皆さんと一緒に考えましょう

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

「これは常習だ」精肉店にいる中年女性が一発で万引きGメンに目を付けられた"ある行動"

2021-08-22 15:30:00 | 日記

下記の記事はプレジデントオンラインからの借用(コピー)です

「万引きGメン」はどうやって犯人を見つけているのか。これまで5000人以上を捕まえたという伊東ゆうさんは、駅近の地下食品街にいた中年女性のある行動を見て、「これは常習だろう」と目を付けた。『万引き』(青弓社)より一部を紹介する――。

昨今のスーパー店内は不審者だらけ
レジ袋有料化に伴うエコバッグ利用者の増加と新型コロナウイルス流行によるマスクや帽子の着用率上昇に伴い、昨今の食品スーパー店内は一見して不審者だらけといった様相を見せている。普段はあまり見かけないタイプの人たちも食料品の買い出しにくるし、大量の商品を買い込んでいく人が多いことから、不審者の見極めに手間取るようになった。
商店側も危機感をもっているようで、ここのところ新規依頼が急増していて、すべての依頼を受けきれない状況だ。ここでは、コロナ不況の犠牲者ともいえるカフェ店主について話そう。
当日の現場は、東京郊外の複合商業施設にある地下食品街Mだった。精肉や鮮魚をはじめ、青果、総菜、弁当、パン、菓子、輸入食品などの多種多様な専門店が軒を連ねる、デパ地下に似た雰囲気の商店だ。今回は、万引き被害に悩むテナントからの苦情を受けた協同組合から、およそ2カ月にわたる食品街全体の集中取り締まりの依頼を受けた。
この日は、その5日目だった。各店の売り場面積は小さく、棚も低いために、一見すると万引きしにくい状況に見えるが、相当数の常習者を抱えているようで、すでに何人かが摘発されていた。通常のスーパーと比べて高級な商品を取り扱っているため、万引き犯にも好まれてしまうのだろう。どうせ盗むなら少しでもいいモノを。そう考える万引き犯は非常に多いのだ。
精肉パックをスライドさせてバッグに隠す
出勤の挨拶のため事務所に出向くと、60代くらいに見える小柄の理事長が出迎えてくれた。
「きょう一日、よろしくお願いいたします。なにか注意することはございますか?」
「魚屋と肉屋、輸入食品店の被害が多いみたいだけど、私たちは運営側だから詳しくはわからないねえ。お店の人が言うには、毎日のように来ては盗んでいく悪いヤツもいるようですよ。いまのところ毎日誰か捕まっているから、またあるかもしれないねえ」
事務的な確認事項をすませて現場に入ると、地下食品街は多くの客であふれていた。人混みに紛れて店内の構造を確認する。出入り口が多数あり、隣接する駅や百貨店にも直結している。それに加えてエレベーターやエスカレーター、階段まであるため、実行後の万引き犯がたどるルートの予測ができない。抜け場所が多い現場では被疑者を見失う確率が高く、油断できない一日になりそうだ。
「常習者の捕捉に努めよ」
事務所からの単純な指令を胸に巡回を始めると、2時間ほど経過したところで、精肉店にいるエプロン姿の中年女性が目に留まった。一見して40代前半くらいだろうか。カゴのなかで落ち着きなくうごめく右手が気になったのだ。少し離れたところからカゴに目をやると、いくつかの精肉パックのほかに、大きく口が開いた黒いエコバッグが入っているのが見えた。なにげなく近づいて動向を見守れば、ほかの客に紛れながらカゴに入れた精肉パックをスライドさせるようにしてバッグに隠している。
後方を気にしながら隣接する輸入食品店へ
[これは常習だろう]
カゴにあった商品をすべて隠し終えた女は、続けてソーセージを手にすると、カゴに入れるふりをしながらそれを直接バッグに隠した。そそくさとカゴを戻して精肉店を後にする女の追尾を続けると、何度か後方を気にしながら隣接する輸入食品店に入っていった。なかなか珍しい商品と、狭く入り組んだレイアウトが個性的な、とても万引きしやすい構造の人気店だ。
[ここでも絶対にやる]
犯行に及ぶことを確信して、店外から行動を見ていると、チーズやコーヒー、舶来モノのビスケットなどの商品を手に取り、次々とバッグに隠していくのが見えた。犯行の現認は十分なので、それ以上無理して見ることはしない。なるべく遠くから女の手元だけは見るようにしながら、店の外に出るタイミングをうかがった。ひとつも精算することなく持参したバッグを大きく膨らませて駅側出口の扉をまたいだ女に、そっと声をかける。
