無症候性の原発性副甲状腺機能亢進症の管理: 第 4 次国際作業部会による提言のまとめ
JCEM 2014; 99: 3561-3569
1. 原発性副甲状腺機能亢進症の診断
原発性副甲状腺機能亢進症 (primary hyperparathyroidism: PHPT) 患者では、古典的には高カルシウム血症を認める。
主要なカルシウム結合蛋白であるアルブミン (albumin: Alb) の異常がある場合、血清中の総カルシウム濃度は以下の式で補正される。
補正 Ca 濃度 = 血清総 Ca 測定値(mg/dL)+ 0.8 ×(4.0 - 血清 Alb 濃度(g/dL))
である。イオン化血清カルシウムを測定することもできるが、ほとんどの施設ではイオン化遊離カルシウム濃度の測定精度は十分ではない。そのため、補正した総血清カルシウム濃度による評価が推奨される。
第 2 世代および第 3 世代の PTH 測定は、PHPT の診断に対して同じように有用である。PTH の基準範囲はビタミン D の充足の程度に影響されるが、医学研究所(institute of medicine: IOM)が推奨する25 (OH) D の閾値は 20 ng/mL(50 nmol/L)であるのに対し、内分泌学会(The Endocrine Society)のような権威ある団体が推奨する閾値は 30 ng/mL(75nmol/L)であるというように、ビタミン D の充足についても意見は一致していない。
ビタミン D が充足している集団における研究では、一般に、ビタミン D の充足度によって定義されていない基準範囲よりも低い正常範囲が示されている。
正常カルシウム血症 PHPT (normocalcemic PHPT) は、現在では PHPT のバリアントとしてよく認識されている。これらの患者では、血清総カルシウム値およびイオン化カルシウム値が正常であり、二次的に PTH を上昇させる原因は認めない。
正常カルシウム血症 PHPT の自然史に関する知識は不完全であるが、高カルシウム血症になる人もいれば、標的臓器病変の証拠(例えば、骨密度の減少)を示す人もいる。しかし、PTH 値が持続的に上昇しているにも関わらず、血清カルシウム濃度は正常で、長期間安定している患者もいる。
25 (OH) D は、すべての PHPT 患者において測定すべきである。IOM で定義されたビタミン D 不足(<20 ng/mL) または明らかなビタミン D 欠乏 (<10 ng/mL) の場合、疾患がより活性化するというエビデンスがある。また、ビタミン D 不足を改善すると PTH 値が低下するというエビデンスもあり、PHPT において 25(OH)D 不足を改善すると PTH 値が低下することが報告されている。
1,25-(OH)2 D 値は通常、正常上限~高値上昇であるが、測定する価値はないように思われる。したがって、1,25-(OH)2 D の測定は勧められない。
PHPT 患者の 10%以上が、PHPT に関連する 11 の遺伝子のいずれかに変異を有していると推定されている。遺伝学的検査のコストが下がり続けているため、このような検査がより日常的に行われるようになり、PHPT 患者やその近親者の臨床管理や治療に役立つと考えられる。
2. PHPT の典型的な症状
無症状の PHPT 患者は通常安定しているが、いつまでも安定しているとは限らない。無症候性 PHPT 患者を 15 年間追跡した前向き観察研究では、被験者の 3分の1 で PHPT の症候(腎結石、高カルシウム血症の悪化、骨密度の低下)が明らかになった。
PHPT は欧州や北米よりもアジアや中南米でより症状が出やすい。しかし、これは無症状で発症した場合の疾患に対する地域特異的なアプローチを示唆するものではない。
新しい骨評価法である二重エネルギーX線吸収測定法 (dual-energy x-ray absorptiometry: DXA) は非常に有用ではあるが、PHPT における骨梁の変化については十分な情報は得られない可能性が示唆されている。しかし、皮質病変のマーカーとしては、DXA は有益であり、すべての PHPT 患者において皮質部位である橈骨遠位 1/3 で DXA を測定することの重要性が強調されている。
DXA による椎体骨折評価 (vertebral fracture assessment: VFA) や海綿骨スコア (trabecular bone score: TBS)、 高分解能末梢定量コンピューター断層撮影 (high resolution peripheral quantitative computed tomography: HRpQCT) などの他の検査法も、無症候性 PHPT 患者の多くで海綿体病変を証明するのに役立つ。
PHPT では腎臓も障害される。腎結石症 (nephrolithiasis) および腎石灰化症 (nephrocalcinosis) は、PHPT の最も多い合併症である。結石症の原因は単一ではなく、尿中カルシウム排泄量だけでは明確に説明できない。
腎石灰化症や無症候性腎結石症が存在するかどうかを判定するために、腎画像検査(腹部 X 線、超音波、CT)を行う。また、尿検査から腎結石症のリスクの高い集団を特定することができる。
