内分泌代謝内科 備忘録

下垂体腫瘍にともなう内分泌障害

下垂体腫瘍にともなう内分泌障害についての総説
NEJM 2020; 382: 937-950

1. はじめに

下垂体腺腫は頭蓋内腫瘍の 15%を占める。下垂体腺腫の管理は鞍内疾患 (intrasellar disease) を鑑別をし、腫瘍による局所の圧排効果 (local mass effect) と全身性の内分泌障害に対する多職種による包括的な治療が必要になる。

下垂体腺腫はさまざまなホルモンを過剰分泌し得るので、症状と治療は症例毎に大きく異なる。

2. 病態生理

ホルモンを分泌する下垂体細胞系列の細胞から生じた腺腫はしばしば自律的なホルモン分泌をともなう。細胞の由来によって異なるホルモン過剰症を来す。すなわち、副腎皮質刺激ホルモン (corticotropin) 産生細胞 (corticotroph) 由来の腺腫はクッシング病を、成長ホルモン分泌細胞 (somatotroph) 由来の腺腫は先端巨大症 (acromegaly) を、プロラクチン産生細胞 (lactmtroph) 由来の腺腫は高プロラクチン血症を、甲状腺刺激ホルモン (thyrotropin) 産生細胞 (thyrotroph) 由来の腺腫は甲状腺機能亢進症を来す。

性腺刺激ホルモン産生細胞 (gonadotroph) はふつうホルモンは分泌せず、性腺機能低下症を来す。そして、しばしば偶発腫として発見される。

視床下部からのホルモン刺激や傍分泌による増殖シグナルにより、異数性 (aneuploidy, 染色体のコピー数の異常のこと) をともなう下垂体の細胞周期の制御異常や悪性転化 (malignant transformation) を抑制している細胞の老化 (cellular senescence) の異常を来し得る。

GNAS (アデニル酸シクラーゼを活性化する G タンパクの α サブユニット) や USP8 (ユビキチン特異的なプロテアーゼ) の変異はそれぞれ非家族性の成長ホルモン分泌腺腫、副腎皮質刺激ホルモン分泌腫瘍の一部で認めるが、孤発性の腺腫の遺伝子を調べても治療に役立つ情報が得られることは稀である。

下垂体腫瘍の有病率は過去数十年で 115/10万人まで増加している。これはおそらく、下垂体腫瘍が認知されるようになったことと、画像検査とホルモン検査の発展に依っている。プロラクチノーマと非機能性腺腫の有病率の比率 (それぞれ 54/10万人、48/10万人) は外科症例と非外科症例に関する報告バイアスを受けている可能性がある。というのは、プロラクチノーマはふつう内科的に治療されるため、病理学的に診断された報告例には入ってこないためである。

3. 分類

微小腺腫 (microadenoma) は 10 mm に満たない腺腫である。細胞の由来に依らず、10 mm を超える巨大腺腫 (macroadenoma) はトルコ鞍周囲の血管や神経などの構造物に影響し、両側耳側半盲 (bitemporal hemianopia) と視力低下 (decreased acuity) を含む視野障害 (visual-field defect) と頭痛を来し得る。

細胞特異的な転写因子およびホルモンの免疫染色、画像検査、生化学的検査、臨床所見によって下垂体腫瘍と内分泌学的異常の評価を行うことで、個別的な治療が可能になる。

下垂体腫瘍の評価では、正確な腫瘍の局在と、腫瘍による圧排効果の評価のために MRI と視野検査は行うべきである。ホルモンの過剰産生の有無と下垂体機能が保持されているかも調べるべきである。

外科的に切除された下垂体腺腫のおよそ 30%が 40年以上、残存もしくは増大し続け、Ki-67 陽性細胞の割合は上昇する。ある研究では、50例の下垂体腫瘍のうち 40%以上が海綿静脈洞 (covernous sinus) に伸展していた。

