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サテュロスの祭典

神話から着想を得た創作小説を掲載します。

兎神伝〜紅兎二部〜(23)

2022-02-02 00:23:00 | 兎神伝〜紅兎〜追想編
兎神伝

紅兎〜追想編〜

(23)恋敵(5)

宿坊を見れば…
いくつかの部屋に灯る明かりが、いつまでも消える事なく、朧に浮かぶ。
雪の夜に浮かぶ冬蛍の如く、淡く甘い彩の灯火…
それぞれの恋人達と篭る寝屋で、二人だけの濃厚な宴会を開いているのだろう。
明日は、神饌所を閉じて、共食祭は休みにするかな…
対して強くもないのに、無理して励んで、夜明けには屁ばりきってる、政樹と茜の姿を思い出しながら、笑いを堪えてふと思う。
と…
おや?
進次郎の部屋の灯りが、いつまでも消えない…
純一郎の部屋は、灯ると同時に消えたのに…
何故?
彼の部屋に入る白兎がいるとも思えず…
さりとて…
相部屋をする太郎と、男同士のそう言う関係とも思えない。
ふと…
宮司(みやつかさ)屋敷を出て行く時、愛に唇を重ねられた時の、太郎の目を思い出す。
じわりと滲む、涙の滴…
あれは、あの日の涙と同じであった。
『やい!名無し!テメェ、見損なったぜ!テメェ、愛ちゃんの何にもわかってねえんだな!』
私の耳の奥底に、あの日の太郎の捨て台詞が、また突き刺してくる。
「爺じ、何を考えてるの?」
愛が、胸の中で笑みを浮かべて眠る赤子を撫でながら、窓の外を見つめる私の顔を見上げてきた。
「いや、何も…ただ、昔の事を思い出してね。」
「昔の事?」
「そう、昔の事…」
私が言うと、愛は小首を傾げて同じ方角に目を向けて、複雑な表情となった。
やはり、私と同じ日の事を思い出しているのだろうか?
或いは、別な日々の事を思い出してるのだろうか?
皮剥が決定的となってから、三月程の日々の事を…
あの頃。
太郎の身体(からだ)に大人への兆しが現れた。
穂柱周辺に、チラホラと発芽が見られるようになり、先端の皮が僅かばかし剥けかけてきた。
そして…
ある夜の夢の中に、裸の愛が姿を表すのを見て、強烈な疼きと抑えがたい尿意に似たものに襲われた刹那、真っ白いモノを大量に漏らすと言う事が起きた。
それが、白穂だと言う事を教えたのは、朱理であった。
それ以前からも、太郎は愛と風呂に入る度に襲われ始めた身体(からだ)の変化について、朱理に相談していた。
『太郎君、愛ちゃんを見て、穂柱を勃てたでごじゃるな。』
愛を見て変化する身体(からだ)を慌てて隠し、逃げるように皆の側から離れる太郎に、朱理がクスクス笑って言うと…
『朱理先生…俺、どうしちまったんだろう?愛ちゃん見てると、どうにもこうにも落ち着かなくなって、気が狂いそうになって…どうしちまったんだろう…』
『それは、太郎君の身体(からだ)が、愛ちゃんを好きだと言ってるのでごじゃるよ。』
『俺の身体(からだ)が?』
『そう。男の子なら、普通の事でごじゃるよ。』
朱理は言いながら、さりげなく太郎の股間に手を伸ばすと、まだ張り詰めている小さな穂柱を揉み扱き出した。
『朱理先生、何を…』
慌ててふためく太郎に…
『身体(からだ)が、好きな子を好きだと騒ぎだしら、こうやって鎮めるでごじゃるよ。』
朱理はそう言って、クスクス笑いながら、更に太郎の穂柱を揉み扱いてやった。
しかし、その時はまだ、白穂が放たれるまでには、至らなかった。
始めて白穂が放たれるに至ったのは、愛の九歳の誕生日を迎えた時の事。
神饌組の子供達と兎神子達で、盛大に愛の祝いを行った夜…