通常のカルシウム食で著明な低カルシウム尿症を示す患者は、家族性低カルシウム尿症高カルシウム血症(familial hypocalciuric hypercalcemia: FHH)の可能性がある。尿中カルシウム:クレアチニンクリアランス比 <0.01を示す患者も、FHH の可能性がある。
3. 非典型的だが PHPT と関連があるとされる症状
3-1. 心血管疾患
軽症 PHPT 患者の一部には、血管や心血管系の機能障害を示す微妙な証拠があるが、これらの所見が予測可能かどうかは不明である。現時点では、軽症 PHPT における心血管系の転帰に関する前向き研究はない。さらに、副甲状腺摘出術前後で心血管エンドポインランダム化比較試験では、副甲状腺摘出術による心血管エンドポイントに関する有益性は示せていない。
したがって、現時点で導き出される妥当な結論は、PHPT では心血管障害の検査は評価の一部とすべきではなく、また、副甲状腺摘出術は、もし異常があったとしても、心血管エンドポイントを改善するために行うべきではないということである。
3-2. 認知機能障害
患者の訴えや医療従事者による観察から、精神集中の欠如、認知の変化、抑うつ、 QOL の低下といった非特異的な症状が注目されている。しかし、これらの症状が PHPT と直接関係しているかどうかを調べるた研究のデータは一貫していない。副甲状腺摘出術後の結果も一貫していない。
より明確なエビデンスが得られるまでは、このような非特異的な症状を副甲状腺摘出術の推奨に用いるべきでない。それでも、神経認知症状のある患者の中には、外科的介入が有益であると思われる者は確かにいる。PHPT における正式な精神神経学的または神経認知学的検査は、この疾患の研究課題としては適切ではあるが、臨床では推奨されない。
4. 治療
4-1. 手術適応
i) 血清カルシウム濃度
手術が推奨される血清カルシウムの閾値は、依然として正常上限より 1 mg/dL(0.25mm/L)以上高値である。
ii) 骨病変
·骨密度:
骨密度の低下は、PHPT において、患者が来院した際または経過観察中のいずれにおいても、継続して注意するべき問題である。
閉経前後の女性および 50 歳以上の男性で、腰椎、大腿骨頸部、股関節全体、橈骨遠位 1/3 の T スコアが -2.5 以下の場合は手術が推奨される。
閉経前女性と 50 歳未満の男性では、Zスコア-2.5 以下が手術を勧めるカットポイントとして推奨されている。
T スコアの代わりに Z スコアを用いることは、国際臨床デンシトメトリー学会(International Society Clinical Densitometry: ISCD)の骨密度の評価における公式見解と一致している。しかし、この推奨では、PTH が骨サイズや骨構造に及ぼす他の影響が骨折傾向に影響する可能性があることも認めている。椎体 X 線、VFA、TBS、HRpQCT などの骨格評価に対する他のアプローチが、手術を推奨するかどうかの決定に役立つ情報を提供するかもしれない。
TBS や HRpQCT の評価に基づく海綿体病変は、手術を推奨する根拠となりうるが、これらの方法は日常的に利用できるものではないため、広く使用することはできない。
·骨折:
X 線または VFA で椎体骨折が認められた場合は手術が推奨される。
iii) 腎障害
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腎機能:
クレアチニンクリアランス 60 mL/分未満が引き続き手術適応の基準である。
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腎結石の評価は、現在では X 線、超音波、CT による腎画像診断が推奨されている。結石または腎石灰化症が存在する場合は、手術が推奨される。
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FHH の鑑別診断には、24 時間尿のカルシウム測定が有用である。著明な高カルシウム尿症(すなわち、400 mg/日超)がみられる場合は、カルシウム含有結石のリスク評価を行うためにさらに詳細な尿生化学的検査を行う。カルシウム含有結石リスクの上昇を示す異常所見と著明な高カルシウム尿症があれば、手術適応となる。
iv) 年齢
50歳未満は、引き続き手術適応である。
正常カルシウム血症の PHPT 患者においては、図1 に示すように、1. 1年毎に血清カルシウムと PTH、1-2 年毎に DEX で経過を観察する。
図1: 正常カルシウム血症性 PHPT のフォローアップ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/core/lw/2.0/html/tileshop_pmc/tileshop_pmc_inline.html?title=Click%20on%20image%20to%20zoom&p=PMC3&id=5393490_zeg9991410330001.jpg
4-2. 手術についての最近の話題
PHPT に対して副甲状腺摘出術が行われることが増えている。副甲状腺手術が成功すると、骨密度が改善し、骨折の発生率が減少し(コホート研究)、腎結石の既往のある人では腎結石の頻度が減少し、ランダム化臨床試験で確認されたわけではないが、いくつかの神経認知的要素に改善が見られる可能性がある。