特に伸展しやすく、再発しやすい腫瘍としては、まばらに顆粒をともなう成長ホルモン分泌細胞 (sparsely granulated somatotrophs) やホルモンの過剰分泌をともなわない副腎皮質刺激ホルモン分泌細胞 (silent corticotroph)、クルック細胞 (corticotroph Crook's cell, 細胞質にヒアリンリングが目立ち、CK20 陽性の非腫瘍性細胞であり、正常な好塩基顆粒をともなう副腎皮質刺激ホルモン産生細胞から置換される) 、中高年のプロラクチン産生細胞由来の腫瘍がある。

下垂体の悪性腫瘍は極めて稀であり、下垂体腫瘍の 0.5%未満である。アルキル化薬のテモゾロミドに反応することがある。

4. 治療

下垂体腺腫の治療には経蝶形骨洞手術 (transsphenoidal surgical resection) 、放射線治療、薬物療法があり、いずれも腺腫のタイプによって長所と短所がある。複数の治療法を同時または連続的に組み合わせて行うことが必要になる場合がある。

手術は一般的に、腫瘍の大きさが 10 mm 以上で、鞍外に伸展あるいは中枢神経系を圧排、腫瘍が増大傾向にある場合、特に視力障害のリスクが高い場合に適応となる。

5. 遺伝性下垂体腫瘍

下垂体腫瘍はいくつかの極めて稀な遺伝子異常に関連して起こることがある。1型多発内分泌腫瘍症 (multiple endocrine neoplasia type 1) は下垂体腺腫、副甲状腺および膵島腫瘍と関連し、より少ない頻度ではカルチノイド、甲状腺、副腎腫瘍と関連する。

McCune-Albright 症候群は多発性線維性骨形成異常 (polyostotic fibrous dysplasia)、皮膚の色素沈着 (cutaneous pigmentation) 、性早熟 (sexual precosity) 、甲状腺機能亢進、副腎皮質機能亢進、高プロラクチン血症、そして先端巨大症によって特徴づけられる。

小児期または若年の成人期に成長ホルモン産生腺腫を発症しやすい稀な家族性下垂体腺腫の症例が報告されており、25% (3例) では生殖細胞系列の細胞に AIP (aryl hydrocarbon receptor interacting protein) の変異と関連づけられている。

カーニー複合 (Carney complex) では下垂体腺腫と良性の心臓粘液腫 (cardiac myxomas) 、神経鞘腫 (Schwannoma)、甲状腺腫、皮膚の色素斑 (pigmented skin spots) を認める。

6. 非機能性下垂体腺腫

非機能性下垂体腺腫となるものはいくつかあるが、ほとんどは性腺刺激ホルモン産生細胞に由来する。

これらの腺腫はホルモンと細胞特異的な転写因子を発現するが、それぞれの末梢血ホルモン値は上昇しないため、腺腫は全身性症候群の表現型とは関連しない。真のホルモン非産生下垂体腺腫 (null-cell adenoma) はホルモン遺伝子産物を全く産生しない。

非分泌性腺腫は何年も認識されないことがあり、ふつうは腫瘍による局所の圧排効果、性腺機能低下症から診断されるか、偶然に発見される。視交叉圧迫(chiasmal compression) はゆっくりと進行する視力障害を引き起こす。患者の約 3分の2 は性腺刺激ホルモン値の低下および性腺機能低下症を認める。

非機能性下垂体腺腫 385例についての検討では、289例が巨大腺腫 (macroadenoma) 、66例は超巨大腺腫(giant adenoma, 直径 4 cm 超)だった。これらの患者のほとんどが頭痛または視力障害を呈していた。

非機能性下垂体腺腫のおよそ 10% が下垂体卒中を呈する。下垂体卒中は、突然現れる眼の奥の痛み、意識障害、眼球運動障害 (opthalmoplegia) が特徴であり、最悪の場合は視力喪失を来す。

ごくまれに、血中の性腺刺激ホルモン濃度が上昇し、卵巣が過剰に刺激されたり、精巣が大きくなったりすることもある。しかし、多くの場合は性腺刺激ホルモンの血中濃度が上昇することで、性腺軸 (gonadal axis) が逆説的に抑制される。

非機能性下垂体腺腫のうち最大 20%は副腎皮質刺激ホルモンや成長ホルモンを細胞内に発現しているが、分泌していない腺腫である。これらはふつう、非機能性下垂体腺腫として切除され、免疫染色を伴う組織学的評価により診断される。形態学的には機能性腺腫と区別できないが、高コルチゾール血症または先端巨大症の明らかな特徴を示さないまま増大する。

