やっと多気にたどり着いた。姉上はあの斎院におわすのか。冬の陽射しが大津に降り注ぐ。
まだ陽は高い。逸る心を抑えるように暫く馬をゆるゆると進めると斎院の門に到着した。
中央から連絡が入っていたのだろうか数名の神宮司の氏上の主だった役人、女官が大津らの到着を待っていた。
姉上が息をする場所にいるだけで心が澄み渡る気がする。
斎院の女官が客殿に案内をしてくれたが姉は祭詞を終え次第おいでになりますと言われ1人取り残された。
都の客殿などに比べると寂しい場所になるのかもしれないが、それにしても清々しい空気に満ち溢れている。ずっと頭を空っぽにしてこの空気に包まれていたい。そして姉上がおいでになったらそのお姿を眺めるだけで充分な気持ちになりそうだ。…いや、やはりお声を聴きたくなるのであろう。近江の館や湖で聴いた優しいいつも我を気遣ってくださったあの優しいお声。
「待たせましたね。大津。」と声がして目を開けると世にも清らかな女性が横を通り過ぎた。
上座に座った大伯とて11歳の頃の面影を少し残し逞しくなった弟を懐かしく微笑みかけた。
慈悲にも近い微笑みに大津は頭を垂れ「お久しぶりでございます。」と述べ顔を上げた。
ー美しい。白い肌に切れ長でありながら黒曜石のように光る大きな瞳。都にいる女たちとは一線を画している。清浄なのだ。都にいる女たちは色々と自分を引き立てるために衣を工夫したり、髪を結いあげたり紅をさしている。しかし姉は紅もささず白い絹の衣に長い髪を後ろに垂らしている。その後ろで邪魔にならぬよう結っているだけである。美と素は一体となるのを体現しているお姿だ。美しい精神があるからであろう。このように美しい方の弟として俺は本当に幸せだ。
「元気に過ごしていると都からの便りやここを訪れる異母兄妹から聞きました。その通りだとそなたを見て嬉しく思いました。もう少しよく顔をみせておくれ。」
「恥ずかしい限りです。」
ー本当に逞しく秀麗な青年になった。皇太(ひつぎの)子として恥ずかしくない青年に育ててくれた皇后陛下に感謝で胸が熱くなった。
久しぶりの再会に2人は幸せに包まれていた。
大津は帝からの命を急に思い出し「修繕が必要な箇所があるとか。」と大伯に尋ねた。
大伯は不思議そうな顔で「天皇(すめらみこと)仰せになられたの。」と聞き返し神宮司の氏子の長を女官長に呼ぶようにと鈴を鳴らし呼んだ。
長は「そのようなことはないのでありますが…」と申し訳なさそうに答えた。「我らは皇太子がおいでになるとだけ聞きおよびいたしました。日頃からの疲れを癒して差し上げるようにと。」と女官長もそう答えた。
天皇である父の配慮であると思った。大伯もそう思ったが皇后の助言もあったのではと思った。
まだ陽は高い。逸る心を抑えるように暫く馬をゆるゆると進めると斎院の門に到着した。
中央から連絡が入っていたのだろうか数名の神宮司の氏上の主だった役人、女官が大津らの到着を待っていた。
姉上が息をする場所にいるだけで心が澄み渡る気がする。
斎院の女官が客殿に案内をしてくれたが姉は祭詞を終え次第おいでになりますと言われ1人取り残された。
都の客殿などに比べると寂しい場所になるのかもしれないが、それにしても清々しい空気に満ち溢れている。ずっと頭を空っぽにしてこの空気に包まれていたい。そして姉上がおいでになったらそのお姿を眺めるだけで充分な気持ちになりそうだ。…いや、やはりお声を聴きたくなるのであろう。近江の館や湖で聴いた優しいいつも我を気遣ってくださったあの優しいお声。
「待たせましたね。大津。」と声がして目を開けると世にも清らかな女性が横を通り過ぎた。
上座に座った大伯とて11歳の頃の面影を少し残し逞しくなった弟を懐かしく微笑みかけた。
慈悲にも近い微笑みに大津は頭を垂れ「お久しぶりでございます。」と述べ顔を上げた。
ー美しい。白い肌に切れ長でありながら黒曜石のように光る大きな瞳。都にいる女たちとは一線を画している。清浄なのだ。都にいる女たちは色々と自分を引き立てるために衣を工夫したり、髪を結いあげたり紅をさしている。しかし姉は紅もささず白い絹の衣に長い髪を後ろに垂らしている。その後ろで邪魔にならぬよう結っているだけである。美と素は一体となるのを体現しているお姿だ。美しい精神があるからであろう。このように美しい方の弟として俺は本当に幸せだ。
「元気に過ごしていると都からの便りやここを訪れる異母兄妹から聞きました。その通りだとそなたを見て嬉しく思いました。もう少しよく顔をみせておくれ。」
「恥ずかしい限りです。」
ー本当に逞しく秀麗な青年になった。皇太(ひつぎの)子として恥ずかしくない青年に育ててくれた皇后陛下に感謝で胸が熱くなった。
久しぶりの再会に2人は幸せに包まれていた。
大津は帝からの命を急に思い出し「修繕が必要な箇所があるとか。」と大伯に尋ねた。
大伯は不思議そうな顔で「天皇(すめらみこと)仰せになられたの。」と聞き返し神宮司の氏子の長を女官長に呼ぶようにと鈴を鳴らし呼んだ。
長は「そのようなことはないのでありますが…」と申し訳なさそうに答えた。「我らは皇太子がおいでになるとだけ聞きおよびいたしました。日頃からの疲れを癒して差し上げるようにと。」と女官長もそう答えた。
天皇である父の配慮であると思った。大伯もそう思ったが皇后の助言もあったのではと思った。