自動改札を突破し駅構内に逃げ込む
「すみませ……」
声をかけると同時に、私を振り払って走りだした女は、自動改札を突破して駅構内に逃げ込んだ。女の行く方向を確認しながら、アップルウオッチにインストールしてあるSuicaを起動した私は、慌てて自動改札機にタッチして、その後を追う。すると間もなく、乱暴に開かれた鉄扉がたてる破裂音とともに、駅員が飛び出してきた。ものすごいスピードで後方から私を追い抜くと、一段飛ばしで階段を駆け上がり、女の後を追いかけていく。
「お客さん、改札通ってないですよ!」
駅員の呼びかけを無視して階段を駆け上がった女だったが、ホーム上に出たところで追いつかれると、力尽きたようにしゃがみ込んだ。必死に階段を駆け上がってようやく追いついた私は、息を切らせながら駅員に事情を説明して協力を求めた。
「電車くるから危ないし、もう逃げないでよ」
事態を把握した駅員が駅事務所を貸してくれるというので、一人綱引きをするように膝を落として歩こうとしない彼女の両脇を二人で担ぎ上げるようにして運び、改札階に向かうエレベーターに乗り込んだ。
身寄りを亡くしたばかりの34歳
エレベーターが改札階に着き扉が開くと、誰かが通報してくれたようで、すぐに2人の警察官が歩み寄ってきた。簡潔に事情を説明したあと即座に女を引き渡すと、行き先が駅前の交番に変更された。
「このバッグに商品を隠して、金を払わないまま駅に逃げたってことね」
交番に着くなり、プロレスラーに劣らぬほど大きな体をした警察官が女のバッグから被害品を取り出した。2店をハシゴして盗んだ商品は、計13点、被害合計は1万2000円ほどになった。彼女の所持金は1000円足らずで、クレジットカードや電子マネーも持っていないというので、商品を買い取ることはできない。
警察官による身分確認の結果、彼女は34歳。結婚はしておらず、身寄りを失くしたばかりで、迎えにきてくれるような人はいないことがわかった。観念した様子でひとつも精算していないことを認めた女は、つい先日も別のスーパーで万引きをして捕まったばかりだと告白した。
カフェ開店も「全然お客さんが来ないんです」
「前に捕まったとき、もうしないって約束したと思うんだけど、なんでやっちゃったの?」
「ごめんなさい。お店を開店したら、すぐにコロナ騒動が起きて、全然お客さんが来ないんです。それで苦しくて、つい……」
傍らで話を聞いていれば、同居していた母親が亡くなり、生計を立てるべく隣町の商店街で新規にカフェを開店したばかりだそうで、その経営が思わしくなく犯行に至ってしまったらしい。交番の汚いデスクに並べられた被害品を眺めてみれば、厚切り豚ロース肉、鶏モモ肉、和牛ミスジステーキ、ソーセージ、パルメザンチーズ、ピザ用のシュレッドチーズ、コーヒー、ビスケットなど、確かにカフェで使うようなものばかりを盗んでいて、その理由に嘘はなさそうだ。
「あんた、理由はどうあれ、きょうは時間かかるよ。駅構内への不正入場の件も警察官が現認してるから、きちんと正直に話してください」
「はい。あの、すみません……」
「なに、どうしたの?」
「この靴も、さっき上の店で盗りました。ごめんなさい……」
「エエーッ」
盗んだスニーカーの空箱に薄汚れた靴を入れていた
恥ずかしそうにうなだれる女の足元を見れば、真新しいピンクのスニーカーを履いていて、よく見ると踵のつまみ部分にはプラスチックの値札紐が残されている。
伊東 ゆう『万引き』(青弓社)
「これ、紐だけ残っているけど、値札はどうしたの」
「ちぎって捨てちゃいました」
「履いてきた靴は、どうした?」
「この靴が入っていた箱に入れてあります」
その後、警察官とともに靴屋に出向いた女は、ちぎった値札を捨てた場所や自分が履いてきた薄汚れた靴を箱から取り出すところの写真を撮られると、各店から被害届を出されて逮捕になったため警察署に連行された。
今後の彼女の人生はどのようなものになるのだろうか。不安定な社会情勢のなか一人で生き抜くことは難しそうで、励ましの言葉さえ見つからなかった。

    * 伊東 ゆう万引きGメン



コメントを投稿