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アルツハイマー治療薬「アデュカヌマブ」の希望と課題 「脳内のゴミ」を除去、米国が世界初の承認

2021-08-26 13:30:00 | 日記

下記の記事はデイリー新潮オンラインからの借用(コピー)です。

 4年後には患者数が700万人を超えると言われている認知症のうち、7割を占めるアルツハイマー型認知症。先ごろ、米食品医薬品局(FDA)はアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」を条件付きで承認したが、それは「夢の薬」と言えるのか、はたまた……。
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 言うまでもなく、病と闘わなければならないのは病を得た当人である。しかし、それが大病だった場合、影響は家族、時にはその周辺にも及ぶ。例えば末期がんであれば、残酷に進む「死へのカウントダウン」を家族も一緒に受け止めなければならない。脳梗塞など、後遺症を伴うことがある病気では、介護という物理的な負担も降りかかってくる。
 同様に、病状が進めば介護が必要になる認知症の場合、「時には家族すら認識できなくなってしまう哀しさ」を直視せざるを得なくなるため、その苦労や精神的負担は過酷なものになる。
 2025年には患者数が700万人を超えるといわれている認知症。脳血管性認知症やレビー小体型認知症などもあるが、全体の7割を占めているのが、アルツハイマー型認知症である。軽度認知障害(MCI)や患者の家族なども含め、多くの関係者にとって「朗報」となるかもしれないニュースが報じられたのは、去る6月8日のことであった。
〈米、アルツハイマー薬承認 エーザイなど開発 追加の試験要請〉(同日付読売新聞朝刊)
 米製薬企業バイオジェンと日本のエーザイが共同開発するアルツハイマー治療薬「アデュカヌマブ」(商品名アデュヘルム)を承認した、と発表したのは米食品医薬品局(FDA)。
紆余曲折の上の承認(他の写真を見る)
〈アルツハイマー病の進行抑制を図る薬の承認は世界初となる〉(同記事より)
 が、FDAは、「有効性の面で不確実性が残る」として、バイオジェンに追加の臨床試験を行うよう求めたという。
『認知症の新しい常識』(新潮新書)の著者で科学ライターの緑慎也氏が解説する。
「アルツハイマーの既存薬としてはエーザイのアリセプトなどが挙げられますが、それらは対症療法的な薬です。アルツハイマーは脳の神経細胞がどんどん死んでいって、記憶を失うなどの症状が出てくるわけですが、アリセプトなどにはその神経細胞を回復させる力はない。一方、アデュカヌマブの場合、神経細胞を弱らせる原因を減らす働きをします」
 その原因物質については、聞いたことがある方も多かろう。アミロイドβ。アルツハイマー型認知症とは、たんぱく質の老廃物であるアミロイドβが脳内に溜まることによって起こる認知症のことである。
「アルツハイマーで亡くなった方の脳を調べると、老人斑という黒いシミが多く見つかるので、いかにもこれが悪さをしているように思えてしまう。実際、老人斑を取り除こうとする薬がいくつも創られようとしたのですが、ことごとく失敗に終わっています」
 と、緑氏は語る。
「アミロイドβはアルツハイマーを発症する20年ほど前から少しずつ脳内に溜まり始めます。それがくっついて形を変え、最終的にプラークという塊、いわゆる老人斑になるのです。最初は単体のモノマーと呼ばれる状態で、モノマー同士がくっつくとダイマーと呼ばれ、塊の数が増えて大きくなってくると、オリゴマー、プロトフィブリル、フィブリル、とそれぞれの段階で呼ばれ、最終的に老人斑になるわけです」
 あたかも“出世魚”のように名を変えるその過程について知っておく必要があるのは、
「以前は一番目立つ老人斑をターゲットにして創薬しようとしていたのですが、今では途中段階のオリゴマーからフィブリルの間のアミロイドβが毒性を持っており、老人斑についてはすでに毒性を失っている段階だと分かってきた」(同)
 からで、緑氏は、
「生ごみを想像すると分かりやすいでしょう。生ごみは乾燥してカサカサになってしまえば臭いもしないし気にならなくなる。しかし、乾燥前の生ごみは悪臭を放っていますよね」