手術手技の有効性と安全性が進歩し、特に専門の副甲状腺外科医が執刀する場合は手術が成功する可能性が高いと期待されるので、手術を選択しやすくなる。さらに、さまざまな術前画像診断法の改善により、副甲状腺外科医は一般的に非常に信頼できるロードマップを手に入れることができるようになった。
画像診断は手術の補助として使われるが、診断目的ではない。最もよく使われる方法は、99mTc-セスタミビスキャンとシングルフォトンエミッション CT を併用した放射性核種による画像診断である。また、超音波検査も一般的な画像診断法である。CT スキャンは、3 次元技術と 4 次元(時間)を採用することで感度を向上させ、より広く使用されるようになった。
多種多様な外科的アプローチの中で、低侵襲副甲状腺摘出術が人気を博している。術中に PTH を測定することで、低侵襲副甲状腺摘出術は手術の範囲と時間を限定することができる。すべての機能亢進した副甲状腺組織 (例えば、単一の腺腫、過形成腺) を摘出した後、10-15分以内に PTH レベルは 50%低下し、正常範囲に入ると予想される。
遺伝性の PHPT の場合、手術方法は基礎にある遺伝性疾患に合わせる。副甲状腺の手術は、この手術に熟練した外科医のみが行うべきである。
4-3. 内科的治療についての最近の話題
改訂されたガイドラインでは、前回のガイドラインよりも副甲状腺手術を推奨する頻度が高くなると思われる。しかし、手術のガイドラインに合致しない無症状の患者は、少なくとも数年間は手術をせずに安全に経過を観察することができる。また、手術を拒否したり、考慮するべき医学的問題のために手術の候補にならない人もいる。
このような患者には、非手術的アプローチが必要である。経過観察する患者では、血清カルシウムを毎年または隔年で測定し、モニタリングする。骨密度も定期的に測定するが、その頻度は DXA に関する国別のガイドラインに基づくことが多い。
個々の PHPT 患者に適したモニタリング間隔も臨床的判断による。骨密度を年 1 回モニターするのが適切な場合もあれば、2 年毎でもよい場合もある。VFA は、潜在性椎体骨折の発生をモニタリングするために推奨される方法である。
ビタミンDは、最低血清25(OH)D値が20ng/dL(50nmol/L)以上となるように、適量を投与すべきである。一般に、800~1000 IUが開始用量として有用である。30 ng/mLを超えると PTH 値がさらに低下するというエビデンスもあるため、この高い基準値を目指すのは妥当な議論であろう。カルシウム摂取量は、すべての個人に対して設定されたガイドラインに従うべきである。PHPT においてカルシウム摂取を制限することは推奨されない。
薬物療法も選択肢ではあるが、そのほとんどは食品医薬品局やその他の規制機関によって承認されていない。さらに、ほとんどの薬剤について、有益性と安全性に関する長期データが不十分である。
ビスフォスフォネート系薬剤の中で最もエビデンスがあるのはアレンドロネートであり、血清カルシウムおよび PTH 濃度を変化させることなく腰椎の骨密度を改善する。カルシウム受容体作動薬であるシナカルセトは、多くの患者で血清カルシウム濃度を正常値まで低下させるが、PTH 値を低下させる効果はわずかである。骨密度は変化しない。シナカルセトは PHPT の内科的管理薬として承認されている。PHPT におけるビスフォスフォネートとシナカルセトの併用に関するデータは限られている。
これらの薬理学的薬剤のいずれを使用するかは、何を目標とするかによって決定されるべきである。骨密度を増加させるためには、ビスフォスフォネート療法が選択されるであろう。血清カルシウム濃度に懸念がある場合は、シナカルセトが選択されるだろう。
骨密度の改善や血清カルシウム濃度の低下を目的としない場合は、薬理学的薬剤は使用しない。
5. 今後明らかにされるべき問題
作業部会では、今後 5 年間でさらに研究を進めることが推奨される多くの分野が特定された。それらを、さらなる調査のための大まかなカテゴリーとしてここに列挙する。
1. 正常カルシウム血症性 PHPT:自然史と病態生理学
2. PTH の正常範囲を定義する際の 25 (OH) D の閾値;PTHレベルをコントロールするための至適レベルを定義する際の 25 (OH) D の閾値
3. ビタミン D 欠乏患者に安全にビタミン D を補充するための治療レジメン;血清 25 (OH) D の目標の設定
4. PHPT の非伝統的側面に関する前向き無作為化対照コホート研究:副甲状腺摘出術前後の神経認知機能と血管機能、予測指標の決定
5. 手術成功前後の PHPT における骨折発生率
6. PHPT における骨折リスクに対する骨密度、高分解能画像、およびそれらに関連する解析(TBS、有限要素解析など)の比較と予測値
7. PHPT における骨折リスクを評価するためのFRAXと同等のツールの確立
8. 腹部画像による無症候性PHPTにおける潜在性腎結石症の発生率の決定
9. 尿生化学的分析と腎結石の有無および/または発生によって決定される PHPT における結石リスクの予測値の決定
10. ビスフォスフォネートとシナカルセトの併用、デノスマブなどの PHPT に対する薬理学的アプローチ:費用便益分析
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5393490/