ホルモン分泌をともなわない副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫に対して外科的治療を受けた患者 297人を対象とした 14の研究の系統的レビューによると、5 年以上の追跡期間中に 31%の腺腫が再発した。

非分泌性巨大腺腫の完全切除は 65%の患者で達成され、最大 80%の患者で視力が回復し、下垂体機能低下症が存在する場合は 50%で回復する。

術前の腫瘍の伸展の程度は補助放射線療法や再手術を要する腫瘍の残存や再発のリスクに大いに影響する。

中央値 36ヵ月の追跡を受けた患者 512人を含む多施設解析において、放射線手術は高い腫瘍制御率と関連しており、下垂体不全は患者の21%に発現した。

下垂体手術後 237例についての後ろ向き観察研究 (観察期間: 中央値 5.9年) では、手術のみを行った患者では 36%で再発したのに対し、手術と放射線療法を行った患者では 13%で再発した。

ガイドラインでは、定期的な下垂体 MRI、視力評価、および下垂体機能検査によるフォローアップが推奨され、術後の腫瘍の再発または進行を予防するための予防的放射線療法が示唆されている。

偶発的に発見された下垂体腺腫 648例のうち、229例の微小腺腫の 10%および 419例の巨大腺腫の20%が、最大 8年間の追跡期間中に増大した。そのため、非機能性で無症候の微小腺腫や比較的小さな巨大腺腫については経過観察が推奨されている。

術前または術後に新たに発現した下垂体不全は予後不良である可能性がある。2795例の患者を対象とする研究において、下垂体不全、特に副腎皮質刺激ホルモン欠乏は全死亡の上昇(標準化死亡率比 4.35;95%信頼区間: 1.99~8.26)と関連していた。

7. プロラクチン産生腺腫

プロラクチノーマは最も一般的な分泌腫瘍であり、下垂体腺腫全体の60%までを占め、女性では下垂体腺腫の75%以上を占める。女性:男性の比率が20:1であるプロラクチノーマの微小腺腫は、ふつう安定でゆっくりと増殖し、診断後も増殖が続く症例は 15%未満である。

下垂体腫瘤があり、血清プロラクチン濃度 >150 ng/mL(基準範囲: <20 ng/mL)である患者のほとんどはプロラクチノーマである。プロラクチン濃度>250 ng/mL では巨大腺腫を認めることが多く、腫瘍の大きさは血清プロラクチン濃度と相関する。

巨大腺腫(直径 >10 mm)はプロラクチノーマの 5%未満を占め、プロラクチン濃度は非常に高く(>1000 ng/mL)、男女比は 9:1 である。

プロラクチノーマを有する男性 45例、女性 51例を対象にした観察研究では、男性の腫瘍は女性の腫瘍よりも大きく(平均直径 ± 標準偏差: 26 ± 2 mm V.S. 10 ± 1 mm)、より旺盛に増殖し、平均血清プロラクチン濃度は男性 2789 ± 572 ng/mL に対して女性 292 ± 74 ng/mL と男性より高かった。

プロラクチン濃度が持続的に上昇すると、性腺刺激ホルモン分泌が抑制され、無月経、希発月経、黄体期の短縮を認め、不妊症の原因となる。男性では性欲減退、インポテンス、乏精子症、または無精子症になる。

女性のおよそ 50%、男性のおよそ 35%に乳汁漏出症 (galactorrhea) がみられる。女性も男性もしばしば性ホルモンの欠乏と関連する骨密度の低下を認め、椎体骨折のリスクが増加する。

高プロラクチン血症は、主に妊娠、プロラクチノーマ、薬物、胸壁損傷、および下垂体茎におけるドパミン輸送が機能的または機械的に障害されることよって引き起こされる。プロラクチン濃度は先端巨大症患者の約30%で上昇している。

下垂体腫瘍を認めるすべての患者においてプロラクチン濃度を測定すべきである。逆に、妊娠または神経遮断薬への曝露で説明できない高プロラクチン血症は、下垂体腫瘍を除外するために下垂体画像検査を検討する。

