the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

プレヒストリック・サファリ⑲(中新世後期 南米 パン・アマゾニア) 超級ワニの隆盛 Super crocs' heaven

2016年01月16日 | おすすめ エントリー


Prehistoric Safari  
The late Miocene Pan-Amazonian region 



Around 8 million years ago...

※(この作品では、水面付近(プルスサウルスとストゥペンデミス)をほぼ水平に見る視点と、その他を斜め上から見下ろす視点という、二つの異なる視点を実験的に組み合わせています。)



前日にトリゴドン種を仕留め損ねたプルスサウルスbrasiliensis の大型個体


天敵を持たず、眼前のいかなる生き物をも獲物と見る彼は、悠然とアマゾン川の下流まで遊泳を続けていた。
この辺りの水域には、しかし、空腹のP.brasiliensis の襲撃にもひるまず、これに応戦しうるほどの大物、すなわち、同等の大きさを誇る他の「スーパークロック」が、
少なからず棲息していた
のだった。◆


中新世中期から鮮新世初頭にかけての南米パン・アマゾニアの湿地帯は、現生イリエワニを圧倒する特大級のワニが複数種共存していた、恐るべき場所である。

このうち、少なくともご覧のプルスサウルスbrasiliensisグリポスクスcroizatiモウラスクスamazonensis の3種(中新世三大ワニ)が全長10m超にも達したと推測されている他、沿海部にもグリポスクス亜科の複数の大型種(ヘスペロガヴィアリス属種、ピスコガヴィアリス属種etc)が在った。


From top to bottom:

Purussaurus brasiliensis 
(史上最重量級、最強のワニ。7tバイトにデスロールを組み合わせた攻撃威力は、途方もない。全長8~12m)

Stupendemys geographicus 
(アーケロンにも匹敵する大きさで、淡水性のカメとしては史上最大種。羅長3m超)

Gryposuchus croizati 
(南米産のガヴィアル、グリポスクス亜科には特大種が複数あったが、その中でも最大種。全長8~12m)


Brachyplatystoma sp. 
(全長2.5m超になる古代の南米ナマズ)

Mourasuchus amazonensis 
(モウラスクス属種の頭骨は長大だが、アヒルの嘴のような と形容される吻部は非常に薄く扁平な形状をしており、顎の力は特別強くはなかったと考えられている。下顎にはペリカンを彷彿させる喉袋のようなものを有していたと推測されていて、水底などで微生物を濾過摂食(filter feeding)していたものと考えられている。モウラスクス属のように極度に扁平な吻部形状をしたワニは現生種には絶えて見られないが、古代では珍しくなかった。全長8~12m)


強大無比の顎力で大型哺乳動物をも捕食したであろうプルスサウルス属種(アリゲーター科 カイマン亜科)に対して、グリポスクス属種(ガヴィアル科 グリポスクス亜科)、モウラスクス属種(アリゲーター科 カイマン亜科)は、それぞれ魚食とプランクトン食が主であり、食生態(feeding ecology)の違いは明確であった。三大ワニが、同地域で長期に亘って共存できた所以であろう。


他にも史上最大の淡水生カメ(ストゥペンデミスgeographicus)や夥しい種類のワニの存在など、当時、パン・アマゾニアに大型爬虫類の楽園と称すべき生態系が展開していたことを示す痕跡は、枚挙にいとまがない。

それだけに、中新世-鮮新世境界の比較的短い間隔で起こった、これら特大種の軒を並べての絶滅は、古生態学上、非常にインパクトの大きい出来事の一つだと思う。


◆…優美な流線形を描く痩躯の持ち主であるグリポスクスcroizatiは、巨体からは想像もつかないほどの高速で大魚の群れを追尾し、あっという間に視界の外へと消え去ってしまった。さしものプルスサウルスbrasiliensisも、水底に潜む得体の知れぬ奇怪なワニに攻撃の照準を
定めるようなことは、しなかった。前日のような好機に巡り合わせる可能性は、もはや高くはなかったが、彼は再度、川岸に向かって推進を始めた...◆


時代区分が鮮新世へと推移した頃より、パン・アマゾニアにおける生態環境は、急速、かつ大規模な変化を迎えたことが推測されている。

一般的に言って、生態環境の急変によって最も甚大な影響を被るのは、食物連鎖の上位にある大型の肉食動物(このコンテクストにおいては、上述の巨大ワニ群)、すなわち食物連鎖上の「キーストーン種」であると考えられる。

