内分泌代謝内科 備忘録

セロトニン症候群

セロトニン症候群
Cleve Clin J Med 2016; 83: 810-816

うつ病の治療にセロトニン作動薬が使用されるようになり、セロトニン症候群の発生率も増加している。セロトニン症候群に関与する薬剤と、セロトニン中毒の診断、管理、予防のための臨床手段を明らかにする。

キーポイント
·セロトニン症候群は、中枢神経系および末梢神経系におけるセロトニン濃度の上昇によって引き起こされる。

·古典的な症状は、自律神経障害、神経筋興奮、および精神状態の変化の三徴である。これらの症状は、セロトニン中毒の重症度によって異なり、全て揃わないことも多い。

·適切な蘇生措置を確実に行い、症状を悪化させる可能性のある薬剤の使用を止めるためには、早期発見が重要である。

米国では過去 20 年間に抗うつ薬の使用が大幅に増加したため、セロトニン症候群はますます一般的かつ重大な臨床的関心事となっている。1999 年には、18 歳以上の成人の 6.5%が抗うつ薬を服用していたが、2010 年にはその割合は 10.4%に増加している。セロトニン症候群の真の発生率を決定することは困難であるが、米国の毒物管理センターに報告された中等度から重大な有害事象に関連する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI)摂取の件数は、2002年の 7,349 件から 2005 年には 8,585 件に増加している。

臨床症状は軽度から中等度であることが多いが、セロトニン症候群の患者は急速に悪化し、集中治療を必要とすることがある。悪性症候群 (neuroleptic malignant syndrome) とは異なり、セロトニン症候群は薬物に対する極めてまれな特異的反応ではなく、むしろ年齢に関係なくどの患者にも起こりうる、濃度レベルの上昇に基づくセロトニン中毒と考えるべきである。

セロトニン症候群は非特異的な前駆症状と多彩な症状を示すため、注意深く評価しなければ、容易に見落とされたり、誤診されたり、増悪したりする。診断には、疑いの閾値を低くし、病歴と身体所見を丹念に調べる必要がある。セロトニン症候群の最も軽い段階では、症状はしばしば他の原因によるものと誤認され、最重症例では、悪性症候群と間違われやすい。

1. セロトニン症候群とは
セロトニン症候群は、古典的には自律神経障害、神経筋興奮、精神状態の変化の三症状を呈する。これらの症状は、中枢および末梢神経系に影響を及ぼすセロトニンレベルの上昇の結果である。セロトニンは 7 つの受容体からなる受容体ファミリーに作用し、そのうち 5-HT1A と 5-HT2A がセロトニン症候群の原因であることが多い。

セロトニンの調節を変化させうる条件としては、用量、薬物相互作用、意図的または非意図的な過剰投与、薬物の切り替え時に処方が重複することなどがある。その結果、セロトニン症候群に関連する薬物は、下記および表 1 に示すように、以下の 5 つのカテゴリーに分類することができる。

表 1. セロトニン症候群に関連する薬物機序
https://www.ccjm.org/content/83/11/810.long##

セロトニンの分解を低下させる薬物には、モノアミン酸化酵素阻害薬(monoamine oxidase inhibitors: MAOI)、リネゾリド、メチレンブルー、プロカルバジン、シリアンルーなどがある。

セロトニンの再取り込みを低下させる薬物としては、SSRI、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor: SNRI)、三環系抗うつ薬、オピオイド(メペリジン、ブプレノルフィン、トラマドール、タペンタドール、デキストロメトルファン)、抗てんかん薬(カルバマゼピン、バルプロ酸塩)、制吐薬(オンダンセトロン、グラニセトロン、メトクロプラミド)、ハーブ製剤のセイヨウオトギリソウなどである。

セロトニン前駆体または作動薬を増加させる薬物には、トリプトファン、リチウム、フェンタニル、リゼルグ酸ジエチルアミド(lysergic acid diethylamide: LSD)などがある。

セロトニン放出を増加させる薬物には、フェンフルラミン、アンフェタミン、メチレンジオキシメタンフェタミン(エクスタシー)などがある。

上記の薬剤の分解を阻害する薬剤としては、CYP2D6 および CYP3A4 阻害薬、例えば、エリスロマイシン、シプロフロキサシン、フルコナゾール、リトナビル、グレープフルーツジュースなどがある。

しかし、セロトニン症候群を誘発することが確実に確認されている薬物は、MAOI、SSRI、SNRI、セロトニン放出薬のみである。その他に挙げられている薬物相互作用は症例報告に基づくもので、十分に評価されていない。

