内分泌代謝内科 備忘録

先天性甲状腺機能低下症

先天性甲状腺機能低下症
J Pediatr Endocrinol Metab 2018; 31: 595-596

何らかの原因による甲状腺機能低下症の有病率は、アメリカでは 0.3-0.7%、ヨーロッパでは 0.2-5.3%と考えられている。報告されている有病率と罹患率の違いは、推定値の根底にある定義の違いによるものである。

甲状腺機能低下症は、1 型糖尿病、萎縮性胃炎 (gastric atrophy)、セリアック病、自己免疫性多内分泌腺症候群 (multiple autoimmune endocrinopathy) などの他の自己免疫疾患と合併した自己免疫疾患として頻繁に起こる。さらに、ダウン症候群 (Down syndrome)やターナー症候群 (Turner syndrome) の患者も自己免疫性甲状腺疾患の有病率が高い。後期高齢者では、ヨード欠乏症も甲状腺機能低下症の主な原因となる。

先天性甲状腺機能低下症 (congenital hypothyroidism: CH) の原因には、ヨードトランスポーター、ペンドリン遺伝子 (Pendrin gene)、甲状腺刺激ホルモン (thyroid stimulating hormone: TSH) 、TSH 受容体や甲状腺の発達に重要な多くの転写因子における遺伝子変異など様々あることは重要である。

ペンドリン遺伝子とペンドレッド症候
https://www.noguchi-med.or.jp/test/gene/pendred#:~:text=%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%E3%81%AF%E3%80%811,%E5%90%8D%E3%81%AF%E7%94%B1%E6%9D%A5%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

甲状腺機能低下症の原因には、ヨード欠乏もある。甲状腺機能低下症の臨床的徴候としては、乾燥肌、脱毛、腎機能障害、便秘、神経学的問題(発達遅延)、知的障害、さらには精神医学的および心臓血管系の症状が含まれる。小児期や青年期には、成長障害や成長停止、さらには過体重も甲状腺機能障害の頻度が多く、問題となる後遺症である。

CH 患者のフォローアップは必ずしも容易ではない。例えば、先天性甲状腺機能低下症の乳児では、医原性の甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の両方が報告されており、レボチロキシンの初期投与は頻繁な用量調節を必要とすることがある。新生児に 推奨開始用量である 10-15 μg/kg レボチロキシンを投与した場合、この投与量範囲の高い方で治療を受けた新生児のかなりの割合がフォローアップ中に血液検査で甲状腺機能亢進となる可能性がある。

実際、2002 年から 2012 年の間に 104 人の患者が組み入れられた Craven と Frank による研究では、レボチロキシンの平均開始用量は 12 ± 2.5 μg/kg であり、フォローアップ期間中に 36.5%が医原性高サイロキシン血症のために減量を必要とした。減量を必要とした乳児のレボチロキシン開始用量は 13.2±2.4 μg/kg/日であった。12.5 μg/日を超える初回用量で治療を受けた乳児の 34%のうち、57.1%がフォローアップ中に減量を必要とした。これらのデータによると、CH の治療開始に関するガイドラインに従うと、36.5%の乳児が医原性高サイロキシン血症のために減量を必要としたことに注意することが重要である。CH の適切な初期投与量は、推奨量よりも狭い範囲なのかもしれない。

Deng らが 2013 年から 2015 年の全国新生児スクリーニングプログラムによる中国での CH の発生率を報告している。これまでのところ、中国における CH の疫学的特徴については限られたデータしか得られていない。本報告では、中国における新生児甲状腺機能低下症の罹患率を推定し、この大国における地理的差違について説明している。ポアソン回帰を用いて、甲状腺機能障害の罹患率と選択した人口統計学的特徴および地理的位置との間のオッズ比(odds ratio: OR)および 95%信頼区間(confidence intervals: CI)を算出した。

4,520 万人の新生児から合計 18,666 例の甲状腺機能障害症例が同定され、全発生率は出生 1 万人当たり 4.13 例であった。新生児の性別にかかわらず、遠隔地の新生児と比較して、沿岸部および内陸部の新生児では CH の発症リスクが高かった(沿岸部および内陸部女性 : OR=2.00, 95%CI:1.86-2.16 v.s. 遠隔地女性 : OR=1.74, 95%CI:1.61-1.87, 沿岸部および内陸部男性 : OR = 1.70, 95%CI:1.59-1.83 v.s. 遠隔地男性 : OR=1.52, 95%CI:1.42-1.63)。さらに、TSH スクリーニング値が 40 mU/L 未満の新生児甲状腺機能低下症のリスクが最も高かったのは沿岸部の新生児であり、内陸部の新生児の TSH スクリーニング値は 70-100 mU/L であった。著者らは、中国における CH の全体的な発生率は高いと結論づけている。さらに、甲状腺機能低下症の発生率には有意な地域差がある。

Jaruratanasirikul らにより、タイ南部における新生児 TSH スクリーニングプログラム実施前後の CH の発生率と基礎原因が報告されている。本研究では、1995 年から 2013 年の間にあるセンターで原発性甲状腺機能低下症と診断された小児患者の診療記録を後ろ向きに分析した。研究期間 1(SP1)中に最も多かった CH のタイプは顕性かつ永続性の CH(66%)であり、その多くは無甲状腺症 (athyrosis) または異所性甲状腺症 (ectopic thyroid) が原因であった。タイ南部、すなわちソンクラー県における出生 1 万人当たりの先天性甲状腺機能低下症の全体的な年間発生率は、1.69(1:5021)と4.77(1:2238)であり、タイ南部の 14 県すべてにおける推定発生率は、1.24(1:8094)と 2.33(1:4274)であった。

トルコのアダナ県における CH 新生児スクリーニングプログラムの現状が、Kör と Kör によって分析されている。新生児甲状腺機能低下症が疑われ、地域の内分泌総合病院に紹介された 1300 人の乳児の分析結果が後ろ向きに評価された。甲状腺機能低下症と同定された 223 人の平均毛細血管 TSH 値と静脈 TSH 値は、それぞれ 40.78 (5.5-100) μIU/mLと 67.26 (10.7-100) μIU/mLであった。スクリーニング時間は生後 8.65(0-30, 中央値:7)日であった。踵採血によるスクリーニングから静脈採血による確認までの期間は 11.10(2-28, 中央値:11)日であり、計画(3-5 日)より長かった。著者らは、トルコにおけるスクリーニングプログラムの実施により、CH の診断および治療開始までの期間は、スクリーニングプログラム実施前と比較して著しく短縮されたものの、最終的な診断および治療開始までの期間は、目標とする理想的な期間(≦ 14日)には到達しなかったと結論づけている。

世界中のすべてのスクリーニングプログラムにおいて、品質管理と治療開始までのタイムラインの分析が拡大される必要がある。品質管理と有効性と臨床的価値の分析がなければ、新生児スクリーニングプログラムは、先天性甲状腺疾患に罹患した子供の認知障害や重度の精神遅滞を予防するという目的を達成することはできない。

https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/jpem-2018-0197/html
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