夢の中に裸の愛が現れると、突然、激しい疼きと尿意に似た耐え難い感覚に襲われ、真っ白いモノを大量に漏らしたのである。
『それが、白穂にごじゃるよ。』
朱理はまた、この身体(からだ)の変化に恐れを成して相談する太郎に、クスクス笑いながら、答えて言った。
『白穂?』
『それを、女の子の中の御祭神に捧げると、赤ちゃんになるのでごじゃる。
太郎君の穂柱が、愛ちゃんの身体(からだ)を見てムズムズするのは、穂袋の中の白穂達が、愛ちゃんの中に祀られている御祭神様を、早くお参りして、赤ちゃんになりたがってるからでごじゃるよ。』
『俺の白穂が…愛ちゃんの中に…』
太郎は、一言そう呟くと…
『穂柱が、白穂を外に出してやれるとなったと言う事は…太郎君も大人になったでごじゃるな。良い子良い子…』
そう言って、その日も愛の身体(からだ)に反応して目一杯膨張している、小さな穂柱を愛し気に撫で扱く朱理を見つめたまま、押し黙ってしまった。
その日を境に、太郎は愛を囲んで神饌組の子供達や兎神子(とみこ)達と遊ぶ間中、難しい顔をして黙り込む事が多くなった。
皆で風呂に入る時も、前みたいにいち早く愛の側に来て、背中を流し合う事もしなくなり、皆から離れて身体(からだ)を洗い、逃げるように飛び出す事が多くなった。
そんなある日…
『太郎君、洗ってあげるね。』
愛は、不意に太郎の側にやって来て、十八番の片目瞬きをして笑いかけるや、背中を流し始めた。
『太郎君、最近元気ないね。どうしたの?』
『別に、何でもねえよ。』
『そお?遊んでる時も、余り話しをしないし、何か、みんなと離れる事が多いし…
それに…』
『それに?』
問ひ返す太郎に、答える代わりに、愛は太郎の前に膝を抱いて座り込んだ。
『私の背中も洗って。』
『えっ…あの…あの…』
目の前に、それまでひたすら見ないよう心がけてきた、真っ白で柔らかな肌…
ほっそりとした背中の下には、床に沈んだ裏神門の線が微かに見えている。
太郎は、激しく鼓動が高鳴るのと同時に、穂柱がムズムズの疼き出し、それまで必死に抑え続けてきた衝動に、再び苛まれ始めた。
触りたい…
触りたい…
抱きしめたい…
そして…
『ねえ、洗って。ねえ、太郎君ってば…』
太郎の胸のうちの葛藤などつゆ知らず、痺れを切らせたように振り向く愛は、思わず『アッ…』と、息を飲み込んだ。
太郎は、愛が真正面を向いて、その身体の全てを露わにするや、一層身を固く、金縛りにでもあったように硬らせてしまった。
『太郎君…』
愛もまた、一言だけ発すると、身を硬くして押し黙ってしまった。
太郎の視線が、まっすぐ自分の胸と股間に向けられている事に気付いたからである。
そう言う事か…
愛は、太郎の股間に目をやり、少し皮の剥けかけた小さな穂柱が反応してるのを見て思った。
やはり、太郎も同じ男なのかと…
そう思うと、何か少し寂しいものを感じつつ、両手を後ろの床につけて胸を突き出し、脚を拡げて見せた。
愛は、既に一年も前から、赤兎に兎幣される事を見越して、実の父親から田打を受け始めていた。
こう言う時、相手の男に自分の身体(からだ)をよく見せ、後は自由にさせる事を徹底的に仕込まれてもいたのである。
それに…
九歳を迎えた愛は、程なく受ける皮剥で、何をされるかも知っていた。
ならば…
どうせ、同じ事をされるなら、最初に太郎にされても良い気もしたのである。
しかし…
『いっ!痛い!』
不意に、憑かれたように手を伸ばす太郎に、胸を鷲掴まれた刹那、愛は思わず声をあげた。
『痛い!痛い!痛い!』
最近、仄かな三角形に膨らみ出した硬い胸を、乱暴に握り掴まれるのは、何も今日が初めてではない。
それまで、田打で痛い事をされるのは、小さな参道に指を挿れられるだけであったがのが、膨らみ出した途端、胸を鷲掴まれる事も加わった。