現在、SSRI は最も一般的に処方されている抗うつ薬であり、その結果、セロトニン中毒に最も頻繁に関与している。SSRI の過量投与の推定 15%が軽度または中等度のセロトニン中毒を引き起こす。

最終的に、セロトニン症候群の発生率を評価することは困難であるが、誤診しやすく、軽度の症状であれば見逃される可能性があるため、過少報告であると考えられている。

2. セロトニン症候群のリスクがあるのは誰か?
直感的には、慢性疾患を有する患者ではうつ病のリスクが劇的に増加するため、セロトニン症候群は高齢者により多くみられるはずである。加えて、複数の合併症を有する患者はより多くの薬剤を服用するため、ポリファーマシーや副作用のリスクが高まる。

セロトニン症候群の疫学はまだ広範に研究されていないが、年齢と併存疾患が組み合わさることで、この病態のリスクが高まる可能性がある。


3. どのように現れるのか?
セロトニン症候群は、自律神経障害、神経筋興奮、精神状態変化の三徴候として特徴的に現れる。しかし、これらの症状が同時に起こるとは限らない。自律神経障害は患者の 40%、神経筋興奮は 50%、精神状態の変化は 40%にみられる。症状は軽度のものから生命を脅かすものまで様々である(表 2)。

表 2. セロトニン中毒の症状
https://www.ccjm.org/content/83/11/810.long#T2

3-1. 自律神経障害
発汗は 48.8%、頻脈は 44%、吐き気と嘔吐は 26.8%、散瞳は 19.5%にみられる。その他の徴候としては、腸音亢進、下痢、顔面紅潮がある。

3-2. 神経筋興奮
ミオクローヌスは 48.8%、反射亢進は 41%、体温亢進は 26.8%、筋緊張亢進と硬直は 19.5%にみられる。その他の徴候として、自発性または誘発性のクローヌス、オプソクローヌス(注視時の連続的な律動眼振)、振戦がある。

オプソクローヌス
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1416100663

3-3. 精神状態の変化
錯乱 (confusion) は 41.2%、興奮 (agitation) は 36.5%にみられる。その他の徴候は不安、傾眠、昏睡である。

3-4. セロトニン中毒の症状の時間経過
セロトニン中毒の症状は、患者の約 28%で誘発事象(例:服薬)から 1 時間以内に、61%で 6 時間以内に発現する。診断的価値の高い所見としては、反射亢進、誘発性または自発性のクローヌスなどがあり、これらは一般に下肢で顕著である。

3-4. 軽症セロトニン症候群の症状
軽度の中毒では、患者は振戦や痙攣、不安、反射亢進、頻脈、発汗、散瞳を呈することがある。さらに詳しく問診すると、デキストロメトルファンを風邪薬・咳止め薬を最近使用したことが分かるもしれない。

3-5. 中等症セロトニン症候群の症状
中等度の中毒の場合、患者は興奮と不穏を伴い、著明な苦痛を呈する。特徴としては、下肢の反射亢進とクローヌス、オプソクローヌス、腸音亢進、下痢、嘔気、嘔吐、頻脈、高血圧、発汗、散瞳、高体温(<40℃、104°F)などがある。患者の既往歴から、エクスタシーの使用や、プロセロトニン作動性オピオイド、抗てんかん薬、抗うつ薬と CYP2D6 または CYP3A4 阻害薬の併用など、セロトニン作用を増強する薬の併用が明らかになることがある。

3-6. 重症セロトニン症候群の症状
重度のセロトニン中毒は、数時間以内に多臓器不全に至る生命を脅かす病態である。筋硬直が特徴で、体温が急速に 40℃以上に上昇することがある。この筋緊張亢進は、反射亢進やクローヌスという古典的かつ診断的な徴候を覆い隠すことがある。患者は、錯乱やせん妄を伴う不安定で動的なバイタルサインを示すことがあり、強直間代発作を起こすこともある。

筋硬直とその結果生じる高体温が適切に管理されないと、患者は横紋筋融解症、ミオグロビン尿、腎不全、代謝性アシドーシス、急性呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群につながる細胞障害や酵素機能障害を起こすことがある。

セロトニンクリーゼ (serotonin crisis) は通常、抗うつ薬と前述のオピオイドおよび制吐薬のような複数のセロトニン作動性薬剤の同時摂取によって引き起こされる。SSRI と MAOI の併用は最大のリスクをもたらす。あるいは、患者が最近、安全なウォッシュアウト期間を経ずに抗うつ薬を切り替えたために、セロトニン濃度がより高値となっているしている場合もある。