高プロラクチン血症と下垂体腫瘤がある患者で、ドパミンアゴニストによって腫瘍が縮小しない場合は、非機能性の下垂体腫瘍が下垂体茎を圧迫することによって視床下部から (下垂体への) ドパミン輸送を阻害し、プロラクチンの制御を障害している可能性がある。これは下垂体茎切断効果 (stalk effect) と呼ばれる。

プロラクチノーマの治療の目的は、下垂体機能を維持しながら、1. プロラクチン濃度を正常化すること、2. 性機能および妊孕性を回復させること、3. 乳汁漏出を止めること、4. 腫瘍塊を除去または縮小させることである。また、骨密度の低下にも対処すべきである。

プロラクチノーマは、プロラクチン濃度を低下させ腫瘍を縮小させるドパミンアゴニストで管理できるのが理想的である。ブロモクリプチンは毎日投与する必要があるため、ほとんど使用されない。ある研究では、カベルゴリン 0.5-1 mg を週1-2回投与すると、高プロラクチン血症の女性 459人の 83%でプロラクチン濃度が低下した。巨大腺腫を認める場合は、ドパミンアゴニスト服用によりおよそ 65%でプロラクチン濃度が正常化し、腫瘍が小さくなる。患者の最大 15%では、ドパミンアゴニストを最大用量で投与しても反応がみられない(プロラクチン濃度が正常化せず、腫瘍の縮小率は 50%未満)。プロラクチン濃度は正常化したものの腫瘍の縮小が不十分な患者では、手術または放射線療法を必要とすることがある。

高プロラクチン血症は、カベルゴリンの漸減および中止により最大 20%の患者で寛解するが、これは2年以上の治療後、腫瘍浸潤の可能性が厳密に否定された場合にのみ試みることができる。

カベルゴリンの副作用は、最大 50%の患者で報告されており、嘔気、鼻づまり (nasal stuffiness)、抑うつ、手指の血管攣縮 (digital vasospasm)、起立性低血圧、まれに脳脊髄液漏出などがある。さらにまれには、気分障害、精神病の増悪、および衝動性の制御困難が起こることもある。

プロラクチノーマの治療に使用される低用量のカベルゴリンは患者に臨床的に重大な心臓弁疾患のリスクをもたらさないようである。横断研究で 34ヵ月間追跡された 192人の患では弁膜症は観察されなかった。しかし、無症候性で軽度の三尖弁逆流 (tricupid regurgitation) が患者の 20%に報告されているため、心雑音が発現したカベルゴリンによる治療を受けた患者は心臓評価を受けるべきである。

計 1224人の微小腺腫のプロラクチノーマ患者を含む 計 31件の症例集積研究では、経蝶形骨手術により 71%の患者でプロラクチン濃度が正常となり、経験豊富な脳外科医が手術した場合、手術後早期の治癒率は 90% を超える可能性がある。

一方、巨大腺腫の場合はおよそ 50%は手術によって寛解する。腫瘍が取り切れなかった場合は手術後も高プロラクチン血症が続く。

ドパミンアゴニストによる治療が有効であることと、手術を行っても再発するリスクがあることから、巨大腺腫の一次治療として手術は選択されにくい。

浸潤性のドパミンアゴニスト抵抗性プロラクチノーマでは、高用量カベルゴリンの投与を継続しながら1回以上の手術が必要となることがある。放射線治療は治療抵抗性のプロラクチノーマで検討される。

妊娠中は、特にプロラクチノーマの巨大腺腫がある場合、腫大した下垂体によって視野障害を来すことがある。視力が脅かされる場合は、予防的な経蝶形骨切除を考慮すべきである。妊娠が確認されたら、ドパミンアゴニスト服用は中止するべきである。

8. 先端巨大症

先端巨大症は、成長ホルモン分泌細胞による腫瘍によって起こり、罹患率は 10/100万人·年と稀である。成長ホルモンおよびインスリン様成長因子1(IGF-1)高値は、著明な身体および代謝の異常と関連している。

