内分泌代謝内科 備忘録

単一遺伝子変異による高血圧症

単一遺伝子変異による高血圧症

Curr Hypertens Rev 2020; 16: 91-107

 

1. Glucocorticoid remediable aldosteronism (GRA)

常染色体優性遺伝の遺伝形式をとる低レニン高アルドステロン血症をともなう高血圧症。その名が示す通り、糖質コルチコイド投与により ACTH 分泌を抑制すると、アルドステロンの分泌が抑制される。

コルチゾール合成の最終段階を触媒する 11β-ヒドロキシラーゼとアルドステロン合成の最終段階を触媒するアルドステロン合成酵素の遺伝子は8番染色体上に並んでいる。ふたつの遺伝子の配列は 95%相同でエクソンとイントロンの構成も同じである。GRA では不等交差により 11β-ヒドロキシラーゼのプロモーターがアルドステロン遺伝子に挿入される。これにより、ACTH がアルドステロン合成酵素の発現を誘導するようになる。

GRA は若年発症の重度の高血圧で低レニン血症、軽度の高 Na 血症が特徴。血清 K は正常~軽度低下。低 K 血症が軽度になる理由はよく分かっていない。半数弱で若年での出血性脳梗塞を認めると報告されている。

鑑別にはアルドステロン/レニン測定とデキサメタゾン抑制試験が有用。

治療は低用量糖質コルチコイドの他、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)、ENaC 阻害薬(アミロライド(日本では未承認)、トリアムテレン(商品名: トリテレン) )が有効。もともとレニンが抑制されているので、ACE 阻害薬や β ブロッカーの効果は期待できない。

 

2. Apparent mineralcorticoid excess (AME)

常染色体劣性遺伝の遺伝形式をとる低レニン低アルドステロン血症、低カリウム血症、アルカローシスをともなう若年発症の重度の高血圧症。出生時の低体重と関連する。極めて稀な遺伝性疾患で過去25年で世界で 100 例ほどしか報告がない。1/3 の症例では近親婚を認める。

病態生理は甘草による偽性アルドステロン症と共通しており、11βHSD2 の機能障害による。

診断には尿中の(テトラヒドロコルチゾール+アロテトラヒドロコルチゾール)とテトラヒドロコルチゾンとの比が有用。健常者では 1:1 であるのに対し、AME では 6.7-33:1 になる。より直接的には、トリチウム標識したコルチゾールを投与し、コルチゾンを検出する方法もある。AME 患者ではコルチゾンを検出するのに対し、健常者では 0-6%でしか検出されない。

治療はスピロノラクトンが有効。

 

3. Geller syndrome

常染色体優性遺伝による若年発症の高血圧症。ミネラルコルチコイド受容体の変異により、基質への親和性が変化していることが原因。S810L変異により、プロゲステロン(健常者では natural antagonist としてはたらく) がミネラルコルチコイド受容体の agonist としてはたらくようになる。

男性や妊娠していない女性ではプロゲステロンの濃度は高くない。In vitro の研究では、本来はミネラルコルチコイド作用をもたないコルチゾールの代謝産物(コルチコステロン、11-デヒドロキシコルチコステロン) がS810L変異をもつミネラルコルチコイド受容体に対しては agonist としてはたらくことが示されている。

ミネラルコルチコイド受容体の antagonist であるスピロノラクトンも S810L 変異をもつミネラルコルチコイド受容体に対しては agonist としてはたらく。したがって Geller syndrome の患者にスピロノラクトンを投与すると高血圧、電解質異常が増悪する。

 

4. Pseudohypoaldosteronism type II (PHA-II)

常染色体優性遺伝の遺伝形式をとる高 K 血症、アシドーシスをともなう重度の高血圧症。Gordon 症候群とも呼ばれる。

NCC と ROMK の活性を制御している WNK 系の機能障害が原因。PHA-II の原因遺伝子としては WNK1, WNK4, CUL3, KLHL3 がある。後二者は WNK の蛋白分解に関わっている。

高血圧の原因は NCC の機能亢進による Na 再吸収なので、サイアザイドがよく効く。一方、ミネラルコルチコイド受容体は無効である。 ROMK の機能亢進による K 再吸収も起こるので、高 K 血症を認める。

 

5. Autosomal dominant hypertension with brachyductyly (ADHB)

常染色体優性遺伝の遺伝形式をとる低身長とE型短指症(brachyductyly type E) をともなう若年発症の高血圧症。年齢とともに高血圧は増悪し、未治療の場合はしばしば50歳未満で脳梗塞を起こす。

短指症 E型は中指骨と指節骨が太く短くなるのが特徴だが、思春期前の小児では評価は難しい。

ADHB の高血圧は塩分摂取量には依存せず、循環血漿量の変化に対するレニン・アルドステロン、カテコラミンの反応は正常である。

MRI では、しばしば後頭蓋窩において両側あるいは片側の後下小脳動脈または椎骨動脈が延髄腹外側野と接しており、圧受容体反射の異常が高血圧の原因だと考えられている。

原因遺伝子として、ホスホジエステラーゼ A3(PDEA3) の関与が疑われているが、詳細な病態生理は不明である。

治療は αチャネル拮抗薬、Caチャネル拮抗薬、ACE 阻害薬が有効。

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7499356/

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