愛は、毎朝目覚めると、参道を指で掻き回された後、乳房のシコリをゴリゴリと握り掴まれる事から一日が始まる。
『痛い!痛い!お父さん、痛ーい!!!』
愛が腰を浮かし、首を振り立てて泣き出すと、すかさず父に頬を強く叩かれる。
『愛!何度言えばわかるんだ!泣くな!喚くな!痛いじゃない!気持ち良いですと言え!』
『き…き…き…気持ち…良い…です…』
『そうだ!それから、もっとして下さい…だろう!』
『もっと…して…下さい…』
『聞こえない!もっと大きな声で!』
『気持ち…良い…です…もっと…して…下さい…』
愛が、必死に食いしばる歯の隙間から、何とか絞り出すような声で言うと…
『もう一度!』
父は、更に強く愛の胸のシコリを鷲掴みに握り締める。
『アァァァァーーーッ!!!痛い!痛い!痛いよー!!!』
愛は堪らず、前にも増して一際声をあげて泣き叫び、遂には尿まで漏らすと…
『この馬鹿野郎!』
凄まじい怒号を浴びせられると同時に、手元の物差しを取る父に、全身所構わず打ち据えられ、決して痛みを口走ってはならぬ事を叩き込まれ続けたのである。
それでも…
『痛いよー!太郎君、やめて!やめて!』
やはり、実の娘に対して何処か手心を加えてする実の父親のそれと違い、本能の赴くままにする太郎のそれは桁違いに痛く、首を振り立てて泣き叫んでしまった。
『おいっ!どうした!』
『愛ちゃん、どうしたの?』
周囲が騒然となって振り向く中…
『もう!太郎君、だめじゃない!膨らみ始めた女の子の胸はね、痼があって、強く触られると痛いのよ!』
『だーめだポニョ~。好きな女の子の胸は、優しく、優しく触るポニョ~。』
側で見ていた雪絵と茜に叱られ、漸く自分のせいだと我に返り…
『あ…ごめん!愛ちゃん、ごめんよ!』
太郎は、慌てて手を引っ込めると、そのまま湯殿を飛び出して行った。
その日を境に、太郎との間には、何か気まづい空気が漂い、神饌組達と遊ぶ時も、互いに殆ど顔も合わせなければ、傍にも寄らぬ日々が続いた。
太郎に悪気がなかった事は、程なく知った。
『馬鹿でごじゃるな。』
あの後…
物陰に隠れて泣き噦る太郎を、朱理が優しく胸に抱いて慰めているの見かけた。
『女の子の胸は、赤ちゃんにお乳を飲ませる大事なところでごじゃるよ。女の子の御祭神様に捧げる、白穂をつくる男の子の穂袋と同じにごじゃる。優しく、優しく、するでごじゃるよ。』
『優しく?』
『そう、優しくでごじゃる。』
朱理が、太郎の頭を優しく撫でながら言うと…
『でも、俺…どうしようもなくなっちまいそうなんだよ。』
太郎は、朱理の顔を見上げると、堪らなくなったように、また両目から涙を溢れさせた。
『愛ちゃんを見ていると、自分でも何が何だか分からなくなって、どうしようもなくなって…気が狂いそうになるんだ。』
『恋でごじゃるな。』
『恋?』
『そう…太郎君は、愛ちゃんに恋してごじゃるよ。それは、普通の事にごじゃるよ。』
『でも、俺…このまんまだと、愛ちゃんに何するかわからないよ。愛ちゃんを傷つけるような事をしたら、俺…』
『大丈夫でごじゃるよ。恋は、いつか愛に変わるでごじゃる。愛に変われば、優しく扱えるようになるでごじゃる。』
『愛に?』
『そう、愛に…で、ごじゃる。それじゃあ、太郎君…』
朱理はそう言って何やら促すと…
『はい、朱理先生…』
『さーてと、今日は恋が愛に変わった時、女の子をどう扱うか、教えるでごじゃるよ。』
朱理は、尚も愛の身体を見て反応し続ける小さな穂柱を目の前に、顔をくしゃくしゃにして笑って見せると、優しく扱き出し始めた。
愛は、それから度々、太郎が朱理の手解きを受けている姿を見かけた。