密な顆粒を認める成長ホルモン分泌細胞腺腫は緩徐に発生するが、若年患者に発生する顆粒が疎な亜型は増殖が早く、臨床症状が派手である。

極めて稀だが、成長ホルモンまたは成長ホルモン放出ホルモンを産生する下垂体外の神経内分泌腫瘍によって先端巨大症が引き起こされることがある。

先端巨大症患者の約 70%は、診断時に周囲に伸展する巨大な腺腫を認める。症状としては、頭痛、末端 (acral) および軟部組織の緩徐な変化などがある。

先端巨大症の診断は、症状発現から平均約 10 年遅れることがある。患者はまず、歯科、整形外科、リウマチ科、または循環器科を受診するかもしれない。ある研究では、324 人の患者の約 20%が、顔貌の変化、四肢の肥大、またはその両方を理由に受診している。

その他の特徴としては、靴や指輪のサイズの増加、声が低くなる、手根管症候群、多汗症、前頭頭蓋の隆起と粗い脂っぽい皮膚が挙げられる。下顎前突は切歯離開と顎不正咬合を引き起こす。閉塞性睡眠時無呼吸と過度のいびきは、コントロールされていない先端巨大症の特徴である。関節症は、患者の約70%で報告されており、多関節炎、骨棘、後弯、椎体骨折を伴う。

循環器系の合併症としては、高血圧、不整脈、大動脈起始部径の増大を伴う左室機能障害がある。成長ホルモンはグルコース不耐性を伴うインスリン抵抗性を誘導し、先端巨大症患者は一般集団と比較して糖尿病発症リスクが高い(ハザード比: 4.0 (95%信頼区間: 2.7-5.8)、1000 人当たりの発症率、12.1 例 (95%信頼区間: 9.0-16.4) v.s. 3.4 例 (95%信頼区間: 2.9-4.1) )。先端巨大症では 30%でプロラクチン濃度が高く、しばしば乳汁漏出症を合併している。

先端巨大症患者では、大腸粘膜ひだの肥厚や憩室が生じることがある。ある症例対照研究では、165 人の患者の 32%に大腸ポリープが検出され、推定相対リスクは 6.21(95%信頼区間: 4.08-9.48)であった。2000 人以上の患者を対象とした研究では、がんの発生率の増加が認められ、全体の標準化発生率比は 1.5(95%信頼区間: 1.2〜1.8)であり、その大部分は大腸がん、腎臓がん、甲状腺がんであった。とはいえ、大腸内視鏡検査は、公表されているガイドラインに従って、先端巨大症の診断後に行われるべきである。

20 年間の観察研究により、先端巨大症患者 333人の死亡率が対照群 4995 人の死亡率よりも高いことが示された(113 人死亡[34%] vs 1334 人死亡[27%];オッズ比: 1.6, 95%信頼区間: 1.2-2.2)。先端巨大症に関連した死亡は、心血管障害、呼吸器障害、脳血管障害によるもので、近年ではがんも死因として報告されている。

成長ホルモンおよび IGF-1 レベルの持続的な上昇、糖尿病、高血圧、高齢、下垂体照射、および副腎不全の不十分な治療はすべて、死亡率に大きく寄与する。

巨人症は稀な疾患で、骨端閉鎖前の成長ホルモンの過剰分泌が原因である。この疾患は、生殖細胞系列の AIP 突然変異、McCune-Albright 症候群、または好酸性幹細胞腺腫と関連している可能性がある。

X 連鎖性巨人症は、Xq26.3 の染色体微小重複によって特徴付けられ、腫瘍において GPR101(Gタンパク質共役型受容体の遺伝子)が過剰発現する。寛解を維持し、過剰な成長ホルモンおよび IGF-1 に組織が長期間さらされるのを防ぐには、外科的切除と成長ホルモンを抑制する補助療法が必要である。

年齢に比して IGF-1 が高値であることは先端巨大症に対して特異的であり、疾患の活動性と関連する。腺腫の成長ホルモンは拍動的に分泌されるため、随時の成長ホルモン測定は診断に役立たない。その代わりに、超高感度測定法を用いて、75 g ブドウ糖負荷時に成長ホルモン濃度が 0.4 μg/L 以下に抑制されないことは診断的である。