ひるがえって、キーストーン種自体の古アマゾン生態系の機能的多様性(functional diversity)に及ぼしていた影響力もまた、計り知れず多大なものがあっただろう。

プルスサウルスbrasiliensisの絶滅が、なし崩し的に起こった二次的絶滅や、生物ネットワークの大変動の引き金となった可能性について考察を加えているAureliano et al.(2015)の研究などは、この点で(キーストーン種の滅失ということが切実な問題になりつつある現代的視座から言っても)極めて興味深い


超級ワニの隆盛 Super crocs' heaven
イラスト&テキスト: ⓒ the Saber Panther サーベル・パンサー (All rights reserved)


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11 Comments

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Unknown (ma123)
2016-01-16 22:05:02
中新世のワニには敵がいたのでしょうか?
また、中新世の巨大ワニを食べる巨大ヘビはいたのでしょうか?
あと、前にリクエストしていたアメリカマストドンの作品に期待しています。
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Unknown (ma123)
2016-01-16 22:11:19
三畳紀の動物もいますね。
カメみたいなのは、カメではなかったのではないでしょうか?
あと、スピノサウルスより大きいワニはいたのでしょうか?
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Unknown (ma123)
2016-01-17 09:50:32
あのカメは三畳紀のヘノドゥスと感違いしていました。すいません。
あと、南米以外の大陸でデイノテリウムの最大種を狩ることができたワニはいたのでしょうか?
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Unknown (管理人)
2016-01-23 01:02:59
ma123さん

諸事情により返信が遅れています。基本的に、返信は遅くなるほうですが、ご了承くださるとあ
りがたいです。コメント自体はありがたいことですし、他に下さったものにも徐々に返信します。
アメリカマストドンは私が個人的にも非常に興味を持っている動物ですから、復元画には取り
組むと思います。いつとは現時点で言えないし、資料を集めたり相応の準備が必要ですが。そ
のマストドンをはじめ、コロンビアマンモス、ショートフェイスベア、アメリカライオン等々、更新
世の北米のメガファウナは極めて魅力的で、惹かれるものがあります。
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Unknown (管理人)
2016-01-23 01:03:14
巨大蛇ティタノボアが南米大陸の密林で権勢を誇ったのは、暁新世の頃ですね。

デイノテリウム属の大型個体ともなれば、体重10トンを優に超えたでしょうけど、プルスサウル
ス最大種(P.brasiliensis)は体重的にも大きく引けを取っていませんし、その攻撃威力と相ま
って、特大長鼻類をも襲い得たのではないでしょうかね。まさしく驚異的な捕食者だった。た
だ、同じ全長10m級のワニの中でもP.brasiliensisの「mass」は例外的であって、例えばここ
に描いたグリポスクス最大種であっても、推定体重ははるかに軽量、1.7~1.8トンほどとなり
ます。同時代に南アジアにいたランフォスクス属種なども近年、サイズが大きく下方修正され
ていますし。デイノテリウム大型種のコンテンポラリーで、生息分布も重なる巨大ワニがいたと
して、特大長鼻類をも襲えたかというと、個人的には ん~という感じです。どうでしょうかね?
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Unknown (ma123)
2016-01-24 17:52:14
南米のワニは、更新世には小型なワニしか残ってなかった気がしたのですが、南米のワニに何があったのでしょうか?
また、鮮新世のワニは小さかったのでしょうか?
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Unknown (Unknown)
2016-02-08 09:29:26
中世代のアフリカにはサルコスクスとストマトスクスのような大型ワニがいましたが、グリポスクス、モウラスクスは彼らの末裔でしょうかね?
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Unknown (ma123)
2016-02-21 12:10:23
他人の空似はいろいろありますね。
カメを間違えましたが、スミロドンとティラコスミルスも間違えそうになりました。
ワニにもいろいろなワニがいた事を改めて感じました。
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Unknown (管理人)
2016-02-23 23:30:24
ma123さんはいろいろとお詳しく質問内容も鋭いので、私も勉強させてもらっています。

リクエストのあった化石長鼻類についての記事を、復元画とともに近く上げます。
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Unknown (ma123)
2016-02-24 19:25:56
自分は、インターネットで古代生物を調べて最近の発見などを知ります。
なので、ティラノサウルスに羽毛があることも調べて知りました。
デイノテリウムの鼻が最近短いのは図鑑で知りました。
大半はネットです。
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