『アー…アァァー…アァァー…』
『どうで、ごじゃるか?気持ち良いでごじゃるか?』
朱理が、太郎の穂柱を優しく扱きながら尋ねるのに対し…
『愛ちゃん…愛ちゃん…愛ちゃん…』
太郎は、ひたすら、愛の名を譫言のように呟き続けた。
『そうでごじゃる、そうでごじゃる。そうやって、愛ちゃんの姿を思い浮かべながら、どう触れるか考えるでごじゃる。』
朱理はそう言うと、徐に両肌を脱ぎ、剥き出しの乳房に太郎の手を添えてやった。
『さあ、優しくするでごじゃる。今、私が触っているのと同じように、優しく優しくするでごじゃる。』
『愛ちゃん…愛ちゃん…愛ちゃん…』
『うんうん、上手でごじゃる、上手でごじゃる…』
太郎がぎこちない手の動きで乳房を揉むのに合わせ、朱理は慣れた手つきで、更に穂柱を揉み扱く…
やがて…
『愛ちゃんっ!』
太郎は、声を漏らしながら身を仰け反らせると同時に、穂柱から噴水の如く白穂を宙に放った。
愛は、一部始終を見守りながら、我知らず手を股間に忍ばせていた。
それは、産まれて初めて知る身体(からだ)の疼き…
同時に、父から受ける田打も、痛くて恥ずかしい事ばかりでない事も思い出す。
その日の辛い田打の終わり…
『愛、脚を拡げて…』
愛が言われるままに脚を広げると…
『すまない…愛、すまない…』
父は涙声で言いながら、神門(みと)の極部から付け根にかけて、優しく愛撫し、舐め回す。
『アァァ…アァァ…』
愛は、何とも言えない父の指先と舌先の感触の心地よさを思い出しながら、我知らず喘ぎを漏らして更に股間を弄った。
次第に参道から溢れ出るものに神門(みと)が湿りだす。
同時に過ぎる三つの顔…
父の顔…
太郎の顔…
そして…
何れかの名を口走りたいと思いつつ、何れの名を呼ばわるか決めかねつつ…
『アァァーーーーッ!!!』
一際声を上げる愛の頭の中が、真っ白になった。
湯殿での一件があって以来…
太郎との気まづく、顔を背け合う日々が続いた。
その間、神饌組の子供達も、今一つ遊びに気が入らなかった。
彼らの中心は、いつだって愛と太郎であり、年中、愛に怒鳴られながら、その後を追い回す太郎の姿に、皆盛り上がっていたのである。
その二人が気まずいと、自然、皆も気まずくなってしまい、神饌組の子供達の間に、妙に重苦しい空気が漂う日々が続いた。
そんな最中…
河曽根組の悪ガキ子弟達に絡まれている兄妹を助けようとした愛が、逆に乱暴されそうになる事件が起きた。
そこへ、間一髪、太郎率いる神饌組達が現れ、死闘とも言える喧嘩をした末、河曽根組子弟達を撃退し、愛を救った。
『太郎君、ありがとう。ありがとう。』
太郎の腕の中で泣き崩れる愛は、この時、漸くそれまでの気まずさを克服し、再び威張り散らし、怒鳴りつけながらも、太郎と仲良く遊べるようになった。
しかし、漸く愛と太郎が今まで通りの仲を取り戻し、神饌組の子供達の間に明るい笑い声が戻ってきた時…
一時は中止に傾きかけていた愛の皮剥が、突然、決定された。
総宮社総宮司(ふさつみやしろのふさつみやつかさ)慎太郎の意向であった。
愛の皮剥の中止と、更には、赤兎の兎幣そのものの廃止に、鱶見本社(ふかみのもとつやしろ)の世論が傾きつつある中…
鱶見大連職(ふかみのおおむらじしき)を狙う河渕産土宮司(かわぶちうぶすなつみやつかさ)の恵三連(よしみつのむらじ)は、赤兎の利権に群がる神使(みさき)衆や大商工座衆、そして、神漏衆(みもろしゅう)総帥である康弘連(やすひろのむらじ)の支持を得るべく、総宮社(ふさつみやしろ)を動かしたのである。
『愛ちゃんを赤兎だ何て認めねえ!絶対認めねえぞ!俺達神饌組が愛ちゃんを守る!そうだろう!みんな!』