4. セロトニン症候群の診断は?
セロトニン症候群は臨床診断であるため、投薬と身体診察の徹底的な見直しが必要である。血清セロトニン濃度は、毒性の信頼性の低い指標であり、臨床症状とはあまり相関しない。

現在、セロトニン症候群の診断には、ハンターセロトニン中毒基準 (Hunter serotonin toxicity criteria)(図 1)とシュテルンバッハ基準 (Sternbach criteria) の 2 つの臨床ツールがある。

図 1. ハンターセロトニン中毒基準
https://www.ccjm.org/content/83/11/810.long#F1

4-1. ハンター基準
ハンター基準は、身体所見に重きを置いている。患者はセロトニン作動薬を服用しており、以下のいずれかを有していなければならない:

·自発性クローヌス
·誘発性クローヌス+興奮または発汗
·オプソクローヌスおよび興奮または発汗
·誘発性クローヌスまたは眼振に加え、筋緊張亢進および筋温亢進がみられる。
·振戦と反射亢進

4-2. シュテルンバッハ基準
シュテルンバッハ基準は、1. セロトニン作動性薬剤を使用していること、2. 他に症状の原因がないこと、3. 最近神経遮断薬を使用していないこと、4. 以下のうち 3 つを満たすことの 4 つの基準からなる。

·精神状態の変化
·興奮
·反射亢進
·ミオクローヌス
·発汗
·戦慄
·振戦
·下痢
·協調運動障害
·発熱

ハンター基準は推奨されており、臨床毒物学者による診断のゴールドスタンダードと比較した場合、シュテルンバッハ基準よりも特異度が高く(97% 対 96%)、感度が高い(84% 対 75%)。

5. 鑑別診断
セロトニン症候群の鑑別診断には、悪性症候群、抗コリン薬中毒、転移性がん、中枢神経系感染症、胃腸炎、敗血症が含まれる (表 3)。

表 3. セロトニン症候群の鑑別疾患
https://www.ccjm.org/content/83/11/810#T3

5-1. 悪性症候群
セロトニン症候群と誤診されることが最も多い疾患である悪性症候群は、ドパミン拮抗薬(ハロペリドール、フルフェナジンなど)に対する特異的な反応であり、数日から数週間かけて発症する。患者の 70%において、まず錯乱を伴う興奮性せん妄 (agitated delirium) が現れ、続いて鉛管様固縮 (lead pipe rigidity) と歯車様振戦 (cogweel tremor) が起こり、次に体温が 40℃を超える高体温、最後に大量の発汗、頻脈、高血圧、頻呼吸が起こる。

悪性症候群を区別する重要な要素は、臨床経過、bradyreflexia、クローヌスの欠如である。嘔気、嘔吐、下痢の前駆症状も悪性症候群ではまれである。悪性症候群は通常、治癒に平均 9 日を要する。

5-2. 抗コリン中毒
抗コリン中毒は通常、経口摂取後 1-2 時間以内に発症する。症状には、潮紅、無汗、無汗性高熱、散瞳、尿閉、腸音低下、興奮性せん妄、幻視などがある。セロトニン症候群とは対照的に、反射と筋緊張は抗コリン中毒では正常である。

6. セロトニン症候群の治療法は?
セロトニン症候群の管理は、セロトニン作動薬を中止することと支持療法を行うことの 2 つが柱である。ほとんどの患者は、誘因となる薬剤を中止し、治療を開始してから 24 時間以内に改善する。

6-1. 軽症セロトニン症候群の治療
軽症のセロトニン症候群の場合、治療には原因薬剤の中止、点滴による支持療法、バイタルサインの補正、ベンゾジアゼピンによる対症療法が必要である。患者は入院させ、増悪を防ぐために 12-24 時間観察すべきである。

6-2. 中等症セロトニン症候群の治療
中等症のセロトニン症候群の場合、セロトニン作動薬を中止し、支持療法を行う。ベンゾジアゼピンおよび非セロトニン作動性制吐薬による対症療法が推奨され、高体温に対しては標準的な冷却手段を実施すべきである。患者は入院させ、増悪を防ぐために 12-24 時間観察すべきである。