先端巨大症の治療目標は、1. 下垂体前葉機能を維持しながら、下垂体腫瘤を切除または制御すること、2. 成長ホルモンおよび IGF-1 の過剰分泌を抑制すること、3. 関連疾患の発症を予防することである。

外科的切除を受けた 1018 名の患者を含む 13 件の研究において、成長ホルモン分泌および IGF-1 濃度は、微小腺腫患者の 73%および巨大腺腫患者の 61%で成長ホルモン分泌および IGF-1 分泌は正常化した。放射線手術による治療を受けた 371 名の患者を含む研究において、生化学的寛解は 59%の患者で報告され、寛解までの平均期間は 38 ヵ月、再発までの平均期間は 17 ヵ月であった。

ソマトスタチン受容体のリガンドであるオクトレオチドとランレオチドは、SST2(ソマトスタチン受容体サブタイプ 2)に結合し、成長ホルモン分泌を阻害する。ソマトスタチン受容体リガンドによる治療を受けた 4464 人の患者を含む 90 件の研究のメタ分析では、成長ホルモンおよび IGF-1 分泌が、それぞれ 56%と 55%の患者で制御された。軟部組織の腫脹および頭痛はほとんどの場合で消失し、睡眠時無呼吸は緩和し、左室機能は改善するが、高血圧が持続することがある。腫瘍の SST2 発現、顆粒が密な腺腫、および T2 強調 MRI における低強度は、治療反応性の重要なマーカーである。

軟便や嘔気などの消化器症状がおよそ 30%で出現する。胆嚢炎は非常にまれであるが、患者の最大 25%に胆泥が出現する。無症候性の洞性徐脈も起こる。

オクトレオチドとランレオチドは一般に耐糖能を障害しないが、長時間作用型 6 ペプチドソマトスタチンマルチレセプターリガンドであるパシレオチドは、患者の約 60%に高血糖と新規糖尿病を引き起こす。

ペグビソマントは、末梢の成長ホルモン作用とそれに続く IGF-1 産生を阻害する成長ホルモン受容体拮抗薬であり、ソマトスタチン受容体リガンドに抵抗性の疾患患者や高血糖患者に有用である。

成長ホルモン受容体を標的とするペグビソマントと下垂体を標的とするソマトスタチン受容体リガンドを併用した成長ホルモン軸遮断療法は、どちらか一方の薬剤単独よりも高い有効性を示す。

先端巨大症の治療には利点と欠点があり、患者毎に治療を個別化する必要がある(表1)。

表1: 先端巨大症の治療
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMra1810772?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

特に高血圧、心機能障害、睡眠時無呼吸症候群、血糖値上昇などの合併症の管理は、死亡リスクを減らすために重要である。

9. クッシング病

副腎皮質刺激ホルモン分泌腺腫は、下垂体腫瘍の最大 15%を占め、100 万人当たりの発生率は 1.6 例である。典型的には微小腺腫(直径約 6 mm)であり、女性では男性の 5-10 倍多い。

副腎皮質刺激ホルモン分泌下垂体腺腫はクッシング症候群の約 70%を占め、残りは異所性高コルチゾール血症、異所性副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン産生腺腫およびコルチゾール産生副腎腫瘍である。

典型的なクッシング徴候としては、薄い皮膚、赤色線条、易出血、満月様顔貌がある。他に、中心性肥満、高血圧、耐糖能異常または糖尿病、特に若い女性では月経障害および骨粗鬆症がみられ、近位筋の萎縮および脱力、にきび、多毛、うつ病、精神病および感染症にかかりやすいこともある。

クッシング症候群は症状が目立たない場合と目立つ場合があり、コントロールが不十分な場合は死亡率が高い。502 名の患者を対象とした研究では、全体の標準化死亡比は 2.5(95%信頼区間: 2.1-2.9)であり、予想された死亡が 54 人であるのに対し、観察された死亡は 133人だった;過剰死亡の大部分は心血管系疾患であった。その他の死因としては感染症や自殺がある。

皮膚色素沈着および重篤なミオパチーを伴う急激な高コルチゾール血症は、異所性副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍であることを示唆し、しばしば高血圧および低カリウム血症性アルカローシスを伴う。