『そうだ!そうだ!』
『神饌組は裸の兄妹姉弟(きょうだい)だ!』
『生きるも死ぬも一緒だ!愛ちゃんを赤兎にするなら、神漏(みもろ)だろうと、神使(みさき)だろうと、俺達が相手だ!』
太郎率いる神饌組の子供達が息巻き、彼らの隠し砦に立て篭もろうとする中…
『馬鹿な真似は寄せ!』
『愛ちゃんと一緒に出てくるんだ!』
どんなに時も、彼らの味方である筈の政樹と竜也が、今回は思い留まるよう、説得に当たった。
『何故だ!兄貴は、俺達の…愛ちゃんの味方じゃねえのか!』
『そうだ!そうだ!兄貴達は、愛ちゃんを神職(みしき)共のスケベ爺い達に、よってたかって食い物にされても良いってのかよ!』
『美香ちゃんって子みたいに、毎日素っ裸にされて、社領(やしろのかなめ)中のろくでなし共に酷い目に合わされて、平気なのかよ!』
太郎率いる神饌組の子供達が涙まじりに叫ぶ中…
『俺達だって同じ思いだよ…誰が、愛ちゃんを…』
『でもな…でもな…』
政樹と竜也は、嗚咽に声を詰まらせた。
すると…
『このまま、君達が愛ちゃんと一緒に立て篭もり、騒ぎを起こせば、親社(おやしろ)様が失脚される。』
政樹と竜也の後から現れた和幸が、物静かに言った。
『親社(おやしろ)が失脚だと!そんなの知るか!カズ!ヒデ!解け!離せ!馬鹿野郎!』
少し離れた土蔵から、和幸と秀行の二人がかりで縛りあげられた貴之の叫び声が飛び交ってくる。
『おい!太郎!待ってろよ!俺はお前達の味方だぜ!社領(やしろのかなめ)中!いや、神領(かむのかなめ)中を敵に回しても、愛ちゃんをぜってえ渡さねえからな!』
対し…
『そうなれば…親社(おやしろ)様の手で建てられた、養護院、養老院、救護院、救貧院、救病院は全て取り潰される。
そこに暮らす、孤児や孤老達は行き場を失い、貧民達は飢餓に陥る。それで、良いのか?』
和幸は、太郎達と言うよりは、尚も太郎達と立て籠ると騒ぎ立てる貴之に聞かせるように言った。
『養護院や養老院…
建てたのは親社(おやしろ)様だが、建てるように願ったのは、愛ちゃん…実際に建てる時、みんなで力を合わせて手伝ったのは、太郎君達みんなだった筈。
漸く完成した時、君達とあんなに抱き合って喜んだ住人達はどうなると思う?』
『住む場所を失う…』
思わず憑かれたように立ち上がる太郎に…
『違う。皆殺しだ…』
和幸が静かに答えると、それまで熱り立っていた神饌組の子供達が、忽ち騒然となった。
すると…
『そうなんだよ…彼ら…彼ら…みんな、やられちまう…』
それまで、嗚咽を続けていた政樹が、漸く声にならなかった声を発して言った。
『兄貴…それって…』
太郎が愕然とした眼差しを政樹に向けると…
『住人達も、君達に共闘すると言い出し、騒ぎ出した。』
和幸が、再び静かに言葉を続けた。
『神饌組が愛ちゃんを守るなら、自分達も守るとね。
それを見て、好機とばかりに、康弘連(やすひろのむらじ)が河曽根組を出動させようとしている。
親社代(おやしろだい)様が康弘連(やすひろのむらじ)を、シンさんが養護院と救貧院の住人達の説得に当たっているが…
君達がこのまま立て籠れば、最早どちらも抑えきれないだろう。
太郎君、どうする?このまま立て籠るか?立て籠ると言うのなら、仕方ない。僕も立て篭もろう。立て篭もって、皆を道連れに死んで逝こう。』
太郎はじめ、神饌組の子供達は、和幸が静かに言葉を締めくくると、首を項垂れたまま、無言で立ち尽くした。
その時…
『太郎君、みんな、ありがとう。』
愛がスッと立ち上がると、皆に向かって、満面の笑みを浮かべた。
『私、皮剥を受けるわ。赤兎になる。』
『愛ちゃん…』
