死線を超えて希望を
作家・NPO法人三千里鐵道副理事長
磯貝治良
金大中先生、訃報に接して、とても胸が痛いです。
私が在日韓国人の友人たちに誘われて、ささやかながら活動を協働するようになったのは、1970年代初め。詩人キムジハや在日韓国人良心囚に死刑が宣告された頃でした。キムデジュン先生が「亡命」の身にあって、民主主義獲得と統一のための在日組織を作ろうとしていたときでもあります。東京のホテルから諜報機関によって白昼、拉致されたのは、そのさなかでした。
日本政府の責任を糾し、救出のための署名運動くらいしかできませんでしたが、その後の先生の命運から目をはなせませんでした。
独裁政権のたびかさなる弾圧を乗りこえて政治活動に復帰したときは、目を瞠りました。
そして、大統領に就任。まさに、民主主義をみずからの力で手にするとはどういうことか、その真実を先生の人生から教えられました。民衆の血と汗によって1987年に「民主化宣言」は成されましたが、そのたたかいを表わす人格的表象は、まさしく「金大中」です。
先生が成し遂げられた、民族の和解と協力、交流の成果は衆目の認めるところであり、いちいち語る必要はないでしょう。休戦状態のまま第2のユギオの危機と背中合わせにある朝鮮半島が、「統一中」を堅持し、平和へと向かう、まぎれもない希望でした。
いや、朝鮮半島のみならず、日本人の未来にとっても、北東アジアの平和にとっても希望です。その希望は盧武鉉政権によって見事に継承されました。
北への資金協力が核開発を助けた、などとは妄言です。心ない勢力が喧伝するような「失なわれた10年」ではありません。「平和へつなぐ、希望の10年」。必ずやその真実は蘇えるでしょう。遠い歴史ではなく、三年余のちにそれは証明されるでしょう。
ご冥福を祈ります。
2009年8月21日記す