はぁ、この男…いま私にプロポーズしたの。
ふふっ、皇族というだけで私を。
将来日本で一番格の高いお方になられるって言われてもね…学習院でしょう。
私のハーバードの足下にもおよばないじゃない。
でも次世代の天皇…だから皇太子とみんな呼んでるのよね。
でも私、外務省の北米2課に配属されたばかりなのよ。
まだ外交官ではないけれど、仕方がないわ…配属されたばかりなんですもの。
お茶汲み、コピー取りをするのは…不本意だけど外務省事務次官候補お父様の御威光でって妬まれるのも嫌だし、本来私は実力があるのだから。
オックスフォードの国費留学で修士論文が出せなかったのは仕方ないわ。
この男が私を「皇妃に」と、ずっと諦めなかったせいでマスコミの蛆虫が留学先ロンドンのアパートメントまでやって来て追いかけまわされたせい。
結婚というようなことは私は全く関係ございません、とカメラを前に言ってやったというのに執念く何度も、何度もカメラに追いかけまわされて…省庁に配属され国費留学したみんなの中で完全に浮いてしまったせいよ。
私は研究、論文どころではなくなったわ。だからヨーロッパの各国を旅することにしたの。
イギリスでは私の居場所がなくなったせいよ。
マスコミの蛆虫が悪いのよ。
あの時修士論文を出した連中から冷めた目で見られたわ。
私はハーバードなの。
実力はあるの。
あんなに騒がれなかったらトップの成績で論文は出せていたの。
あんな出来事があったというのに今でもこの皇太子は私を妃にと望んでいる。
私が悔しい思いをしたのも忘れて。のうのうと。
ふ、少し勿体ぶってやろうかしら。
「外務省で外交官として働くことに私は生きがいを見出しております。今まで勉学に励んだのは外交官として海外で活躍するためでしたから」
ちょっと言い過ぎたかしら。
皇太子はうろたえたように見えるけれど大丈夫、こんなことで私を諦めるような人ではないわ。
私は再三お断りしているのに、諦めきれない片想いの皇太子というふうに世間は騒いでいるもの。現に今も皇太子の招待でこの屋敷の一室にいるのだから。
「皇室外交はいかがでしょう。外交官として海外へ行くのも、私の皇妃として国際親善するのも同じであると思うのです。」
皇室外交…良いわね。断然今の同僚よりも一気に気兼ねなく目上になるわ。
「イギリス王室のダイアナ妃のように。華やかで気品のあるあなたこそ彼女のようになるべきだと思うのです。」
ダイアナ妃…そうね、みんなが注目するわね。私を賞賛するのね。
類いまぐれな知性を持った皇妃だと。
一気に私は彼女と同じ立場で話すことが出来るのね。
でも、チッソの孫娘と蔑んだこの男の親や親戚は許せないわ。皇族が国民を差別していいの。税金で暮らしているくせに。
それにこの細い目、低い背…本当に後悔しないかしら。
どちらと言うと弟宮の方が…国際基準なんだけれど。
でも数年前とっくに妃を迎え入れたのよね。
もう少し困らせてやりたいわ。
「皇室は難しいところと聞きましたわ。あなたのお母さまもご苦労なさったとか。」
「あなたのことは一生全力で私が守ります。」
「一生…守ってくださる…」
ふーん、言うじゃない。まぁ、これだけ言わせたらいいか。
みんなが跪いて私のご機嫌を伺うようになるわ。誰も逆らえない。
ふふっ、この皇太子でさえ私を傷つけることはない。
一生全力で守るって言ったのだから。
「本当ですか、殿下。そのお言葉は」
「あなたを全力で守り助けます」
お父様も喜ぶわね、マイ ドーター イズ プリンセス って。
「そこまでおっしゃるのであれば、私、お受けいたします」
言ってしまった。
目の前の皇太子はこれ以上ないって感じで喜んでいるわ。
そんなに、嬉しい? ふーん、かわいいじゃない。