神饌組の子供達が、一切に涙目を向けると…
『明日から、養護院や救貧院、一つづつ回ってみんなと一緒に遊ぼう。私、みんなにもお礼言わないと…』
愛は、十八番の片目瞬きをして見せた後…
『太郎君、好きよ、大好き。』
そう言うなり、太郎に思い切り抱きついて、涙に濡れた頬に口づけをして見せた。
そして…
皮剥の日がいよいよ数日後に控えた日…
『ねえ、太郎君…』
その日も参籠所の湯殿で太郎と背中を流し合った後…
不意に太郎の方を向くと、まだ膨らみ始めた小さな胸を突き出し、脚を大きく拡げてニッコリ笑いかけた。
太郎はまた、思い切り生唾を呑み込んで押し黙ったまま、ジッと愛の身体を見つめた。
『触りたい?』
愛の問いに、太郎は押し黙ったまま何も言葉を発しなかったが、股間を見れば、皮が剥けたばかりのまだ幼い穂柱の反応が、雄弁に答えていた。
『触っても…良いよ。』
『愛ちゃん…』
漸く、太郎が上ずった声を発すると…
『でも、優しくね。』
愛は十八番の片目瞬きをして、クスッと笑って見せた。
太郎はまた、あの時のように憑かれたように手を上げると、ゆっくりと愛の胸へと伸ばされてゆく。
愛は、太郎の震える手が、膨らみ始めたばかりの胸に近づくにつれ、鼓動が高鳴り、呼吸が早くなるのを感じた。
次第に頭の中が真っ白になってゆく。
太郎が胸に触れた後、何をどうしたら良いのだろう…
日頃、父親に仕込まれてるところに従えば、求められるままに唇を重ね、相手が望むところを弄らせておきながら、重ねた唇をゆっくり移動する。
頸筋から胸…
胸から腹部…
そして、股間へと…
舌先を少し出し、チロチロ擽るように舐め回しなごら、ゆっくりと唇を這わせてゆき…
丹念に揉みほぐされて膨張した穂柱と、その下の穂袋を舐め、咥え、しゃぶり…
最後は…
しかし…
そこまで、父に仕込まれた通りに、これから太郎とするべき事を思い浮かべた時…
不意に、太郎とは別の顔が脳裏を過ぎって行った。
そう…
太郎達と出会う前…
毎日のように、二人だけで切り絵を楽しんだ男…
共に山に出かけて、切り絵の題材を探した男…
彼の為に毎日、お弁当を拵えた男…
父親と同じくらいの年齢でありながら…
ずっと歳下の幼子に見え…
まるで、小さな弟のように扱った男…
それでいて…
共に遊び終えて、二人だけで風呂に入った途端…
急に父親のように全てを包み込むように、優しく抱きしめてくれた男…
父親の田打を受けてる最中…
これをしてるのが、彼だったらどんなに良いかと思い続けた男…
『アッ!』
愛は、震える指先の感触が、小さな胸の膨らみに触れた途端、思わず声をあげて肩を硬らせた。
それまで憑かれたように、愛の胸に手を伸ばしていた太郎は、その声に我に返ると、そのまま伸ばした手を引っ込めた。
『太郎君…あの…』
愛もまた、思わず声を上げてしまった事に気づくと、慌てて次の言葉を口に仕掛けた。
すると…
『愛ちゃん、ありがとう。でも、もう良いんだ。』
太郎は、愛の言葉を遮るように言いながら、寂しく笑って見せた。
『あの…でも…太郎君…』
愛は尚も何か言おうとすると…
『愛ちゃんが、本当にそうして欲しいのは、俺じゃないんだろう。愛ちゃんが、本当に好きで、その思いからこうしたいのは、もっと別の人だ。俺、知ってるんだ。』
『太郎君…』
『愛ちゃん…皮剥を受けても…赤兎になっても…ずっと友達だからな。俺も、神饌組も、ずっとずっと、愛ちゃんの味方だからな。』
太郎は、それだけ言うと、愛の十八番である片目瞬きを真似て見せた後、愛に背中を向け、湯殿を去って行った。


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