6-3. 重症セロトニン症候群の治療
重症のセロトニン症候群に対しては、気道 (Airway)、呼吸 (Breathing)、循環 (Circulation) の管理、すなわち「ABC」に重点を置いた治療を行うべきである。生命を脅かす 2 つの主要な懸念は、低換気につながる高体温(体温 >40℃または 104°F)と硬直である。重症のセロトニン症候群患者は、鎮静、麻酔、挿管を行うべきである。これにより呼吸筋の筋緊張 (ventilatory hypertonia) が改善し、機械的換気が可能になる。麻酔はまた、筋硬直によって引き起こされる高体温の悪化を防ぐ。高体温は視床下部の体温設定点の変化によるものではないため、解熱剤はセロトニン症候群の治療には役に立たない。高体温の管理には、標準的な冷却手段を用いるべきである。

6-4. セロトニン拮抗薬
セロトニン拮抗薬は、症例報告で一定の成果をあげているが、これを確認するにはさらなる研究が必要である。

シプロヘプタジンは強力な 5-HT2A 拮抗薬であり、患者は通常、投与後 1-2 時間以内に反応する。中毒の重症度にもよるが、20 分から 48 時間の間に症状および徴候は完全に消失している。

推奨されるシプロヘプタジンの初回投与量は 12 mg で、症状が続く場合は 2 mg を 2 時間ごとに投与する。成人の 1 日総投与量は 0.5 mg/kg/日を超えないようにする。シプロヘプタジンは経口剤のみであるが、粉砕して経鼻胃管から投与することができる。

クロルプロマジンは 5-HT1A および 5-HT2A 拮抗薬であり、筋肉注射が可能である。その有効性を挙げた症例報告はあるが、低血圧、ジストニア、悪性症候群のリスクがあるため、あまり望ましい選択肢とはいえないかもしれない。

シプロヘプタジン、クロルプロマジン、その他のセロトニン受容体拮抗薬のセロトニン症候群の治療における有効性と信頼性を明らかにするために、個々の症例報告以上のさらなる研究が必要である。

6-5. その他の薬剤

6-5-1. ベンゾジアゼピン系薬
ベンゾジアゼピン系薬は、抗不安作用と筋弛緩作用があるため、症状緩和のための主薬と考えられている。しかし、動物実験によると、ベンゾジアゼピン系薬による治療は、高体温を抑制するものの、回復までの時間や転帰には影響を及ぼさなかった。

6-5-2. 神経筋遮断薬
重篤な中毒に対して推奨される神経筋遮断薬としては、ベクロニウムなどの非脱分極薬がある。横紋筋融解症や高カリウム血症を悪化させる可能性があるため、サクシニルコリンは避けるべきである。

ダントロレンは筋弛緩作用があり、悪性高熱症への使用も示唆されている。しかし、この治療法はいくつかの症例報告では成功しておらず、動物モデルでも効果がない。

6-6. 身体拘束は避けるべき
等尺性筋収縮は、興奮状態にある患者の高体温や乳酸アシドーシスを悪化させる可能性があるため、身体拘束は好ましくない。薬剤を投与するために身体拘束が必要な場合は、できるだけ早く外すべきである。

7. セロトニン症候群を予防するには?
セロトニン症候群の予防は、患者と医療従事者の教育と認識を向上させることから始まる。患者はまず、処方された薬を注意深く服用し、セロトニン中毒の初期徴候や症状を認識することが重要である。

高齢化社会における抗うつ薬の使用は増加の一途をたどっており、様々な分野の医師が拡大している適応症(例えば、変形性関節症、糖尿病性神経障害、線維筋痛症、化学療法による末梢神経障害の治療に対するデュロキセチン)に対して抗うつ薬を処方しているため、医療提供者はセロトニン症候群とその有害な影響の症例が増えることに備える必要がある。 医師は、セロトニン作動薬の不必要な使用を最小限に抑え、ポリファーマシーを減らすために処方を定期的に見直すべきである。

電子オーダーシステムは、セロトニン症候群のリスクを高くする可能性のある相互作用を検出し、処方者に警告し、処方者が警告に対応するまでオーダーを行わないように設計すべきである。SSRI と MAOI の併用は、重篤なセロトニン症候群を誘発するリスクが最も高いため、常に避けるべきである。

セロトニン作動薬から別のセロトニン作動薬に切り替える場合、医師はふたつの薬剤の作用が重複することを防ぐために安全なウォッシュアウト期間を守るべきである。例えば、セルトラリンのウォッシュアウト期間は 2 週間であるが、フルオキセチンのウォッシュアウト期間は 5-6 週間である。半減期とウォッシュアウト期間を考慮する際には、薬剤師に相談することが有用であろう。

予防に関して患者と医師の双方を教育することは、セロトニン症候群のリスクを最小化するのに役立ち、中毒が起こった場合にも評価と管理の効率を高めると考えられる。

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