副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫の約 40%は画像診断で確認できない。また、一般集団の少なくとも 10%が臨床的に不活性な微小腺腫を有する。

高コルチゾール血症の臨床的特徴は、肥満、高血圧、耐糖能異常、および骨粗鬆症など、より一般的な他の疾患と重複しているため、クッシング症候群は過剰診断される可能性がある。

高コルチゾール血症は、1. 高コルチゾール血症の臨床的特徴と、2. 午後 11 時に 1 mg のデキサメタゾンを投与しても午前 8 時の血漿コルチゾールが 1.8 μg/dL 未満に抑制されないこと、または 3. 24 時間尿中遊離コルチゾール値および深夜唾液中コルチゾール値が高値であることを繰り返し確認することに基づいて診断する。副腎皮質刺激ホルモンの基礎値は通常不適切に高い。糖質コルチコイドによって副腎皮質刺激ホルモン分泌が抑制できるかどうかによって、下垂体腺腫と異所性副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍とを区別しうる。

尿中遊離コルチゾールおよび深夜唾液中コルチゾールの反復測定の結果が異なることがあり、診断を確定するために両側下錐体静脈洞サンプリングが必要となることがある。副腎皮質刺激ホルモン刺激ホルモン投与前後で、中枢と末梢の副腎皮質刺激ホルモンの比が 2 を超えると、95%以上の感度で副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫が診断できる。

選択的経蝶形骨洞腺腫切除術は、クッシング病に対する初期治療として推奨され、患者の約 75%で寛解が得られ、約 10%で再発がみられる。

より根治的な手術として腺腫の全切除が考えられるが、全切除では合併症の発生率が高く、下垂体損傷の可能性が高い。放射線療法により病勢をコントロールできるが、この治療の効果が現れるまでには数年間がかかり、患者の約 30%が再発する。

副腎摘出術は、高コルチゾール血症を直ちに回復させることができる。しかし、生涯にわたって副腎ホルモンを補充することは困難である。

副腎摘出術を受けた患者は、副腎クリーゼおよびネルソン症候群(下垂体腫大および副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫の発生を認める)のリスクもある。

副腎を標的とした薬物療法は、臨床的および生化学的な改善をもたらし得るが、このような治療に関するほとんどの研究は厳密に管理されておらず、結果に一貫性がないことが多い。

抗真菌薬のイミダゾールであるケトコナゾールは、患者の 50%で尿中遊離コルチゾール値を正常化する。副作用には、嘔気、頭痛、テストステロン値の低下、可逆的な肝酵素の上昇、まれに肝毒性がある。メチラポンは、患者の約 50%で尿中遊離コルチゾール濃度をコントロールし、蓄積したステロイド前駆体は、にきび、多毛症、高血圧、低カリウム血症を引き起こす可能性がある。ミトタンは副腎を破壊する薬剤であり、主に副腎がんに使用される。
糖質コルチコイド受容体拮抗薬であるミフェプリストンは、クッシング症候群に伴う高血糖の治療薬として、手術に失敗した患者または手術の候補でない患者に承認されている。ミフェプリストンはコルチゾールの作用を阻害するため、副腎皮質刺激ホルモンおよび尿中遊離コルチゾール濃度が上昇する。副腎不全、低カリウム血症、および過度の性器出血のためにミフェプロストンの使用を中止する場合もある。

下垂体を標的とする薬としては、高用量のカベルゴリン(1日 1 mg まで)があり、最大 30%の患者で高コルチゾール血症を抑制するが、治療効果は長期的には維持されないことが多い。パシレオチドは腺腫由来の副腎皮質刺激ホルモン分泌を阻害し、軽症患者の約 40%で尿中遊離コルチゾール濃度を正常化し、臨床症状を改善する。しかし、ほとんどの患者で高血糖が発現する。

10. 甲状腺刺激ホルモン分泌腫瘍

腺腫の約 1%を占める甲状腺刺激ホルモン分泌腫瘍では、甲状腺ホルモン値が正常または高値であるにも関わらず甲状腺刺激ホルモンが高値または抑制が不十分である。生化学的異常を正常化するためには腫瘍切除と補助療法が必要である。

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMra1810772
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