 とした上で、こう話す。
「アミロイドβも同じで、途中段階の方がどうも悪さをしているということが分かってきたわけです。そこで、製薬各社は途中のいろいろな段階を狙って薬を創るようになった。アデュカヌマブはオリゴマーからフィブリルにかけての段階に特に作用する薬です」
病の進行を23%抑制
バイオジェンとエーザイが共同開発(他の写真を見る)
 順天堂大学名誉教授の新井平伊氏によると、
「アデュカヌマブのターゲットとなるのは、今回の治験でも主な対象となったアルツハイマーの前段階、すなわちMCIです。すでにアルツハイマーを発症している段階だと、神経細胞がダメージを受けきっているので、アミロイドβを取り除いたところであまり意味がない。しかし、MCIの段階でアミロイドβを除去すれば、まだダメージを受けていない神経細胞を守ることができます」
 そんな新薬について、FDAはすんなりと承認したわけではない。そもそも、今回の承認は、「迅速承認」と呼ばれるものである。
 深刻で治療法のない病気への新薬を早く実用化するための例外的な措置だ。
 異例な点はそれ以外にもある。アデュカヌマブの第3相試験(フェーズIII)が始まったのは15年だが、
「19年3月、独立安全性データモニタリング委員会の勧告によって試験の中止を余儀なくされました。中止判断の根拠になったのは、開発中の薬が無益か否かを評価するための『無益性解析』と呼ばれる手法です」(先の緑氏)
 そこでダメ出しがなされたわけだ。しかし、その7カ月後、エーザイとバイオジェンは、新たな解析に基づき、早期アルツハイマーを対象とした新薬承認取得を目指すと発表。昨年8月、両社は申請がFDAに受理されたことを明らかにし、今回、条件付きながらも承認に至ったわけである。ちなみにヨーロッパでは昨年10月、日本では12月に申請している。
「新薬の承認申請に必要なデータを得るため、多くの国の規制当局は製薬企業に対して、2本の大規模な臨床試験の実施を課しています。アデュカヌマブの場合、アメリカで1本目のENGAGE試験が15年8月に開始され、2本目のEMERGE試験が同じ年の9月に始まっています」(同)
バイオジェンとエーザイが共同開発(他の写真を見る)
 19年3月に試験が中止になった後もバイオジェンは自社でデータの解析を継続。その結果、EMERGE試験の方には有意差が見られることが分かったのだ。一方、ENGAGE試験の方は主要な評価項目を達成できなかった。
「アデュカヌマブの第3相試験では、途中で2度、プロトコル(治療・試験計画)の治験薬の投与量に関する改訂が行われました」
 そう説明するのは、バイオジェン・ジャパンの担当者。
「二つの改訂により、登録されている患者さんに、体重1キロあたり10ミリグラムという最高投与量を投与できる回数が増えたのです。なぜこの改訂で二つの試験の結果に差が出るのかというと、EMERGE試験の方が1カ月遅くスタートしているから。そのため、EMERGE試験の方が、結果として新しいプロトコルの下で最高投与量を投与できた患者さんの人数が増えたというわけです」
 ただし、
「体重1キロあたり10ミリグラムという、十分な量のアデュカヌマブを十分な期間投与できた患者さんのデータを抜き出して解析すると、ENGAGE試験の方でも同じ傾向が認められました」
 と、担当者が続ける。
「つまり、有意差がつかなかった試験でも、十分な量を投与できた人を見れば、有意差がついたEMERGE試験をサポートするような結果になっている。EMERGE試験はたまたま有効性があるとの結果になったわけではなく、ENGAGE試験でも同じような傾向がみられるので、アデュカヌマブは有効、というのが我々の主張です」
 それが概ね認められたために条件付きの承認となったわけである。先の新井氏によると、承認された理由は四つあるという。
「一つはアデュカヌマブによって脳にあるアミロイドβが減ることが証明されていること。二つ目はプラセボとの比較で統計学的な有意差をもって病の進行を抑制させる効果が見られたこと。1年半で病の進行を23%抑制する効果がある、と判断されました。三つ目は大きな副作用がなかったこと。四つ目は医療関係者、患者、家族関係者からの強い要望があったことです」
最終判断は9年後
 ただし、懸念されることも2点あるといい、
