下記の記事は日本経済新聞オンラインからの借用(コピー)です
「黄色いお花をたくさん飾って送り出してほしい」。東京都内で一人暮らしだった70代女性のAさんは亡くなる前、こんな希望を残していた。本式の葬儀は望んでいなかったため、限られた人だけで故人をしのぶ「お別れの会」が開かれ、祭壇の周りは黄色い花で彩られた。
Aさんは生涯独身で、配偶者や子どもはいなかった。実兄は一人いたが「自分のことで兄の手を煩わせたくない」という気持ちが強かったことから、死後の手続きなどの代行を請け負うNPO法人、りすシステム(東京・千代田)と生前に契約。同法人はAさんの依頼を受けて保険証の返納、年金の停止といった手続きや自宅の片付けなどをしたという。
生前に第三者と契約
厚生労働省の調査によると、65歳以上がいる世帯のうち単独世帯の比率は2019年で28.8%と過去最高だった。比率はほぼ右肩上がりで上昇し、この30年で約2倍になった。Aさんのようにずっと独身の人のほか配偶者に先立たれたり、まったく身寄りがなかったりする「お一人様」の高齢者が増えているとみられる。
配偶者や子どもといった家族がいれば家族が葬儀・納骨などをするのが一般的だが、お一人様はこうした人がいない。亡くなったとき遺体の引き取り手がいない場合は、市区町村が火葬・納骨をする。遺産は故人に兄弟姉妹などの法定相続人がいれば彼らが引き継ぐ。ただし家が老朽化していたり、負債があったりすると相続人の負担になりかねない。相続放棄も可能だが、裁判所での手続きが必要になるなど手間と費用がかかる。
お一人様が周囲に迷惑を掛けないようにするには「自分が亡くなったあとの手続きを生前に準備しておくことが大切」と行政書士の吉村信一氏は話す。選択肢の一つが死後事務委任契約だ。死後に必要な手続きについてあらかじめ第三者と契約を結び、希望に沿って実行してもらうよう託す。司法書士、行政書士といった専門家やNPO団体、専門の業者・金融機関に依頼するのが一般的だ。
具体的に何を任せることができるのだろうか。まず決めておく必要があるのが葬儀の方法とお骨の行き先。どんな葬儀を望むのか、先祖代々の墓に入るのか、樹木葬や海洋散骨といった方法を選ぶのかなどを決める。
財産の分け方を指定
死亡届の提出、公共料金など各種契約の解除に加え、入院費用や高齢者向け施設の費用の精算も考えておいたほうがいいだろう。最近ではパソコンやスマートフォンといった電子機器のデータ消去と処分を望む人が増えているという。SNS(交流サイト)を利用していれば、アカウントの閉鎖を請け負う場合もある。ネット上に個人情報が残り続けることやアカウントの乗っ取りによる悪用を防ぐことなどが目的だ。
財産の分け方や配分先を遺言書で指定することも重要だ。お一人様で遺言書がない場合は、故人の兄弟姉妹などが法定相続分に従って分けるのが一般的。法定相続人以外の第三者に遺産を渡す「遺贈」や特定の団体などに寄付をしたいなら、遺言書に明記する必要がある。死後事務委任の契約先を遺言執行者に指定しておけば遺言の内容を実行してもらえる。
「死後の手続きと並んで、生前のサポートを望む人が多い」と吉村氏は指摘する。入院や高齢者向け施設への入居などで身元保証人になってほしいというニーズが特に強いという。判断力はあるものの足腰が衰えて出かけられない場合に金融機関の入出金などを依頼する財産管理等委任、認知症に備える任意後見といった契約をしておくことも選択肢になる。
業者は玉石混交も
生前と死後の両方で委任契約を利用するなら、相応の費用がかかることを知っておこう。依頼内容によってケース・バイ・ケースだが、りすシステムでは「計100万円からが目安の一つになる」(杉山歩代表理事)という。申込金や組織運営のための分担金のほか、生前・死後事務を実行するための預託金としてそれぞれ最低20万円、50万円が必要になる。預託金は途中で契約を解除する場合は返還される。
ただし業者は玉石混交の面もある。国民生活センターによると死後事務などの「高齢者サポートサービス」を巡る相談は20年度に111件と3年連続で100件を超えた。預託金を流用していた大手事業者が16年に破綻する例も出ている。費用は高額になりやすいため契約をする際は慎重に判断したい。サービス内容と料金、途中解約をする場合の条件などを吟味することが必要だ。
(三好理穂)
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