
土地ハ国有トスル 公益上必要ナル生産手段ハ国会ノ議決ニ依リ漸次国有ニ移スベシ 労働ハ如何ナル場合ニモ一日八時間(実労働時間六時間)ヲ超ルコトヲ得ズ 労働ノ報酬ハ労働者ノ文化的生計水準以下ニ下ルコトヲ得ズ
一、 第六章 文化及科学
凡テ教育其他文化ノ享受ハ男女ノ間ニ差異ヲ設クベカラズ 一切ノ教育・文化ハ真理ノ追究・真実ノ闡明ヲ目標トスル科学性ニ其ノ根底ヲ措クベシ
一、 第七章 司法
司法権ハ裁判所構成法及陪審法ノ規定ニ従ヒ裁判所之ヲ行フ 司法権ハ行政権ニ依リ侵害セラルルコトナシ 行政官庁処分ニ依リ権利ヲ傷害セラレ又ハ正当ノ利益ヲ損害セラレタリトスル場合ニ対シ別ニ行政裁判所ヲ設ク
一、 第八章 財政
国ノ歳出歳入ハ詳密ニ併カモ判明ニ予算ニ規定シ毎年国会ニ提出シ其ノ承認ヲ経ベシ 予算ハ先ヅ第一院ニ提出スベシ其ノ承認ヲ経タル項目及金額ニ就テハ第二院之ヲ否決スルヲ得ズ 租税ノ賦課ガ公正ニ行ハレ苟モ消費税ヲ偏重シテ民衆ノ負担ノ過重ヲ来サザルヤウ注意スルヲ要ス 歳入歳出ノ決算ハ速ニ会計検査院ニ提出シ其ノ検査確定ヲ得タル後政府ハ之ヲ国会ニ提出シテ承認ヲ経ベシ
一、 第九章 憲法ノ改正及国民投票
将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アリト認メタルトキハ大統領又ハ第一院若クハ第二院ハ議案ヲ作成シ之ヲ国会ノ議ニ付スヘシ 此ノ場合ニ於テ両院ハ各々其ノ議員三分二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲナスコトヲ得ス 国民全般ノ利害ニ関係アル問題ニシテ国民投票ニ附スルノ必要アリト認メラルル事項アルトキハ前憲法改正ノ規定ニ遵準シテ其ノ可否ヲ決スへシ
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