「FDAからの委託を受けてデータの審査をした専門家による諮問委員会は、アデュカヌマブを新薬として流通させるための好ましいデータは出ていない、と判断しました」
 新井氏はそう語る。
「23%の進行抑制は統計学的には有意差が出ているが、実際の臨床の場ではどのくらい意味を持つのか。具体的には、効果が徐々に落ちてきてしまい、再び症状が悪化するケースが見受けられた。要するに、根本治療薬と呼ぶには臨床的に効果が弱いのではないか、ということです」
 もう一つの懸念材料は費用の問題。バイオジェンが公表したところによれば、アメリカでの薬剤費は1人あたり年5万6千ドル(約610万円)にもなる。
「米国での民間保険と違って、日本では公的健康保険の適用になることも考えられ、1年間で600万円以上もかかる高い薬に、本当にそれだけの価値があるのか、という観点からも議論されています」(同)
 果たしてバイオジェンは追加の臨床試験によってこうした懸念材料を払拭できるのか否か。FDAは同社に対し、長期的な追加試験で効果を検証し、2030年に最終報告を出すよう求めている。つまり、今から9年後である。
「追加の臨床試験の期間は2年か3年くらいになるかな、と勝手に思っていたのですが、9年。9年というのはあまりに長いのではないかと思います」
 そう語るのは、国立長寿医療研究センター名誉研究所長の柳澤勝彦氏である。
「非常にゆっくり進む病気ですから、確かに1年や2年で結果がすぐに出るという問題ではない。ただ、最終判断が9年後と言われても、臨床の現場の先生たちは困るのではないかと思います。どの段階にあるアルツハイマー病の患者さんに、どのような事前検査を行って使うのか。また、何をもって有効だったと判断するのか。途中経過を追跡する上でのマーカーは何なのか、現時点ではFDAから何ら示されていない。現場では混乱が起こるのではないでしょうか。患者さんやその家族の方々はものすごく期待して待っていらっしゃるので、少しでも早く最終判断が確定されるといいと思います。現時点では、期待を持ちつつも心配もあります」
 患者や家族が渇望する新薬。先に指摘した通り、もし日本でも承認が得られた場合、気になるのは費用面である。
「日本で承認された場合、最終的には保険適用になる可能性が高いと思いますが、アデュカヌマブはとても高額なので、医療費削減の国の方針への圧迫につながることになるでしょう」(同)
ダブルで負担増
バイオジェンとエーザイが共同開発(他の写真を見る)
 さらに、保険適用の範囲は、アデュカヌマブの「周囲」にも及ぶ可能性があるという。
「アミロイドPETスキャンという、脳内のアミロイドβの蓄積の程度を画像化する診断方法があり、数年前に薬事承認されています。しかし、保険償還(適用)はされていません。診断方法としては安全に使えるものですが、根本的な治療薬がないと、それを使ってアミロイドβの蓄積量が分かっても仕方がない。そうなると保険でカバーする理由もないわけで、保険償還にはストップがかかっているのです」
 東京大学医学部教授の岩坪威氏はそう語る。
「日本でアデュカヌマブの承認が下りた場合、アミロイドPETの保険償還も必要になってきます。1回に何十万円もかかるものですから、実際に臨床現場で使うことになったら、保険償還も検討されるのではないでしょうか」
 共に高額なアデュカヌマブとアミロイドPET――。
 ダブルで医療保険財政への負担が増すことが考えられるわけである。
「ただ、その一方で、アルツハイマー病を発症して認知機能が日々悪くなっている方の場合、その介護費用というのは相当なものがあるわけです」
 と、柳澤氏。
「例えばデイケアに連れていくとか、夕方になったら迎えに行ってとか。ご自宅にいる時には家族の中でその方のお世話をする人が必要になります。その人は、認知症の家族の介護という負担がなければ、もっと仕事ができるかもしれない。認知症という病気はそうした個人・家族の収入や社会・経済に大きな負担となります。そうしたことも全部考慮した上で薬価について判断することになるのではないでしょうか」
 追加試験や薬価の問題など、今後、乗り越えなければならない壁が多くあるのは間違いない。が、アルツハイマーの患者やその家族が置かれる境遇を一変させる大きな可能性を秘めていることもまた、否定できないのだ。



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